でも、まだ私は引かないかな~。
もうすぐ三周年ですし、そこを狙って石を溜めまくってるんで。
運が良ければ、そこで纏めてゲットできるでしょうし。
翌日に本番を控えた奉納劇メンバー。
その内の一人であるトウカイテイオーの携帯に一つのメールが届く。
差出人は、彼女が憧れている生徒会長シンボリルドルフだ。
「遂に明日が本番かー…。少し緊張するけど、でも大丈夫だよね! 皆で頑張ったから! って…ん? メール? 誰からだろ…え? カイチョーからっ!?」
まさかの人物からのメールに驚きつつも、テイオーはそれ以上に喜びながらメールの中身を確認する。
『劇の練習は頑張っているか? いきなりだが明日の本番、私達も奉納劇を見に行くことにした。皆の晴れ舞台、今から楽しみにしているよ。それじゃあ、また明日』
ルドルフが来る。
自分達の劇を見に来る。
一瞬だけ頭が真っ白になったが、すぐに正気を取り戻してスマホ片手に皆の元まで全力ダッシュ。
「みんな! みんな! みんな聞いてー!」
「ちょ…テイオーさん!? もう夜なんだから静かにしなさいって何度言ったら…」
部屋に入るなりキングヘイローから苦言を呈されるが、今のテイオーの耳には全く聞こえていない。
「一体どうしたの? テイオーちゃん?」
「ほらほら、これ見て! 明日の奉納劇、カイチョーも見に来るんだって!」
「えぇぇっ!? ルドルフ会長が来るのッ!?」
テイオーと同じようにルドルフに憧れているツルマルツヨシも大きく驚く。
まさか、自分達がやる気を取り戻す切っ掛けとなった相手が来るとは夢にも思わなかったから。
「ねー…これには『私
「「え?」」
ウララに指摘されて急に冷静になる二人。
改めてメールを良く見てみると、確かに複数形になっていた。
「あ…ホントだ。どこにもカイチョー一人で来るなんて書いてないや」
「で…でも、それでも来ることには変わりないんだし…ね?」
ツヨシからの必死のフォロー。
別に『来ない』とは書いてないので、それがせめてもの救いか。
「でも、ルドルフ会長は誰と一緒に来られるのかしら?」
「「「んー…?」」」
カワカミから言われて考える。
あのルドルフが一緒に来る相手と言われて即座に思い付くのは…。
「やっぱり、生徒会のメンバー…かな?」
「そこら辺が妥当だよね…。もしくは、同期の人達とか」
「どーき?」
皆であーだこーだと話し合っている時、ふとキングの頭にある答えが思い浮かんだ。
「もしかして…?」
「え? キングちゃん分かったの?」
「さっすがはキングさんですわ! で、誰だと思われたんですのッ!?」
「多分だけど…前にルドルフ会長が一緒に奉納劇をしたメンバーと一緒に来るんじゃないかしら?」
「「それだ!」」
キングに言われて、テイオーとツヨシが同時に指差す。
その答えが一番違和感が無かった。
「ってことは、一緒に来るのはカツラギエース先輩やニホンピロウィナー先輩と…」
「ミスターシービー…そして…」
「メジロモンスニーさんですわね…」
明日、自分達がやる予定の奉納劇を、完璧以上の出来栄えでこなして見せた五人。
そんな人たちが自分達の劇を身に来る。
そう思った瞬間、キングの顔が険しくなっていく。
「どうやら、失敗できない理由がまた一つ増えたみたいね」
「そうだね! みんなでガンバロー!」
「「「おー!」」」
ウララに合わせてキング以外の四人が一斉に拳を突き上げる。
そんな彼女達を見て、溜息を吐きつつも微笑を浮かべた。
「はいはい。気合を入れるのは良いけど、今夜は明日に備えて早く寝るって決めたでしょ? 明日の早朝に、本番前最後の練習を時間ギリギリまでするんだから」
「「「はーい!」」」
「ですわー!」
キングの怪我騒動で途中からどうなることかと思ったが、皆の努力と決意でここまで来れた。
後はもう、やるべき事を全力でやるだけ。
明日の事を考えながら、キングは部屋の電気を消した。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
遂に来た奉納劇本番の日。
トレセン学園の学生寮前に、黒塗りの見事なリムジンが停まっていた。
「こ…これが本物のリムジン…!」
「いつもは遠目から見てたけど…近くで見ると迫力がスゲェな…!」
一般人枠で常識人枠でもあるエースとピロウィナーは、生まれて初めてのリムジン大接近に完全に気圧されていた。
これまで幾多の大レースを走ってきた彼女達も、金持ちオーラにだけは勝てないのかもしれない。
「いやー…いつ見ても、メジロ家のリムジンは凄いねー」
「細かい部分まで手入れが行き届いている。じいやさんがそれだけ優秀か良く分かるな」
一方のシービー&ルドルフは、全く気圧されることなく、いつもの通りのマイペース具合を維持していた。
「よしよし。ちゃんと全員集合したわね。忘れものとかは無いかなー?」
「「はーい!」」
「子供か! なんで引率の先生みたいな事を言ってんだよッ!? つーか、シービーとピロウィナーも返事すんな!」
「ははははは…!」
早くも始まったいつものコント。
この五人が揃った時にしか見られない、ある意味で貴重な光景だ。
「モンスニーお嬢様。ご学友の皆様方。おはようございます。本日はよろしくお願い致します」
「「よろしくお願いしまーす!」」
「「よろしくお願いします」」
「うん。今日はよろしくね」
リムジンの運転席から降りてきたじいやが全員に向けて丁寧な挨拶をし、皆で挨拶を返す。
因みに、一番上がエース&ピロウィナーで、二番目がルドルフとシービー、一番下がモンスニーだ。
「ご学友…か。そんな風に呼ばれたの初めてだ…」
「私も…」
これがお金持ち達の常識なのか。
一秒ごとに何かの形で驚かされているような気がしてくる。
「それでは早速、出発致しましょう。目的地までには時間が掛かりますから」
「あれ? じいやって奉納劇が行われる場所って知ってるっけ?」
「勿論、存じております。以前にモンスニーお嬢様を初めとした皆様方が奉納劇をされた際、私とおばあ様で見に行きましたから」
「「「そうだったのっ!?」」」
モンスニーとエースとピロウィナーが同時に驚く。
まさか、あの時の劇が二人に見られていたとは。
「モンスニーお嬢様の晴れ舞台を見て、おばあ様も私も年甲斐もなく感激してしまいました。今でも昨日の事のように思い出せます。モンスニーお嬢様が白拍子を演じた時の御勇姿を…」
「あはは…」
完全に不意を突かれて恥ずかしくなってくる。
怪我から復帰して以降、モンスニーはじいやとおばあ様には頭が上がらなくなっていた。
「話はここまでにして…皆様方。どうぞお乗りください」
こうして、上級生組の奉納劇見学日帰り旅行が始まった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
車道を走るリムジンの中、人生初リムジンなエースとピロウィナーは落ち着きがなくソワソワとしていた。
「こ…これがリムジンの中かよ…。普通の車とか全く違うじゃねぇか~…」
「至る所に高級感が満載だよぉ~…。おわっ! こんな所にジュースがある!?」
「あ。それ飲んでいいよー」
「「飲んでいいのッ!?」」
座っている座席も高級感ある皮で出来ていて、座席の一部を上げると、そこからは明らかに高級品なジュースの瓶が出てきた。
ちゃんとコップもセットで。
「そう言えば、こうしてモンスニーの所の車に乗るのって久し振りかも」
「えっ!? シービーって、このリムジンに乗った事があんのかっ!?」
「何回かね。ちょっと寝坊をした時に、モンスニーに乗せて貰った」
「そんな事もあったわね~。懐かしいな~。確か、あの時ってシービーってば凄い寝癖が付いてて、車の中で私が直してあげてたっけー」
「そーそー。今となっちゃ、良い思い出だよねー」
「「ねー」」
「「…………」」
メジロ家であるモンスニーは兎も角、自分達と同じ一般家庭出身の筈のシービーが妙に慣れているのが不思議だったが、まさかそんな理由があったとは。
伊達に中等部の頃から仲が良かったわけではない。
「…で、我等が会長サマはというと…」
ルドルフはゆったりとした顔で静かに座っていて、車内にあった雑誌を読んでいた。
余りにも様になり過ぎていて、本当に自分達の同級生には見えなかった。
伊達眼鏡を掛けている事もあり、見た目だけは完全にOLだった。
「そういや…ルドルフも…」
「立派な『お嬢様』だったっけ…」
下級生たちからは尊敬の念を受けているせいで近寄りがたく思われているが、同級生である彼女達にとっては、少し生真面目でギャグが好きなだけのウマ娘に過ぎない。
なので、ルドルフがモンスニーと同じ名家のお嬢様だと言う事を忘れてしまいそうになる。
それに関してはモンスニーも同じなのだが。
「皆様方。少しよろしいでしょうか?」
「んー? どうしたの、じいやさん?」
「私の記憶が正しければ、奉納劇が始まるのは夕方で、このまま行けば余裕で到着します。ですので、その途中でサービスエリアにて昼食を取ると言うのはどうでしょうか?」
じいやの提案に五人全員が湧き上がった。
特にエースとピロウィナーが。
「いいじゃねぇか! あーゆーところで食うと、なんでかいつもよりも上手いって感じるんだよな~!」
「そうそう! 海の家と同じ感じだよね! 何を食べようかな~?」
「お店の種類にもよるけどね。最近のサービスエリアって凄いらしいから」
「そういやテレビでも言ってたっけ。サービスエリアに食べに行くためだけに車に乗る人もいるらしいよ?」
「この五人で一緒に外食…か。本当に久し振りだな…」
一気に話題に花が咲いた五人のウマ娘を見て、じいやは自分の提案が間違ってなかったと思った。
特に、モンスニーの自然な笑顔を見れたことが何よりも嬉しい。
今の彼女の姿をお婆様が見れば、きっと泣いて喜んだに違いない。
「折角だし、じいやさんも一緒に食べようよ」
「私も…ですか?」
「うん。だって、こんな機会でもないと一緒に食事なんて出来ないじゃない。ね?」
「そう…ですね。皆さまが宜しいのであれば、ご一緒させて頂きます」
何を今更。
そんな顔をしながら五人は同時に頷く。
この場にいるメンバーの中に、そんな失礼な考えを持つ者など一人もいない。
全員が即座に満場一致でじいやと一緒に食事をする事を選んだ。
「んじゃ決定ね。あー…こんなにもお昼が待ち遠しいことなんて初めてかも知れないなー…」
窓の外を流れる景色を眺めつつ、モンスニーが静かに呟いた。