なんだ、この可愛い生き物は。天使か。
ここまで可愛いに全振りしたキャラもまた近年では珍しいですよね。
彼女を実装してくれた運営様に最大限の感謝を。
いつの日か必ずツインターボも実装してくれると信じて。
理事長室の扉の前に立っていた人物。
その姿を見たやよいとたづなは大きく目を見開いた。
「あなたはメジロ家の……」
「はい。執事にございます」
メジロ家のウマ娘達が実家に帰った際に、いつも家と実家の送り迎えをしているリムジンの運転手であり、同時に数多くいる執事達の中で最も古株でリーダーでもある初老の男性。
その彼は今、学園に理事長室に尋ねてきている。
「突然の来訪、本当に申し訳ございません」
「い…いえいえ。お気になさらず。この学園じゃ、こんな事は割と日常的なので。ですよね、理事長?」
「う…うむ! 確かに驚きはしたが、だからと言って追い返すような真似はしない! たづな、彼にもお茶を」
「畏まりました」
たづなは老執事にソファに座るように促してから奥の部屋に茶を淹れに行った。
残されたのは彼とやよいだけになった。
「突然で申し訳ないが、貴方のような人物がここに尋ねてきたということは、それだけの理由があると見てよろしいか?」
「はい。私は今回、あることについてお話をしなければならないと思い、参上した次第です」
「あること…?」
「…モンスニーお嬢様についてです」
「なんだとっ!?」
ついさっき彼女とは退学についての話をしていたばかり。
やよいもモンスニーのことを少し調べなければと思っていた。
そんな矢先に彼女の事情を知っているという人物がやって来た。
これを行幸と言わずしてなんというのだろうか。
「もしや…知っているのか? モンスニーがあのような考えを持つようになってしまった理由を…どうして退学しようとしているのかの理由を!」
「はい…全て存じています。今となっては、私と御当主様のみが知っている事ですから……」
彼が言う『御当主様』とは、メジロのウマ娘達が『おばあさま』と呼んで慕っている人物の事である。
メジロ家を昔から支えてきた二人だからこそ、知っている真実もあった。
「…待ってくれ」
「なんでしょうか?」
「彼女の事を話してくれるのは非常に助かるが、それは私達だけが聞いていい話ではない」
そうだ。
本人は否定するかもしれないが、モンスニーの事を慕い、心配している者達は学園内に大勢存在している。
だからこそ、この話は自分達だけが知っていい事ではない。
「モンスニーの友人達。そして、チームメイトにも聞く権利はあるだろう。たづな」
「はい」
お茶を淹れて、いつの間にか戻ってきていたたづなは、既にテーブルの上に湯呑を置いてから、その手には携帯を握っていた。
「大々的に校内放送で呼び出しては色々と面倒なことになるので、個人の電話に掛けて呼ぶんですよね?」
「うむ! 流石は私の秘書だな! こちらの言いたい事をすぐに理解してくれる! では、頼んだぞ!」
「了解です。まずは生徒会室にいるであろうシンボリルドルフさんに。その後はモンスニーさんが所属している『チームレグルス』のトレーナーさんとウマ娘達に…ですね」
再確認するかのように電話をする相手を言ってから、たづなはテキパキとした動きで電話を掛け始めた。
それを見て、長年執事一筋だった彼は本気で驚嘆したと言う。
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・・・・
・・・
・・
・
同時刻。生徒会室。
メジロドーベルとメジロブライトが訪ねてきて、シンボリルドルフとエアグルーヴにモンスニーが学園を辞めて、家すらも出ようとしている事を告げた瞬間、最悪のタイミングでミスターシービーがやって来てしまった。
「今の…嘘だよね? モンスニーが学園を辞めるって……」
「シ…シービー先輩。落ち着いてくださ……」
「嘘だよね! 嘘だって言ってよ!!」
呆然と立つ尽くすシービーをなんとか宥めようとしたエアグルーヴだったが、すぐに彼女の大声によって怯んでしまった。
「なんで…なんでモンスニーが学園を辞めないといけないのさ! 確かに足を怪我しちゃってるけど、あんなの前みたいにすぐ治して……」
「それだけ…なんだろうか」
「え?」
誰も話せないでいる中、ルドルフだけが顎に手を当てながらなんとか冷静に物事を考えようと努めた。
そうしないと、自分も皆と同じように狼狽えてしまいそうだったから。
「これはあくまで私の私見なのだが…事はそう単純な話じゃないんじゃないか?」
「どういう事さ…」
「それは私にも分からない。だが、今回のモンスニーの事は私達が想像している以上に根が深い問題…そんな気がしてならないんだ」
本当はルドルフもモンスニーが退学するなんて信じられないし、信じたくない。
だが、ドーベルやブライトはそんな嘘を付くような者達ではない。
「…アタシ、モンスニーに直接話を聞いてくる」
「シービー……ん?」
シービーがその場を後にしようとした時、ルドルフの携帯に着信が入る。
着信の相手はたづなだった。
生徒会長と理事長秘書と言う立場上、二人は個人の携帯の番号登録などをしているのだ。
「この大変な時に一体何を…もしもし?」
流石に無視する事は出来ないので、急いで着信に出る事に。
だが、ルドルフは電話の向こうにいるたづなから本日二回目となる驚き情報を耳にするのだった。
「な…なんですってっ!? それは本当ですかッ!?」
「会長…? 一体どうなされたのですか…?」
さっき以上に目を見開きながら、ルドルフは受話器に手を添えながら静かに呟く。
「今…理事長室にメジロ家の執事の人がやって来ていて…その方がモンスニーが今のようになってしまった理由を知っていると…」
「執事って…まさかじいやさんっ!?」
「あの方が理事長室に……」
まさかの人物の登場に今度はドーベルとブライトが固まった。
自分達を送り、そのまま帰ったと思っていた彼が学園に尋ねてくるなんて思わなかったから。
「…その人に聞けば、モンスニーがどうして学園を辞めようと思ったのかも分かるの?」
「恐らくな…。で、私達以外にも『チームレグルス』の者達も呼んでほしいと言っている」
「そう…だよね。あの子達にも事情を聴く権利はあるもんね。それに、トレーナーとも話をしたいと思ってたし…分かったよ。じゃあ、チームの皆はアタシが連れてくるから、ルドルフ達は先に理事長室に行ってて」
「了解だ」
急いで理事長室に行くためにルドルフ達はソファから立ち上がるが、そこでドーベルとブライトが待ったを掛けた。
「あの…ちょっといいですか?」
「どうした?」
「私達でマックイーンやライアン達を呼んできたいって思ってるんですけど…」
「…そうだな。同じメジロ家の彼女達も知っておくべき事だろう。頼めるか?」
「「はい!」」
こうして、モンスニーに関わっている者達が理事長室に一堂に会する事になったのだった。
全ては、自らを追い詰めるウマ娘の真実を知る為に。
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「…来たようだな」
ノックが聞こえ扉が開かれ、そこからシンボリルドルフとエアグルーヴが入ってきた。
彼女の視線はまずやよいに向けられ、その後すぐに老執事へと向いた。
「失礼します。…あなたがメジロ家の」
「はい。初めまして。シンボリルドルフ様。エアグルーヴ様。お二人の事はモンスニーお嬢様からよくお伺いしております」
「どんな話をしていたのかが気になるが…今はそんな事をしている場合ではないか」
こちらが委縮してしまいそうな程に丁寧な挨拶に、ルドルフはちゃんと対応してみせたが、エアグルーヴは思わずたどたどしくなってしまった。
「おや? 他の者達はどうしたのだ?」
「すぐに来ると思います」
「そうか」
そんな風に話していると、またもやノックが聞こえてきた。
「失礼いたします」
次にやって来たのはメジロ家のウマ娘達。
代表してマックイーンが扉を開いた。
「話を聞いた時は驚きましたけど…まさか本当に来ていたのですね。じいや」
「はい…マックイーンお嬢様」
非常に慣れた感じでメジロ家のウマ娘たち一人一人に挨拶をしていく。
彼女達にとっては、これが日常風景なのだろう。
「あの…じいやさんがモンスニーさんの秘密を知ってるって聞いたんですけど…」
「秘密…というよりは『過去』になります。ライアンお嬢様」
「過去……」
一体、彼女の身に嘗て何が起きたのか。
どうして今のようになってしまったのか。
それを聞くにはまだ役者が足りなかった。
「お待たせしましたー」
「やっと来たか…」
今度はノックも無しに扉が開かれ、そこには口調とは裏腹に神妙な面持ちとなっているシービーと、彼女が所属している『チームレグルス』のチームメイトとトレーナーが立っていた。
「いきなりシービーさんに有無を言わさずに連行されたんだけど…何この状況?」
「あらあらまぁまぁ…これはまた凄い光景ねぇ~」
小柄な体格ながらも学内屈指の実力者であり、クールな性格をしているウマ娘の『ナリタタイシン』。
そんな彼女のルームメイトであり、驚異的なタフネスを持ち相手を圧倒する、包容力の塊とも言うべきウマ娘『スーパークリーク』。
そこに伝説の三冠ウマ娘と呼ばれている『ミスターシービー』と、そんな彼女の宿命のライバルと称される『メジロモンスニー』、それともう一人のウマ娘を含めた五人で『チームレグルス』を結成している。
「えっと…御無沙汰してます」
「うむ」
そんな彼女達に混じって立っている一人の成人男性。
彼の名は『大久保正秋』。
チームレグルスのトーレナーであり、学内屈指の実力者達を総ている人物でもある。
「君にも色々と聞きたい事があるが…その前に一つ尋ねたい」
「なんですか?」
「チームレグルスの最後の一人…『メジロラモーヌ』はどうした?」
そう…実はチームレグルスの五人目のメンバーこそが、『メジロの至宝』とまで呼ばれて称えられている、メジロアルダンの実の姉であり学内で数少ないシンボリルドルフやミスターシービーを初めとする三冠ウマ娘達と互角以上の実力を持つ『メジロラモーヌ』なのだ。
「あの子の行方はトレーナーの俺でも詳しく把握してないんですよ…」
「むぅ…仕方あるまい。我々も彼女の動向は本当に分からないからな…」
良くも悪くも自由人。それがラモーヌだった。
「えっと…その人がモンスニーの事を知ってるっていう…?」
「その通りでございます。ミスターシービー様。あなた様の事はいつもモンスニーお嬢様からとてもよくお聞きしております。お嬢様と仲良くして頂き、本当にありがとうございます」
「よ…よしてよ…。別にお礼を言われたいから仲良くしてる訳じゃないし…」
珍しく照れるシービー。
明朗快活な彼女のレアな表情を見てタイシンは驚き、クリークはいつも以上にニコニコしていた。
「さて…少々狭くはなってしまったが、こうして役者も揃った事だし…改めて聞かせて貰おうか。メジロモンスニーの過去に何があったのかを」
「承知いたしました」
老執事から語られるモンスニーの過去。
それは、同時に彼女の中に潜む『闇』と向き合う事でもあった。
チームレグルスのメンバー選考基準。
【ナリタタイシンとメジロラモーヌ】
メジロモンスニーと調教師が一緒だったから。
【スーパークリーク】
単純にタイシンと同室だったから。
【ミスターシービー】
シナリオ上の都合。