「「取材?」」
モンスニーとシービーがお食事デートから帰ってきて、そのまま寮に直行しようとした時、その途中で大久保に呼び止められて、チーム部屋へと連れてこられた。
中にはもう既にタイシンやクリーク、ラモーヌといった他のメンバーも勢揃いしていて、帰ってきた二人を出迎え、その後に大久保の口からいきなり本題が語られた。
「そうだ。ついさっきトレセン学園の方に取材の申し込みがあったそうだ。斎下新聞社って所かららしい。皆は知ってるか?」
「斎下新聞社…確か、昔からウマ娘関連の記事を主に書いている新聞社じゃなかったかしら? なんでも、かなり古くからあるとか」
「あぁ~…そこなら私も知ってるかも。どこかで聞いたことがあると思ったら、前におばあ様から聞いたことがあるんだ」
「あら。そうなのですか?」
意外な所からの情報に、珍しくラモーヌが反応を示した。
「なんでも、おばあ様が現役だった頃から存在している新聞社らしいよ? 昔、何回かおばあ様も実際に取材を受けた事があるって言ってた。その時の記事も見せて貰った事があるよ」
「え? そんな昔の新聞が今でも取ってあるの?」
「新聞って言うか、記事をスクラップして保存してるって感じ。すっごい嬉しそうに見せてくれた」
「あのおばあ様が…」
ラモーヌだけでなく、メジロのウマ娘達の共通認識として『おばあ様は厳格な人』というイメージがある。
実際には厳格なのではなく、真っすぐに感情を表現するのが苦手なだけなのだが。
そんな彼女が、モンスニーにだけは素の表情を見せた。
何も知らない者達からすれば、別に大したことではないが、事情を知っている者達には中々に衝撃的な出来事である。
「で、その老舗な新聞社が誰を取材しに来るの? 黄金世代の子達とか?」
「ンなわけあるか。どうしてチーム外のウマ娘の取材があることを態々、お前達に知らせにゃならんのだ」
「「そりゃ御尤も」」
シービー&モンスニー揃っての反省。
この二人、普通に息が合っている。
「取材に来るのは、シービーさんとモンスニーさんでしょ? どーせ」
「「私達?」」
「まぁ…それしかないわよねぇ~」
当然のようにタイシンが言い放ち、クリークも顔に手を当てながら困った顔で言ってのけた。
全く気が付いていないのは当人達ばかり。
「別に私達じゃなくても、今の時期に話題になってる子達なんて一杯いるでしょ。オペラオーちゃん達やオグリちゃん達とか。さっき話題に出たスペちゃんを初めとした黄金世代の皆とか。タイシンやクリークだって例に漏れなないでしょ」
「別にその事を否定する気は無いけど、それ以上に二人の事が話題になってるんだよ」
「「そーかな~?」」
「この人達は…」
猫の口になって揃って小首を傾げるシービー&モンスニーを見て頭を抱えるタイシン。
この人達は自分達の凄さってのを全く自覚してない。
そんなウマ娘達の憧れを抱いている自分も同類なのだが。
「で、その取材っていつ来るの?」
「明日だそうだ」
「また急ね。何か事情でもあるのかしら?」
「単純に『善は急げ』の精神じゃないのか? 前に本で読んだことがあるけど、情報にも鮮度ってのがあるらしくて、新しい情報は新しい内に手に入れた方がいいんだと」
「情報の鮮度…ねぇ~」
流石に彼女達は記者ではないので、その手の話をされてもいまいちピンとは来ない。
「にしても取材かー。一番最後にしたのっていつだったかな?」
「アタシは三冠を取った直後かな。モンスニーは?」
「怪我上がりで高松宮に勝った時…だったっけ?」
「どうしてそこで俺に振る?」
「いや…トレーナーさんなら覚えてるかと思って」
「俺頼りかい。そーだよ。モンスニーが最後の取材を受けたのは、あの高松宮で勝った時だよ。自分の担当するチームのウマ娘の事だからな。それぐらいは覚えてるさ」
「「「「おー」」」」
「へ~…」
モンスニー、クリーク、タイシン、シービーの四人は驚いたような声を上げ、ラモーヌは感心したような表情を見せた。
「けど…取材かー…」
「あら。どうかしたのモンスニーちゃん?」
「いやねー…取材って何を話せばよかったんだっけーって思って」
「普通に聞かれたことに答えればいいだけなんじゃないの? 少なくとも、アタシやハヤヒデはそうしてたよ?」
「チケゾーちゃんは?」
「聞かれてもいない事までベラベラと喋ろうとしてたから、トレーナーさんが必死に止めてた」
「はは…簡単に想像出来てしまう自分がいる」
ウィニングチケットと言えば、明朗快活な性格からは想像も出来ない程に泣き虫で、割とどうでもいい事に感動して号泣するなんてのは日常茶飯事。
一番凄いエピソードは、映画の予告映像だけで泣いたことがあることだ。
「と…兎に角、明日モンスニーとシービーに取材が来るから、心の準備をしておいてくれって話だ。分かったか?」
「「はーい」」
「本当に分かったんだろうか…」
どんな時でも平常心でいられるのは頼もしいことこの上ないが、時を場合ぐらいは考えて欲しいと切に願う大久保トレーナーであった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そして次の日。
トレーニングの休憩中に彼らはやって来た。
丁度いいタイミングで休憩に入ったと言うことで、モンスニーとシービーが一緒に並んで座って体を休めていた所に、例の新聞社からの取材が来たのだ。
「あのー…御休憩中に申し訳ありません。少しよろしいでしょうか?」
「「「ん?」」」
やって来たのは、いかにも『記者』と言う感じの服装をした中年の男性と、その後輩と思われる若者の二人組。
だが、シービーとモンスニーはいつも通りの表情で二人を見ていた。
「私、斎下新聞社から来た『武田』と申します。こちらは私の後輩で『芳田』」
「ども…芳田です」
「自分は、チームレグルスのトレーナーをしている『大久保』です」
そして行われる名刺交換。
向こうの記者が持っているのは分かっていたが、まさか自分達のトレーナーが名刺なんて洒落た物を持っていたとは全く知らなかった。
「もう伺っているかもしれませんが、本日はそちらにおられる『ミスターシービー』さんと『メジロモンスニー』さんの取材を致したくて参りました」
「はい。学園長の秘書から伺っています。こちらは一向に構いませんし、本人達も了承しております」
「ありがとうございます」
最近の記者にしては随分と丁寧…というよりは腰が低く感じた。
少なくとも、大久保が知っている記者と言うのは特ダネを狙うが余り、相手の意志なんて無視して突撃取材ばかりをしてくる輩が非常に多かったからだ。
今の所、大久保が好感を持てた記者は、この目の前にいる武田と言う人物を除けば、他には乙名史と言う女性記者ぐらいだ。
「あー…これって立った方が良い感じ?」
「い…いえ。別にそのままでも全然構いません。こちらとしては、お話さえ伺えれば十分なので。どうか、楽な姿勢で大丈夫です」
「だってさ」
「なら、お言葉に甘えようか」
遠慮と言う言葉をターフに置いて来てしまったのか。
二人はクーラーボックスを背凭れにしながら、チュウチュウとスポドリを飲みながら取材を受ける事に。
「ではまず最初は無難な質問から。今回、お二人が来年の天皇賞(春)にて雌雄を決すると言われている訳ですが、これはどのような事が切っ掛けでこんな事になったのですか?」
「うーん…なんて言えばいいのかなー…」
退学騒ぎ云々は流石に言いたくは無い。
完全に立ち直った今のモンスニーにとって、あの出来事は黒歴史となっているから。
「怪我で落ち込んでたモンスニーを元気づける為に、あたしから言い出した事なんだよ。『怪我を治してから、また一緒にレースをしよう』って」
「成る程。友人でありライバルでもあるモンスニーさんを気遣っての事だったんですね」
シービーからのまさかのフォローにモンスニーが目を丸くして驚く。
そんな彼女に対し、シービーはウィンクをしながらのサムズアップ。
後で絶対に何か奢ろうと決めるモンスニーだった。
「では次は…モンスニーさん」
「はい。なんざんしょ?」
「怪我から復帰してからこっち、以前にも増して実力がメキメキを上がってきていると伺ったのですが、その辺に関してどう思っていますか?」
「その辺は、私よりもトレーナーさんに聞いた方がいいかも。ソレ系のデータを持ってるのって、基本的にこの人だから」
「それもそうですね。では、大久保さん。先程の質問に答えて貰えますか?」
「分かりました」
いきなりのキラーパスだったが、そこは伊達に名門であるトレセン学園でトレーナーをやっている大久保。
全く戸惑う事無く、普通に武田の質問に答えていた。
「確かに、今のモンスニーは以前よりも目に見えるレベルで実力が上がっています。末脚のキレ。スパートを決めるタイミング。ほぼ毎日に渡って、ほんの少しづつではありますが自己記録を更新し続けていますからね」
「それは凄い! では、噂は本当であったと!?」
「どんな噂かは知りませんけど、今のモンスニーはもう、以前までのモンスニーとは完全に別人…そう思って貰って構わないかと」
取材だと分かっていても、目の前でベッタベタに褒められた。
こういうのには全く耐性が無いので、顔を真っ赤にしながらプルプルと震えていた。
因みに、前にこんな反応をしたのは、ちょっとした悪戯でモンスニーに対してずっと『可愛い』と連呼し続けた時だ。
その時の彼女の姿に本気で胸キュンし、シービーは思わずギュッとモンスニーの事を抱きしめてしまった。
「そしてそれは、シービーにも言えます」
油断してたら、今度はこっちに飛び火した。
「モンスニーがリハビリをしている最中もシービーはトレーニングをしていたのですが、その時から既に徐々にではありますがタイムが短くなっていました。きっと、切磋琢磨し合えるライバルの復帰に影響されたんでしょうね」
「では、今度の天皇賞は…」
「まず間違いなく、凄まじいレースになると思います。もしかしたらもう知ってるかもですけど、今度のレースにはカツラギエースやニホンピロウィナーを初めとする、嘗てモンスニーやシービーと皐月賞を戦った錚々たるウマ娘達が二人へのリベンジを誓って再集結するらしいので」
「矢張り…そうなのか…!」
大久保からの話を聞き、武田から敬語が消えて素の口調になった。
それ程までに衝撃的なことだったのだろう。
「あ…あの! 俺からも一つだけいいッスか!?」
「芳田? お前…」
「どうぞ」
ずっと黙っていた芳田から、いきなりの質問。
一体何を言われるのかとドキドキした。
「シービーさんとモンスニーさん。お二人にとってお互いはどんな存在ですか?」
「私にとってシービーが…」
「あたしにとってモンスニーが…」
「「どんな存在…か…」」
その質問に対する答えは、最初から既に持っている。
だからこそ二人は、互いに肩を抱き合いながら最高の笑顔で答えてみせた。
「「最高の友達で最高のライバル!!」」
それを聞いた瞬間、武田は即座にその言葉をメモ帳に書き殴った。
この二人の関係性を表すのに、これ以上の言葉なんて絶対に無いから。
その後も何個かの質問をされてから、取材はお開きとなった。
モンスニーとシービーにとってはなんて事の無い単なる取材ではあったが、武田と芳田にとっては全く違った。
これは間違いなく最高の記事になる。
『最高の友達で最高のライバル』
この言葉を絶対に一面でデカデカと貼り付けようと決意した武田であった。