ウマ娘 ~伝説の好敵手~   作:とんこつラーメン

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いつかは必ず向き合う問題。

生きている以上、どちらにとっても避けては通れない道。

これを乗り越えた時、彼女はまた一つ成長するだろう。







親子

 車椅子の状態では思うように長距離移動が出来ないので、必然的に誰かの手を借りなければいけなくなる。

 モンスニーの場合は、それはメジロ家の執事であるじいやが該当する。

 

 昨日も乗ったメジロ家のリムジン。

 その後部座席に座って窓を眺めていると、運転しているじいやが話しかけてきた。

 

「モンスニーお嬢様。今回の事は既にもう御当主様にも電話にてお話してあります」

「え…マジ?」

「はい。ですが、御当主様はお嬢様の口から話を聞きたいと仰られておりました」

「う……」

 

 昨日の今日で完全な出戻り状態。

 なんだかいつも以上に自分の事が惨めになってきた。

 

 因みに、マックイーン達は学園に残ってモンスニーの帰りを待つことにした。

 一緒に付いていこうとしなかったのは、彼女の事を信頼しているからだろう。

 

(お説教の一つや二つは覚悟しておかないとな…。まぁ…その手の事には凄く慣れてるけどさ…)

 

 幼少期のスパルタ教育の賜物なのか、モンスニーは普通の説教程度ではビクともしない。

 彼女からしたら、シンボリルドルフやエアグルーヴの本気の怒りなんて微風に等しい。

 そんな彼女でも頭が上がらない存在なのが、メジロ家の現当主である『おばあさま』なのだ。

 これに関してはモンスニーだけではなく、メジロ家のウマ娘たち全員が該当するのだが。

 幼少期の刷り込みのせいなのか、この人にだけは絶対に敵わないと本能的に悟っているのかもしれない。

 

(…全部私が悪いんだから、言い訳なんて出来ないんだけどね…。さて…どう話をすればいいのかしらね…)

 

 頭の中をグルグルとさせている間も、リムジンは着実にメジロ家に向かっているのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「「…………」」

 

 昨日も訪れた、おばあさまの部屋。

 前回は決別を告げる為に訪れた場所ではあるが、今回は真逆の事を報告する為に訪れていた。

 

「あの…おばあさま…」

「どうしました?」

「えっと…ですね……」

 

 なんて言おう。なんて話を始めよう。

 結局、到着するまでの時間ではいい案は思いつかず、そのまま今に至っている。

 生まれて初めて顔から冷や汗を掻き、緊張で手汗も出てきた。

 

「じいやから話は聞いています。来年の春の天皇賞に出場するそうですね?」

「え? あ…はい。そうなっちゃいました……」

 

 あれは、半分は自分の意志で決めた事で、もう半分は完全に場に流された結果だ。

 だが、そんな言い訳なんて目の前の人物には絶対に通用しないだろう。

 

「申し訳…ありませんでした。あれだけの啖呵を切っておきながら、結局はこんな事になってしまって…。ホント…私ってとことんまでバカですよね…ははは…」

 

 また自虐してしまった。

 言葉を出せば出すほど、自分の事がイヤになってくる。

 どうして、こんなウマ娘になってしまったんだろう。

 その理由は分かっているが、だからと言って誰かを責める気は無い。

 

「自分から『出ていく』なんて言いながら、結局はこうしておめおめと戻ってきてるし…はぁ……」

 

 もう本気で泣きたくなってくる。

 というか、もしも一人だったらとっくに大泣きしている。

 どんな文句が、罵倒が飛んできても何も言えないし、全て受け入れる。

 それが今の自分に出来る唯一の贖罪だ。

 

 だが、聞こえてきたのは意外なセリフだった。

 

「…貴女は何を言っているのですか?」

「ふぇ?」

「私がいつ、どこで、貴女をメジロから追い出すなんて言いました?」

「いや…だって昨日『何も言う事は無い』って言って…」

「そうですね。確かにそう言いました。ですが、私は一度も『モンスニーをメジロから追放する』だなんて発言していませんよ」

「へ…屁理屈だ……」

「屁理屈も理屈のうちです。じいや」

「はい」

 

 まさかの展開にモンスニーが肩透かしを食らっていると、話を振られたじいやが前に出る。

 

「昨日、私は大切な跡取り娘に対して『出て行け』なんて酷い事を言ったかしら?」

「いいえ。そのような事は一言も仰っておりませんでした」

「じいやさんまで……」

 

 二人が揃って、昨日の出来事を全て無かった事にしようとしている。

 その優しさに胸が締め付けられるような気持ちになった。

 

「というか、今『跡取り娘』って言いませんでした?」

「言いました。モンスニーは現在いるメジロのウマ娘の中でも最年長…即ち、私が隠居をした後にメジロの当主となるべきなのはモンスニー…貴女しかいないのですよ」

「いやいや…私なんかよりはラモーヌとか、しっかり者のマックイーンとかの方が良いんじゃ…」

「ラモーヌは放浪癖がありますし、マックイーンはまだ若すぎます」

「それは…そうだけど……」

 

 昔から、腹芸でこの人に勝てた試しが無い。

 こっちが何を言っても即座に論破されるのがオチだ。

 

「モンスニーは他の子達から尊敬され、姉のように慕われていますし、それは他の使用人たちも同様。更には、学園でも多くの生徒達から慕われていると聞いています」

「全部が初耳なんですけど……」

 

 自分が尊敬されていたなんて想像もしていなかったし、聞いたことも無かった。

 己の事を超過小評価しているモンスニーには驚きしかない。

 

「流石に今すぐにとまでは言いません。が、頭の片隅にでも覚えておきなさい。いいですね?」

「は…はい…」

 

 レース出場の報告をしに来たら、いつの間にか次期当主になれと言われていた件。

 さっきまでの感動を今すぐにでも返して欲しい。利子つきで。

 なんだかまた別の責任が追加されたような気がするが、突然すぎて頭が追いついていない。

 

「それと、昨日言いそびれた事を言っておきます」

「言いそびれた事…?」

 

 一体何を言うつもりなのだろうか。

 もう本気で彼女の思考が分からない。

 

「メジロモンスニー。私は一度も貴女の事を恥だと思った事など有りません。今も昔も、貴女はメジロに相応しい立派なウマ娘です」

「……っ!」

 

 それは、モンスニーが最も言われたいと思っていた言葉。

 それと同時に、最も言われる筈が無いと思っていた言葉でもあった。

 

「まずはメジロの療養所にて足を治す事に専念しなさい。まだまだ先ではありますが…春の天皇賞…楽しみに待っていますよ」

「はい…ありがとうございます…」

「もう変に気負う必要はないのです。メジロの誇りや栄光はアナタが一人で全てを背負うべきものではない。皆で一緒に背負って行けばいいのです」

「はい…はい……!」

「…本当は、もっと早くにこの言葉を言うべきでした。ごめんなさい…」

「おばあさまが謝る事なんて無いですよ……」

 

 窓から夕陽が差し込み始める中、二人は静かに泣き続け、それをじいやは黙って見守り続けていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 部屋を出てから廊下を一人で進んでいると、退出直前に言われた言葉を思い出す。

 

『学園に帰る前に客間に寄って行きなさい。これから先、貴女が真の意味で『己の過去』と決別するのに必須になるでしょうから』

 

 過去との決別。

 言うだけならば簡単だが、実際にするとなると想像以上に難しい。

 特に、その過去が本人にとって忌まわしいものであれば尚更だ。

 

「客間って…確かここだよね?」

 

 普段は殆ど寄り付かない部屋。

 今思えば、ここに入るのは今回が初めてかも知れない。

 取り敢えず、コンコンとノックをしてから扉を開けてみることに。

 

「失礼しまーす……え?」

「モ…モンスニー…なのか…!?」

「お…お父…さん…」

 

 部屋の中にあるソファにうなだれながら座っていたのは、メジロを追放された筈の父親だった。

 

 彼女の記憶の中にある父親とはまるで別人のように変わり果ててしまっているが、それでも辛うじて顔の輪郭などから目の前の人物が自分の父であることが分かった。

 全体的に痩せ細り、髪は白髪交じりになっている。

 常に血気盛んで怒っていた父の印象とは完全にかけ離れていて、今の彼は何もかもに疲れ果てているような感じがした。

 

「…そうだよな。お前にとって俺はお世辞にも良い父親じゃなかった。怯えられて当然…か」

「ち…ちが……」

 

 違う。そうじゃない。

 これは純粋に驚いただけだ。

 そう言いたかったが、突然すぎて上手く言葉が出てこない。

 

「な…なんでここに…?」

「おばあさまに呼ばれたんだ。お前の怪我の事。そして、お前がメジロを出て行こうとして、学園までも去ろうとしている事を教えられてな。今のお前がどんな状態なのかも事細かに言われたよ…」

 

 握りしめた両手を強く握りしめ、眉間に皺を寄せながら歯を食い縛る。

 拒絶をされて当然。嫌われても仕方がない。

 それでも彼は必死にモンスニーの目を見て話そうとしていた。

 

「メジロを追い出され、一人で暮らしていく内に初めて冷静に考えられるようになった。そして、自分がしてきたことを思い返したよ…」

 

 どんな風に思った?

 そう言いたかったが、それがモンスニーの口から出る事は無かった。

 

「俺は最低の父親だ……お前に恨まれて、憎まれて当然のことを平然としてきた。おばあさまにも言われたよ。『貴方の厳しすぎる指導と洗脳にも近い教えが、モンスニーの心を縛り、彼女の本来の実力の発揮の邪魔をしている』…とな。全く以てその通りだ。グゥの音も出やしない。俺だって元トレーナーだった男だ。ウマ娘にとって精神面がどれだけ重要な事なのかは理解していたつもりなんだけどな…。全く…!」

 

 今の彼は本気で後悔し、自分の過去を恨んでいる。

 そんな事をしても無意味だと分かっていても。

 

「お前には俺を憎む権利がある。これ以降、もう二度とお前に近づかないと約束する。これが本当に最後になるだろう」

 

 最後。

 それを聞いて、モンスニーの顔が険しくなる。

 

「そんなこと…言わないでよ…」

「モンスニー…?」

「確かに…あの頃のお父さんは怖かったし、特訓だって凄く嫌だった。けど! けど…私がお父さんの事を憎んだり、恨んだりしたことは一度だってないよ…」

 

 それは、初めてする親子らしい会話。

 モンスニーがずっと溜め込んでいた父に対する言葉だった。

 

「レース中やその前後にいつも『メジロとして頑張らないと』とか『このレースに勝ってメジロの栄光を』とか考えたりして頭の中がぐちゃぐちゃになってたりしてたけど…それでも、今の私が走れているのはお父さんが色んな事を教えてくれたお蔭だし。だから……」

 

 正面から真っ直ぐに父の方を見て、モンスニーは綺麗なお辞儀をした。

 

「お父さん……こんな私を鍛えてくれて、本当にありがとうございました」

「モン…スニー…!」

 

 どれだけ厳しくしても、娘の気持ちは変わらなかった。

 全てが一方通行だと思っていたのに、本当はそうじゃなかった。

 この親子は最初から相思相愛だったのだ。

 ただ、その気持ちが上手く伝えられなかっただけで。

 

「来年の天皇賞…出るんだってな」

「うん…足を治してね」

「そうか……」

 

 目尻に溜まった涙を袖で拭い、父の顔つきが変わる。

 それは昔の厳しい顔でもなく、かといって優しい顔つきでもない。

 彼が嘗てトレーナーだった頃の顔つきだった。

 

「モンスニー…父親として、お前に最後のアドバイスをさせてくれ」

「なに…?」

「今度のレース…お前の自由に走れ。そして、全力で楽しめ」

「自由…楽しむ…?」

「そうだ。心の赴くまま、本能の赴くままに走るんだ。実際には色々と作戦とかがあるんだろうし、『運が良い奴が勝つ』とか『速い奴が勝つ』なんて言われてはいるが、最後の最後には『最もレースを楽しんだ奴』が勝つんだよ」

「レースを楽しむ…」

「そうだ。こんな大事で、一番簡単な事をどうして忘れてたんだろうな…」

 

 徐に立ち上がると、父はモンスニーに一冊の古びたノートを手渡した。

 それは相当に使い古されているようで、所々が黄色く変色している。

 

「これはな、俺が現役時代に学んだ色んな事を書き留めたノートだ。これを、お前のトレーナーに渡してくれ。参考ぐらいにしかならないかもしれないが、それでも何かの役には立つ筈だ」

「分かった…必ず渡すよ」

 

 しっかりと頷いた娘の顔を見て満足したのか、父は部屋から出て行こうとする。

 咄嗟にそれを引き留めようとするが、彼は止まる気配が無い。

 

「それじゃあな…これで、本当にお別れだ」

「ま…待ってよ…! お別れって…そんなの嫌だよ…」

 

 娘の懇願を無視し、父は静かに去って行く。

 最後、背中越しに彼はずっと言いたかったことを口にする。

 

「モンスニー…お前は俺と母さんにとって自慢の娘だ。それは、今も昔も決して変わらない」

「お父さん…私は……」

「……負けるなよ」

 

 これが、この親娘の最後の会話となった。

 

 扉が締められ、部屋に残されたのはモンスニーだけ。

 彼女はずっと、渡されたノートを抱きしめながら静かに泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




適当過ぎる話ですみません。

モンスニー覚醒までカウントダウン開始。



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