ウマ娘 ~伝説の好敵手~   作:とんこつラーメン

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記者

 トレセン学園の図書室には、様々なジャンルの書籍だけでなく、記録映像が見れるコーナーが存在している。

 主に設置してあるノートパソコンを利用してみるのだが、そこに一人、とあるウマ娘が真剣な顔で『とある映像』を検索していた。

 

「え~っと…皐月賞…それから『ミスターシービー』…っと……あった!」

 

 パソコンの前で睨めっこをしていたのは『サクラチヨノオー』。

 そんな彼女が探していたのはシービーが三冠の第一歩を刻んだ皐月賞。

 正確には、シービーとモンスニーが競い合ったレースを探していた。

 

 自分の大切なルームメイトであり、尊敬もしているウマ娘である『メジロアルダン』が、併走という名の模擬レースでモンスニーに敗北したのを目の前で目撃したチヨノオーは、それからずっとモンスニーの事が気になっていた。

 彼女が最も憧れている『マルゼンスキー』とも仲が良く、年頃も近い。

 それでもチヨノオーがモンスニーの事を良く知らなかったのは、純粋にマルゼンの事しか目に入っていなかったから。

 そんなチヨノオーの視線を一発で向かせるほどの迫力が、あの時のモンスニーにはあった。

 だからこそ知りたいのだ。

 ミスターシービーと言う『絶対的強者』の『ライバル』と称されているモンスニーの事を。

 彼女達が走ったというレースを、どうしても見てみたい。

 そう言う衝動に駆られた。

 

「これで『再生』をすればいいんだよね…? うぅ~…こんなことになるなら、もっとパソコンの勉強をしておくんだった~…」

 

 パソコン自体を持っていないせいか、触れる機会すら滅多に無いのが完全に仇となった。

 これからは、もっとインテリなウマ娘を目指してみようと思う。

 まずは自分用のパソコンを持っているエアシャカールにでも師事してみようか。

 後に、あのツインターボも自分のパソコンを持っている、インドアでインテリなウマ娘だと知って驚愕することになる。

 

「再生…っと。あ、始まった」

 

 各ウマ娘が紹介され、レース前のファンファーレが鳴り響く。

 当然のようにシービーが一番人気で、モンスニーは五番人気だった。

 過去の映像だと分かっていても、不思議と緊張してしまい、ディスプレイを凝視しながら思わず唾を飲んだ。

 

 そして…レースが始まった。

 

「凄い迫力…! 見ているだけなのに手に汗が出てきた…」

 

 このレースの結果は知っている。

 であるにも拘らず、ウマ娘としての性なのか、自然と走っているウマ娘達の動きを必死に目で追いかけていた。

 

「あ…! モンスニーさんが動いた! その直後にシービーさんも前に出た!」

 

 道中まではずっと後方で全体の様子を伺っていたモンスニーだったが、第4コーナーに入った所で8番手にまで進出、その後の最終直線で凄まじい追い上げを見せて、前を走るウマ娘達をあっという間に抜き去っていく。

 だが、そこにミスターシービーも怒涛の勢いで追い上げ、最終的にはシービーの動きを捉えきれずに差し切られ、半バ身差で敗北した。

 

「…………」

 

 映像が終了し、他の映像のリストが映し出される中、チヨノオーは未だにディスプレイを見つめながら自分の胸を両手で押さえていた。

 

「なんて気迫…なんて迫力…これが…シービーさんとモンスニーさんの因縁の始まりなんだ…」

 

 シービーの強さはチヨノオーもよく知っている…というか、このトレセン学園にいるウマ娘ならば誰もが当たり前のように把握している。

 いかなる相手の追従も許さない圧倒的な強さ。

 あの『皇帝』シンボリルドルフですら本気で危惧を覚える程の人物。

 そんなウマ娘を、文字通り『あと一歩』まで追い詰めてみせた。

 しかも、一回だけじゃなく二回も。

 『伝説』相手に『連対*1』してみせる時点でモンスニーの異常さが際立つ。

 

「けど…私が見たモンスニーさんの走りは、こんなもんじゃなかった…! もっと深くて…見ているだけで全身に鳥肌が立って…思わず尻尾も耳もピンってなっちゃいそうな…そんな迫力が確かにあった…!」

 

 ふとディスプレイを見ると、そこには次の動画候補に同じ年の日本ダービーがあった。

 このレースもまた、シービーとモンスニーが激闘を繰り広げ、その果てにまたシービーが一着、モンスニーが二着を取ったもの。

 この後にモンスニーに『伝説の好敵手』という異名がつき、誰もが認めるシービー最大のライバルとして人々に認知される切っ掛けとなった。

 

「…これも見よう」

 

 迷う事無く次のレースも見ることを決めたチヨノオー。

 更なる迫力に度肝を抜かれたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 斎下(さいげ)新聞社。

 そのデスクの一角で、とある中年男性の記者が静かに、昔のとある資料に目を通している。

 そこに、一人の若い記者がやって来た。

 

「…………」

「どーしたんすか武田さん? そんな怖い顔して」

「芳川か。そっちこそどうした?」

 

 芳川と呼ばれた若い記者は、武田が見ている資料を横から覗き見て思わず『お?』と声を上げた。

 

「これって…ミスターシービーの資料すか?」

「正確には『シービーのレースの資料』だがな」

「へー…で、どうして、んなもんを見てるんすか? 取材でもするんですか?」

「するかもしれねぇな…近い内に。例の『噂』が本当なら…な」

「噂?」

 

 まだ新人な芳川は、一体何の噂なのか全く分からずに小首を傾げた。

 そんな彼を見た武田は呆れながらワザと大きな溜息を吐くが、仕方がないと頭をポリポリと掻きながら説明してやることに。

 

「来年の天皇賞(春)に、あの『メジロモンスニー』が出場して、ミスターシービーと久し振りの直接対決をするって噂だよ。お前、マジで知らねぇのか?」

「知らないですね…つーか、メジロモンスニーって誰ですか? メジロ家のウマ娘に、そんな名前の子っていましたっけ?」

「はぁ……」

 

 呆れてモノも言えず、武田は思わず懐の煙草に手が伸びるが、最近になってデスク付近では禁煙になっている事を思い出して手を引っ込めた。

 

「メジロモンスニーって言えば、ミスターシービー最大のライバルを称されているウマ娘だ。世代的には、メジロのウマ娘たちじゃ一番の歳上になるな」

「ライバル? あのシービーにそんな子がいたんスか? どんなレースも常に圧勝して、ライバルなんて言えるような子なんていないと思ってたけど…」

「ま…普通はそうだよな。アイツのレースを見てりゃ、そんな感想が出るのも無理は無い。だがな、モンスニーはそんなシービーを過去二度にも渡って敗北寸前にまで追い詰めた実績があるんだよ。しかも、クラシック三冠のレース中にな」

「マジっすかっ!?」

 

 シービーの強大さは、まだ知識の浅い芳川ですら知っている程。

 だからこそ本気で驚いた。

 あのシービーが追い詰められる姿なんて全く想像も出来ないから。

 

「しかも、クラシック最初のレースである皐月賞には、あのカツラギエースやニホンピロウィナーも出走していた。結果として、モンスニーはアイツ等にも勝っている事になる」

「つーことは…あのカツラギエースを差しきってみせた…ってことなのか…」

「そうなるな。モンスニーの脚質はシービーと同じ『追い込み』だ。そこら辺もまたモンスニーがシービーとセットで話題に上がる理由かもな」

 

 手に持っていたシービーの資料を散らかっている机の上に置くと、その下から今度はモンスニーのレースの資料が出てきた。

 

「あの時、皐月賞を見に来ていた誰もがシービーの圧勝を確信していた。今度もまた見ているこっちが気持ち良くなる程の勝利を見せてくれると。だが、実際に蓋を開けてみれば、こっちが全く予想してない展開になった。あのシービーに同じ『追い込み』で真っ向勝負をして、互角以上に渡り合ったウマ娘が現れたんだからな」

「それが…メジロモンスニー…」

「そうだ。結果としてはシービーの勝利で幕を閉じ、彼女は見事に最初の一冠を獲得したが…それは同時にモンスニーと言う存在がシービーにとって最大の壁になった瞬間でもあった」

 

 当時の資料を読んでいるだけでも、まるで昨日の事のように思い出せる。

 誰もがその強さを疑わない無敵の絶対王者に対抗しうる存在が出現したことに。

 

「世間の連中はメジロの底力ってのを思い知った。人々はシービーの勝利に酔いしれながらも、同時にそんな彼女と渡り合えたモンスニーに注目し始める。だが、中には『単なる偶然』とか『二度目は無い』なんて抜かす連中も少なからずいた」

「まぁ…そうでしょうね。いつの世もどこかに必ずアンチってのはいますから」

「そうだな。だが、モンスニーは…そんな馬鹿どもの声を真っ向から捻じ伏せやがったのさ。次の『日本ダービー』でな」

「クラシック三冠の二戦目…」

「皐月賞で五着以内に入ったウマ娘には『優先出走権』が与えられるからな。当然のようにモンスニーにも出走権が与えられたワケだ」

「因みに何番人気だったんスか?」

「二番人気。一番は勿論シービーだがな」

「いやいや…日本ダービーって、めちゃくちゃデカいレースじゃないスか! そこで2番人気って…え? なんで俺、そんな凄いウマ娘を今まで知らなかったんだ?」

「お前が単に物知らずなだけだ。もっと勉強しろ」

「へーい…」

 

 まさかのタイミングでお説教。

 これに関しては普通に自分の未熟さが原因なので何も言わない。

 

「そして…この『日本ダービー』でも、連続でモンスニーはシービーを追い詰めた。致命的な出遅れすらも関係無しに圧倒的な追い上げを見せたシービーと最後の最後まで接戦を繰り広げた。結果、モンスニーはクラシック三冠二回連続の二着になった」

「あのシービーに喰らい付くとか…明らかに普通じゃないっすね…。クラシック三冠で二着二回って時点で相当に凄いじゃないすか…」

「世間の連中もお前と全く同じ考えに至ったようでな。日本ダービーの直後からモンスニーに対するアンチの声は綺麗サッパリと消えちまった。逆にモンスニーの事を応援する声が一気に広まっていき、同時にこうも言われるようになった。『メジロモンスニーこそがミスターシービーのライバルだ』ってな。気が付いた時には『伝説の好敵手』なんて異名まで付いてやがった」

「伝説級の実力を持つシービーのライバルだから『伝説の好敵手』ってことッスか…」

「恐らくはな。ま、その後に出場した『神戸新聞杯』で怪我が発覚して、暫くは療養する羽目になっちまったんだがな」

「怪我か…それはキツいっすね…」

 

 ウマ娘にとって怪我は最も避けるべき事の一つ。

 それは芳川も知っていたので、話を聞いて顔が曇った。

 

「ま、それでもめげずに復帰して『高松宮杯』を勝ってるんだけどな。ハナ差だけど」

「えっ!? 高松宮って…GⅠじゃないすか! 復帰直後にGⅠ勝つって…メジロマジでパネェ…」

「あの頃はまだGⅡだったけどな。それでも、怪我上がりってハンデがあっても重賞を勝てるぐらいの実力はあったって証拠になった。だが、そこから故障続きになったらしくて、最近は全くレースに出ないようになっていたらしいが…」

「最近になって動きがあった…ってことですか?」

「あぁ。しかも、知り合いの記者の話じゃ、リハビリを終えた後のモンスニーは、明らかに前よりも速くなってるらしい。それに対抗するかのように、シービーもまた前以上にメキメキと実力を上げてるらしいしな」

「ひぇ~…タダでさえ激強なウマ娘が更に強くなるって…一緒に出る子達が可哀想になってくるっすね…」

「そうでもねぇさ」

「へ?」

「なんでも、例の天皇賞にはカツラギエースやニホンピロウィナーを初めとした、嘗ての皐月賞を走った全てのウマ娘の全員が出走を表明しているらしい。どいつもこいつも打倒シービー&モンスニーを掲げて猛特訓をしているんだと」

「マジかよ…」

 

 言葉で聞かされただけでも、来年の天皇賞が過去に例を見ないレベルの激戦になることは容易に想像が出来た。

 

「おい芳川。明日…時間空いてるか?」

「え? あー…大丈夫ですけど…まさか?」

「おう。トレセン学園に取材に行くぞ。後でちゃんと学園側にアポを取る」

「うっす…了解っす」

「それとな、ウマ娘の過去のレース映像を視聴できるサイトがあるから、それでさっき言ったレースを見ておけ。参考にはなる筈だ」

「わ…分かりました」

 

 こうして、トレセン学園に取材に行くことが決まった。

 その日の夜、芳川は自分のパソコンで言われた通りにレースの映像を見て、その迫力に腰を抜かしかけたという。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 そして、自分が取材される事になるとは全く知らないモンスニーはと言うと…?

 

「この天ぷら蕎麦うまー! マジでサイコー!」

「モンスニーって、お嬢様って割にはこーゆーお店を良く知ってるよね」

「まぁね。ぶっちゃけ、屋敷で食べる高級な料理よか、外で食べる食事の方が好きだったりするんだよね。あと、メジロの妹たちと一緒に食べ歩きするをする為に、色んなお店をリサーチする癖がついちゃってるのです」

「成る程…ちゃんと『お姉ちゃん』してるんだね。えらいえらい」

「それ程でも~」

 

 シービーと一緒にお食事デートを楽しんでいましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
公営競技において競争相手が一着、または二着になること。語源は『勝式の象』を略したもの

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