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修業を兼ねたアイテム作成を繰り返し、飛行用装備を増産。
あくまで実験用と言う事で本格的な物ではないこともあり、当初の数よりは多く造れた。もちろん前田啓治にとってマジックアイテムの作成が初めてでは無いため、あまりキッチリした物を狙って作らなかった事も影響して居るだろう。もっとも全てが予定通りではないのだが。
「研修に関して色々と発表があったが……。王、良い話と悪い話のどっちから聴きたいよ」
「柴田のアニキ。そういうのは悪い方からってのがセオリーじゃないっすか」
同じ林研究室に所属することになった柴田哲章が笑いながら話しかけて来る。
面倒見の良い彼は林教諭に付き添って会議の資料をまとめ、第一報を教えてくれたようだ。啓治が気にしている事を以前から知っており、参加許可が出るか出ないかにも当然ながら関わって居た。もっとも研究室は基本的に三名から五名、林研究室は卒業で三名になった所に啓治が加入したばかりであり、余程の理由が無ければ参加拒否はないのだが。
「それじゃあ悪い方からだな。場所はナゴヤに決まった。あそこは広くて調べるのが面倒だぞ。ご愁傷様というやつだ」
「古都ナゴヤっすか。二重遺跡でしたっけ。古代王国時代の浮遊都市が堕ちたとか言う」
啓治は内心で生前の知識と変わってない事に感謝した。
研修は散々掘り尽くされ安全と思われている遺跡から選ばれるのだが、他にも候補は幾つかあった。その中でもナゴヤは独特で、一つの遺跡の上に空中遺跡が落下して出来た二重遺跡である。元からあった方を那古野と呼び、上から落ちた方を名古屋と呼称している。都市二つ分あるからこそ、広くそして思ったよりも多くの出土品が存在するのである。
(さーさん達にも候補は伝えてあるし、ナゴヤはまだ美味しいモンが出る可能性のある場所だから目を付けてるはずだ。これで救援の方は間に合うかな。それにこれで魔王軍の介入方法にも概ね想像が付いた)
堕ちた魔導師は様々な手段で学院を出し抜く筈だ。
それはそれとして確実に強者を殺害して回るならば、相手の特定と戦力の集中は絶対に避けて通れない道である。有象無象の学生陣や教師たちと戦わせて損耗をさせたいとも思えない。冒険者や腕利きの教師に対して奇襲できる方法を選ぶに違いあるまい。
「そうえいば柴田のアニキは振動探知が使えましたよね? 作ってるリストにないっすか? 今ならもれなく飛行装備を渡せますが」
「それは構わんがちっとばっかり待て。まだ良い話をしてなかったろ? そいつ絡みで頼みたいことがあってな」
「なんっすか? アニキの頼みなら仰々しくしなくても聞くのが後輩つーもんすけど」
三つの目のマジックアイテムが間に合ったので、佐々たちに貸すか交換するか迷いどころった。
しかし哲章は片手でその話を止め、ニヤニヤしながら『良い話』とやらを進めたがっている。何というか自分にとって良い話を他人にとっても同じだと信じているような、聞いたら駄目な話がしてくるから不思議である。往々にしてこういう時のカンは良く当たるのでさっさと逃げるべきだったかもしれない。
「うちの研究室に晶の奴も無事に入れてな。連れて行くから面倒見てやってくれ」
「ちょっ!? 入ったばかりの奴は反対ってのは俺が言うセリフじゃないすけど、危険っすよ! 幾らナゴヤが安全つったて俺は断固反対しますけど!」
まさに寝耳に水の話だった。哲章の妹である晶は確かに優等生だが……。
上級生になってから研究室へ入ると思っていた。それに素材部門とは言わないが、薬学系に入るとばかり思っていたのだ。誰かの役に立つならその方が確実で早いし、ポーションの方が付与魔法よりもよほど役に立つのである。……ただの付与魔法と比べたらの話だ。
「あのなあ。あいつに飛行船の話を吹き込んだのはお前だろ? ならお前が責任を取れ。それとも何か、あいつの面倒を見るのは嫌だと?」
「別に嫌じゃないっすけど、それだって安全の話は変わらねえつーか。おーい、聞けよこの筋肉ダルマ!」
飛行船というオーバーテクノロジーに実現性が出た事が大きい。
誰も関わって居なければ、今回も薬品部門であったろう。しかし実現が見込めるとしたらどうだ? 発見されていない魔王軍の根拠地を探し、困手散る領地を救援と言う話にはロマンがある。それでなくとも病で困っている人の元へ薬を届けるとか、速度と移動力がモノをいう場所は多いのだ。素材部門や薬品部門の門戸が広いというのは、秀才一人増えても意味はなく、何処まで行っても人数で地道な作業を行う事が必要だからに他ならなかったのだ。
「それじゃ決まりだな。うちの可愛い妹に手を出すんじゃねーぞ? あとあのいけすかねえ細川兄弟も来るそうだからな、あいつらの魔の手からも守る様に」
「細川? ああ王家直属の魔法使いの一人っすね。いや兄弟なら二人いんのか」
生前の啓治は面識がなかったが、細川兼人と武人という兄弟が居る。
胡散臭い二枚目と評判の兄弟であり、和田・明智と並んで王家直属の護衛隊として有名な男であった。兄弟である事を意識して居なかったのは、片方は出世したのか……それとも何処かで死んだのだろうか? たとえばこれから起きる堕ちた魔導師との戦いで。
「と言う訳で入ってきていいぞ」
「はーい。来ちゃった♪」
「来ちゃったじゃねーよ! ちっとも話を聞いてねえなこの兄妹! そういう所はソックリだよ!」
完全に予定外だと言わざるを得ない。
名う手の魔法使いならまだしも学生でしかない。それだけならば啓治も同様であるが、彼は二周目であり戦うための心構えも出来ている。そもそも戦う以前に調査系やら状態変化系ばかりで戦いの役に立たない可能性もあったのだ。そうなれば完全い、守るべき人間が増えただけ……足枷と言っても良かった。
(……強引な性格してやがるし今更どうしようもねえってか? 置いて行っても絶対に何処かで合流しやがるよな。何せ研究は一日・二日じゃねえ。だとしたら比較的安全な場所に匿うっきゃねーな。堕ちた魔導師の事を話せたら楽なんだが)
二周目の人生なんて現時点で話しても絶対に通じない。
何度も未来を当てて、相手から尋ねられて初めてというところだろう。そして立場的にも話の流れ的にも断る事が出来ないのがつらかった。だとしたらここでグダグダとやるよりも、戦力になると思えないが行動をコントロールしつつ可能ならば援護焼くくらいはこなせるように導くべきだろう。
「あーもう! 判りましたよ! そんかわし色々と協力してもらうからな! 後で使える魔法をリスト化しといてくれ。余裕があるならスキルポイントもだ柴田のアニキ、言いたかないけどこういう研修じゃあ『お礼参り』とか『焼き入れ』とかよくあるんでしょ? 不意打ち対策用の装備を借りてきますからね!」
「おう、持ってけ持ってけ。それにしてもいきなり守りに入りやがったな。どっちかってーと走りっぱなしだったのによ」
「そうさせたのはあんたでしょうが。俺だって自分一人なら幾らでも空飛んで逃げられますからね!!」
どうも哲章は二人が付き合っていると誤解している様に思われる。
男を追い掛けて女が研究室にやって来るなんて、恋愛事情しかあるまいと考えるのが若者というものである、何のかんのと言って哲章もまた所詮は学生であり、そういった物の見方をするところがある。もちろん啓治としても元は女房にするくらいだから、腐れ縁ゆえとはいえ嫌いではないのだ。むしろ意気消沈しておらず元気な頃が目新しく、興味を引かれていないとは言えなかった。だからこそ助けるために必死なのであるが。
「水魔法はともかくエリクサー化に薬品投与が二種とか、妙な呪文覚えてんな」
「そりゃ、あたしは薬学専行するつもりだったしね。飛行船に乗りたいのも世界中の薬草を探すつもりだからよ? あんなメモを見せつけられたらそりゃ飛行船の実用が近いんじゃないかって思うわ。木下君も直ぐにこっちに来るって行ってたから、覚悟してなさいよね」
死ななきゃそうしたいと苦笑したい啓治であった。
しかし現実は無常である。手持ちの魔法とマジックアイテムで可能な事を探し出すべきだろう。その上で情報を開示せずに、かつ不自然ではない流れを作らねばならなかった。
「とりあえず今回の想定は魔王軍に都市が包囲されたつー前提な。ワイドポーションで数人へ一気に薬品投与ってのを主軸に考えといてくれ。暇が有ったらその辺の薬を作っといてくれると助かる。俺は白の秘密通路ならぬ未発見の地下道があるって想定で探すからよ」
「任せなさい! でも随分と悲観的な話ね。まるで奇襲を受けて壊滅する寸前みたいじゃない」
「だからその想定だつーの! 後でこっちも覚えて欲しい呪文をリストアップしとくから、余ってるポイントでお前が覚えても良い呪文を取ってくれたら助かるよ」
晶の覚えて居るメインは水魔法で、薬学系のスキルが幾つか。
呪文はその散布をメインに、薬では不可能な事を呪文で補っている。ゲームで言えばヒーラーと錬金術師の中間と言う所だろうか? もちろん爆薬やら中級回復などできるはずもなく、低位のポーションを効率よく中級クラスにまで押し上げて治療するのが精々ではあった。
啓治たちはその後に地図やら資材を調達し、現地入りすることになる。
と言う訳でいよいよ事件開始。
といっても、起きると判って居ればそれほど大きな事件ではないのですが。