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夢に関してはまだ思いつかない。しかし飛行船を基準に据えることで筆が進み始めた。
これまでは授業免除や教師の関心を最優先にしたことで、必要な内容だけを追い求めて来た。だから飛行船を絡めたり、魔王軍に関することへ提言することは避けていたのだ。しかし明確に含めても良いと思い直すことで、思わぬスピードでレポートが仕上がっていく。
「第一に飛行船の運用を推進する研究。第二に調査活動全般、第三に軍事や商業に関する補助行動。第四としてその延長である救援活動や魔王軍の根拠地捜索、大戦時には支援探索に充てるモノである……か」
「飛びたいから飛ぶ。ゆえに第一としました」
持ち込んだのは森教諭の研究室だが、林教諭の助言を受け修正した。
飛行船が飛ばねば意味はないし、飛んだとしても効率が悪かろう。快適さには目を瞑るとしても性能面では後発に劣るのは当然で、まずは飛ばして徐々に性能を整える事に主眼を置いた。それこそ攻撃魔法とちがって飛行魔法を広めるという意味でも、この研究には意義があるだろうと結ぶ。そこまで書けば軍事的・商業的に意味があり、資源収集に目が向くのは誰でも判るからだ。
「仮にこの研究のために在籍を認めたとして、君はまず何をする気かね?」
「補助装備の開発や運用面での成果確認を可能な範囲で確かめようかと思います。その上で錬金術の発達を想定して、色々と考察したいと思います」
内容の有意義さを認めたとして、この段階で在席させる必要もない。
現時点で飛行船の影も形もない以上は、もう一年・二年後までアイデアを練らせても良いのだ。その間に開発される成果を見つつ、正式に在籍できる上級生の時に改めて声を掛けても良いのである。啓治としてはここで断られては何の為に頑張ったのか、いや魔王軍の話をしたか判らないので奮起することにした。
「補助装備はまあ良い。今のところ飛べるのは呪文をつかえる風使いだけだからな。しかし運用面だと?」
「まずは飛行呪文と探知呪文を使って、その成果を確認いたします。飛んで鉱脈を探したり魔物を探すだけなら今でもできますから。他にも魔王軍が何処かの領地を急襲したとして、その救援に冒険者や勇者が駆けつけどう考えるか考察することも出来ます」
飛行船で広域探査は出来ないが、ちょっとした場所なら飛行呪文で全域を飛べる。
山や谷を飛行して地図を作ったり、鉱物や魔物の情報を書き込んでテストというのは難しくはなかった。そしてここからが重要なのだが、いつ来るか判らない魔王軍が、奇襲を掛けて何処かの領地へと攻め入ったという想定で訓練・考察したいと口にしたのである。この論調であれば個人的に色々やるよりも、研究室に在籍して教師や他の生徒であったり魔法陣を始めとした設備を利用する意味は大きかった。
「もし許可していただけるのであれば、研修に参加した時に地図や魔物の分布を調べたいと思います。……参加メンバーを知りませんからこのレポートを作成する段階で冒険者で代用して考慮しますが、そのチームが外から駆け付けたとして、封鎖された遺跡へ『研修終了後』に探索してみたいと思います」
「戦うだけなら柴田たちが行けるが、まあお前の立場だとそう言うしかないな。……まあ良いだろう。念の為のもう数日考えてから、正式な書類を出すように」
「ありがとうございます!」
新入生が研究室に認められるまでは良いとして、力を貸せと言えるはずがない。
まずは下積みで自ら力を貸して、その後に協力してくれる者の魔法や技能を計算に入れるべきなのだ。しかしそれでは話が進まない上、啓治としても堕ちた魔導師の介入を考えるとそんなことは言ってはいられない。冒険者を個人負担で雇って『研修後』に呼ぶのだと口にした。
「しかし数日ならまだしも、検証成果が出るまで雇うのは無理だろう? 流石に今から室の予算は出せんぞ?」
「問題ありません。飛行用の装備を貸し出して、その後に冒険で役に立ったかどうかを尋ねるつもりです。他にもそのチームが欲するマジックアイテムを、素材持ち込みの形でこちらで製作して報酬に当てるつもりですから」
カードの勝負でありがちだが、自分と相手の欲するカードが同じとは限らない。
仮にトランプで考慮してみよう。大貧民や大富豪と呼ばれる遊戯で強いのは高い数字のカードであるが、必ずしも高い数字である必要はない。連続するスートを完成させたり、革命と呼ばれる逆転技を使うには中間である方が良い事もあるのだ。他のカードゲームやボードゲームでのトレードであれば猶更だろう。
「なるほど。自分が覚えて居る呪文の方が作るのは早いしな。付与する時に自分が覚えてる物をそんなに作ってどうするのかと疑問に思う者も居るが、お前にとってはそうではないか」
「はい。飛行実験の検証ができますし、仮に飛行船が完成すれば事故防止や、本当の意味での出撃用装備になりますので。チームが要求する装備の方は時間が掛かりますが、これは急がないのもあります」
これまで思いもしなかったほどに、話の整合性とタイムスケジュールに折り合いがついた。
森教諭……森明夫もその判断を認め、研究室での作成許可を出してくれた。費用に関しても素材持ち込みであれば、余った素材を他の資材と入れ替えることも出来る。研究室としても問題ないし、上手くいけば研究成果が見込めるので認めてくれたのである。
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啓治は森教諭との話を詰めたうえで、冒険者ギルド経由で佐々香奈たちに連絡を取った。
研修自体に力を借りたいわけではなく、研修で調べた場所を使い、先輩たちがまだ出先に居る間に実験を行いたいということで打ち合わせを行ったのだ。もちろんギルドに不正利用を粉う旨がないという誓約を行ったり、研修を護衛するチームとは別管理ということで守秘義務が漏れないように契約していた。
「と言う訳で何処になるかはまだ分からないっすけど、既に割れてる遺跡のどっかになるんで、出入り禁止の最終日までに到着してくれれば問題ないっすわ。それまでに飛行装備を最低でも二組用意するんで、適当に取りに来てください」
「んーと。二組というのは往復用ね? と言う事は魔力は自己管理っと」
「そんな感じっすね」
ここではパズルゲームやリドルで行われる、『川渡しの問題』を命題にしている。
二組の飛行装備を使い、一人が戻って装備を受け渡し、最低限の時間でチーム全員が遺跡に救援に入ると言う想定だ。もちろん装備が量産できれば問題ないが、現時点では啓治は素人と言う事になってるので二つ作るのが精々という計算だ。香奈はそれらの情報に合わせレポートを提出することになっていた。
「メンバーはどのくらいを想定してんの?」
「重装3名か軽装4名の少人数パーティで、これに飛行船スタッフが加わって6名前後の集団が魔王軍の後背を突くというのが一応の理想形になります。まあ実際には領地の軍隊とか、襲う魔王軍の規模に寄るんでしょうけど、敵が多ければ牽制とか用心救出ってことで」
こんな感じで細部を詰めながら、必要なサインを決めていく。
例えば『緊急時につき実験中止』やら逆に『救援要請、至急』などの目印を、遺跡の何処か見え易い場所に掲げる事になっていた。もちろん報酬として素材さえ持ち込めば指定のマジックアイテムを作る事を報酬とし、仮に未踏区域が三方場合は香奈たちに優先権があるという契約も記載してある。啓治としてはそこに付随して、不審者が居た場合は捕縛であるとか魔王軍が居たら追加報酬を払うなどの旨を記載することに意味があったのだが。
「それにしてもまさか飛行船なんてものを作るだなんて思いもしてなかったわー」
「まだまだ絵空事っすけどね。少なくとも素材とか専用マジックアイテムが発明されねえことには、十年先か二十年先か判んねえっす。魔王軍でもやって来たら五年も掛からずに建造できるとは思いますが」
「あはは。魔王軍はやだなー。来たら稼ぎに行くけど」
最新の理論であって存在しても居ない魔法金属の錬成。
ソレを大前提にする以上は建造に目途など立ってはいない。錬金術や素材系の研究室に顔を出し、もし実用化されそうなら最優先で声を掛けてくれと伝えてはいるが、むしろ向こうの方が初耳だって苦笑される段階でしかない。中間素材となる薬品やら魔法陣も存在して居ないので、素材を研究していた啓治が向こうに行ったとしても、研究は進まないであろう。
「でも実用化したら手に入れるつもりなんでしょ?」
「そりゃね。いの一番に実験を提案して、俺が率先して乗り回しますよ。魔王の拠点を見つけたり、滅びそうな国へ救援するかは悩みどころっすけどね」
こうして実験や契約と言う名の増援を手配して、啓治は研修の日に向けて己を鍛える。
予定としては飛行呪文が前倒しになり、代わりに加速呪文が遠のいた形だ。また『大地の盾』の呪文を諦めて、あくまで大地の剣と大地の壁の二本立てをメインにすることで、防御発動からコストの高い高速詠唱へとシフト。将来を見越して捨疲選択を終えて行ったのである。
と言う訳で迎撃とか増援に対する手配の話をしつつ、飛行船を少々。
「できればゲット」から「俺が作るぜ!」と言う方向に舵を切ったので
周囲から見ると意欲的に見える感じですね。