キョトンとした顔をしたルドルフの顔を両手で挟み込み、視線を逸らせないように固定してからグイっと自分の顔を近づけるモンスニー。
長年の付き合い故の猛烈に嫌な予感が拭いきれない。
だからこそルドルフは必死に頭を回転させる。
自分は一体何をしてしまったのかと。
モンスニーを怒らせるような事をしてしまったのだろうかと。
「…その顔、どうやらマジで分かってないみたいね」
「す…すまない…。でも、本当に分からないんだ…」
「でしょうね。分かってないのはルドルフだけで、他の皆は一瞬で分かったけどね」
「そ…そうなのか?」
皆が怒っている…というか、呆れている理由を分かっていないのは自分だけ。
一刻も早く理由を判明されて謝罪しなければと言う衝動に駆られるが、それだけ考えても理由が思いつかない。
「はぁー…。アンタって子はマジでもう…」
「モ…モンスニー? 何故に溜息を吐いて…?」
どうやら、本当の本当に難にも理解していない様子なので、ハッキリと正面から言ってやることに。
「ルドルフ…確かにアンタは凄いウマ娘だよ。実力もさることながら、生徒会長として立派に頑張ってる。何をやらせてもそつなくこなせてるし、ちゃんと皆の期待に応えてみせてる」
「そ…そうか…ありがとう…」
「でも。私を含め皆は知ってる。そんなルドルフ会長サマが唯一、苦手としている事を」
「私が苦手としている事…?」
我がことながらサッパリ分からない。
苦手な事ならば沢山思い付きそうだが、それを言ったら今度こそ本気で怒られそうなので言えない。
「それは…人に頼ること」
「人に…頼る?」
「そ。ルドルフは本当になんでもかんでも一人で出来ちゃうから、誰かに頼るって選択肢を無意識の内に消してる。折角、エアグルーヴとかが少しでもルドルフの負担を減らそうとしてるのに、その前に全部終わらせちゃうんだもん。厳しい言い方かもだけど、心を鬼にして言わせて貰う。今のルドルフは、エアグルーヴとかの折角の好意を完全に無駄にさせてる」
「……!」
言われて初めてルドルフの全身に衝撃が走った。
まさか、良かれと思ってやっていた事が、逆に皆の親切を踏みにじることになっていたとは。
「それにね、たった一人で頑張っている姿や、その結果としてクタクタに疲れている様子とか見せられたら、こっちも辛いんだよ? どーせアンタの事だから、少しでも皆の負担を減らせるように自分一人でー…とかって考えてたんでしょ」
「そ…それは…」
大正解。
本当にぐぅの根も出ない程に大当たりだった。
「あのね…一体何の為に『生徒会役員』がいるのか分かってる? 皆で仕事を分担して助け合う為でしょうが。それなのに、会長であるルドルフが皆の仕事を奪ってどーすんの。本末転倒でしょうが」
「全く以てその通りだ…面目ない…」
今まで誰も言ってくれなかった事を真正面から言ってくれたモンスニーに感謝しつつも、大声を上げずに静かに怒りを露わにする彼女に対して確かな恐怖を感じていた。
お蔭で、完全に『ションボリルドルフ』状態になってしまった。
「はい。エアグルーヴ。ここで何か言う事はある?」
「では、まず一言」
「どーぞ」
「モンスニーさん。良く言ってくれました。会長」
「エアグルーヴ…」
腕組みをしながらルドルフを見下ろすエアグルーヴ。
この瞬間、完全に会長と副会長の立場が逆転していた。
「先程のモンスニーさんの言葉は、私達の言葉でもあります。会長は余りにも頑張り過ぎです。後生ですから、少しは私達に頼ることを覚えてください」
「ぜ…善処する…」
「あ?」
「…分かった」
初めてエアグルーヴにメンチを切られた。
冗談抜きで怖かった。
「ちゃんと分かってくれたようで何より。つーわけで…テイオー! ツルちゃん!」
「「はい!」」
「ルドルフをお外に強制連行ー! どこでもいいから連れ回して遊び回って来てよーし!」
「「やったー!」」
「モ…モンスニーっ!?」
どうして生徒会とか関係の薄いトウカイテイオーとツルマルツヨシの二人を連れて来たのか、ここでようやく判明した。
それは、ルドルフを仕事から強制的に引き離す為。
「はい。これは軍資金という名のお小遣い。好きに使っていいからね」
「ホントッ!? ありがとモンスニー!」
「い…一万円もっ!? 本当に良いんですかッ!?」
「いいのいいの。ルドルフの今後の生徒会活動の事を考えたら、これぐらいの投資なんて安いもんよ」
「ま…待ってくれモンスニー! 私の事を気遣ってくれるのは本当に嬉しいが、生徒会の仕事はどうするんだっ!?」
「そんなの決まってるじゃない…」
今度は慈愛に満ちた顔でそっとルドルフの肩にポンと手を置く。
「このメジロモンスニーが緊急代理生徒会長として仕事をするから」
「モンスニーがッ!? いや…別にそれに関しては全く不満は無いが…というか、普通に頼もしいと言うか…」
入学時からの付き合いなだけあって、色んな意味でお互いの事は理解しあっている両者。
だからこそ後を任せられるのだが。
「私は全く異論はありません。よろしくお願いします。メジロモンスニー会長代理」
「エアグルーヴッ!?」
「フッ…アンタの仕事っぷり。近くで観察させて貰おうか。モンスニー会長代理」
「ブライアンまでっ!?」
副会長二人しての満場一致。
これでルドルフの休暇が確定した。
「てなわけだから…二人とも、頼んだわよ」
「「りょーかいしました! 会長代理!!」」
「お前達までっ!?」
見事なまでの完全アウェー状態。
結局、ルドルフは碌に抵抗も出来ないままテイオーとツヨシの二人にわきを固められてから連行される事に。
「モ…モンスニー! 後は頼んだぞー!」
「いってらー。つーか、台詞が完全に仲間に後を託しながら死んでいくキャラになってるんだけど」
そうして、生徒会室にはモンスニーとエアグルーヴ、ナリタブライアンの三人だけになった。
「そんじゃ、早速始めましょうかね…っと」
「はい。私達も全力でサポートします」
「まぁ…偶にはいいか」
生徒会長の机の上に積み上がっている書類の塊を見つめながら、モンスニーは指の骨と首の骨をポキポキと鳴らしながら気合を入れた。
数分後、三人はシンボリルドルフと言うウマ娘の凄さを身を持って味わうことになる。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「はい! こっちの書類の束は終了! そっちはどうっ!?」
「こちらも終わりました!」
「おいモンスニー。アンタに客だぞ」
「誰ッ!?」
入ってきたのはモンスニーの大親友にしてライバルのミスターシービー。
実に眩しいニッコニコの笑顔で手を振りながらやってきた。
「なんか面白そうなことをやってるって聞いたから、手伝いに来たよー」
「流石はマイフレンド! めっちゃ助かる!」
「ついでだから、一緒にクリークとタイシンも連れて来たよー」
「「お邪魔しまーす」」
「天からお塩! じゃなくて、天の助け!」
「「お塩?」」
余りの忙しさに言葉が変になるモンスニー。
気にしたら負けなので誰もツッコまない。
「あと、途中でラモーヌにバレてついてきちゃった」
「モンスニーお姉さまが会長代理…ね。フフ…メジロの時期当主として、これぐらいはこなせて当然ですよね?」
「も…もちのろんだよ! お姉ちゃんにまっかせなさい!」
とは言うものの、想像以上の忙しさに四苦八苦しているのが実状だった。
改めて自分の親友は凄いと再認識した。
「モンスニー会長代理! カワカミプリンセスがまた壁を壊したと報告が!」
「こっちはタニノギムレットが柵を蹴り壊したらしいぞ」
「カワカミちゃーんっ!? ギムちゃーんっ!?」
まさかの二ヵ所同時の破壊活動。
流石にこれはルドルフも経験したことが無い。
「そういや、今度の駿大祭でウチが担当する予定のやつのメンバーってもう決まってるの?」
「それに関してはもうすぐだそうで決まり次第、理事長から発表があるそうです」
「なら、そっちの方はまだ大丈夫そうね。目下のやることはカワカミちゃんとギムちゃんの破壊工作の後始末だけど…」
「生徒会室に呼び出しますか?」
「いや…それは後で良いわ。今は兎に角、目の前の仕事を片付けましょう。二人へのお説教はそれからでも十分だし。でも、修理業者の手配はしておいてくれる? メジロお抱えの業者がいるから。はいこれ連絡先」
「メジロの? いいんですか?」
「別に構わないわよ。私の名前を出せば一発だろうし」
「さ…流石はメジロ家の時期当主…!」
使えるコネは何でも使う。
ある意味、ルドルフとは対極に位置していた。
チュドーン!!
「今の爆発音は何ッ!?」
「多分だけど、タキオンちゃんじゃないかしら? ほら、理科実験室から煙が出てる」
「またやらかしたんだ…」
「どうするの?」
「取り敢えずは被害を確認しないと。てなわけで、ちょっちシービー、見に行って来てくれない?」
「OKー! 任せといてよ!」
サムズアップをしながら理科実験室に向かうシービー。
しっかりしている彼女ならば適任だろう。
「さてと…今度こそ続きを…」
「おいモンスニー! なーに生徒会長代理なんて面白そうなことをやってやがんだよー! ゴルシちゃんも混ぜろー!!」
「よりにもよって、こんな時に来ないでくれるッ!?」
ただでさえ忙しい状況にゴルシが乱入。
場が更にカオスになりかけるが、ここでまさかの救世主が登場。
「モンスニーお姉さま! お話は伺いましたわ! このメジロマックイーンも何かお手伝いをさせてくださいませ!」
「丁度いい所に! マックイーン! ゴルシをどうにかしてー!」
「ゴールドシップさんを? って、なんで生徒会室にいらっしゃいますのっ!?」
「んなの決まってんじゃねーか! 面白そーだからだよ!」
「何を言ってますの! 幾ら貴方でも、モンスニーお姉さまのお仕事の邪魔をする事は許しませんわよ!」
「んだよー! 別にいいじゃねーかよー! こんな面白そうな事、この機会を逃したらもう二度とやってこねーかもしれねーじゃねーかよー!」
「それは貴女の事情でしょう! ほら、もう行きますわよ!」
「ちょ…マックちゃーんッ!? この手を離してくれってばよー!?」
悪は去った。
マックイーンと言う名の救世主の手によって。
「ふぅ…これで少しは静かになる…」
額に浮かぶ汗を制服の袖で拭ってから仕事を再開しようとすると、またもやいきなり生徒会室の扉が開いた。
「あの…すいません」
「ん? カフェちゃん? これまた珍しい…」
「どうしたんだ? マンハッタンカフェ」
「タキオンさんの代わりにお詫びに来ました。これ、差し入れの特製コーヒーです。息抜きにどうぞ。それと、タキオンさんの爆発に関しては、私とシービーさんでどうにかしておきましたので」
「あれ? カフェちゃんって天使?」
「助かるよカフェ。モンスニーさん。少しだけ休憩しませんか?」
「そうね…カフェちゃんの好意を無下には出来ないもんね。一息入れましょうか」
「それじゃあ、何かお茶菓子を用意しますねー」
クリークが奥に行ってから、モンスニー達は疲れたように背凭れに体を預ける。
大きく息を吐きながら、普段からどれだけルドルフが頑張っているかを知った面々であった。