ウマ娘 ~伝説の好敵手~   作:とんこつラーメン

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至宝

 夏合宿が終了し、トレセン学園のウマ娘達は秋に向けて本格的な調整を始める。

 秋華賞。

 スプリンターズステークス。

 エリザベス女王杯。

 マイルチャンピオンシップ。

 ジャパンカップ。

 天皇賞(秋)。

 そして…嘗て、シービーが勝利し三冠ウマ娘の称号を得た最後のレースである『菊花賞』。

 

 いずれのレースも決して見逃せない大レースばかりだ。

 これらの出場を狙い、または勝利を目指し、ウマ娘達は今日も互いに切磋琢磨していく。

 

 そんな中、来年の春だけに一点集中している状態のシービーとモンスニーは、いつものようにチームの皆やトレーナーである大久保と一緒にトレーニングに励む…つもりだったのだが…。

 

「「「「「…………」」」」」

「お久し振りです。大久保トレーナー。タイシン。クリーク。シービー。そして…モンスニーお姉さま」

「「「「「ラモーヌ(さん)ッ!?」」」」」

 

 トレーニングの準備の為にチームルームに入ると、そこには既に一人のウマ娘が入室していた。

 彼女こそ、トレセン学園に通うメジロのウマ娘最後の一人にして、嘗て圧倒的な実力で『トリプルティアラ』を達成した『メジロの至宝』とまで言われている、モンスニーの妹分の一人でありメジロアルダンの実姉でもある『メジロラモーヌ』その人だった。

 

「い…いつの間に学園に帰って来てたんだ…?」

「ほんの少し前。皆が夏合宿に行っている最中…かしら」

「私達がいない間に…」

 

 ラモーヌはメジロのウマ娘でも独特の価値観と性格をしていて、色んな意味で癖が強い。

 同じメジロ家の面々とも、そこまで積極的に関わることが少ない上に、当人があまり学園にいる事を好んでいない。

 彼女が学園にいる時は、何か深い事情がある時か、もしくはレースがある時ぐらいだ。

 あの包容力の化身であるスーパークリークですら、ラモーヌとの距離感を測りかねている程なのだ。

 

「話は全て伺っております。モンスニーお姉さま。見事に怪我から復帰なされたばかりか、来年の天皇賞に挑まれるとか」

「う…うん。まぁね。何処から聞いた?」

「メジロの情報網を駆使すれば、この程度は何とでも」

「デスヨネー」

 

 伊達に幾多の実力あるウマ娘を輩出している訳ではない。

 その手の情報は、その気になれば文字通り秒単位で手に入れる事も容易だろう。

 

「しかも、そのレースにはシービーやカツラギエース、ニホンピロウィナーを初めとする、嘗てモンスニーお姉さまと皐月賞にて激闘を演じた錚々たるウマ娘達が集結する。お姉さまはご存じないかもしれませんが、その手の記者たちの間ではまだまだ現役の話題なんですよ?」

「まだまだ先の話なんだけどなぁ…」

「もしかしたら、いずれシービーやモンスニーお姉さまたちにインタビューの依頼が入るかもしれませんね」

「マジかー…」

 

 この世でラモーヌが敬語を使うのは、メジロのおばあ様を除けば、他にはモンスニーしかいない。

 トレーナーや教師にも半ばタメ口に近い口調をしている彼女が、どうして同年代であるモンスニーにだけ敬語を使うのか。

 本人が何も語ろうとしないので、それの理由は謎に包まれている。

 

「ところでトレーナー? モンスニーお姉さまの調子はどんな感じなのかしら?」

「かなりいい感じだ。と言うか…」

「何か?」

「…前よりも明らかに実力が上がっている。いや…違うな。モンスニー本来の実力を取り戻しつつある…と言った方が正確か」

 

 本来の実力。

 最上級の下地を持ちながらも、その過去と精神の影響で思うように実力を発揮出来なかったモンスニー。

 仲間達とメジロ家の妹たち、そして父親からの激励を受けて過去を振り切った今のモンスニーは、徐々にではあるが『本来あるべき姿』へと回帰しつつあった。

 

「そう…そうなのね。うふふ…」

 

 あのラモーヌが楽しそうに笑った。

 普段は余裕ある優美な表情か、厳しい顔をしている事が多いラモーヌが、心の底から楽しそうな笑みを浮かべる。

 初めて聞いたラモーヌの笑い声に、タイシンは普通に驚いていた。

 

「あら? そんな顔をしてどうしたのタイシン?」

「い…いや…ラモーヌさんって笑うんだなって…」

「当然じゃない。私だってウマ娘なのよ?」

「それは知ってるけど…」

 

 そんな風に笑うようなキャラじゃないでしょ。

 そう言いたかったが、それはヒトとして言ってはいけない事だったので静かに飲み込んだタイシンだった。

 

「モンスニーお姉さま。私から一つ、お願いしたい事があるのですけど」

「なーに? 可愛い妹の為なら、なんなりと」

「天皇賞が終わったら…今度は私と走ってくださいませんか?」

「「「「「え?」」」」」

 

 本日二度目の目が点状態。

 あろうことか、あのラモーヌが自分から勝負を挑んできた。

 周囲からの彼女のイメージは、あのシンボリルドルフたちと同じ『君臨者』だったのだが、今回は彼女が『挑戦者』になっていた。

 

「私はこの時を、ずっと待ち続けてきたんです。モンスニーお姉さまと初めて出会った時から。その背中を見続けて来た時から。あなたが…未覚醒の状態であるにも拘らず、あのシービーと互角以上の激闘を二度にも渡って演じた時から。『本来の姿』に戻ったモンスニーお姉さまと本気のレースがしてみたい。それが、今の私の唯一無二の願望」

 

 真っ直ぐにモンスニーの瞳を見つめるラモーヌ。

 並のウマ娘達なら、即座に視線を逸らしてしまうであろう状況も、モンスニーは同じように真っ直ぐな瞳で見つめ返す。

 この時点で、彼女もまた普通じゃないという証明になるのだが。

 

「…いいよ。私なんかでよかったら」

「『なんか』ではありません。モンスニーお姉さまでなければダメなのです」

「あはは…なんか私、愛されてるー」

「当然ではありませんか。私はモンスニーお姉さまの事を愛しております。…色んな意味で」

「最後の一言だけ超絶余計で素直に喜べないんですけどー」

 

 ラモーヌが冗談を言うような性格じゃない事はモンスニーもよく知っている。

 知っているからこそ『色んな意味で』の部分が気になって仕方がない。

 

「今の話…もし他に漏れたりしたら、また大変なことになるだろうなぁ…」

「ご心配なく。流石にこの話を公表するつもりはないわ。少なくとも、お姉さまとシービーとの決戦が終わるまでは」

「終わったら公表するつもりなのね…」

 

 あのクリークが本気で引いている。

 これもまた珍しい光景だ。

 

「そうだ。実はモンスニーお姉さまにお土産があるんです」

「お土産?」

「えぇ。これです」

 

 机の上に置いてある紙袋の中から、綺麗に包装された箱を取り出して手渡す。

 受け取ってみると、軽くも無く重くもないという感じ。

 これだけでは、何が入っているのか見当もつかない。

 

「…なにこれ? 開けても良いの?」

「勿論」

「うわー…なんだろー…」

 

 ワクワクしながらも丁寧に包み紙を開いていく。

 この辺に、なんだかんだ言いながらもメジロ家のお嬢様な部分が見え隠れしている。

 

「こ…これは…まさかっ!?」

 

 包みを開き、中身を見た直後…モンスニーは派手に驚き固まった。

 あの飄々とした彼女が、ここまで驚愕する物とは一体。

 他の面々も流石に興味が注がれた。

 

「モンスニー。一体何を貰ったの?」

「こ…これ…」

 

 震えながらシービーに見せたのは…黄色い新幹線の模型が入っているケースだった。

 

「えっと…これは?」

「マニアの間じゃ超々激レアな『ドクターイエロー』の模型だよ!? 知らないのッ!?」

「知らないのと言われても…ねぇ…?」

 

 助けてくれと視線で皆に助けを乞うが、皆も困った顔で顔を横に振る。

 

「東海道新幹線と山陽新幹線区間で使われている点検用新幹線車両の愛称で、正式名称は『新幹線電気軌道総合試験車』。車体が黄色いことから『イエロー』って呼ばれてるんだよ。事業用車ではあるんだけど、乗客を運ぶ営業用新幹線車両と同じ条件で走行をしながら線路の歪み具合や架線の状態、信号電流の状況などを検測して、新幹線の軌道や電気・信号設備の状態を確認しているの。昔は東北新幹線や上越新幹線、北陸新幹線でも使用されていたんだけど、今じゃ『East i』に置き換えられてるんだよね。因みに、ドクターイエローの運行ダイヤは完全非公開で、10日に1回程度だって言われてるの。鉄道ファンたちの間じゃ『見ると幸せになれる』と言われていて、ある種の縁起物みたいな扱いをされてるんだ。東海道新幹線の開通間もない頃は営業列車が無い深夜に点検作業を行っていたんだけど、1974年に営業列車と同じ速度で検測が可能になったT2編成が登場してからは昼間に検測が行われるようになっていったの。因みに、当時の検測は最大で4日も掛けて行われていたんだよ。凄いでしょー?」

「「「「う…うん…」」」」

 

 突如として凄まじい勢いで新幹線のうんちくを話し出すモンスニーに、全員がドン引き。

 あのシービーですら、普段からは想像も出来ない友人の姿に戸惑いを隠せない。

 

「モンスニーお姉さまは重度の『鉄道ファン』なのよ? 知らなかった?」

「う…うん…初めて知った…かも…」

「そう。なら、これからはしっかりと覚えておくことね。仮にも、モンスニーお姉さまのライバルならば」

「わ…分かった…」

 

 まさか、あのモンスニーにこんな一面があったとは。

 大久保もクリークもタイシンも想像すらしていなかった。

 流石に趣味の一つぐらいはあるだろうと思っていたが、それがまさかの鉄道だったなんて。

 

「休日になると、よく行きつけの駅でお気に入りの一眼レフを持参して色んな鉄道の写真を撮っていたりもするのよ」

「モンスニーさん…『撮り鉄』だったんだ…」

 

 時折、ネットやニュースなどで話題に上がる『撮り鉄』。

 尊敬する先輩でありチームメイトでもあるウマ娘が、その一人だった。

 そっち系には理解があるタイシンでも中々の衝撃があった。

 

「…で、921形の0番台は検測走行時の最高時速は160㎞/hで、丸みを帯びた箱型車両なのよ~。前面は非貫通三枚窓、在来線の軌道試験車と同じで3台車を装着するの。測定機の電源用として『ディーゼル発電機』を搭載していたんだけど…って、聞いてる~?」

「う…うん。ちゃんと聞いてるよモンスニー」

「よろしい。車体色は淡黄色で、窓下には青色の帯を巻いていて…」

「モンスニーお姉さま…喜んでくれたようで何よりだわ」

「今の状況を、その一言で片付けるの…?」

 

 もう誰でもいいから、このメジロ姉妹をどうにかしてくれ。

 タイシンは心の底から、そう願った。

 

 こうして、チーム『レグルス』のメンバーが全員集合したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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