二周目の人生は大空に焦がれる【完結】   作:ノイラーテム

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偽装撤退

 紆余曲折を経て計画的な撤退戦が立案された。

通常の撤退戦は戦争行為で最も危険な戦術の一つとされている。普段ならば殿軍に死兵となる事を要求するレベルだ。

 

「今回は有利な点が幾つかあるんだ。一つ目は名の通り計画的な事だねえ」

「名前ばかりで実際には誘き寄せ作戦ということよね。事前準備もできるし、なし崩し的に逃げる訳じゃないって事は判るわ」

 明智彰が飛行船クルーに説明を始める。

どうして自分が解説するのかと嫌がる彰に対して、門外漢である柴田晶子などは思いつく言葉を次々に投げていく。第一の質問は攻めるための陣地から後方に建設中の防衛陣地へ下がるだけなので、比較的に判り易かった。もちろん実際に下がる苦労を理解出来はしないが、なんとなく机上の空論レベルでは危険が少ない事は判るのだ。

 

「でもピンチだろ思った見方が勝手に逃げちゃわない? お父さんたちの話を聞いてると、昔は毎日兵士が逃げてたって」

「尾張兵は裕福な分、弱兵が多いからね。とはいえこちらは士気が高いのがウリで、その士気が減り難いのも今回の特徴。言語や顔色が判り難いので、味方に通達することで向こうの前線指揮官にはこちらの作戦がバレないのは大きい。味方さ最初から護り易い後方陣地で戦う事を知らせてるんだよ」

「そっか。相手は魔物だもんな」

 晶子の質問に彰が答えると、脇で聴いていた木下勝平がポンと手を叩いた。

敵は魔物ゆえに一体一体が人間よりも強いが、あまりにも種族が違うので言語や顔色でこちらの士気の変動を悟られなどしない。もちろん上級指揮官なら話は別だが、どのみちそういう層はいつも可能性を考慮しているのであまり関係はない。『そうかもしれないが、罠かもしれない』と常に考えているので、多少バレたところで大きな差はないのだ。

 

「第三に……」

「あ、オレに言わせてよ。オレたちが飛行船で援護するからだろ? ゴーレムとか」

「そうだね。それ以外にも実験用の攻撃装備を高空から使用したり、これが特に重要なんだけが……指揮官の移動や情報確認の面で大きく違うことかなあ。後方でゴーレムの訓練をした立花さまがその日の昼には兵士たちの前に出て、途中で後方陣地の出来上がりを確認するなんて今までの常識では無理だからねえ」

 今回の戦いでは立花李依がゴーレムで奮戦することに成って居る。

しかし完熟訓練を前線でやったら敵に秘匿兵器がバレるし、かといって素直に後方へ下がったら兵士から逃げたのだと思われる。しかし飛行船や鳥型ゴーレムを使う事で手早く移動し、三か所に現れることができるのは大きかった。もちろん空中からファイヤーボールを放つ装備を使用したり、空中から陣形やら敵の動きを偵察できることも有益ではあろう。

 

「それじゃあ立花の人たち何が不安なの?」

「確実に勝てるか分からない事かなあ? スムーズにいくように整えても味方が言うとおりにしてくれるとは限らないし、戦場には敵が居るからね。相手は魔物だから頭が悪いとは限らないし、頭が悪かったからといって油断できるとも限らない。頭が悪いからこそ際限なく戦力を注ぎ込んでどちらかが全滅するまで戦おうと思ってしまうかもしれない。

「それじゃあこの辺は平和になっても、この国は救えねえってことだよな。ひとまず作戦の話はここまでだ」

 今回の作戦は大きな目的と採算があるからこそ計画している。

しかし机上の空論が必ずしも上手くいくとは限らない。立花家の将から見て現時点で戦闘自体は優勢なのだ。上手く行くか分からない博打を打ってまでやりたいとは『本来ならば』思わなかったろう。しかし前田啓治が言う様に魔王軍との戦いで目の前の戦闘継続が一局面になり、地方の戦いに過ぎなく成れば話は変わって来る。介入者が現れる前に功績はもぎ取らねばならないし、他所の戦場へ転戦しろと言われた時に戦力を派遣できなければ意味がないのだ。少なくとも大友家の系譜を再興することが出来ないのだから。

 

「そんじゃ俺たちの目的を再確認するぞ。基本的にはこの船の能力を試す事が重要だぜい。撤退作戦にはその範囲で手助けするって方針だ」

「当然だね。ボクらが望んで苦労する必要はないよ」

「最後まで助けてあげたいんだけど……任務があるのよねえ」

 ある程度付き合えばお互いの性格も判って来る。

明智彰は何でも小器用にこなすが面倒くさがりで、細川や啓治に付き合わされてヒーコラ言っている。大して柴田晶子は面倒見が良く、一度付き合った以上はとことんまで協力したさそうだ。もし織田信長からの指示が無ければ文句を言っていただろう。なお木下勝平は思いついたアイデアを使いたがるタイプで、この場に居ない佐久間教諭はゴーレムバカである。

 

 方針が示されこれからの運用計画が練り直されることに成った。

撤退作戦を入知恵したのは彼らなので、可能な限り手伝うというスタンスであるが、あくまで飛行船の可能性を確かめるという事を念頭から外してはいけない。

 

「当然ながら第一優先はゴーレム運搬用の飛行船がどういう役に立つかという検証。この延長でゴーレムの降下や攻撃装備の実験つー言い訳でここに居る。当面は立花夫人と物資の移動だがよ」

「資材がなければ鳥型ゴーレムでも良いんでしょうがね」

「そこんところは仕方ないでしょ。それに仮にも領主代理を連れて行くんだから安全な方が良いに決まってるじゃない」

 今更の内容なのでここでの問題はない。

彰は肩をすくめるものの発言権はないとばかりに強い否定などはしない。それが判って居てもなお、晶子は作戦として偽装撤退を持ち込んだことや短いながらも出来た縁故を口にする。どちらの意見も正しいからこそ啓治は苦笑こそすれど話は止めなかった。ただ単純に、自分がこういう話に首を突っ込む運命こそを笑うだけだ。

 

「改めて作戦実行までは同じサイクルな訳だ。後方でゴーレムの訓練と、攻撃魔法の撃ち下ろしを練習する。その前提で確認するが、何か試したい事やしたいことはあるか?」

「そういえば鳥形ゴーレムだけど使っていいの? 使っていいならあるけど」

「何か思いついたの勝平君?」

 急にアイデアが降ってくることはあまりないし、効率を考えれば習熟した方が良い。

それゆえに啓治は今までの行動を踏襲することにしたが、他者のアイデアまで否定するつもりはなかった。何か案があるならば、荒削りな部分を皆で修正し、ブラッシュアップして洗練された案にしてしまえばよいだけだ。それゆえに今回の会議でソレを求め、結果として勝平が手を挙げる事になる。

 

「いやさ。飛行船でやってることを鳥型ゴーレムでやって良いわけじゃない? そりゃ飛行船では入れない場所の調査用に積み込んだんだけどさあ」

「まあな。元は人の輸送や地形の確認なんかも鳥型でやったもんさ。んで、何を何処へ運ぶんだ?」

 今は人員が余っているわけではないので、鳥型はあまり使っていない。

鉱山の調査をしている余裕はないし、地形の調査は地元故にそれほど必要はないからだ。それゆえに啓治は小規模な輸送任務に使い回すのだと察することができた。小さな場所で周回するのであれば、魔力の補充を他人に委ねで一人で操縦できるからだ。

 

「小さな資材なら運べるんだよな? じゃあ高い山の上に見張り台とか弓矢を撃つ場所作っても良いんじゃない? 工事できるなら広い場所にしても良いんだしさ」

「ああ。なるへそ。攻撃魔法の使い手はあんま多くないから忘れてた。何だったら石弓や投石器でも良いしな」

「暇な時に櫓を作るって訳ね」

 勝平のアイデアは単純だ。

現在進行形で後方陣地を作っているが、飛行船で荷物を降ろせないような高台にまで輸送をしてない。しかし四畳半くらいのスペースが確保できれば、攻城兵器を隠すこともできるだろう。もし攻撃魔法の使い手が多ければ、そういう場所を設けて遠距離系の攻撃魔法を放ってもらうアイデアは考えられていたのだ。居ないからこそ労力の問題で飛行船を別の任務に充てているが、もし居たらある程度はそこで工作していただろう。

 

「良いんじゃない? ねえ?」

「俺は構わねえけどな。明智くんよい。なんか面白いアイデアねえ? そのままでも別に使えるとは思うんだが……」

「なら罠だけ設置する方が安全で気楽ですね。上に木材や岩だけ縛っておけば良いんです」

 こうして新たな案を加えて偽装撤退作戦が進行する。

そこからは殆どスムーズ決まり、一つの例外を除いて予定通りに進む流れとなった。

 

「んじゃ後は任せたわね明智くん!」

「なんでボクが!」

「だってよ、おめえ闇魔法で荷物しまっとけるじゃん。今回の件で打ってつけなんだよ」

 闇魔法の中に荷物を仕舞う呪文がある。

それを付与魔法にすることでアイテムボックスが作られる。そして闇魔法のレベルが高く、当然ながら使用可能な明智に面倒くさい任務が押し付けられたのである。




 と言う訳で作戦準備おわり。
次回(前後編の可能性はあり)で戦闘が終わります。
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