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前田啓治はレポートのアリバイ造りも兼ねて冒険者たちと接触していた。
できれば研修で警備を任されるメンバーだとありがたいのだが、流石にそんな都合の良い事はない。生前に面識のある先輩冒険者を探すので精一杯だった。
「さーさん! あいつら俺が何とかするんで、そっちお願いしますわ!」
「さーさん言うな! あたしは佐々だってばー!」
稼げる依頼の内容と国内を巡る冒険者に網を張っておけばそれなりに動きは掴める。
旧知の佐々香菜は白兵戦で戦うに際して有用な加護を持っており、だからこそ後の飛行船時代には活躍の場が失われたことに哀愁を覚えた人物だった。そういった意味もあって助けたいとは思うし、そもそも大地の剣に関するレポートで質問したのは彼女なのだ。
「香菜よ、か・な! あたしには親からもらった大切な名前があるのー! 呼ぶならそっち呼んでよー! とにかく雑魚共を後衛に近寄らせたら駄目だかんね!」
「俺も一応は後衛なんですがね、さかなさん!」
「てめー、後で覚えてろよ!」
今回の敵はオーガとホブゴブリンを用心棒に据えたゴブリンの集落相手だ。
ホブゴブリンの小集団を景気良く蹴散らしたところで、狩りに出ていたゴブリンにバックアタックを掛けられそうになった所である。啓治が研修に備えて探知魔法を覚えて居た事や、大地の剣で前衛を張れる事から特に苦戦と言う訳でもない。軽口を叩き合ってそれぞれの相手を倒すに至った。
「それにしても自分に合ったサイズの武器が出て来るなんて便利ねー。ハンマーとか戦槌とか出せないの?」
「少なくとも俺が覚えてる呪文じゃ無理っすね。呪符魔法で使い捨てにするとか、研究職の連中が一年くらい資料検索で時間を無駄にすれば行けるでしょうが。マっ、専用の魔法の武器でも作ってもらった方が早いっすよ」
生前に言われた質問がそのまま繰り返された。
他にも知り合いの冒険者は何人か居たのだが、啓治が彼女を探したのは佐々香奈という女の加護が判り易く独特のバランスを与えており、毎度の悩みであったからだ。剛力無双の力を与えるが体格は小柄で、自分の背丈と同じくらいのハンマーを愛用していた。中々魔法武器が存在しないのと、槌系の技の中には武器を
「えー。でも生活魔法とか割りと簡単にオリジナルの魔法作ってる人いない?」
「あれは後先考えないからできる事っす。『クリーン』とかあからさまに浄化の呪文を劣化互換してるっしょ? その点で『大地の剣』は威力とか動きとか強化してくれますからね。中にデフォルトで入ってる術式も相当なもんだし、仮に弄れるなら登録を求められるんでやっぱ色々参考にしないといけないんすわ」
この世界は魔力が溢れているので、単純な使い方であれば誰でもできる。
しかしながらまともに使おうとすると及第点でしかないので、何らかの術式を組み込まねば意味がないのだ。それぞれの属性に存在する魔法の中には、呪文ごとにお仕着せの術式が施されている事が多い。誰もが使う術式をインストールすることで、過不足なく及第点以上の性能を有することを目指しているのである。それが魔族の軍隊と戦う経験から持ち込まれた長所であり、同時に形式ばって画一的であるという短所でもあるのだが。
「とにかく魔法を集めることを優先してる国家に行って、魔法戦士が山ほどいる藩属国に行きゃあ色々と揃ってんじゃないすかね?」
「やーよ。そんな事したら国仕えになるしかないじゃない。ああいう所は門外不出の術とか技も多いしね」
大地の剣という呪文はあくまで登録するだけで覚えられるお仕着せの呪文でしかない。
だから長所と短所のバランスが取れているのが当然で、メリットを増やそうとすればそれなりの研究期間が必要になるのは当然だ。ということは必然的に使用例が頻繁にある場所にしか存在せず、そんな余裕のある国はないので、畢竟『使う意味がある国家』が自国の長所として開発しているくらいだろう。
「何とかならないの?」
「出来たら俺もレポートなんか書いてませんわ。つーか誰が持っても最初から強くて、拡大術式を儀式魔法に組み込んだら百本でも同時に出せるんすよ? 出す意味ないしやるなら時間の方を拡大すべきっすけど、そんな便利な術が簡単に弄れるわけないじゃないっすか。まあどうしても必要なら、呪符魔法の使い手を臨時にパーティに入れるのが現実的ですかねえ」
登録呪文の便利な事は、誰でも使える事が判って居て、術式を組み込んだら機能する事。
ダメージ呪文ではないので威力などは強化されないが、それでも共通型の術式は併用できる。幽霊や精霊が隠れている時に十分しか保たない呪文を一時間にするとか、アンデッドが跳梁した時に同時に何十本も用意できるという意味では中々役に立つのは間違いないだろう。それが登録呪文のメリットと言う訳だ。他の呪文にも言えるのだが、お仕着せの呪文の良い部分を保つためには、お仕着せである必要があるという訳である。
「ホントーにどうにかならない?」
「さーさん。あんた何聞いてたんすか。呪文の開発にはエライ時間が掛かるんすよ。どうしてもつーなら大金払って自分の為の開発者を雇うのが一番すね。沢山あるなら専属の研究者を雇うとか……あとはどこかの令嬢ってなら、研究者を旦那に迎えて作って……グアアアアア!?」
「やだもー!」
研究者の婿を取れば呪文を開発できる。
そんなことを言われて思いっきり叩くあたり、この女は何処かの領主の娘なのかもしれない。あるいはそういう暮らしから逃れるために冒険者でもやっているのだろうか。啓治はそう思うのであるが、生前でも聞いたことがないので今ここで聞けるとは思わないでいた。代わりに聞くべきことは一つだけ。
「そういえば隠し部屋とか見つけるコツとかあるんですか? あるいは隠れてるモンスターを警戒する方法とか」
「どったの? 急にそんなこと聞いて」
「いやね。一部の遺跡で新しく発見された隠し部屋の形式があったそうで」
調べておくべきは研修の時に襲われた時の対策である。
堕ちた魔術師が引き起こす事件としかわかっておらず、様々な手段を用意するのだと思われた。しかし転移魔法が復元されたとか、現存するゲートがあったなんて報告はない。ならば何処かに戦力を隠して持ち込むのだろうと、冒険者に聞いておこうと思ったのだ。
「そうねえ。そのまま答えなんじゃない? 今までの形式で見つからなかったって事は、今までの方法では見つからないようにしてたのよ。それこそゴブリンが居る洞窟に、蜘蛛とか蛇の魔物が居るなんて思わないでしょ? でもそーいう時に、こいつらが閉じ込めてた天敵が居たりって事はゼロじゃないもの」
「はー。なるほどねえ。つー事は魔物探知じゃなくて、振動探知とか熱源探知か。いや、確かに覚えねえわ」
スキルポイントと言うのは有限で、使い道は沢山ある。
啓治にしても覚えるべき呪文は沢山あり、土魔法と風魔法を並行して覚えて居るので限りがある。現時点で覚えて居る鉱物探知と魔物探知以外に探知系を増やそうにも余裕がないし、覚えたら高速詠唱どころか防御発動にも手が届かないだろう。そしてそう言った事は全員に共通する話であり、だからこそ対暗殺者を警戒する独自チームなどは高額な報酬で警備をやっているのだという。
「ともあれ今回は助かりました。色々と勉強になりましたわ」
「いいのよー。あたし達も助かっちゃったしねー」
こうして啓治は授業を免除するレポートの為のアリバイ造りと、研修に対する備えを聴くことが出来たのである。
今回は研修への対策の話です。
授業をさぼって訓練する理由造りと、実際に警戒する方法の調査。
次は準備回、その次が事件を数回で第一部完になるかと。