ウマ娘 ~伝説の好敵手~   作:とんこつラーメン

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語られるメジロモンスニーの過去。

因みに、今回はじいやさん視点のお話です。

数多いウマ娘の二次小説でも、こんなのは非常に珍しいのでは?



















過去

 モンスニーお嬢様はメジロでも数多く存在している『分家』の生まれのウマ娘でした。

 お父上は今はもう引退したメジロ家出身のトレーナーで、お母上はそんな彼が現役時代に担当をしていたウマ娘で、お二人は一線を退いたと同時にご婚約をしたと聞いています。

 これだけならば、そこまで珍しい話でもないかもしれません。

 ご婚約の際も多くの方々から祝福され、誰もが順風満帆だと信じていましたから。

 

 そんなご夫婦の間に一人のご息女が誕生しました。

 それが『メジロモンスニー』お嬢様でした。

 

 奥様の妊娠が発覚してからご夫婦はメジロ家に戻ってきて、邸宅にて出産をし、その後の療養もそこで過ごしました。

 モンスニーお嬢様も皆に見守られながらすくすくと大きくなっていきました。

 私もよく幼かったお嬢様とよく遊んだ事を覚えています。

 あの頃は無邪気な笑顔を見せる元気な女の子だったのです。

 そんなお嬢様が変わってしまったのは、奥様の体調が戻ってからでした。

 

 元トレーナーとウマ娘の両親。

 この二人が自分の娘に対して何も思わない筈が無い。

 私と御当主様はもっと早くに、この事に気が付くべきだった。

 

 ご存じの方もいるかと思いますが、メジロが所有している敷地は非常に広く、これまでに数多くのウマ娘を輩出してきたという事もあり、このトレセン学園にも負けないぐらいの多種多様なトレーニング施設が併設されているのです。

 

 私の記憶が正しければ、あれはモンスニーお嬢様が幼稚園に入る少し前ぐらいの頃。

 ご夫婦は敷地の端の方にある、現役のウマ娘達が良く使っていたトレーニング施設へと移り住み、そこでまだ幼かったモンスニーお嬢様にプロ顔負けのトレーニングを課していったのです。

 まだ遊び盛りの御嬢さまには余りにも酷な事だと思い、私と御当主様で進言したのですが、全く聞く耳を持たれませんでした。

 どうやら、ご自身が分家の生れであることに引け目を感じておられたようで、ご自分達のご息女を他のウマ娘達にも決して負けない、メジロ家のウマ娘に相応しい存在に育てていこうと思っていたようでした。

 奥様も、ご自分が現役中に成し得なかった『GⅠ制覇』という目標をお嬢様に成し遂げて欲しいと願い、モンスニーお嬢様に厳しい教育をなさっていました。

 

 まだ『本格化』は愚か就学すらもしていないウマ娘にプロ並みのトレーニングなんてしても逆効果だと御当主様は叱咤したのですが、その言葉は受け入れて貰えません。

 しかも、最も厄介だったのはモンスニーお嬢様自身が一番やる気を出していたという事でした。

 恐らく、大好きなご両親の期待に少しでも応えたいと思う子供としての心があったからなのでしょう。

 

 それからです。モンスニーお嬢様の顔から笑顔が消えたのは。

 

 鬼気迫るような表情で黙々と厳しいトレーニングをこなしていき、お父上様もお母さまもまるで人が変わったかのように自分のご息女に向かって厳しい言葉を吐き、スパルタ教育なんて言葉すらも生温い、殆ど虐待に近い行為を繰り返していきました。

 ですが、そんな目に遭ってもモンスニーお嬢様は一度も泣き言なんて言わず、体中に生傷を作りながらも必死に体を動かし続けます。

 余りにも見るに堪えない事に私と御当主さまで密かにお嬢様の怪我の治療やお世話などをしていたのですが、それでも次の日にはまた同じようなことの繰り返し。

 本当ならば無理矢理にでも引き離すべきだったのでしょうが、他の誰でも無いモンスニーお嬢様がそれを望んでいなかったのです。

 

 ある時、私はお嬢様に尋ねました。

 『どうして、そんなにも頑張るのですか?』と。

 すると、お嬢様はこうお答えなさいました。

 

「おとうさんもおかあさんも、わたしがはしっているのをみているとなきそうなかおをするの。わたし、おとうさんもおかあさんもだいすきだから、いちばんになってわらってもらいたいの。わたしがおとうさんとおかあさんをげんきにするの。だからがんばるの。こわいときもあるし、なきたいときもあるけど…でも、ほんとうにだいすきだから。わたしがいちばんになればわらってくれるよね? メジロのえいこうのためにはしってかてばよろこんでくれるよね? だいじょうぶ。わたしはメジロのためにうまれてメジロのためにはしるウマむすめだから。これはふつうのことなの」

 

 それを聞いた時、私は絶句しました。

 年端もいかない少女が、あろうことか自分よりも両親の望みを優先していたのですから。

 あの頃の少女ならば、もっと我儘を言っても不思議ではないというのに、もう既に自分の全てを両親とメジロに捧げることを決めていたのです。

 

 それは決して有り得てはならない歪みでした。

 これ以上はと思った私と御当主様は、お嬢様を強制的にでも引き離すべきと考えて実行に移そうとしましたが、時は既に遅し。

 我々の動きを察知したご夫婦はモンスニーお嬢様を連れて行方をくらましたのです。

 

 ここからは、後で我々が調査して知った事で私が直接的に見たわけではありませんので正確性には欠けますが…それでも良ければお話ししましょう。

 

 こちらの知らぬ土地でもモンスニーお嬢様に厳しい特訓を強いて、お嬢様もそれに応え続けました。

 その結果、幼稚園に通い始める頃には同年代のウマ娘達とは明らかに頭一つ突き抜けた身体能力を有していたようです。

 一つだけ安心したのは、幼稚園にも通わせずに特訓をさせようとしなかった事です。

 あの二人ならばそのような事をしても不思議ではなかったのですが、もしかしたら両親としての義務感ぐらいは残されていたのかもしれません。

 

 幼稚園では余り友達を作らず孤独に過ごしていたらしく、先生にも心配をされていたと伺っています。

 ですが、競争となると途端に目の色を変えて全力で走り、常に一番だったらしいです。

 

 それは小学生になっても続き、唯でさえ厳しかったトレーニングは更にハードになり、それと同時にお嬢様の走る理由も『両親に笑って貰う為』から『メジロ家のウマ娘として、メジロ家の栄光をもたらす為』に変わっていきました。

 最早『洗脳』に近い教育方法に、後々にそれを聞かされた私と御当主様は自分の無力さを本気で恨みました。

 

 そんな時、ある事件が起き、それが現在のモンスニーお嬢様を完全に形作る事になりました。

 

 お嬢様のお母上が御病気で倒れてしまったのです。

 元々、体が丈夫な方では無かったようで、引退の理由もまた病気のせいでもありました。

 お母上が病床に伏してからは更にトレーニングに苛烈になっていき、お嬢様もそれに必死についていきました。

 病に倒れた母親にメジロ家のウマ娘としての姿を見せる為に。

 当時のお嬢様はもう完全にメジロの為に自分の存在全てを投げ打つ機械のようだったと、小学校の担任は語っておられました。

 

 そして…お嬢様が小学校を卒業してトレセン学園へと入学をする直前…お母上様の病状が悪化し、そのまま帰らぬ人に……。

 

 お嬢様は今でもその時の事はよく覚えておられるのでしょうな。

 毎年、必ず命日の日には一人でお墓参りに行っておられるようですから。

 

 先程も言った通り、我々はずっとお嬢様たちの行方を調査していました。

 ですが、見つけた時にはもう何もかもが遅すぎてしまった。

 昔の面影が無くなり変貌してしまったモンスニーお嬢様の姿を見て、御当主様は大激怒し、遂にはお父上様をメジロ家から完全追放し、モンスニーお嬢様をようやくメジロ家へと連れ戻すことが出来たのです。

 

 戻ってからもストイックに自分の事を苛め抜き、昔よりも遥かに厳しいトレーニングをしようとしたお嬢様を一体何度止めた事か…。

 それから少しして、非常に厳しい倍率を見事に潜り抜けてからモンスニーお嬢様はトレセン学園へと御入学いたしました。

 そこからの事は皆さんの方が御詳しいと思います。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 一通り語り終えたじいやは目を瞑り、それを聞いていた面々はいずれもが辛そうな顔をしていた。

 特にシンボリルドルフとミスターシービーの二人は歯を食い縛っていた。

 

「…メジロの為に生き、メジロの為に鍛え、メジロの為に走り、メジロの為に勝利する。モンスニーお嬢様の全てはそれに集約されています」

「モンスニーさんはこれまでにただの一度も自分の為に走った事は無いと…そう言う事なのですか? じいや…」

「そうでございます。ウマ娘の本能として『勝利する』を欲してはいますでしょうが、それはあくまで『メジロ家の栄光の為の勝利』に過ぎません」

 

 根本的に間違っている決意。

 ここにいる誰もが一発で分かる事だった。

 

「ようやく全てを理解した…! モンスニーは実の両親によってウマ娘の矜持そのものを歪まされてしまったのだな…」

「『栄光』を掴むために『勝利』するのではない。『勝利』の果てに『栄光』を掴めるのだ。モンスニーは最も大事で当たり前のことを学ぶ機会を奪われてしまったのか…それを教える筈の両親の手によって…」

 

 想像していた以上の闇の深さに、全員が口を塞ぐ。

 特にモンスニーと同じメジロ家のウマ娘達にはショックが大きかったようだ。

 

「入学してからのお嬢様のレースの成績は余り芳しくなかったと伺っております。恐らくは、それによって…」

「自分の存在がメジロ家に泥を塗っていると思い始め、自虐的になっていき、その挙句に二度に渡る足の怪我…それで自分自身に対して存在価値を見い出せなくなってしまったのか…」

 

 本人は否定するだろうが、モンスニーは完全な被害者だ。

 何一つとして悪くは無い。彼女は両親の言う通りにしてきただけなのだから。

 

「大久保トレーナー…君はこの事を知っていたのか?」

「いいえ…完全に初耳です。最初に彼女と出会った時から奇妙な違和感自体は感じていましたけど、まさかここまで深刻なものだったなんて……」

 

 トレーナーといっても他人であることには違いない。

 そんな過去の事まで察しろと言う方が酷だろう。

 

「ところで、君はモンスニーの退学の件を認めたと本人から伺ったが?」

「えっ? マジ?」

「あらあら……」

 

 理事長からのキラーパスで大久保はタイシンから睨まれ、クリークからは怖い笑顔を向けられることに。

 

「俺が彼女の退学を認めたッ!? いやいやいや! 確かに話し合いはしましたけど、そんな事は一言も言ってませんよッ!?」

「なんだと?」

「あの時、俺は『少しだけ考えさせてくれ』って言っただけです。最初は俺だって反対しましたよ。あの子はこんな所で終わっていいようなウマ娘じゃない。モンスニーの実力はあんなもんじゃないってのは、あの子のトレーニングを見てきた俺自身が一番よく分かってるし、信じてますから!」

「そうだな…君はそんな男だったな。では、あの時の発言はモンスニーが我々に吐いた虚言だったのか…」

 

 嘘をついてまで学園を去りたいと思っている。

 だが、皆はまだ諦めていなかった。

 

「…大久保トレーナーの言う通りだ。モンスニーの実力は、一緒にレースをした私達もよく理解している。彼女は…その気になれば今頃は三冠を取っていてもおかしくない程の実力者だ。だが…体調的に好調でも、その精神が常に縛られているような状態では本来の実力が発揮出来ないのも当たり前だ。恐るべきなのは、トレーナーにすら悟られないように隠していた事か…」

 

 ルドルフの話を聞き、ふとシービーがある疑問を口にする。

 

「そう言えば…モンスニーってそんな風に育てられてたって割には普段は割と明るい奴だったけど……」

「恐らく、お嬢様は『仮面』を被っていたのだと思います」

「仮面…?」

「はい。『メジロ家のウマ娘たる者、無表情で暗い印象を与えたりせずに、例え芝居であっても明るく振る舞って好印象を与えるべき』……トレセン学園に入学をする際、モンスニーお嬢様は我々にそう仰っていました」

「メジロ家の為ならば、自分の感情すらも殺すと言うのか…!」

 

 本能を律し、心を律し、自分の全て…血の一滴や髪の毛の一本は愚か、その魂や過去や現在や未来すらもメジロ家に捧げるように教育された結果が、今のメジロモンスニーというウマ娘だった。

 彼女が求めるのは『自分の勝利』ではなく『メジロの勝利』。

 彼女が欲するのは『自分の栄光』ではなく『メジロの栄光』。

 メジロモンスニーには致命的なまでに『我欲』が欠けていた。

 

「幼少期から厳しく鍛えられてきた肉体…もしもモンスニーさんが過去の束縛から解放され、ウマ娘としての本能に従って走れば……」

「もしかしなくても、物凄いことになるだろうね……」

「今思えば、私達って皆…モンスニーさんにはお世話になりっぱなしだったよね…」

「そうだね…。悩んだ時や困った時にアドバイスとかしてくれてさ…」

「もうそろそろ、恩返しをしたいですね…」

「けど、何をどうしたらいいのやら…」

 

 同じメジロ家のウマ娘達は考える。

 どうしたら、自分達の共通の姉とも言うべきモンスニーを助けられるのかと。

 彼女を過去の呪縛から解放できるのかと。

 

 その時、シービーが徐に背を向けて理事長室から出て行こうとした。

 

「む? どこに行く気だ?」

「モンスニーを捜して、話をしてくる」

「なに?」

「アタシ…バカだ…! 今までモンスニーがどれだけ苦しんでたかも知らないで呑気に話してたりして…!」

「シービー…」

「だから、今度こそちゃんと話をしてくる。だってアタシは…アイツの親友であり、ライバルでもあるから……」

 

 いつにも増して真剣な表情をしてシービーは理事長室から去って行った。

 その様子を見て、じいやは目に涙を貯めながら嬉しそうに呟いた。

 

「この学園で、お嬢様は素晴らしいご友人を得ていたのですね……」

 

 

 

 




次回、二話振りに主人公再登場。

シリアスなゴルシもアリと思い始めている今日この頃。






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