とあるギャグ漫画のネタのオマージュです。
今回の主役は皆大好き『BNW』の三人。
果たして、どうなることやら。
トレセン学園 栗東寮の食堂。
そこにあるテレビ前のテーブルに珍しい人物が座っていた。
「あれ? そこでテレビ見てるのって…もしかしてブライアン? どうしたの?」
「ん? あぁ…あんた達か」
そんな彼女に声を掛けたのはモンスニーとシービーの二人。
デジタルの一件以来、一緒にいる時間が増えた。
「ブライアンってそんなにテレビを見るようなキャラだったっけ?」
「私だってテレビぐらい見る」
「あ…そーなんだ」
二人から…というか、一般的なブライアンのイメージは、どこまでもストイックに強さを追い求めている孤高の求道者という感じだった。
そんな彼女の何気ない日常風景的なものを見ると、どうも先輩として嬉しくなってしまう。
「実は、今から姉貴たちが出演する番組が始まるから、それを見ようと思ってな」
「姉貴って…ハヤヒデか。『たち』ってことは…タイシンやチケットも一緒って事?」
「あぁ。最近になって、あの三人はまるでユニットのような扱いになってるからな」
「だろうねぇ~…」
幾多のレースで激闘とドラマを繰り広げてきた三人組。
ビワハヤヒデとナリタタイシン、そしてウイニングチケット。
世間は彼女達の事をそれぞれの頭文字から取って『BNW』と呼ぶ。
「そういや、私たちもよく色んな番組に出演させられたっけか~」
「あったね~。アタシとモンスニーの二人で食べ歩き系の番組とか出たよね」
「うんうん。あと、他にも私はメジロの皆と一緒に出演したことがあったよ」
「そうなの?」
「マックイーンやライアン、ブライトにパーマー、ドーベルにアルダンと一緒に一泊二日の旅行に行ったの。意外な事に旅先で一番はしゃいでたのって実はマックイーンだったりしてさ、ブツブツと言いながらも結局は色んなお菓子を食べまくってたっけ」
「あの子がねぇ…無類のお菓子好きとは聞いていたけど」
絵に描いたような『お嬢様』であるマックイーンにそんな一面があったとは。
だが、ブライアンはテレビを見ながらボソッと一言。
「それが、アイツの強さの秘訣だったりしてな」
「その理論で言っちゃえば、メジロ家のウマ娘全員が甘い物好きになっちゃうよ」
「アンタは違うのか?」
「私? 私は~…程々って感じ? 別に嫌いじゃないけど、そこまで好きでもないかな?」
食べ物の嗜好に関しては割と普通なモンスニー。
けど、彼女も立派なメジロ家のウマ娘。
他の子達に負けないぶっ飛んだ特徴があったりするのだ。
「そうこうしている間に時間になったな」
「丁度暇だし、私達も見てみようよ」
「そうだね。なんだか面白そう」
そう言うと、モンスニーとシービーもブライアンの横に座る形でテレビを眺める。
そして…番組が始まった。
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・・
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「えー…みなさんこんにちわ! 今日は人気急上昇中の『BNW』の三人に来て貰いました!」
進行役と思われる男性が挨拶をすると、すぐにカメラが彼女達三人へと向けられる。
「こんにちは。ビワハヤヒデです」
「えっと…ナリタタイシン…です」
「ウイニングチケットだよ! 今日はよろしくねー!」
実に三者三様な挨拶。
だからこそ人気も高いのだが。
「いやー…まさか、こうしてBNWの皆さんとお会いできる日が来るとは思ってもみませんでしたよー! 私は勿論なんですが、友人や家族も全員、皆さんの大ファンでして!」
「それは、ありがとうございます。その応援と期待に応えられるように、今後も我ら三人、共に精進していきたい所存です」
いつもならばチケット辺りが暴走しそうなところではあるが、流石にテレビ番組に出演しているとなれば多少なりのブレーキが掛かっている模様。
そこをちゃんとカバーしているのがハヤヒデだったりする。
「そういや、今日ってどんなお店に行くわけ? まだ何も聞かされてないんだけど。台本も渡されなかったし」
「よくぞ聞いてくれました! 本日行くお店はこの……」
カメラがとある小さなお店の玄関を映し出す。
店の看板には『元祖 卵掛け御飯』と書かれてあった。
「昭和6年創業! 卵掛け御飯の専門店に参りましたー!」
「卵掛け御飯の専門店…そんなのがあるんだ。知らなかった」
「凄いねー! 昭和6年創業だって!」
「あぁ。どんな店なのか、今から楽しみだ」
カメラが再び三人娘を映し出す。
タイシンは特に我関せずと言った感じだが、それとは逆にチケットは目をキラキラさせて凄くワクワクしていた。
「では、早速入ってみましょう! お邪魔しまーす!」
ガラガラ…と店の戸を開けて中にはいると、カウンターには禿げ上がった頭の店主と思われる初老の男性が腕組みをして立っていた。
「おぉ…よく来たね。待ってたよ」
「「「今日はよろしくお願いします」」」
三人揃っての挨拶。
性格は違えど、こういったところだけは息ピッタリだ。
「早速ですが、この店ならではの『こだわり』があると聞いているんですが…」
「そうね~…ズバリ、この店で使う卵は全て、俺が飼ってる鶏が産んだ卵なんだよ」
店主が飼っている鶏の卵。
それを聞き、まずはハヤヒデが質問をすることに。
「その飼っている鶏というのは、何か特別な品種だったりするのですか? 例えば烏骨鶏とか、チャボとか」
「そ…それは…俺がずっと愛情と丹精を込めて育てている鶏だから…」
「いや、そう言う意味ではなくてですね、私達の知っている通常の卵と味などの違いがあるのですかと尋ねているのですが…」
「ち…父親の代からずっと拘り続けているんだよ。その伝統を継承するってことに意味があるんじゃないのか?」
店主とハヤヒデの会話が上手く噛み合わず、何故か店主の方だけが一方的にヒートアップしてきたところで、タイシンがズバリな一言を放つ。
「今はスーパーとか行けば卵なんて安く買えるし、別にいいんじゃないの? そこまで劇的に味が変わるってわけでもなし」
「うぐ…!」
正面からの正論パンチに店主が怯む。
そこですかさず、今度はチケットからの質問が飛ぶ。
「それじゃあ、お米やお醤油とかには何か拘りとかあったりするの?」
「あぁ…それだよきっと。ほら、最近じゃ卵掛け御飯専用の醤油とかも発売されてるぐらいだし」
「成る程…敢えて卵ではなく、米や醤油で勝負をすると言うことか」
ハヤヒデの深読みによりハードルを上げられた店主は、必死になんて答えようかと悩んだ。
その結果、ひねり出した答えがこれだった。
「こ…米と醤油…? それは…その…そうだ! 国産だよ!」
「「「国産?」」」
「その通り! うちの店では米も醤油も全て国産を使ってるんだよ! ははは…」
この必死の答えに、店主の心情なんて全く理解出来ていない純粋無垢なチケットが最強の一撃をお見舞いする。
「普通だね!」
「な…なぁにぃ~…!?」
なんだか店の空気が悪くなってきたので、進行役の男性が無理矢理に流れを変えることに。
「え…え~っと…では、ここでこの店自慢の卵掛け御飯を頂いてみる事にしましょう! では…お願いします」
「い…いいだろう…。本物の卵掛け御飯というのを味あわせてやるよ!」
そう言うと、店主は店の奥まで行き、約10分程度で戻ってきた。
「卵掛け御飯三人前お待ち!」
「では……」
「うん」
「わぁ~!」
「「「いただきます」」」
黄身を割り、醤油をかけ、ご飯をかき混ぜてから一口。
「うん…普通だな」
「普通だね」
「あははははは! 普通に美味しい卵掛け御飯だ~!」
「ふ…普通…」
怒涛の『普通』連呼に店主の精神はボロボロだった。
だが、ここで更に無自覚のまま追い込みをかけるのがウイニングチケットという娘であった。
「そうだ! アタシ、もっと美味しい卵掛け御飯の食べ方知ってるんだよ~!」
「それは本当かチケット?」
「ちょっと興味あるかも。教えてよ」
「いいよ! 店主さん! ご飯と卵、それから味の素を持って来てくれますか?」
「お…おう……」
なんかもう完全に番組の主旨が変わってきているような気もするが、チケットの笑顔の前では店主のイヤだとは言えず、仕方なく言われた物を持ってくることに。
「…ほらよ」
「ありがとー! えっとね…まずは、卵を割ってから、ご飯の上で白身と黄身を分けるの。その時に、白身がご飯に掛かるようにするんだよ」
「ふむ…それから?」
「ここに味の素を三振りして、その後にグルグル~って思い切り混ぜる! そうすると、ご飯の熱で白身が少しだけ固まって白くなるんだって!」
「あ…ホントだ」
「この時点でも相当に美味そうだな…」
「そこに黄身をこう…乗っけて、最後にお醤油を少しだけ掛ける! これで完成だよ! ハヤヒデ、試しに食べてみて!」
「よし…分かった」
チケットお手製の卵掛け御飯を渡され、ハヤヒデは黄身を割ってから軽く混ぜ、静かにパクリ。
「美味い…これは美味いぞ! 味の素を入れたのもあるが、先に白身だけを入れてから、かき混ぜることによって、ご飯が凄くフワフワとしている!」
「ほんと? ちょっとあたしにも食べさせてよ」
「いいぞ。ほら」
「ありがと。あむ…」
ハヤヒデに茶碗を渡され、タイシンも一口。
食べた瞬間、彼女の仏頂面が驚きの色に変わった。
「マジだ…なにこれ。超美味しんですけど」
「でしょでしょ?」
「うん…まさかチケットがこんな事を知ってるとは思わなかった。凄く意外」
このままでは拙いと思いつつも、食の欲望には逆らえず、別の箸を使って進行役の男性も一口だけ食べさせて貰った。
「…めちゃくちゃ美味い」
「ちょっとぉっ!?」
彼だけは店主側の味方をしなくてはいけないのに、完全にBNW側になってしまった。
やっぱり、味だけはどんなに頑張っても誤魔化せない。
「えへへ…実はこれ、前にモンスニーさんから教えて貰ったんだー」
「モ…モンスニーって、メジロ家の次期当主と噂されていて、ミスターシービーさんの宿命のライバルでもある、あのメジロモンスニーさんですかっ!?」
「そうだよー!」
意外な所からの情報源に進行役の男性は当然として、ハヤヒデとタイシンも別の意味で驚きを隠せない。
特にタイシンは同じチームメンバーであり、同時に尊敬する先輩でもあるから尚更だ。
「モンスニーさんって『お嬢様』ってイメージが強かったけど…こんな事も知ってるんだ。やっぱり凄いな…」
「そうだな。世間の常識に捉われず、己だけの道をゆく。だからこそ、シービーさんの好敵手たり得るのだろう」
しみじみとモンスニーの事を語る二人だが、完全に今回の話の主旨から脱線してしまっていた。
因みに、店主も試しにチケットが作った卵掛け御飯を食べさせて貰ったが、その美味さに何も言えないでいた。
「あ…っと。話が逸れてしまったな。今はこの店にインタビューをしに来ているんだった」
「そういやそうだったね。普通に忘れてた」
「うぐ…!」
店主に地味なダメージ。
「あの…店主さん。つかぬ事をお伺いしてもよろしいだろうか」
「な…なんだよ…」
「見たところ、あまり来客が多いとも言えない様子。もしや、他で何か仕事をなされているのでしょうか?」
まさかの核心を突かれ、店主はワナワナと身体を震わせながらも答えた。
「む…向かいの中華屋で皿洗いのバイト…やってんだよ…」
「「「…………」」」
予想外のカミングアウトに何も言えなくなる。
あのチケットでさえも黙ってしまった。
ここで空気を読んだのか、タイシンが店主に質問をした。
「あのさ…お店の看板に書いてある『元祖』ってどういう意味?」
「そ…それは…俺の親父がそう言ってたからだけど…」
「それ…絶対に嘘でしょ。その前から確実に卵掛け御飯なんてあっただろうしさ」
「なん…だとぉ…! 君達さっきからなんなんだよ…何をしにここに来たんだよぉ…!」
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・・・・
・・・
・・
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「「「…………」」」
番組を見え終えた三人は、余りの光景に完全に黙りこくってしまった。
あのブライアンでさえ、顔を青くして気まずそうにしている。
「あーゆーの…テレビで流して大丈夫なのかな…」
「こ…こういう老舗は、これぐらいのことじゃ影響とか受けないだろ…多分」
「多分なんだ…」
本当は、そう信じたいと言うのが本音。
だが、猛烈に嫌な予感がしてならない。
「つーかさ…何気に私の名前が出てたんだけど…あれなに?」
「モンスニーがチケットちゃんに美味しい卵掛け御飯の作り方を教えたからじゃないの?」
「確かに教えたけどさ…あれって普通にネットに載ってたのを教えただけだよ? 実際にはとある料理研究家の人がやってるのを真似しただけだし」
「そうなんだ。で、美味しいの?」
「めっちゃ美味しい。シービーも一度やってみな。マジで卵掛け御飯に対する見方が変わるから」
「そこまで言うんだ…今度やってみよ」
なんだか卵掛け御飯の話で盛り上がってきたが、テレビを見てすぐに現実に戻される。
「このお店さ…本当に大丈夫だよね? なんか私も加担したみたいで罪悪感出てきたんだけど…」
「奇遇だな…私もだ。実の姉が友人達と一緒に店を一個潰したとあっては、流石に後味が悪すぎるからな…」
普段は唯我独尊を貫くブライアンでさえも、今回は身内が関わっているせいなのか、流石に気まずいようだ。
「こ…今度の日曜辺りにでもさ…私達三人でこのお店に行って売り上げに貢献してあげない…?」
「…そうだな。どうやら日曜もやっているようだし、試しに行ってみるのも悪くは無い」
「そうだね…このままじゃなんか悪いし…行こうか?」
こうして、彼女達三人の日曜の予定が決まったのであった。
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次の日曜日。
【閉店 84年間 ありがとうございました】
そう書かれた張り紙が入り口にあるのを見て、モンスニー達は本格的に言葉を無くした。
三人揃っての久し振りの外出と言うことで、年頃の少女らしくお洒落をしてきたのだが、予想はしていたけど、実際にそうなってほしくなかった現実を前に完全に固まってしまう。
「ど…どうする…?」
「…ジョイフル…行こうか」
「…賛成」
結局、モンスニーとシービーとブライアンの三人は来る途中で見つけたジョイフルで食事をして寮に帰った。
帰り際、三人は『やっぱりファミレスが最強』と言っていた。
84年の歴史を一日で終わらせるBNW。
そこに痺れる! 憧れるぅ~!
次回はまた本筋に戻ります。