二周目の人生は大空に焦がれる【完結】   作:ノイラーテム

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大宰府撤退戦

 撤退する必要性を相手に見せ、同時に味方を温存せねばならない。

ゆえに一部の兵士を後方陣地に下げる事に成ったのだが、その場で再編成など出来る訳はない。あるいは西国無双と呼ばれた前当主であれば話は別だが、当主代理に過ぎない小娘には不可能であった。そこで五の兵士を下げて、三の兵士を増やすという朝令暮改じみた人員整理が行われていく。

 

「予定より早く敵の侵攻が始まったわね。気合入ってるから大丈夫だと思ったのに」

「奴らにゃ判んねえだろ。魔物から見れば気合入ってる兵士もその辺の雑兵だぜ。多分な」

 当初は自分達から撤退して、相手が追い掛けて来る状態から逃げるつもりだった。

時々立ち止まって反撃し、驚いたところでまた下がる……という計画もあったのだが見事にオジャンである。敵の前衛指揮官がチャンスと見て抜け駆けしたのか、それとも総大将が止めれなかったのかは分からない。いずれにせよ、こんなタイミングで逃げるわけにはいかないという事だ。

 

「ねえ啓治、ゴーレム使うの?」

「そーいう訳にはいかねえ。第一此処で勝っても意味がねえ。自分で不利にして、自分でケツ拭ったってだけだ。もし必要なら狼煙の一も上がるだろうが、そうじゃねえってことはそういうことだよな? 明智くんよい」

「押し返してから改めて下がるのが定番でだね。まあ許容範囲じゃないかなあ」

 柴田晶子と話していた前田啓治は結論を明智彰に振る。

そういう事に対応できる元王都組の彼と、あくまで一地方の研究員であった晶子や啓治では限界があるのだ。最初から飛行船を使って戦場をコントロールしようなど考えても居なかったので、仕方のない所ではある。

 

「先に言っておくけど鳥型ゴーレムで上から落としていくのは無しだよ。せっかく後方陣地に作った罠がバレちゃうもの。使うなら人の輸送と……まあ攻撃用の魔法装置だけかな。ボクらの裁量で何とかなるのは」

「攻撃用か……あれも一長一短だよな。最初は地面に設置する方が効率よいかと思ってたんだが」

 実験として搭載された攻撃用の魔法装置はファイヤーボールを放つ物だ。

アイテム化されて誰でも使えるだけではなく、拡大術式を組み込んでいるのでかなり強力な装備だ。しかしながら組み込まれた術式の条件を人数割りで達成していくため、最初は設置して頭数を動員した方が良いと思われていた。仮に二十の条件を五人で達成すれば四行程に過ぎないが、手が空いて二人の飛行船では十行程掛かるのだから。

 

「待ち構えている所に相手が来なきゃ、どうしようものね」

「その点、飛行船に乗っければ好きな所に落とせるからな。この辺も信長公や島津に報告するとして、一番の使いどころは敵が一杯いる場所かねえ」

 例え強力な魔法を放てる装置があろうとも、敵が来なければ意味がない。

大宰府周辺の魔物を倒していた立花家だが、それだけに広範囲の経路で接敵していた。陣地こそ一か所に定めて謀議を固くしているものの、敵将が無能で無ければ好きな場所を通れるし、こちらが投石器などを置いて居そうな場所は避けて来ることができる。ゆえに複数の経路から攻め立てられた上、大型武装を使える場所は敬遠されていたのだ。もし魔法装置が配備されていたとしても、大型兵器と一緒に運用されたであろうから、同じように無力化されていたに違いあるまい。

 

その点で飛行船に搭載したパターンは場所を選ばない。必要な条件を減らして工程数を下げているが、射程などは拡張する必要がないので適当に地面に向けてファイヤーボールを落とせば当たる。攻めている敵の頭越しに落とすこともできれば、本陣に移動して狙う事もできるだろう。もっともそんなことをすれば敵魔導師の魔法を食らう可能性がある上、立花家の功績を奪うのでしないとは思われる。

 

「どっちかといえば撤退中に援護してくれとかじゃないかなあ? さもなきゃ、このままじゃ殿軍どころかみんな撤退できないって状況とか」

「今は手を出すなって事? それじゃあ被害が出ちゃうじゃない」

「メンツもあるだろうし、切り札として見せたくないってことだろうなあ。面倒くせえ」

 一同はそれなりの戦力であり、やれることは少ないが有効だ。

それゆえに手を出してはならぬという状況には面映ゆく感じてしまう。明智は面倒くさがりだが、それでも見知った人間が死んでいくのを見過ごしたいわけではない。重苦しい声が船内に立ち込めるが、流石に解決策が入ってくることはなかったし、名案が浮かぶはずも無かった。

 

「仕方ねえ。一応手出し出来る位置に待機するとして、丘なり谷で殿軍を助けられたら拾えるとでも伝えるか?」

「荷車側に何も詰まずに人を乗せるのね? それなら少しくらい危険でも……」

「せいぜいが四・五人くらいだと思いますけどね。武装無しで十名が精々じゃないかなあ? それなら敵の追っ手の上を周回して脅かす方が良いと思うよ」

 そんな風に幾つかの案が出ては消えた。

そして心苦しいながらも可能な限りの援護を続け、偽装撤退が本当の撤退戦に移行したのである。

 

 そして作戦は順番を組み替えて実施することに成った。

このままでは被害が大き過ぎると判断し、峡谷に設けた後方陣地の途中で敵軍を迎撃。陣地まで引き込んでの重深陣を諦め、峡谷の半ばで一撃を浴びせる事に成ったのだ。可能であればそのまま下がって後方陣地で再編成。場合によっては驚いている間に休息した兵士が前面に出る事になる。

 

「二転三転して申し訳ありません。危険を承知でみなさんの力をお借りします」

「いいってことっすよ。そんかわし平和に成ったら俺らの商売に力を貸してくださいや。なあ木下クン?」

「そうだけどずりーぞ! オレだってオレの作った商会に力を貸してほしーのに!」

 頭を下げる立花李依に啓治は笑って話を木下勝平に振った。

本来であれば貴族であり、この場での対象代理である彼女にぞんざいな口を聞くことはできない。しかし緊張を解すという意味では必要な事だと思われた。そして商売に力を貸して欲しいというのは本当だ。

 

「内容によりますが何を?」

「単に場所っすかね? 後は通行許可。どこでも許可はでるでしょうけど、本拠にする候補地は多い方がいいってことっすよ」

 いくらピンチでの軽口とはいえレベルによる。

ここでおねだりをしても良い事はないだろう。啓治は輸送業で大量の物資を運ぶ気はないのでそれほど過剰な要求をする気はなかった。税金さえ高く無ければ良いと考えていたし、便利遣いされたとしても領主層への郵便業務などの高額なサービスを契約できれば御の時であろう。

 

「その位であれば私の一存で決められますね。では全国の御菓子でも立ち寄ったついでに購入してきていただけると幸いです」

「あんたもよっぽど領主さまに惚れてるんだな」

 立花李依は幼少の領主に嫁いでいる。

それゆえに菓子を買ってきてくれという依頼なのだろう。そのくらいならば荷物にはならないし、飛行運賃を上乗せしたとしても長期契約で割り引けるだろうというチャッカリさも伺えた。啓治としても末永く貴族とお付き合いできるので悪くない取引だろう。

 

「えーっと。そろそろ予定の場所だけど大丈夫? 降り方は練習したよね? 忘れてるならオレが伝えるけど」

「問題ありません。立花李依、参ります!」

 啓治も勝平も自分で飛行呪文が使える。

場合によっては立花李依を救いに行くことを予定して、荷車側飛行船のハッチが開くのを見つめた。立花李依の騎乗したゴーレムが浮遊の呪文を刻んだ板をまるで大盾のように掴んだのが見える。そして……。

 

『我こそは立花李依! 我が夫に成り代わりて大将を務めるものなり! 大友家の家臣たちよ』

 この日の為に取り付けられた拡声用の呪文で声が響く。

ドンと大地を軋ませて降り立ったゴーレムから立花李依の声が周囲に伝達されていく。兵士たちはキョトンと巨大な人型に驚いていたが、やって来る魔物を蹴散らす姿や自分たちの指揮官から聞かされて我に返っていくのだ。

 

『大友家の家臣たちよ!』

『これよりこの地を! いえ、大宰府を取り返します!』

 女武将は敵を葬りながら声を上げた。

途中で何度も同じような事を繰り返し、仲間たちにゴーレムの姿を見せつけながら声を上げる。

 

『かつてこの地に攻め入った半人半馬も居はしない! 恐れることはない!!』

『ラミアがどうした! オウガがどうした! スキュラが……ナーガ何するものぞ!』

『いな、ナーガラージャが居るとしても、必ずやここで……討ち取って見せる!』

 敵を葬りその首を掲げるようにして放り出す。

ラミアを切り伏せ、肉厚なオウガをなぎ倒し、触手のような足が複数ある魔物やブレスを吐く大きな蛇を討ち取っていく。その中の多くは通常個体ではあるが、中には強化個体も居た。首を掲げて遠くからも判るサイズなのだ。

 

「光を切裂い割いた!?」

「あれは雷切だ! 立花伝来の技だぞ! とくとおがめ!」

「勝てる、勝てるぞお!!」

 もちろんサクラは用意したし、遺臣たちは当然味方だった。

しかし実際大きな人型が、明らかに魔物である存在を蹴散らしていくというのは衝撃的であった。自軍の勇士数人がかりでなければ倒せない相手を、あれほどまでに簡単に屠っていくのだ。それも自分たちの上にあるべき大将自ら!

 

『長らく苦労を掛けた! 今こそ前へ!』

『魔物を駆逐せよ! 槍を揃えて前へ!』

『その先頭に私が立つぞ! 故郷を取り戻すために前へ!』

「「「「おおおおおお!!!」」」」

 立花李依の呼び声に兵士たちは雄たけびを上げた。

後方陣地からやって来る援軍が居て、前には自分たちの大将が大物を討ち取って居る。どうして恐れる事があろうか? しかも天を汚すような閃光を、雷切で切り裂いていくのに!

 

この日、大宰府における戦闘は作戦崩壊と言う課程を越えて、全軍突撃により最終的な勝利をもぎ取ったという。

 

「どうする? 援護に行く? オレたちも暇じゃあるけどさ」

「止めとこうぜ。水を差すこともねーだろ。要請がありゃあ逃げ道塞ぎにかっとぶさ」

 勝平と啓治はそう言って人々が故郷を取り戻す光景を見守った。

撤退戦を計画している時は泣く泣く手出しを控えたが、この場では笑って手を止めたという。




と言う訳で戦闘終了。
第三部の終了ですが、魔王軍の行動前に勝利したので実質的な勝利です。
この後は第四部というよりは、各地の話を聞きながらの事後譚みたいになるかと。
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