それとは別にメジロのウマ娘も登場しますが。
療養所にあるリハビリ室にて、モンスニーは額に汗を掻きながら歩く練習を行っていた。
彼女の傍には万が一の時に備えて主治医が控えていて、彼女の様子をじっと見つめている。
「はぁ…はぁ…はぁ…よし!」
手摺りに掴まりながらも、ゆっくりとしたペースではあるがなんとか端まで行くことが出来たモンスニーは小さくガッツポーズをした。
「お見事です。流石に二回目ともなると要領も掴んでいるようで」
「余り褒められたことじゃないですけどねー」
苦笑いを浮かべつつ後頭部をポリポリと掻いていると、窓から見える廊下に見覚えのある二つの姿があった。
主治医もそれを見て微笑を浮かべ、モンスニーにある提案をする。
「どうやら、お客様がいらしたようで。今日はここらへんにしておきますか?」
「そうですね。あの子達を待たせちゃ悪いですし。それに…」
「それに?」
「もうそろそろ切り上げないと、あの『二人』も帰って来そうですしね」
「かもしれませんね。では、今日はこれで終わりという事で。明日もこの時間に始めましょう」
「りょーかいです。んじゃ」
壁に立てかけていた松葉杖を使い、モンスニーは廊下で待っている者達の所へと向かって行った。
その様子を見て、主治医はポツリと呟く。
「この調子ならば、思っている以上に早く完治するかもしれないな…」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「やっほー」
「ごきげんよう。お元気そうで安心しましたわ」
今日、やって来たのはモンスニーの事を姉のように慕っているウマ娘『メジロマックイーン』。
だが、彼女の他にもう一名、付添としてやって来ていた。
「…で、まさか君も来てるとは思わなかったよ。テイオー」
「にしし…ボクもモンスニーの事が気になって来ちゃった」
トウカイテイオー。
マックイーンの親友でありライバルでもある少女。
生徒会長であるシンボリルドルフを越えるウマ娘になる事を目標としていて、実際に『天才』と称される程の非常に高い実力を持っている。
性格の方は少々、子供っぽいところもあるが。
「もう歩行練習を始めているとは思いませんでしたわ。どうやら、治療の方は順調のようですわね」
「まぁね。やっぱ、毎日頑張って牛乳やら煮干やらを食べてカルシウムを摂取してるお蔭かな?」
「「牛乳…」」
「二人してどこを見てるの?」
現役で活躍しているメジロ家のウマ娘では最年長という事もあり、モンスニーは背もそうだが別の部分も大きい。
敢えて何処とは明言しないが、とにかく大きいのだ。
しかも、ただ大きいだけではなく、全体的に非常にバランスが良い。
そのスタイルの良さから専門雑誌の表紙を飾った事も一度や二度ではない。
「こんな所で話ってのもあれだし、私の部屋に行こうか。もしかしたら、もう帰ってきてるかもしれないしね」
「そうですわね…って、帰ってきている?」
「誰が?」
「それは見てのお楽しみ。さ、行きましょ」
松葉杖を使っているモンスニーのペースに合わせてゆっくりと廊下を進んでいくと、徐々に見慣れた風景に変化していく。
「ほんの少し前の事ですが…懐かしいですわね。私もここで足の治療に専念しましたわ」
「私に至っては二回目だしね。もう半分ぐらい実家みたいになってる」
「なにそれー」
モンスニーの部屋が見えてくると、なにやら楽しそうな声が聞こえてきた。
しかもそれは一つではなく、二つだった。
「あら? この声は……」
「ボク達以外にも誰か来てるの?」
「うん。やっぱり帰ってきてたんだ。喉が渇いたって言って買い物に出かけてたから」
「そうなんですの」
なにやらどこかで聞いたことがあるような話し声だと思いつつも、気にせずにモンスニーに付いていく二人。
そんな彼女達は、部屋に来ている者達の姿を見て驚愕する事となる。
「ただいまー」
「お? もう帰ってきたのか? 早かったなー。あたし達がD4Cを使って別の並行世界に絶版となった初期版の三ツ矢サイダーを買いに行ってる間に終わるとは思わなかったぜ」
「モンスニーの分も買ってきたぞー!」
「「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」」
そこにいたのは、トレセン学園で一番のトラブルメーカーを言われているウマ娘『ゴールドシップ』と、青いツインテールが特徴的な暴走ウマ娘『ツインターボ』だった。
どこかで共感している部分がるのか、不思議と仲がいい二人組だった。
「ゴ…ゴールドシップさんっ!? どうしてここにいるんですのッ!?」
「何言ってんだよ。モンスニーはあたしのダチ公だぞ? 見舞いに来て当然じゃあねぇか。誰だってそーする」
「っていうか、ターボがゴルシと一緒な事に驚きなんだけど……」
「ゴルシとターボはとっても仲良しだぞ?」
意外過ぎる組み合わせにもう驚く事しか出来ない。
だが、この後に聞かされる話で更なる驚愕を体験する事になる。
「この療養所は基本的にメジロの関係者以外はちゃんとした手続きをした上でしか訪問できないようになっている筈なのに…どうして…」
「そんなのは簡単よ。ゴルシもターボちゃんもメジロの関係者だから」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」
モンスニーの見舞いに来ている筈なのに、さっきから驚くような話しばかりが連発している。
マックイーンに至ってはもう開いた口が塞がらない。
「まず、ターボちゃんのひいひいおばあさんがメジロ家のウマ娘だったの。つまり、非常に遠縁ではあるけどターボちゃんの中にもメジロの血が流れてるって事。ねー?」
「ねー?」
説明をしながらベットに移動して、そこに座りながらターボの事を抱きかかえて膝に座らせて後ろから抱きしめる。
ターボ自身も満更じゃないようで、全く抵抗する素振りが無い。
「そんでもって…ゴルシに至ってはターボちゃんよりも濃いメジロの血が流れてるわ。っていうか、マックイーンとゴルシって親戚同士よ? 知らなかった?」
「初耳ですわよッ!?」
「もう訳が分かんないよー!」
「でしょうね。よござんしょ。ゴルシ! クロスアウト!!」
「おーっ!? 遂にゴルシちゃんに秘められた真の姿を見せつける時かッ!? 合点承知の助だぜ!! うおりゃっ!」
モンスニーに言われるがまま、ゴルシが勢いよく普段からか頭部に付けている装具を取り外す。
すると、彼女の美しく長い髪が降ろされ、見る者全てを魅了する美少女が降臨した。
「ふふふ…どうよ?」
「「誰ッ!?」」
「天下無敵のスーパー美少女ゴルシちゃんに決まってんじゃねぇかっ!」
さっきまでの破天荒っぷりはどこへやら。
言動はともかく、見た目だけならば間違いなく超清楚系のお嬢様と化していた。
普段から彼女の事を知っている者でも、目の前の美少女があのゴルシと同一人物であると分からないだろう。
「あ…あれ? ちょっと待って…」
「ど…どうしましたのテイオー?」
少しだけ後ろに下がって俯瞰するようにマックイーンとゴルシを見比べる。
何度も何度も見比べていると、やがてテイオーの指が震え始めた。
「…髪を降ろしたゴルシがマックイーンにそっくりなんだけど…」
「なんですってっ!?」
慌てて窓ガラスに映る自分の姿をゴルシの姿を見比べる。
それを見た途端、マックイーンは驚きの余り後ずさりをしてしまった。
「そ…そんな…馬鹿な事が…」
「これじゃあ親戚ってよりは姉妹みたいだね」
「冗談でも止めてくださいまし!」
「ひっでーなー。ゴルシちゃんがお姉ちゃんがイヤだってのか?」
「それを私に聞かないでください……」
痛そうに頭を抱えながら実感する現実。
まさか、ゴルシと自分が親戚同士だったとは誰が想像するだろうか。
「因みに、この事を知ってるのは今のところ、私以外にはおばあさまとじいやさんだけだよ」
「でしょうね……」
こんな事実が周囲に知られたら、それこそ色んな意味で大変なことになりそうな気がする。
特に同じチームメンバーには同情すらされそうな予感すらする。
「だから、ターボちゃんとゴルシの二人がここに入るのに手続きなんて必要ないの。だって、立派なメジロの関係者だから」
「聞きたくなかった驚愕の事実……」
「っていうか、ゴルシは私がここに来た最初の日からずっとお見舞いに来てくれてたわよ?」
「道理で時々、ゴールドシップさんの姿が見当たらない時があると思ったら…」
ゴルシが一人いないだけでトレセン学園は驚くほどに静かになる。
それ程までに彼女の影響が大きいという事なのだろう。
「あー…ターボちゃんの匂い…落ち着くわー…。ホントもう…ターボちゃんって超可愛い…。許されるなら私の妹にしたい。マジで」
「きゃははははは! モンスニーくすぐったいー!」
ターボのうなじに顔を埋めてからくんかくんかするモンスニー。
いつものネガティブな彼女は鳴りを潜め、百合百合な一面が出まくっている。
もしかしたら、これこそがモンスニーの本来の姿の一部なのかもしれない。
「普段の言動からは想像出来ないかもだけど、ゴルシって、このぶっ飛んだ性格以外にはかなり女子としてのスペック高いわよ?」
「そ…そーなの?」
「かなり頭もいいし、本気になった時のレースの実力は凄まじいの一言だしね。しかも、実は家事全般出来ちゃいます。前にゴルシが作ってくれたおかゆが超美味しかった。また食べたい」
「おいおい…あんましゴルシちゃんを褒めすぎんなって。恥ずかしくなって顔が熱くなって『これはメラゾーマではない…メラだ』ってしたくなっちまうじゃねぇか。流石にまだここを火の海にはしたくねぇぞ?」
ニコニコしながら頬を掻いているゴルシだったが、モンスニーには分かっていた。
珍しく本気で照れている。うん。凄くいい物を見た。
余談だが、学園内でゴルシが敵わないと思っている数少ないウマ娘にスーパークリークと並んでメジロモンスニーの名も連なっていたりする。
飄々とした性格ながらもストレートに相手を褒めてくるところが苦手らしい。
それでも親友だと思っている辺り、ゴルシもまた人が良いのかもしれない。
「そ…そういえば聞きましたわよ? モンスニーお姉さま…おばあさまから直々にメジロ家の次期当主に指名されたとか」
「えっ!? そうなのっ!? 凄いじゃん!」
「やっぱ聞かされてたか―。他の子達は知ってるの?」
「勿論。おばあさまから教えて頂きましたわ」
「うーわー。情報が早い―」
現当主からの指名というのは非常に大きな影響力がある。
それに対して反対する者がいないのもまた大きい。
少なくとも現在、メジロ家は満場一致でモンスニーを次期当主に推しているのだ。
「モンスニーが次期当主か―…。じゃあ、将来的にはあたしらもモンスニーの言う事を聞かないといけねーのか?」
「まさか。私はそんな堅苦しい事はしないよー。っていうか気が早過ぎ。まだ足も治ってない上に…この通り」
棚に置いてある分厚い本を手に取って皆に見せつける。
本のタイトルはズバリ『帝王学について』。
「まだまだ勉強中の身ですから。ぶっちゃけ、読んでるだけで頭痛くなってくるけど…」
「ターボにも見せてー!」
「良いわよー。ほら」
「おぉー…」
適当にページを開いてじーっと眺めて視線を動かすが、すぐにバチンと本を閉じてからモンスニーに返した。
「どうだった?」
「全然分かんない!」
「でしょうね。私も全体の半分ぐらいしか理解してないし」
「半分だけでも理解出来てれば十分な気がするけど…」
「同感ですわ」
ターボとの会話を見ているとよく分かる。
モンスニーは基本的に面倒見が非常にいい。
ある意味、メジロ家の当主として最も重要で大切な素養を既に持っているのだ。
心の中で『次期当主にはモンスニーしかいない』と確信したマックイーンだった。
「ところで、学園でのシービーの様子って聞いてる?」
「少しだけならば」
「どんな感じ?」
「鬼気迫る勢いでトレーニングをしているらしいですわ。なんでも、復帰後のモンスニーお姉さまは今までよりも遥かに強くなっているだろうと思っているらしく、それを想定したトレーニングメニューを組んでいるとか」
「かいちょーも驚いてたよ。『あのシービーがあそこまで自分を追い込んでいるの始めて見た』って」
「いやさ…私も本気で頑張るつもりではあるけど、そこまで期待されると却ってやりにくいと言いますか…」
ミスターシービーとメジロモンスニー。
この二人を見ているといつも思う。
彼女達の関係は自分達と…トウカイテイオーとメジロマックイーンと非常に酷似していると。
片や『伝説』とまで称される程の実力を誇るウマ娘。
そんな彼女を二度にも渡って敗北寸前まで追い詰め、怪我さえなければその伝説にピリオドを打つ存在となっていたかもしれない『好敵手』。
見てみたい。
それはメジロ家だからではなく、一人のウマ娘として純粋にこの勝負の行方が気になるのだ。
「モンスニーお姉さま…頑張ってくださいまし。私は全力で応援しますわ」
「ん…ありがと。マックイーン…ところでさ、いつの間にか『お姉さま』呼びされてるのは何故に?」
「姉のように尊敬しているからですわ」
「そ…そっか……」
実際に他のメジロのウマ娘達の事を妹のように思っていたから、変な事は言えないモンスニー。
こんな時に彼女の素が出てしまう。
その後もゴルシを中心に賑やかな時間が過ぎて行き、それは彼女達が寮に帰るまで続いたという。
余談だが、次の日も普通にゴルシはやって来た。
ターボの家系に関してはちゃんと調べた結果です。
あの子…マジで超遠縁ではあるけどメジロの関係者でした。
意外過ぎて本気で驚きましたね。