シービーとの百合な生活を描きつつも、同時に宿命のライバルとしての一面も見せたいなー…なんて願望があったりして。
日曜日になり、チームレグルスのトレーナーである大久保を初めとし、シービーやタイシン、クリークといったメンバーに加え、友人の一人としてマルゼンスキーも同行していた。
「へー…ここがメジロの療養所なんだー。私有地の中にあるとは思えないほどの大きさなんだけど」
「そうなんだよ。俺も前に来た時は本気で驚いたよ。流石は天下に轟くメジロ家って感じだよな」
「この療養所も、大学病院と同じぐらいの規模があるしね。もう何回も来てるけど、未だに慣れないし」
「モンスニーちゃんはどこにいるのかしら?」
「今日も良い陽気だから、中庭でのんびりと日向ぼっこでもしてるんじゃない?」
話をしながら中庭を歩いていると、遠くの方にベンチに座っている二人のウマ娘の姿が見えた。
片方は彼女達が捜しているモンスニーだが、もう一人は見覚えがあるようなないようなと言った感じの芦毛のウマ娘。
気のせいか、誰かに似ているような気がする。
「あ…あそこにいるの、モンスニーさんじゃない?」
「みたいだな。けど、もう一人は…誰だ?」
「あの髪色と髪型は…もしかしてマックイーン?」
「今のメジロを代表するような子だから、ここにいても全く不思議じゃないけど…」
「気のせいかしら~? マックイーンちゃんよりも背が高いような気が…」
徐々に近づくにつれ、二人の会話が聞こえてくる。
それによって、謎の芦毛の美少女がすぐにマックイーンではない事が分かった。
「た…頼むよ…モンスニー…あたしら…ダチだろ?」
「そうだね。確かに私は君の事を掛け替えのない友人だと思ってるし、こうして休みの日も遊びに来てくれた事に凄く感謝してる」
「だ…だろ? だったら頼むよ…後生だから…ここは一つ…さ? な?」
「うん…そうだね」
「モンスニー…!」
「なーんて私が言うとで思ったかっ! 友人だからこそ勝負の世界が厳しいって事を教えてあげなくちゃいけないんでしょうが! つーわけでやれ私のピカチュウ!! 10万ボルト!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? あたしのピジョットがぁぁぁぁぁっ!?」
「「「「「………………」」」」」
なにやってんだこいつらは。
その場にいた全員が共通の事を思った。
「ちくしょう…調子に乗って『ひこうタイプ』と『みずタイプ』オンリーで来ちまったから…モンスニーのピカチュウに惨殺されちまった…」
「人聞きの悪いこと言わないでよねっ!? 別に私のピカチュウはそんな事はしてませんよッ!?」
「うぅ…頑張ってレベル100まで上げたカメックスが…ピカチュウのボルテッカで消し炭になっちまった…」
「なってないから!」
因みに、この世界の『ポケモン』にはちゃんと『ポニータ』や『ギャロップ』を初めとした『そっち系』のポケモンは存在していないので、微妙に数が少なかったりする。
「随分と元気そうだね、モンスニー」
「シービー? それに…トレーナーにクリークやタイシン…マルゼンも一緒なの?」
「おひさー♪ こうしてモンスニーちゃんと話のも久し振りね」
「そうだね。マルゼンとは話す暇も無く療養所に来ちゃったから」
現在のトレセン学園でもかなりの古株であるモンスニーとシービーではあるが、マルゼンは彼女達よりも更に古株だったりする。
なので、何気にマルゼンとも仲が良かったりするのだ。
「色々と話したい事があるが…その前にちょっといいか?」
「どしたの? そんな神妙な顔をして」
「いや…お前の隣にいるウマ娘は誰なのかなーと思って」
「えっ!? お前ら…アタシの事が分からねぇのかッ!?」
「「「「「うん」」」」」
「マジかよ……」
謎のウマ娘は徐にどこからか、見た事があるような装具を取り出して頭に装着した。
「ほらよ。これでどうだ?」
「「「「「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」
正体判明。
謎の芦毛美少女はゴルシでしたとさ。
全員の驚きようを見て面白がりながら、ゴルシは再び装具を取って直した。
「そ…装具一つでここまで変わるもんなのか…」
「凄いね…完全に別人だったじゃん。本気でどこかのお嬢様っぽく見えた…」
「でも…気のせいかな? 装具を外したゴルシって、どことなくマックイーンに似てたような気が……」
シービーの何気ない疑問の声を聞き、ゴルシの目がキュピーンと怪しく光る。
「そりゃそうだ。なんたって、ゴルシ様とマックちゃんは正真正銘の従姉妹同士だからな」
「マジでッ!? ゴルシとマックイーンが従姉妹同士っ!?」
案の定、全員が驚いたような顔になる。
特に自分が何をしたわけでもないのに、全員を驚かせられたことにゴルシは非常に満足だったようだ。
「驚くのも無理はないけど、ゴルシの言ってる事は本当だよ。ついでに言うと、凄く遠縁ではあるけどターボちゃんもメジロの親戚だったりする」
「あのターボちゃんも?」
「ウマ娘は見た目に寄らないのね~」
モンスニーのお見舞いに来たつもりが、変な事で驚かされてばかり。
これもゴルシの成せる技なのか。
「まさか…沖野の奴が少し前から『ゴルシの姿をあんまり見かけなくなった』って言ってたのって…」
「おう。暇さえあればモンスニーの所に遊びに来てるからだよ。アタシほどのウマ娘ともなればメジロの敷地も顔パスだからな。いやー…有名人は辛いぜ…」
ある意味では確かに超絶的な有名人だが、本人は確実にその事を言っているのではないだろう。
「けど、そうして仲良くゲームをしてるって事は、かなり良くなっていってるって証拠でいいんだよね?」
「当然。少し前にギプスも外したしね。この調子でいけば松葉杖が不要になるのも時間の問題だって主治医さんも言ってくれた」
「それは良かったわね~。モンスニーちゃんの頑張ろうって気持ちに、きっと体が応えてくれたのね」
「そうなのかな……わっ」
極めて自然な動作でモンスニーの頭を撫で始めるクリーク。
彼女の母性に掛かれば、メジロ家次期当主も単なる子供に成り下がってしまうのか。
でも、こうして誰かに頭を撫でて貰うのは本当に久しぶりだったし、嫌な気分でもなかったので何も言わずに受け入れた。
「ゴルシちゃんも偉いわね~。毎日モンスニーちゃんのお見舞いに来てあげて。いい子いい子」
「ちょ…やめ…クリーク…!」
唯我独尊を地で行くゴルシが苦手とする数少ないウマ娘が、このスーパークリークだった。
彼女の圧倒的母性の前では、ゴルシの破天荒すらも完全に無効化されてしまう。
しかも、ゴルシ自身もクリークに対しては手荒な真似はしたくない…というか出来ないのか、もしも少しでも隙を見せてクリークに掴まったが最後、成すがままにあやされてしまうのだ。
「おぉ~…」
「なんか、凄いレアな光景を見てる気がする…」
「母は強し…って事なのかしらね。流石はクリークちゃんだわ…」
ゴルシは完全にクリークが押さえた。
これでやっと本題に入れる。
「ギプスも松葉杖も必要なくなるって事は、学園に戻れるのももうすぐ…って事でいいのか?」
「多分。主治医さんの許しが出れば…の話だけど」
「その主治医さんからはなんて言われてるの?」
「『こちらの想定よりも早く足が治っています。この調子で行けば、今年中どころか来月にも学園に戻れるかもしれません。勿論、無理や無茶をしないという前提ですが』…だって」
「そっか…後で俺も主治医さんと話をしておかないとな。でも…本当に良かったよ。最初は本当にどうなるかと思ったが…」
「あはは…その節はご迷惑をおかけしました…」
ここにきてようやく、自分が本当に皆から心配されている事を自覚したモンスニー。
彼女にとって、これは本当に大きな一歩だった。
その一歩にゴルシが最も貢献しているのが何気に凄い事だが。
「皆も待ってるよ…モンスニーが帰ってくるのを」
「シービーは?」
「待ってるに決まってるじゃん。寧ろ、あたしが一番待ってるまである」
一番の友人であり、生涯最大のライバル。
ミスターシービーとメジロモンスニーは、どっちが欠けても意味が無いのだ。
彼女達の運命は、とっくの昔に交差しているのだから。
「早く『あの頃』の…ううん。あれ以上のモンスニーになって欲しい。その為に、アタシも必死に鍛えてるんだから」
シービーが言う『あの頃』とは『皐月賞』と『日本ダービー』の時の事を指している。
僅か二回のレースで伝説級の実力者を本気で追い詰め、世間からも『シービーを倒せるのはモンスニーしかいない』とまで言わせた走り。
万が一、彼女が怪我をしなければ『菊花賞』でのシービーの三冠を阻んでいたかもしれないと言っている専門家までいた。
当時、無意識のままに『領域』へと入っていたモンスニー。
もしもそれを完璧に使いこなし、走ることへの楽しさを見い出したらどうなるか。
そうなった時の『幻影』をシービーは既に見えている。
見ているからこそ欲しているのだ。
その光景を現実で見る事を。それを越える事を。
「うっわ…ただでさえ強いシービーが更に鍛えるとか…少なすぎる私の勝ち目がもっと少なくなるじゃん」
「あたしはそう思ってないけどね」
「へ?」
「負けないから…絶対に」
「挑戦者はこっちの方なんだけどなー…」
これまでずっとシービーには勝てないでいた。
それなのに世間はモンスニーの事を高く持ち上げて『伝説の好敵手』なんて異名まで勝手につける始末。
本人からすれば迷惑極まりない事だった…が、今はそう呼ばれるのも悪くは無いと思い始めている。
これから、その名に恥じないウマ娘になっていけばいいのだから。
「ま…いっか。別にどっちが挑戦者とかどうでもいいし。レースが始まれば、そんなの関係なくなるし」
足の完治が目の前に迫り、こうして終生の候敵手からの宣戦布告まで受けた。
これで燃え上がらないのはウマ娘ではない。
気が付けば拳を握りしめ、それをシービーへと向けていた。
「柄じゃないけど…やるからには私も全力で勝ちに行く。覚悟しろよ~?」
「それはこっちの台詞」
シービーも拳を作り、二人は互いの拳をコツンとぶつけた。
それを黙って見つめている大久保とタイシン、マルゼンの三人。
三人はモンスニーはもう大丈夫であると悟ったのか、揃って微笑を浮かべていた。
因みに、そうしている話をしている間もずっとゴルシはクリークに撫でられ続けていた。
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それから約一か月半後。
メジロモンスニーはトレセン学園の校門前に
自分の二本の足でしっかりと。
「はぁ…長いようで短い療養生活でしたなぁ~…」
久し振りに学び舎を見上げるモンスニー。
そこへ、たづなが笑みを浮かべながら校舎の中から出てきた。
「おかえりなさい…メジロモンスニーさん。理事長も私も、貴女が帰ってくるのをずっと待っていました」
「ご心配お掛けしました。けど、もうこの通り。足はバッチリ治してきました」
試しにその場で軽くジャンプをしてみせる。
痛みを感じている様子は無く、至って普通にしていた。
それを見て、たづなはモンスニーの表情が以前までとは違って非常に軽くなっているように感じた。
何があったのか詳しくは知らないが、どうやら治ったのは足だけではなさそうだ。
こうして、メジロモンスニーの本当の挑戦が始まるのだった。
次回からは、療養中には絡ませることが出来ずにいたキャラ達とモンスニーとの交流と特訓風景を描ければと思います。
そこまで長引かせるつもりはありませんが。