レースで活躍するウマ娘達は、何も走る練習ばかりをしていればいいと言う訳ではない。
レースの後には『ウィニングライブ』があり、見事に一位になったウマ娘はセンターに立つ事が出来る。
舞台の真ん中で踊り、歌うことを夢見て、今日も大勢のウマ娘達がダンスの練習を欠かさない。
そんなウマ娘達の育成に力を入れているトレセン学園には、当然だが専用のダンスレッスン場も存在している。
無論、中途半端な施設ではなく、プロのダンサーやアイドルたちが使うような本格的な部屋になっている。
そして今日は、とある二人のウマ娘達が熱心にダンスレッスンを行っていた。
「ほっ! ほっ! ほっ! ほっ! うん! 良い感じ良い感じ!」
「ここはこうして…ターン! これでfinishネ!」
『マイルの女王』の異名を持つ、モンスニー達と同期のウマ娘『ニホンピロウィナー』。
そして、あの日本ダービーを制した事もあるアメリカ出身の怪力ウマ娘『パスチャーキング』。
組み合わせとしては割と珍しい二人で、今日は自主練を行っている。
「パスチャーって凄いねー。レースじゃ、あんな凄いパワーを発揮してるのに、ダンスになった途端、凄いキレのある動きになるんだもん」
「サンクス! でも、ピロウィナーのdanceも手の動きや足の動き一つ取っても、凄く洗練されているように感じたワ!」
「そ…そっかなー。そう言われると、流石に照れるなー…にゃはは…」
柄にもなく正面から褒められて、後頭部を掻きながら照れるピロウィナー。
チームSRWの中でも、ハルウララの次くらいに感情表現が豊かなパスチャーは、基本的に遠慮や冗談などを言ったりしない。
彼女の発言は常に本音であり、それ故に他の者達も彼女の前では自然と誠実な対応になってしまう。
「けど、ちょっと個人的に気になる箇所もあったんだよね」
「それはドコかしラ?」
「えっとね…サビに入る直前の…」
ちょっと真面目な話に突入しようとした時、徐にダンス練習場のドアが開いた。
練習場自体は割と広いので、入ってくること自体は何にも問題は無い。
その相手の目的がダンスの練習じゃない場合は…話が違ってくるが。
「パワフルな動きから繰り出される鋭いダンス…変わってないわね。いえ、それどころか、前よりも格段に進化すらしていると言える」
いきなり入ってきたウマ娘を見て、ピロウィナーは驚き、パスチャーは大きく目を見開きながらの笑顔を見せた。
「え? もしかして、あの子って…」
「ワァオッ!! My.friend! ハリウッドリムジンッ!!」
「YES! 久し振りね! パスチャー! それに、ピロウィナーも!」
星条旗をイメージした耳カバーを付けているウマ娘。
彼女の名は『ハリウッドリムジン』。
嘗ては北米のハリウッドダービーを圧倒的強さで制したアメリカ最強クラスのウマ娘。
数多くのレースで活躍する一方で、世界的に有名なハリウッド女優でもある彼女は、世界中の大勢のファンを持つ正真正銘のスーパースター。
両親から遺伝として継承した、万人を魅了する美貌と長身、そして見事なまでにスラッと伸びた脚こそがリムジン最大の武器であり、その名の通り他のウマ娘よりも大きな歩幅を駆使して走ることが可能で、最も得意な脚質である『差し』にて、最終直線にて凄まじい勢いで伸びてくる末脚に敗れたウマ娘は後を絶たない。
その活躍の場を日本にまで広める為にトレセン学園に留学した彼女の前に立ちはだかったのが、同じアメリカ出身のウマ娘であるパスチャーキングだった。
他を圧倒する異次元のパワーにてリムジンに立ち向かい、決して怯む事は無かった。
その日を境にリムジンはパスチャーの事をライバルとして認め、彼女に完全勝利をする為に祖国にて本格的な調整と溜まっていた仕事の消化を行っていた。
因みに、ライバル視しているのはリムジンの方だけで、パスチャーの方は彼女の事を最も大事な親友だと思っている。
「んもう! 一体いつ帰ってきたノ!? 一言言ってくれれば、タイキと一緒にバーベキューパーティーの準備をしてたのニ!」
「ウフフ…ゴメンなさいネ。偶にはサプライズも良いかと思って」
「つーか、よくマスコミとかに嗅ぎつけられなかったね。リムジンが日本に来て、しかもトレセン学園に留学した時なんて、色んな国からマスコミが殺到してたのに」
「ワタシだってバカじゃないワ。マネージャーと綿密かつ入念な相談をして計画を立てた結果、極秘って形で学園に戻ってきたのヨ」
リムジンが入学した際、それはもうトレセン学園は連日大騒ぎだった。
何度も何度もニュースで報道され、新聞記事もリムジン一色。
在校生のウマ娘達の中にも彼女のファンは大勢いて、何人もサインを強請ってくる始末。
だが、そこは流石は世界的大女優。
余裕の返しでその全てを見事に解決してみせた。
「よくよく考えたら、このトレセン学園って凄いよね…。世界的大女優だけじゃなくて、本物のお姫様もいるんだし」
「ファインモーションのことね。彼女も彼女で大変そう…には見えないわね」
ラーメン大好きファインモーションは、毎日のように日本の食文化を楽しんでいる。
勿論、主にラーメンを。
「そう言えば、こうして二人がダンスレッスンをしているなんて珍しいわね」
「んー…ちょっとね。偶にはいいかなーって」
「ワタシはダンスをしたい気分だったからヨ!」
「だと思ったわ」
気紛れ天然なウマ娘であるパスチャーに、今までどれだけ振り回されてきた事か。
でも、自分の事を『女優』ではなく『一人のウマ娘』として見てくれるパスチャーの事が気になっているのもまた事実だった。
「本当は一緒に走りたいと思っていたけど…良い機会だし、このワタシが二人にダンスを教えてあげましょうか?」
「「いいの!?」」
「モチロン! 本場ハリウッドのダンステクを存分に教えてあげるワ!」
こうして、ハリウッドリムジンによる即席ダンスレッスンが開催されたのだった。
次のウィニングライブにて、パスチャーとピロウィナーのダンスが凄まじい上達を見せ、見る者全てを大きく驚愕させたとかなんとか。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
突然の襲来。
そうとしか言いようがない出来事だった。
「その無駄にデカくて長い帽子は…もしかしなくてもジラフかよぉぉっ! ひっさしぶりだなコノヤロー!!」
「うわぁぁぁっ!? いきなり私を抱きかかえて肩車しないでくださいー!!」
「あははははは! ゴルシちゃんとジラフちゃんって、とっても仲良しさんなんだね!」
「ウララさんっ!? 笑ってないで助けてくれませんかねッ!?」
背後から唐突に現れたかと思ったら、相手の了承も無く肩車をして持ち上げる。
トレセン学園に帰って来てから早くも涙目状態になってしまった。
ジラフ。
イギリス出身の由緒正しい名家の出のウマ娘で、あの凱旋門賞を初めとし、数多くのビッグレースを制してきた、その小柄な体からは想像が出来ない程の実力者。
その総合獲得賞金の額は、あのギンシャリボーイやハリウッドリムジンすらも上回り、その功績からイギリス王室から直々に『ナイト』の称号を賜った唯一無二のウマ娘。
『差し』や『追い込み』を得意とし、その長い帽子にて風を切って疾走する姿に感嘆する人も多い。
そんな立派な経歴を持つ彼女も、ゴルシの前では単なる弄られ役となってしまう。
嘗て、ゴルシが凱旋門賞に挑んだ際に目を付けられ、それ以来の付き合いとなってしまった。
見聞を広める為に日本のトレセン学園に留学したまでは良かったが、そこでゴルシとまさかの再会を果たしてしまったから、さぁ大変。
結果として、ジラフの日本生活には常にゴルシが付き纏うような形となってしまった。
その自慢の脚力で必死に逃げるが、ゴルシもまた凱旋門賞に挑めるほどの実力者であり、同時に日本でも最上位に位置するウマ娘なので、そう簡単には逃げ切れない。
最終的には捕まり、今のように弄られ続けている。
因みに、ウララとは背の高さ的な意味で妙に気が合うのか、ジラフにとって日本での数少ない友人となっている。
ジラフにとってゴルシは友人ではないのであしからず。
「どーして、いつもいつも私に付き纏って来るんですかアナタは!」
「実は今から、ウララと一緒に『ザリガニ釣り選手権太陽系の部』に出場しようと思ってよ! ついでだからジラフも一緒に出よーぜー!」
「話聞いてますっ!? せめて会話のキャッチボールぐらいはしてくれませんかねぇっ!?」
「ハハハハハ! ジラフちゃんってばおもしろーい!」
「ウララさんっ!?」
この場には自分以外にブレーキ役になり得る人物がいない。
せめて、ここにマックイーンがいてくれればマシだったかもしれないのに。
「マックちゃんなら、今頃はアタシがやった『スイーツ食べ放題バイキング』を楽しんでる事だと思うぞ?」
「しれっと私の心を読まないでくれませんかねッ!? っていうか、あの人もあの人で何をやってるんですかッ!?」
ここでマックイーンのスイーツ好きが仇となってしまったとは。
こんな事なら、何がスイーツのお土産とか用意しておけばよかった。
「気を付けろよ…! 今回の予選、火星代表の奴が特に要注意だ! あのタコみたいな見た目から繰り出される触手で次々とザリガニを釣り上げちまうからな!」
「それは大変だねー!」
「だろっ!? でも心配すんな! こっちにも超心強い助っ人がいるからな!」
「えぇっ!? 誰だれっ!?」
「ウララさんも普通に真に受けないでください!」
どれだけジラフがツッコんでも収まる気配が無い。
なんか段々と疲れてきた。
なんで、自分はゴルシに肩車をされて、こんな事になっているんだろう。
自分で自分のやっている事が分からなくなってきた。
「こいつがいれば絶対に大丈夫だ! な! 船子!」
「おう! この船子ちゃんにドーンと任せとけってんだ! グレート・デギンにでも乗った気持ちでな!」
「それって最後にソーラレイによって消し炭にされてますよねッ!? っていうか、アナタは一体誰なんですかッ!? ゴルシさんに瓜二つな見た目なのにウマ娘じゃ無いみたいだし!」
「うわー! 船子ちゃんって、ゴルシちゃんにそっくりだねー!」
「感想それだけなんですかウララさんっ!? もっとツッコむべき部分が沢山あるように思えるんですけどッ!?」
もう完全に場の状況がカオスとなりつつある。
実際、さっきまで周囲にいたウマ娘も誰一人としていなくなってしまった。
「よっし! このままの勢いで地球代表として頑張るぞ! オー!!」
「「オー!!」」
「オーじゃないですから! 本気で行くつもりなんですかッ!? ザリガニ釣り大会にッ!? 冗談ですよねッ!?」
ジラフの必死の抵抗も虚しく、四人は学園を後にしようとしていた。
最後に響いたのは、ジラフの悲痛な叫びだけだった。
「お願いだから! 誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」