ウマ娘 ~伝説の好敵手~   作:とんこつラーメン

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追憶

 何事も無くテストは終了し、在学しているウマ娘達は十人十色な反応をしていた。

 厄介なテストが終わって伸び伸びとしている者。

 早速、友人同士で答え合わせをしている者。

 そして、勉強疲れでぐったりとしている者。

 彼女はまさに、その『ぐったりしている者』の部類に入っていた。

 

「な…なんとか終わったぁ~…」

「えっと…大丈夫?」

「うん…だいじょぶ。テストさえ終わればこっちのものだし」

 

 廊下を並んで歩くミスターシービーとメジロモンスニー。

 シービーはよろよろとしているが、モンスニーの方は特にこれといって疲れた様子は無い。

 これが、普段からちゃんと予習と復習をしている者の差である。

 

「因みに、ちゃんと解答欄は全て埋めた?」

「それはもうバッチリ。マジでモンスニーがいなかったら危なかった…。この恩はいつか絶対に返すから」

「別に気にしなくてもいいのに……後でジュース一杯奢ってくれれば」

「前言撤回するのが早すぎないっ!?」

 

 完全に普段の調子を取り戻したモンスニー。

 そんな彼女とシービーとのいつものやり取りは、周囲にいる下級生たちから憧れの目で見られている。

 

「モンスニーの方はテストどうだったワケ?」

「全然問題無し。ちゃんと全部のテストの解答欄は埋めたし、余った時間で念の為に可能な限りの答え合わせもしたし。目指せ100点満点!」

「さ…流石はメジロ家のウマ娘…余った時間で答え合わせなんて今までで一度もしたことが無い発想だよ…」

 

 シービーの場合は、全ての解答欄を埋めた時点で時間切れのパターンが多いのだ。

 それでもしっかりと点数は稼いでいるのが彼女の凄い所だったりする。

 

「テストが終われば、次は夏合宿が来て、その後には夏休みか。色んな意味で気合が入るねー」

「モンスニーは休みはメジロ家に帰るの?」

「そりゃね。今年はマックイーンだけじゃなくて、ライアンやドーベル、パーマーたちも帰るって言ってるし。私だけが戻らないわけないはいかないでしょ。一応、今いるメジロのウマ娘の中じゃ私が最年長だしね」

「それに、次期メジロ家の当主でもあるしね」

「まだまだ先の話なんだけどなー」

 

 何とも学生らしい話をしていると、彼女達の前に三人のウマ娘達が姿を現す。

 それを見て、モンスニーとシービーの動きが止まった。

 

「随分と呑気なのね。強者の余裕ってやつ?」

「インターリニアル…?」

「それに、カツラギエースとニホンピロウィナーも…」

 

 インターリニアル。カツラギエース。ニホンピロウィナー。

 いずれもモンスニーやシービーと同期のウマ娘達であり、これまでに何度も同じレースに出場して激闘を繰り広げてきたライバルでもある。

 

「ねぇ…気持ちは分かるけど、やめときなって」

「ピロウィナーの言う通りだよ。ここで無理に喧嘩なんて売らなくたって、レースで激突するんだし」

「え? どゆこと?」

 

 カツラギエースの言葉にモンスニーの耳がピコピコと反応する。

 

「聞いたわよ。二人とも、来年の3月に開催される天皇賞(春)のステップレースに出場するんですってね」

「え? まぁ…うん。そうだよ?」

「しかも、それはあくまで調整の意味を込めているって。つまり、アンタ等はもう今の時点で勝ったつもりでいるって事よね」

「いやいや…流石にそこまでは言ってないけど…」

 

 インターリニアルから放たれる圧力…と言うよりは『怒気』に少しだけ狼狽える。

 一体何をそんなに怒っているのか、彼女達には本当に分からなかった。

 

「特にモンスニー…あんた、ついこの間復帰したばかりなんでしょ?」

「まぁね。まだまだ本調子には程遠いけど、地道に頑張ってるって感じかな」

「本調子には程遠いですって…!? 練習の時点で『あんな走り』をしておいて…!?」

「え?」

 

 あんな走りとは一体どんな走りの事を言っているのか。

 モンスニーには皆目見当がつかない。

 

「はぁ…別にいいわ。モンスニーの天然は今に始まった事じゃないし」

「ひどっ!? っていうか、リニアルって昔からずっと私の事を目の仇にしてたけど、なにかしちゃってたのかな?」

「アンタのそんな所が…!」

 

 ワナワナと拳を震わせ、リニアルは歯を食いしばる。

 そんな彼女の怒りが爆発…しそうになったが、すぐに深呼吸をしてから自分を落ち着かせた。

 

「…もういい。ほんと…モンスニーもシービーも全く変わらないんだから。似た者同士だよ…二人とも」

「私達…似た者同士だって…」

「なんか照れるね…あはは…」

「イチャイチャするな! ったくもう!」

「何をそんなにイライラしてるの? お腹でも空いた? 偶然にも制服のポケットに入ってたチョコチップクッキー食べる?」

「そんなのいら…貰うわよ!」

「「貰うんだ…」」

 

 モンスニーからクッキーを受けとり、すぐに袋を開けてからパクっと一口。

 本人は真剣な顔をしているが、口の周りにはクッキーの破片が付いているので何とも締まらない。

 

「…私達も出るから…来年の天皇賞」

「マジで? って…達って?」

「アタシとピロウィナーも出るんだよ」

「うわー…カツラギエースとニホンピロウィナーも出場するって…一気にレースの難易度が爆上がりじゃん」

 

 春蘭賞、NHK杯、京都新聞杯を初めとする多くのレースに出て、あのジャパンカップで優勝した事もある『カツラギエース』。

 マイルの距離で数多くの戦績を残し、あのマイルチャンピオンシップで二度も出場し、どっちのレースでも優勝してみせたニホンピロウィナー。

 どちらも間違いなく強敵と言える相手であり、モンスニーも彼女達とは幾度となく激戦を繰り広げた。

 

「けど、大丈夫なの? カツラギちゃんはともかく、ピロちゃんの主戦場ってマイルなんじゃ…」

「うん…そうなんだけどね。他の皆もやる気になってるのに、私だけが空気を読まないわけにはいかないじゃない? それに…」

「それに?」

「いい加減…私も二人にリベンジしたかったし」

 

 ニホンピロウィナーの目に炎が灯る。

 彼女は本気だ。本気でURA屈指の距離を誇るレースに出場する気だ。

 その為に、自らの距離適性の壁を越えようとしている。

 

「その二人だけじゃないから」

「へ?」

「ブルーダーバン。カツトップメーカー。マサノチカラ。ダイナマイトアサ。デアリングパワーにファンドリロック。ルーキーオーにサクセスダイナ。マックスファイアーやコレジンスキー達も出場するから」

「ちょ…待ってよ。そのメンバーってまさか…」

 

 リニアルが言った名前を聞き、シービーとモンスニーの脳裏に夏ついて彼女達が走った『とあるレース』が思い浮かんだ。

 

「そう…シービーの記念すべき一冠目を飾ったレース…皐月賞。私たち全員を置き去りにして、アンタ達二人が先頭で一着争いをしたレースよ。シービーとモンスニーが天皇賞(春)で雌雄を決しようとしているって聞いて、あの時に出走したウマ娘達の殆どが出るって言い出したの。言っとくけど、別に私が皆を扇動したとか、そんな事は無いから。本当に偶然にも皆の考えが一致したってだけ」

 

 天皇賞(春)に舞台を変え、嘗ての皐月賞で死闘を演じたライバルたち全員が再び一堂に会す。

 それを聞いただけで、二人の雰囲気も一変する。

 

「すっごくいい事を聞いちゃったね」

「そうだね。俄然やる気が出てきたよ」

「ふん…精々、好きなだけ特訓してなさいな。今度こそ、勝つのは私なんだから」

 

 そう言い残して、インターリニアルは去って行く。

 去りゆく中、彼女は心の中で冷や汗を掻いていた。

 

(療養なんてしてたから訃抜けてると思ってたけど…全然そんな事無いじゃない…! 寧ろ、昔以上の『凄み』を感じた…!)

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 この私『インターリニアル』がメジロモンスニーというウマ娘と初めて会ったのは、このトレセン学園に入学した時の事だった。

 私とモンスニーは中等部で同じクラスになった。

 

 彼女に対する第一印象は『生意気な奴』。

 メジロ家と言えば、これまでにも何人も優秀なウマ娘を輩出してきた名家中の名家。

 ウマ娘にあまり詳しく無い者でも『メジロ家』だけは知っている。

 それぐらいに有名な家柄。

 そこの名を冠している以上、彼女だって只者じゃない筈だ。

 

 けど、実際に見たモンスニーは私の印象とは大きく異なっていた。

 お嬢様って割には人懐っこくて、意外と友人も多い。

 その『友人』の中には、後に前代未聞の7冠制覇という大偉業を果たす『シンボリルドルフ』や、その圧倒的強さ故に孤高の存在となった『マルゼンスキー』も含まれている。

 

 けど、私はモンスニーの笑顔に違和感を感じていた。

 まるで芝居をしているような、周りに合わせているような、仮面を被っているような…そんな感じが。

 まぁ…実際に彼女はずっと仮面を被り続けていたわけなんだけど。

 

 やがて、私達もデビューの為の新人レースに出場することになる。

 ここでいい成績を残し、少しでもトレーナー達の目に留まるようにしなくてはいけない。

 私は一着こそは取れなかったけど、そこそこの順位でレースを終えた。

 問題はメジロ家から期待の新人『メジロモンスニー』。

 だが…彼女のレースは四着で幕を閉じた。

 その時のレースで勝利したのは『インターフリート』というウマ娘だった。

 

 それからもモンスニーはレースに出場し続け、最初のレースから数えて三回目のレースにてようやく一着を取ることが出来た。

 しかも、その時は二着である『フルカード』から脅威の6バ身差と言う圧倒的勝利。

 今までは調子が悪かっただけで、これこそが彼女の真の実力なんじゃないか。

 トレーナー達はこぞってそう言うようになった。

 実際、その認識は決して間違っていなかったわけで。

 

 メジロモンスニーはなんというか…落差が激しいウマ娘だった。

 勝つ時は圧倒的、負ける時は派手に負ける。

 特に調子のいい時のモンスニーの実力は本当に凄まじい。

 

 当時としては珍しい『追い込み』を得意とするモンスニーは、その自慢の脚力を活かしての逆転劇を繰り広げる。

 それは、逃げや先行を得意とする者達にとって、これ以上ない程の脅威になった。

 

 その後もモンスニーは『萩特別』にてあの『カツラギエース』と戦い勝利を収め、『シンザン記念』ではまたもや5バ身差という圧倒的実力を披露した。

 確かに勝ちの数こそ少ないけど、彼女が勝利したレースはいずれも強く印象に残った。

 悔しいけど…凄く悔しいけど…モンスニーの事が素直に凄いと思った。

 

 そして遂に、私とモンスニーが激突する日がやって来た。

 出場するレースは『スプリング・ステークス』。

 これには私だけじゃなくて『ニホンピロウィナー』や『マサノチカラ』、『ルーキーオー』に『ビッグダンディー』も出場した。

 

 結果だけで言えば、私もモンスニーも負けた。

 だが…同じ負けでも私とアイツとでは大きな差があった。

 私は13着で、モンスニーは4着。

 あのニホンピロウィナーでさえも6着だったというのに。

 

 次元が違う。

 本気でそう思った。

 

 ニホンピロウィナーはその後すぐに『きさらぎ賞』でリベンジを果たす事が出来たけど、私はそうはいかず、予定の関係でレース自体に中々出場出来ない日々が続いた。

 

 それから少しだけ月日が経ち、今でも忘れもしない『4月17日』がやって来た。

 そう…あの『ミスターシービー』が三冠に向かって歩みを始め、同時にメジロモンスニーと言うウマ娘の名を全国に一気に広める切っ掛けとなった『皐月賞』が。

 その皐月賞にて、私達は我が身を持って思い知ることになる。

 

 ミスターシービーとメジロモンスニー。

 彼女達と自分達の間にある残酷的なまでの実力差を。

 メジロモンスニーに秘められた真の力を。

 

 

 

 

 

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