二周目の人生は大空に焦がれる【完結】   作:ノイラーテム

38 / 41
立花家の秘技

 飛行船の技術は距離に関する概念を木っ端微塵に粉砕する。

鞆の浦から海峡、海峡から筑紫島は大宰府までの道のりをわずか数日、それも途中での連絡伝達と補給が殆どと言う時点でお察しであろう。もし魔力の続く限りに飛び続けても良いならば、十名以下に限るが一日そこらで国土を横断可能であった。もっとも、それを許さない国情もあるのだが。

 

「私が立花家当主代行の立花李依です。お手紙は二通とも拝見させていただきました」

 大宰府にある陣所で前田啓治一行を大友家の遺臣たちが出迎えた。

援軍の宛てが付いたというのに顔色は良くない。それもまあ仕方のない事だろう。何しろ今戦っている相手がただの魔物の増殖騒ぎでは無く、魔王軍の侵攻だと明言されてしまったのだから。加えて大事に成ったことで、これまで継続して来た戦いに変化が訪れたことも悟っているのだろう。

 

「一通目に関しては国の決定ゆえに何も申しません。領主として定められ、友誼を求められた以上は万難を排して受け入れるのが貴族の勤めゆえ」

「おお……」

 立花李依が手紙の内容に関して口にすると周囲がざわめいた。

遺臣たちの努力が認められ、大友家を再興して全てを取り戻せるかはともかく……ひとまず本領安堵と言う事は伝わったに違いあるまい。もちろん温度差もあり、下級貴族である遺臣たちと豪族である国人衆の顔色は違う。遺臣たちは過去の名声を取り戻せるほどには活躍してないし、国人衆はこれからの活躍がそのまま功績に成るからだ。

 

「撤退戦は厳しい物があります。しかし半月を待たずして訪れる援軍を含めて、魔王軍を押し返す為であればこれに挑むにいささかの曇りもありません。しかし二枚目、あなた方のご助言に関しては二・三申したいことがあります」

「援軍が半月も待たずに? そうか……空を……」

「時代は変わったな。しかし貴公らの提案であると?」

 援軍を即座に出すから一度仕切り直せというのは無茶な話だ。

しかし魔物を各自に葬り周辺を次々に平定するためには、大友家が単独で戦うだけでは意味がない。援軍と共に可能な限り制圧し、巣や拠点があるならばこれを即座に追撃して殲滅……いや族滅せねばならないのだ。それに伴って本来であれば遠方からであれば到着まで数カ月もかかる援軍が、僅か半月で寄こされることに武将たちは隔世の感を感じた。

 

「新型のゴーレム。それも二割から三割も性能が向上するようなゴーレムを条件付きでお貸しくださるというのですね?」

「その通りですが訂正させていただきたく。性能面の条件としては騎乗用ですので、乗り手の技がそのまま反映されるというものになります。その結果、オーガやトロルと同格の存在ではなくなりますので」

「ほう……技を……」

 啓治はできるだけ丁寧な物言いで、まず余計な情報を交えずに伝えた。

通常のゴーレムはオーガやトロルと同レベル、消耗しても唱え直せば簡単に修復できるから有利に過ぎない。これが人が乗り込む事で駆け引きが可能になり、的確に技を使えるならば容易に倒せる存在までゴーレムの強さが引き上げられると説明した。腕の覚えのある武将などは、ゴーレムが技を使うと聞いて戦闘力に期待を持ったようだ。強力な相手であるオーガを容易く屠れるならば、戦況にどれだけの影響を与えるだろうか?

 

「ゴーレムにも向いた技がありますので、どのような技を用意するか次第としか言えません。しかし適正さえあれば強化個体であろうとも次々に倒せるかと思われます。問題は貸出条件の方でして……」

「正規の搭乗者が『元』とはいえ島津出身の御婦人と言う事ですね? 何も交渉しないのであれば彼女がそのまま陣に加わると」

「薩摩の!? それはいかん!」

 予想された事だが遺臣たちの反発は強かった。

戦力が増えるのは良い、陣の一角に戦功を求めて武将が加わるのは常の事だ。しかし筑紫島南部の雄である島津に属する者だけは例外であった。北部の雄である大友家が何とか再興しようとしている時に、南部の雄が手を貸したのでは名前の格が落ちてしまう。せめて再興してからならば同盟関係と言い張れなくもないが、これからその第一歩を踏み出そうという時では大違いである。

 

「ダメだ駄目だ! そのような事を許しては……」

「静まりなさい! ……貸出条件についてお聞かせ願えますか?」

「我々はあくまで試験運用チームです。第一に乗った方が打ち壊さずに戦い続けられると安心でき、できればそれ以上の腕前の御方として……。第二に特異性のある技をお持ちであれば正副を曲げてこちらからお願いする事もあるかと」

 立花李依が遺臣たちの反発を抑えた。

反発がある事は啓治たちも想像していたし、だからこそ事前に手紙として彼女に渡していたのだ。第一の条件は最低限の実力を持つこと、腕前だけで言うならば佐久間夫人となったレイよりも強い事。第二に強さが保証されて居るならば、特殊な技をゴーレムで振るってくれるならば実験の延長で許可し易いと伝えたのである。

 

『もし立花李依が私の知る高橋李依であるならばそれなりの腕前に成長しているでしょう。強者であることは保証されて居ますが、そのレベルでは私が納得するかは別の次元です。正規搭乗者である私から席を奪うというのであれば、私と勝負するか……もっと判り易い形で示していただきましょう。幸いにも『立花家』には独自の技がありますから』

 佐久間夫人は事前にこう口にした。

同じタイ捨流の門人に高橋という女は居た。おおよそ同等の者が普通に成長したのであれば、自分もそれ以上の修練を積んだのだから退く気がない。彼女だってプライドはあるのだし、ひいては政略結婚で送り出した島津家にもメンツというものがある。しかし立花家に伝わる秘技を立花李依として習得できているのであれば、ゴーレムによって披露することで譲っても良いと妥協を示したのである。もちろんそこには、垣間見ることで自分も秘技を知れるという面もあるからだが。

 

「なるほど。『雷切』をゴーレムで扱える者が居れば良いという事ですね?」

「……っ姫に、李依さまに前線に立てと!?」

「逸るな。だが他に方法がないのも確か……。後はゴーレムに乗るというのがどれほどかじゃが」

 立花家には『雷切』という秘技がある。戦没した先の当主が編み出した技である。

戦技というものは基本的に流派ごとの差はあれ決まり切っているものである。スマッシュだとフェイントだの何処かで見た技を十ばかり組み合わせ、そこに流派独自の技であったり、奥義として使い方が独自の技を開発して居たりする。その為に世へ知られた技は精々が四十だか五十程度、ここまでは誰もが知っている技だ。例として示現流であれば蜻蛉の構えと言う独自の技と、『雲耀の位』というその奥義としての使い方が存在する。

 

それゆえに『雷切』など家独自の技は興味深い。流派独自ならともかく、家固有・個人固有と言うのは滅多に見ない技であるからさ。佐久間夫人が剣士として見て見たいというのも納得が出来よう。問題なのはそこにゴーレムの運用的な意味、あるいは戦闘に参加する意味があるかなのだが……。

 

「雷切ですか? 手前は魔法の研究者ゆえに寡聞にして存せぬのですが、お聞きしても?」

「見ていただいた方が早いでしょうね。秘技は人前で試すモノではありませぬが、お家再興をスムーズにする為には致し方ありませぬから。こちらで用意する術者ではお疑いの向きもありましょう。魔法研究者であれば都合が良いと言えなくもありません、そちらで攻撃魔法の使い手を用意できますか?」

「……そう種類は多くありませんが、そういうことでしたら」

 啓治が尋ねると立花李依は刀を小姓から受け取った。

彼女が何もない場所に移動するのに合わせて、遺臣たちの殺気が膨れ上がる。どうやら危険な技のようであり、立花李依に危害が及ぶ可能性があるのだろう。だが当主代理が自らやると言っているが故に口を挟むことが出来ないからこそ殺気を出すにとどめて居るものと思われる。

 

「私が刀を抜いたら攻撃魔法を放ってください。もちろん私に向けてです」

「っ!? いいんすか? いえ、失礼しました。明智君、適当に術を頼むわ。もちろん責任は俺がとるよ」

「ボクがですか? 本当に責任をとってくださいよ?」

 一瞬驚いたものの、この時点での啓治はいく分か冷静だった。

明智が得意とするのは闇魔法であるが、この系統は難しいので他にも魔法を覚えている以上はマスタリーレベルではない。闇魔法の攻撃魔法は精神系であり、他の属性の魔法を使うとしてもレベル敵に強力ではないからだ。しかし思わぬ場所からの横槍が問題だった。

 

「あ、ならボクがやるよー。ボクのゴーレムを預けるんだし、どこまでやれるのかは知っておきたいからねぇ。それにまあ、レイさんは一応ボクの奥さんなんだし? 妻からゴーレム取り上げるならそのくらいはやって見せて欲しいなあーって」

「ちょっ!? 佐久間センセは駄目でしょううが! あんた火魔法の使い手だし、そもそも面白がってるでしょーに」

「構いません。いっそ、危険なくらいで無ければ信じていただけないでしょうからね」

 余計な茶々を入れたのは佐久間教諭である。

彼が天才肌の教師であり、火魔法はネルギー制御に関わる為にマスタリーであった。しかもあの面白がり方からみると大規模な攻撃魔法を使いかねない。熱田学院で研究している林サドこと弟の方の林教諭ほどでは無いにしろ、啓治が知る限り強力な魔法の使い手であるのは確かであった。おそるべきことに立花李依はソレを許可してしまう。

 

「何時でもどうぞ」

「んじゃあいっくねー。ばびゅーん!」

「はっ!」

 立花李依が刀を抜いて宣言すると、恐るべきことに佐久間教諭は高速詠唱を唱える。

呪文を短縮した不意打ちも同然の攻撃はファイヤーランスだ。ファイヤーアローよりも火力の高い呪文ゆえに威力が低めになる高速詠唱でも問題なく脅威になる。しかし彼女は刀を一閃してこれを切り落とし、斜めに刀を旋回させて元の態勢を維持したのだ。これに驚いたのは啓治たち一行、特に佐久間教諭は目をパチクリとさせて……。

 

「いいね! ゴーレムで使えるかすっごく気に成って来たよ! これはどうするの!?」

「っ! 判って居なければイザ知らず、この場に及んでならば……こうします!」

 続いて佐久間は間髪入れずにファイヤーボールを放った。

火の魔法のみならず、攻撃魔法の中で最もメジャーで恐ろしいとされる呪文。これに対して立花李依は烈風を放つ技と組み合わせて撃ち落とす! どうやら『雷切』とは攻撃魔法ないし霊的存在に対して関与するための剣技なのだろう。もしかしたら薩摩が伝えていた闘気魔法に近い性質を持つ物なのかも知れないが。少なくとも佐久間教諭はゴーレムでも実行できるか興味を覚えたようである。

 

「いかがでしょうか? この技は立花家伝来の技ゆえに配下たちにも判り易いかと。それともう一つ……」

「なんでしょう? 自分らとしてはもはや壊さないでいただけるなら何でも構いませんが」

「この周囲に居る敵の主力はブレスを吐くナーガです。ちゃんと機能するのであれば、私が最も相応しい乗り手になるでしょうね」

 条件はクリアされた。しかし立花李依はあえて宣言する。

このような試練をやらされた反動か、それとも筑紫島の武人特有の性格なのか……。自分ならば誰よりも相応しいと意気軒高に笑ったのである。そこには先ほどまでの澄まし顔は浮かんでいなかったという。




 と言う訳で「条件はクリアされた!」回です。
本当はさっさと戦闘に入り、「あの時はこうだったんだ!」とか
「これこそが選ばれた理由!」とかするつもりでしたが、面倒になって説明回で終了しました。
次回戦闘になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。