ウマ娘 ~伝説の好敵手~   作:とんこつラーメン

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当初、メジロラモーヌは最後の最後に影付きで登場する謎のウマ娘的なポジションにしようと思っていたんですが、その前にラモーヌが普通に登場しちゃいましたからねェ…急遽、別方向にシフトしました。







硝子

 夏合宿が終わってもウマ娘達の鍛錬は終わらない。

 寧ろ、秋のレースに向けてより一層のスパートを掛ける時期に差し掛かる。

 それは、来年に向けて静かに、だが確実に肉体作りを続けるモンスニー達も同じだった。

 

「イチ…ニ…サン…シ…っと。よし。準備運動完了っと」

 

 ターフの隅の方で屈伸やアキレス腱などを伸ばして体を温めているモンスニー。

 それを手伝うタイシンと、傍で見守る大久保トレーナー。

 今日はそこに、ある人物も一緒にいた。

 

「調子は良さそうですね。モンスニーお姉さま」

「お蔭様でね」

 

 それはメジロラモーヌ。

 史上初のトリプルティアラ獲得者であり、メジロの至宝とまで言われているウマ娘。

 そして、あのメジロアルダンの実の姉でもあった。

 彼女もまた、他のメジロのウマ娘達と同じように最年長であり長姉とも言うべきモンスニーの事を深く敬愛していた。

 

「トレーナー。今日はまず何からする?」

「そうだな。最初は軽く慣らしで走ってみるか。距離は~…2000ぐらいで。その後に比較的、足への負担が軽いダートコースに入ろう」

「りょーかい」

 

 他のメジロの例に漏れず、モンスニーもまた生粋のステイヤーであり、全ての能力がバランス良く高い。

 とはいえ、今の彼女はまだまだ本調子には程遠い。

 本番である天皇賞(春)の距離は驚異の3200m。

 全く走った経験が無いわけではないが、それでもブランクは相当に長い。

 まずは、嘗てモンスニーがシービーと熾烈な激闘を繰り広げた皐月賞と同じ距離で徐々に元に戻していくのだ。

 

「さーて…今日も楽しい楽しい練習のお時間の始まり始まりー」

「なんか、戻って来てからずっとモンスニーさんって、練習の度にテンションが高くなってるよね」

「だって、楽しいんだもん。例え練習と分かっていても、今は本当に『走る』って行為自体が純粋に面白いの」

「そっか…」

 

 まるで子供のように無邪気な笑顔を浮かべるモンスニーに、タイシンもつられて自然と笑みを浮かべる。

 やっと『らしく』なったと心の中で思って。

 

「やっと…久し振りにこの目でモンスニーお姉さまの走りを見れるのね。あら?」

 

 映像越しに見ただけでも、モンスニーは明らかに前とは違うと実感させられた。

 ならば、こうして直に見たらどうなるのだろう。

 表情こそいつもの優美な微笑のままだが、その内心は一刻も早くモンスニーの走行姿を見たいという衝動で一杯だった。

 そんな彼女の視界の端に、とあるウマ娘達が横切った。

 

「アルダン?」

「…っ! ラモーヌお姉さま…」

「え? ラモーヌさん?」

 

 声を掛けたのはメジロアルダンと、彼女のルームメイトであるサクラチヨノオーの二人組。

 ジャージを着ている所を見ると、二人もまた同じようにトレーニングに向かうようだ。

 

「え? アルダン? それにチヨちゃんも一緒だー。やっほー」

「モンスニーお姉さま。今からトレーニングですか?」

「まーね。そっちもでしょ?」

「はい。チヨノオーさんと一緒に」

「そっかそっかー」

 

 サクラチヨノオーというウマ娘にとって、メジロモンスニーは未知の存在だった。

 今まで出会ったメジロ家のウマ娘達とは全くタイプが違うから。

 アルダンやマックイーンのような『お嬢様』な感じではなく、かといってラモーヌやドーベルのような近寄り難さも無い。

 どっちかと言えばライアンやパーマー、ブライトに近い感覚。

 だが、同時に歳上であるが故の近寄り難さも併せ持っている。

 モンスニー自身が、彼女が強い憧れを抱いているマルゼンスキーや、生徒会長であるシンボリルドルフなどと同年代であり、あのミスターシービー最大のライバルとも称されているモンスニーは、彼女にとって文字通りの天上の相手だった。

 

「ん? こっちをジッと見てどうかした? チヨちゃん?」

「え? あ…なんでもないです。すみません…」

「別に謝る必要は無いんだけどな~」

 

 不思議とマルゼンの姿とモンスニーが被ってしまう。

 それはきっと、二人の性格がどこか似ているからなのかもしれない。

 掴み所が無い、なんともフワフワとした感じが特に似ている。

 

「丁度良かったわ。アルダン」

「なんでしょうか?」

「今から、モンスニーお姉さまと並走なさい」

「……え?」

 

 一瞬、場の空気が完全に凍る。

 すぐに溶けて元に戻るが。

 

「「「「「え――――――――!?」」」」」

 

 いきなりの提案に全員が大声を上げてしまった。

 あのアルダンでさえも。

 

「い…いきなり何を言い出すのさラモーヌさん!」

「そ…そうですよ! 私達だってこれから練習が…」

「…分かりました」

「ですよね! モンスニーさんには申し訳ないですけど、ここは断って…って、いいんですかぁっ!?」

 

 まさかの了承。

 絶対に断ると思っていたチヨノオーは目を大きくして驚いていた。

 

「またぞろ、いきなり無茶を言い出すなぁ~。ホント、ラモーヌは変わらないなぁ~」

「そういうモンスニーお姉さまは、良い意味でお変わりになられましたね」

「そっかな~?」

 

 あの謎のプレッシャーがあるラモーヌと臆せず話せるモンスニーを地味に凄いと思うチヨノオー。

 実の姉妹であるアルダンならばいざ知らず、モンスニーとラモーヌは同じ『メジロ家』であること以外の繋がりは殆ど無い。

 それだけモンスニーが大物であるという事なのかもしれない。

 

「あの…本当に良いんですか?」

「えぇ。マックイーンも言っていましたけど、私も大恩あるモンスニーお姉さまの力になりたいと思っていましたから。寧ろ、こちらからお願いしたいぐらいです」

「アルダンさん…」

 

 これまで色んなアルダンを見てきたつもりだったが、こんなアルダンは初めて見たかもしれない。

 実姉であるラモーヌと接する時とはまた違う不思議な迫力。

 『力になりたい』と言いつつも、どこかでモンスニーと一緒に走る機会を伺っていたかのような…そんな感じ。

 

「うーん…こっちとしては非常に有り難い申し出だけど、そっちの時間は大丈夫なのか?」

「問題ありませんよ、トレーナーさん。今回の私達は自主練。門限までは好きに時間を使えますから。それに…」

「それに?」

「モンスニーお姉さまと走れる機会なんて滅多にありませんから」

 

 やっぱりそうだ。

 アルダンもまたモンスニーと走りたがっている。

 意外とこの二人は似た者同士の姉妹なのかもしれない。

 

「はぁ…なんかゴメンね。うちのラモーヌさんが」

「そ…そんな、タイシンさんが謝ることじゃ…」

「でも、そっちの予定を狂わせたのは事実だし。ラモーヌさんの、あの独特のノリに着いて行けるのって、ウチのチームじゃモンスニーさんとシービーさんぐらいしかいないからさ」

「えっと…トレーナーさんとクリークさんは?」

「トレーナーは普通に頭が上がらない。クリークさんは逆に圧倒する。主に母性で」

「あぁ~…」

 

 不思議とクリークに関しては納得してしまう。

 過去にチヨノオーもクリークに掴まり、危うく赤ちゃんにされかけた。

 それが本当に心地いいから質が悪い。

 

「じゃあ、始めましょうか」

「いつの間にかラモーヌが場を仕切ってるし…」

 

 モンスニーのせめてもの抵抗が虚しく響いた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 結局、軽い準備運動の後にモンスニーとアルダンの二人で芝のコースの上に並ぶことに。

 

「あー…なんか急にごめんね? ラモーヌの無茶振りに付き合わせちゃって」

「気にしないでください。それに、先程言った事は紛れもない本心ですから」

「アルダン…」

 

 普段、あんまり話す機会のないアルダンと、まさか並走をする日が来るとは。

 実の所、一番驚いているのはモンスニーの方だったりする。

 

「今のメジロ家にいるウマ娘達は皆、幼い頃からモンスニーお姉さまの背中を見て育ってきました。それは私も例外ではありません。あの圧倒的実力を誇るシービー先輩と互角以上に渡り合えるだけでなく、あの方を打倒しうる唯一のウマ娘として世間からも強い注目を受けていた。そんなモンスニーお姉さまは、私たち全員の憧れなんです」

「にゃはは…なんだか照れますな~」

 

 義妹とも言うべき相手から、ここまでベタ褒めされるとは。

 普段なら飄々と受け流す所だが、それすらも出来ない程の褒め褒めの濁流に押し流された。

 

「では、始めましょうか」

「そうだね。と言っても、まだまだ本調子には程遠いから、お手柔らかにね」

「その言葉、そっくりそのままお返しします」

「えぇ~」

 

 最後に屈伸をしてから二人は走り出す構えを取る。

 それを見た大久保が手を挙げた。

 

「二人とも準備は良いな? では、よーい…スタート!」

 

 腕を降ろした瞬間に二人のウマ娘が凄まじい勢いで走り出す。

 まずはお互いに並んだ形で直線を進んでいく。

 

(流石はモンスニーお姉さま…! 本調子ではないと言いつつも、この走り…!)

 

 アルダンとしては中々にいいスタートを切ったつもりだった。

 少なくとも、実際のレースならば間違いなく好位置につけるぐらいには。

 だがしかし、モンスニーはそれに難なくついて来て見せた。

 しかも、その表情は先程と全く変わらず飄々な笑顔のまま。

 

「ふふふ…」

「どうかなされたのですか?」

「いやね。楽しいな~って思って」

「楽しい…?」

「うん。こうして、誰かと一緒に走るのって、やっぱりいいな~って。なんだろうね…走りながらも妙にテンションが上がって来ましたよ?」

 

 テンションが上がった。

 そう言いつつも、モンスニーの走りに変化は無い。

 否。変化していないのではない。

 アルダンの走りに合わせているのだ。

 

(完全に…マークされた…!?)

 

 並走とは思えないプレッシャー。

 本人にそのつもりは無くても、すぐ隣でピッタリと走られれば嫌でも感じてしまう。

 嘗ての日本ダービー2着の実力をひしひしと。

 

(皐月賞…日本ダービー…シービーさんは二度にも渡って、これ程のプレッシャーを浴びながら走り、モンスニーお姉さまに勝利してみせたというの…!?)

 

 いつでも抜ける。

 いつでも追い越せる。

 そんな意志がモンスニーの走りから伝わってくるようだ。

 彼女の脚質は『追い込み』。

 『先行』である自分とは全く違う。

 最後の最後まで力を溜め、その圧倒的末脚によって勝利をもぎ取る。

 モンスニーは特に、その足で二度もシービーを追い詰めたのだ。

 注意をしてし過ぎると言うことは無い。

 

(これが…『伝説の好敵手』の実力…! ラモーヌお姉さまはもしや、それを私に体で教える為に並走をしろと言ってきた…?)

 

 実姉の思惑は不明だが、それでも一つだけ確実な事がある。

 あの群雄割拠の時代において、最強クラスの実力者であるミスターシービーと互角だったモンスニーの実力は決して伊達ではないということが。

 

 アルダンは心の中で密かに、自身のギアを一段階上げた。

 

 

 

 




本当は並走をこの一話で終わらせようかとも思ったけど、二話構成にした方が面白そうな気がしたので、次回に続きます。




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