ウマ娘 ~伝説の好敵手~   作:とんこつラーメン

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はい。見事にニシノフラワー爆死しました。

けど、完全に諦めたわけじゃありません。

私のウマ娘ガチャは基本的に『忘れた頃にやって来る』ことが多いので。

きっと、意外な時に意外な形で私の所にやって来てくれることを信じて、今日もせっせと石を貯める私なのでした。







幻影

 トレセン学園にある練習用コース。

 そこでは今日もミスターシービーが汗水流してトレーニングに励み、コースの傍ではチームレグルスのトレーナーである大久保とチームメイトであるスーパークリークが一緒に見守っていた。

 

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあっ!!」

 

 目の前を物凄い速度で駆けていくシービー。

 それを見て大久保がストップウォッチのボタンを押した。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…トレーナー…どんな感じ?」

「うん。着実にタイムは短くなってる。確実に今まで以上の仕上がりになってるぞ」

「そっか……」

 

 既に完成していると言っても過言ではない実力を更に伸ばすとなると、矢張り一筋縄ではいかない。

 タイムが短くなっていると言われても素直には喜べない。

 

「ここらで少し休憩しよう。クリーク」

「はーい。シービーちゃん、タオルとドリンクよ」

「ん…ありがと」

 

 クリークからタオルを受け取って顔の汗を拭き、ドリンクを飲んでから喉を潤す。

 今までにもずっとやって来た事ではあるが、なんだかいつもとは違う感じがする。

 それは、これまでとは目標としている事が違うからなのかもしれない。

 

「今日もやってるわねー」

「「「ん?」」」

 

 何やら明るい声が聞こえてきたので振り返ると、そこには笑顔で手を振りながらやって来るジャージ姿のマルゼンスキーの姿が。

 前にもこんな事があったような気がするが、気にしてはいけない。

 

「マルゼンも練習?」

「まぁね。それよりもそっちよ。私も例の話は聞いてるんだからね?」

 

 彼女が言う『例の話』とは、来年の天皇賞でシービーと復帰予定のモンスニーがぶつかるという話だろう。

 噂が流れてから随分と時間が経っている筈だが、まだ熱は完全には冷め切ってはいないようだ。

 三冠ウマ娘関連の話ともなれば、そう簡単に鎮静化はしないのかもしれない。

 

「別に皆に注目して欲しくてやってる訳じゃないんだけどなぁ…。もしかして、マルゼンも気になる感じだったり?」

「当然じゃない。シービーちゃんの方から宣戦布告したんでしょ? あなたからそんな事をするなんて凄く珍しい事だし。私じゃなくても気になるってもんじゃない?」

「あたしから宣戦布告って……」

 

 実際には説得して、その後に切っ掛けを与えようとしただけに過ぎない。

 けど、噂好きのウマ娘達によって尾びれ背びれが付き、細かいところで話が歪曲していっている。

 

「遠くから見ていても、かなり気合が入ってるのが分かるわ」

「当然じゃん。大舞台でまたモンスニーと走れるんだもん。自然と気合いだって入るってもんでしょ」

「本当にそれだけ?」

 

 いつもはニコニコしているマルゼンスキーではあるが、彼女とて幾多のレースを制してきた歴戦のウマ娘。

 そんな彼女の目は、今のシービーに違う何かを見ていた。

 

「あはは…やっぱマルゼンの目は誤魔化せないか。これは前にルドルフにも言った事なんだけどね……」

 

 シービーは以前に感じた事を此処で素直に告白する事に。

 練習中に時々、本気中の本気となったモンスニーの影を見るようになったことを。

 そのモンスニーの実力は今までとは桁違いで、今の自分では全く勝てる自信が無く、それ故に今まで以上の実力を付けなくては互角の勝負すら難しいと思っている事を。

 

「お前…そんな物が見えてたのか?」

「オカルトチックでしょ? キングヘイロー辺りが聞いたら涙を貯めて怒りそうな話だけど。でも…本当なんだ。ま、私が見ている幻影なんだろうけどさ。でも…マジで凄いんだよ」

 

 タオルを握りしめながら空を見上げる。

 今日も大きく白い雲が広がっていた。

 

「あたしの妄想だって言われたらそれまでなんだけどね…。でも、不思議と納得出来るんだ。『これがモンスニーの本当の走りなんだ』ってさ…」

 

 今までずっと『目標』とされてきたシービーが、久し振りに『挑戦者』となった。

 最近になって忘れかけていた初心を意外過ぎる形で思い出す事が出来て、日々に充実感が生まれてきた。

 

「…モンスニーちゃんの事に付いては簡単にではあるけど会長から聞いてるわ。普段の飄々とした顔からは想像も出来ない程に波乱万丈な人生を送ってきてたって」

「全くだよ。あんな状態でも二回もあたしを追い詰めてるんだから…参っちゃうよね。だからこそ想像が出来ないんだ…本当の意味で『自由』になったモンスニーが復帰して、本格的に練習をし始めたらどこまで強くなるのかが…」

 

 まさに未知数。

 これまでに何度も述べてはいるが、モンスニーは幼少期から鍛えていた事もあって下地に関してだけ言えば、どのウマ娘よりも遥かに完成され尽くしている。

 問題は、彼女の精神的な部分にあった。

 それが克服された今、どれ程の実力になるのか…全く見当がつかない。

 

「そっか…」

 

 マルゼンはそれだけしか言わなかったが、顔は笑っていた。

 彼女も純粋に気になったのだ。メジロモンスニーというウマ娘の潜在能力が。

 会話自体は短いものだったが、それだけで彼女の冷め始めていたエンジンに火を入れるには十分過ぎた。

 

「ところで、モンスニーちゃんはどんな調子なの?」

「メールによると、順調に回復してるって。少し前からリハビリを始めてるって言ってたし。今度の休みにでもトレーナーと一緒にお見舞いに行ってみようって話にもなってるし。ね?」

「あぁ。ちゃんとメジロ家の許可も貰ってるしな。今日もタイシンが見舞いに行ってくれてるし。もうそろそろ俺達も様子を見に行ってやらないと」

 

 主治医曰く『想像以上に回復が早い。恐らく、モンスニーの前向きな気持ちが作用しているのかもしれない』らしい。

 一見すると単なる根性論のように聞こえるが、意外と馬鹿に出来なかったりする。

 

「よかったらマルゼンも一緒に来る?」

「そーねぇ…」

 

 一緒のレースに出た事こそないが、マルゼンの方は彼女の事を友人だと思っているので機会を伺って見舞いに行かなくてはと考えてはいた。

 なので、この話は渡りに船だった。

 

「…折角だし、私も御一緒しようかしら」

「決まりだね。さて…と。休憩終わり! トレーナー、今度は何をすればいい?」

「そうだな……」

 

 トレーニングを再開するようなので、マルゼンは軽く挨拶をしてからその場を後にする事に。

 

 因みに、この日のマルゼンはいつも以上にトレーニングを頑張っていたらしい。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 トレーナー室にて大久保は一人、今日のシービーのトレーニングに付いて振り返りをしていた。

 

「まさか、まだシービーに伸びしろがあるとは思わなかったな。一体どこまで強くなっていくんだ……」

 

 今日の事を思い出していく内に、ふとシービーが言っていた事を思い出す。

 

「モンスニーの真の実力…か」

 

 机の引き出しから一冊の古ぼけた大学ノートを取り出す。

 それは以前、モンスニー療養所に行く前に彼女から受け取った、彼女の父親がトレーナー時代に使っていた代物だった。

 

『これ…お父さんが『トレーナーに渡してくれ』って。現役時代に色々と書き留めてたノートらしいです』

 

 きっと、モンスニーの母親のトレーニングなどについて書かれているのだろう。

 彼女は今では割と珍しくも無い『トレーナーと担当ウマ娘』のカップルの間に生まれたウマ娘だから。

 

「そういや、まだこれに目を通したことってなかったっけ…」

 

 これはモンスニーにとって何よりも大事なノートの筈だ。

 なのにそれを自分に預けるという事は、彼女にとっても大きな決断だったに違いない。

 幾らトレーナーとはいえ、親子の大事な思い出を勝手に覗くような真似は非常に躊躇われた。

 

「けど…どんな事が書いてあるかも気になるんだよな……」

 

 罪悪感と好奇心で揺れ動く。

 結局、数分間考えた結果、今度見舞いに行った時に謝ろうと決めてから、意を決してノートを開く。

 

「こ…これは……」

 

 そこに書かれてあったのは、彼が独自に研究したと思われるウマ娘の事に付いて事細かに書かれてあった。

 最初は一ページだけ読んでから終わろうと思っていたが、気が付けば夢中になって読み耽っていた。

 

「スゲェ…! ここまで詳細に書いてあるなんて…モンスニーの親父さんがどれだけ真剣にウマ娘と向き合っていたかってのが、文章からひしひしと伝わってくる…!」

 

 大久保だってトレーナーの端くれ。

 このノートから感じる情熱が分からないような素人じゃない。

 

「これ…怪我から復帰した際のトレーニングに付いて書いてるのか? しかも、ちゃんと怪我の種類に分けて書いてある…」

 

 それは、今の大久保が最も欲している情報。

 以前は医者と話し合いながら手探りで頑張っていたが、これ一冊あればそんな事はもうしなくて済む。

 それ程の情報がこのノートには記載してあった。

 

「おっと…いつの間にか夢中で読んでた。もうこんな時間か……ん?」

 

 ノートの最後の数ページには、今までのような情報ではなく、日記のような物が書いてあった。

 これこそ本当に読んではいけないものではあるのだが、視界に入ってしまったので思わず読んでしまった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 4月21日

 

 メジロ家の一員という責任感が俺を追い立て、モンスニーに対して厳しいトレーニングをさせてしまう。

 本当はこんな事なんてさせたくない。

 他の子達のように伸び伸びと育ってほしい。

 けど、俺にはどうしたらいいのか分らない。

 将来の事を考えて、モンスニーを強いウマ娘として鍛える事しか出来ない。

 妻はこんな俺に合わせてモンスニーを教育しているが、それが本意ではないのは 手に取るように分かる。

 俺は最低の父親だ…。

 

 

 

 

 5月11日

 

 段々とモンスニーの顔から表情が消えていくのを感じた。

 俺は大切な娘から笑顔を奪ってしまった。

 あの子が笑うのは、夜寝る前に妻から本を読み聞かせて貰っている時だけ。

 その笑顔も、どこか作り笑いのようになっている。

 あの子は無自覚の内に『笑うべき時』を判断し、表面上の笑顔を作れるようになってしまった。

 …どうして、こんな事になってしまったのだろうか。

 

 

 

 

 7月7日

 

 今日は七夕だ。

 本当ならば家族揃って楽しむべき一日なのに、今日もモンスニーにトレーニングをさせてしまった。

 あの子もそれを何も言わずに受け入れ、黙々とこなしていく。

 それでも何かしてやりたくて、密かに短冊を購入して妻から娘に渡して願い事を書くように促して貰った。

 俺から言ったんじゃ、あいつは素直に書こうとしないだろうしな…。

 けど、俺は短冊なんて買ってくるんじゃなかったと後で本気で後悔した。

 娘は短冊にこう書いていたからだ。

『メジロの栄光を守る為に頑張ります』…と。

 俺は娘を完全に狂わせてしまった…。

 

 

 

 2月15日

 

 俺達がメジロ家に見つかり、モンスニーが引き取られてから随分と時間が経った。

 病で倒れ、そのまま亡くなった妻には本当に申し訳ないと思っている。

 どれだけ詫びても詫びきれない。

 今思えば、モンスニーが涙を流したのは妻の葬儀の時だけだった。

 次の日からはまたいつもと同じような鉄面皮に戻っている。

 娘をそんな風にしてしまった自分自身の事が本気で憎い。

 歪んだ愛情表現しか出来なかった愚かな自分が憎くて仕方がない。

 だからこそ、娘と引き離され一人になる事は当然の報いなのだろう。

 その方がモンスニーの為にも良いと俺も思っている。

 

 

 

 3月6日

 

 メジロ家から連絡が来た。

 モンスニーがあの中央トレセン学園に入学することになったらしい。

 あの物凄い倍率の学園によく入れたなと感心する一方で、同時にそこで歳相応の娘らしい感情を取り戻せたらいいという淡い希望もあった。

 その淡い希望は、メジロ家からの報告によって粉々に打ち砕かれたのだが。

 俺は正真正銘の大馬鹿野郎だ。

 頼む…誰でもいいから、あの子の事を救ってやってくれ…。

 愚かな父親である俺では…娘を救えない…。

 俺はもう…二度とモンスニーと出会うべきじゃない…。

 それが、今の俺に出来る唯一の事だ…。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 日記の部分を読み終え、大久保は頭を抱えながら天井を見上げる。

 

「はぁ…ったく……」

 

 自分以外誰もいないので、遠慮なく煙草を取り出して火を着け、煙を吐く。

 換気扇に消えていく煙を見つめながら、大久保は苦々しく呟く。

 

「親子揃って不器用すぎるだろ……」

 

 パラパラパラとノートを捲り、大きな溜息を出す。

 いつの日か必ず、彼女にこのノートを見せてあげなければ。

 所詮は他人であるトレーナーがウマ娘の家庭環境にまで干渉するのは褒められたことではないが、それでも知ってしまった以上はこのまま放置も出来ない。

 

「モンスニー…お前、めっちゃ愛されてるぞ…」

 

 狂ってしまった歯車を元に戻すのも、トレーナーとしての仕事だと思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はまたモンスニー側になる…かな?

いつになるかは未定だけど。




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