「メジロ・クリスマス・ナイト?」
それは、とある昼下がり。
カフェテラスにてメジロ家のウマ娘達が集まってからのお茶会をしている場面での話だった。
「そう言えば、もうそんな季節か~。確かに、もうすぐ12月だもんね~。まだ少し先とはいえ、今からもう色々と考えておかないといけない時期だよな~」
『メジロ・クリスマス・ナイト』とは。
毎年、メジロ家がクリスマスの時期に開催する、メジロ家オンリーのファンイベントの事。
ファンイベントと聞くと、トレセン学園で行われているものと同種のイベントのように思えるが、こっちの場合は規模が違う。
各々のファンだけでなく、日ごろからメジロ家を支援してくれている方々も来賓として招き、メジロの重鎮たちも総出で客たちを歓迎する、昔から存在している非常に重要な伝統行事。
「それのマネージャーに、今年はパーマーとブライトが選ばれた…と」
「そうなんです。ま、実際にはブライトは自ら立候補をして、アタシはそのブライトから推薦されたって形になるんですけど」
「ふーん…いいんじゃない? パーマーとブライトが主催するクリスマス・ナイト…面白そうじゃん?」
ニッコニコの笑顔で二人を見つめるモンスニー。
今から楽しむ気満々である。
「ちょ…あんまプレッシャー掛けないでくださいってば~」
「うふふ…モンスニーお姉さまの御期待に添える為にも、頑張りますわ~」
同室と言う事もあって、ブライトはライアンやドーベルと同じぐらいにモンスニーの事を深く慕っている。
おっとりとした表情の裏では、何が何でも成功させたいという決意が漲っていた。
「そういや、去年はライアンとマックイーンが一緒にやってたっけ」
「確か『オールメジロディナーショー』…でしたわよね~」
「歌をやったり、ダンスをやったり、後はー…」
「自主製作映画とかもやってたましたね」
「マックイーンを主役にしたメジロ物語の映画…成功したのは良かったけど、メジロ家からの監修が凄く厳しくて大変だったんだよね~」
「そうでしたわね。一体何度ダメ出しを受けて編集をしたことか…」
当時の事を振り返りながら苦笑いを浮かべるライアンとマックイーン。
彼女達の表情から察するに、言葉以上に苦労をしたのだろう。
「その前は、ラモーヌとアルダンの二人がマネージャーをしてたよね」
「色んなウマ娘達のレースのレビューを流して…そこまでは良かったんだけど…」
「その後にいきなりラモーヌお姉さまが『レースをしましょう』と仰って…重鎮の方々が目を丸くして驚いてましたね」
「だって…仕方がないじゃない。見ていたら、私の中にある『愛』が溢れ出てしまったんですもの」
「愛って…」
やる気になった時のラモーヌを止められる者がいるとすれば、それこそお婆様か、普段から敬愛しているモンスニーぐらいしかいない。
尤も、モンスニーは面白い物を見たがる側なので絶対に止めようとはしないが。
「あの時って確か…私達のレースも流してたっけー…」
「えぇ。勿論、モンスニーお姉さまの『皐月賞』と『日本ダービー』も」
当時は、まさかまたあのレースを見る羽目になるとは思ってもいなかったモンスニーは、珍しく顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
「あの二つのレースを見た途端、私の中から『愛』が限界突破してしまったんです」
「さよか…」
別に今となっては忌まわしい記憶でもなければ、恥ずかしい思い出でもない。
寧ろ、モンスニー自身は誇らしいとすら思っている。
けれど、それを見て妹同然のラモーヌが本気になると言うのは少し複雑だった。
「モンスニーさんも前に一回やってましたよね」
「うん。私の時は、まだ皆も幼かったから一人でやってたけど。あの時はマジで大変だったな~。何から何まで全部一人でしなくちゃいけなくて、でも何から始めたらいいのかサッパリ分からなくて。だから、色んな人から話を聞いたり、過去の資料を必死で漁ってから勉強しまくったっけ」
一人だからと言って決して悲観をせず、出来る範囲で全力を出し切る。
昔から根っこの部分はあんまり変わっていなかった。
「けど、その結果として物凄いクリスマスパーティーになりましたよね!」
「えぇ。まさか、電車その物を丸々貸し切ってから来賓の方々をお迎えする車両にしただけでなく、車内も豪華に彩って…移動の間すらも皆さんを楽しませていましたわ」
「そしてパーティー会場は、無人となった駅をこれまた貸し切ってだけでなく、ちゃんと許可まで取ってから綺麗に改修をした上で…」
「まるで、物語に出てくるお城のような姿に変えて、来られたお客様を驚かせておりましたわ~」
「あの時の事は今でも覚えています。後にも先にも、あんなにも到着が待ち遠しい、ワクワクとした移動は初めてでした」
必死に、我武者羅に頑張った結果は見事に実を結び、それ以降に繋がるメジロ家のウマ娘達へのバトンを見事に作り上げた。
その事はメジロ家の中でも非常に高く評価されており、そんな一面もあったからこそ、モンスニーのメジロ家次期当主に対する反対意見が殆ど無いのだ。
「二人ならきっと大丈夫だよ。でも、何か困った事が有ったら、いつでも言ってね。喜んで手伝わせて貰うから」
「それは嬉しいんですけど…いいんですか? モンスニーさんは来年のレースに向けての最終調整に入る頃なんじゃ…」
「その辺は心配ご無用。私もシービーも、そしてトレーナーさんも馬鹿じゃないから。その辺のスケジュール管理はバッチリだよ。クリスマス・ナイト当日は私も参加するつもり満々だし」
「流石はモンスニーお姉さま…素晴らしいですわ」
「ありがと、ラモーヌ」
今まで自分が不甲斐無いせいで皆に迷惑を掛けてきた…と本気で思っているモンスニーは、彼女達の為になるならどんな事でもするつもりでいる。
と同時に、本格復帰してからの初めてのクリスマス・ナイトなので、実は地味にテンションも上がっていたりするのだ。
「今から楽しみだね~。これは、練習にも身が入りそうだよ」
「張り切り過ぎて、怪我とかしないでくださいましね?」
「分かってるよ、マックイーン。それじゃ、私はそろそろ行くね」
「はい。練習、頑張ってください」
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「…と言う訳で、12月に入ったら少し忙しくなるかもしれない」
練習後、チームルームにて休憩をしながら今後の予定を話していた。
ラモーヌはまだメジロ家のウマ娘達と一緒にいるので、この場にはいない。
「へー…メジロ家って、クリスマスにそんなイベントをやってたんだ。知らなかった」
「基本的にメジロの関係者やファンの人達に向けて広報するから、知らない子がいるのも無理は無いかもね」
これまでにも、メジロ家と関係あるウマ娘が来た事は余り無かった。
だからこそ、今年からはチームメンバーやトレーナー、親しい友人達も来賓として誘っても良いかもしれないと思っている。
「トレーナーさんは、メジロ家のクリスマス・ナイトに行った事はないんですか~?」
「俺はないかなー。基本的に、クリスマスの時期は普通に忙しいってのもあるけど」
この大久保と言う男、未だに独り身で毎年に渡って寂しいクリスマスを送っていたりする。
最近になって実家の両親から『早く良い結婚相手を見つけろ』と催促され始めているのが悩みだとか。
「モンスニーが忙しくなるって事は、同じメジロ家のラモーヌも忙しくなるのかな?」
「それはー…どうだろ? あの子は本当に気紛れだしなー。流石にクリスマス本番の日は絶対に参加するとは思うけど、パーマーやブライトの事を手伝うかは不明ですニャー」
なんて言ってはいるが、モンスニーは知っている。
ラモーヌも自分と同じようにメジロの娘達を大事に想っていて、もし仮に『手伝ってほしい』と言われれば必ず手を貸してくれると。
「でも、流石は天下のメジロ家だな。クリスマスの日も忙しいとは」
「あはは…こればっかりは仕方がないからねー。ある意味、名家に生まれた宿命と言いますか…」
名家出身のウマ娘はメジロ以外にも大勢、在籍している。
例えばダイイチルビー。
彼女もまた、メジロ家のウマ娘達と同様に日頃から忙しくしていて、スケジュールは分単位で刻まれている。
「にしても、あののんびり屋のブライトとギャルっぽいパーマーの組み合わせかー。二人とも良い子だし、しっかりしているのはアタシも知ってるけど…性格は真逆だよね。一体どんな化学反応が起きるんだろ。想像出来ないや」
「想像出来ないからこそ、私達の予想を良い意味で裏切るようなクリスマスにしてくれるんじゃないかしら~?」
「確かにそうかもね。結果が予想出来るものよりも、最後の最後まで何が出てくるのか分からない方が後々の楽しみが倍増するし」
ウイニングチケット、ビワハヤヒデと並んで『BNW』と呼ばれるようになったことで、色々と忙しくなったタイシンは、そっち方面の事にも理解を示すようになっていき、こうした話にも普通に着いて行けるようになっていた。
因みに、それはクリークも同様で、彼女もオグリキャップやイナリワンと一緒に『永世三強』と呼ばれるようになり、よく雑誌のインタビューや写真撮影、テレビの出演などが増えていった。
「さっきのモンスニーじゃないけどさ、何か手伝いが欲しかったらいつでも言って良いからね。出来る範囲で手を貸すからさ。いいでしょ? トレーナー」
「勿論だ。その事を前提にしたスケジュールを予め組んでるからな。そこら辺は安心してくれていい。あ、因みに俺には手伝いとか要求するなよ? マジで何も出来ない自信があるからな」
「大丈夫。流石にトレーナーの手を煩わせるような真似はしないよ」
それ以前に、大久保がトレーナー業以外はからっきしな事はチームレグルスに所属しているウマ娘ならば全員知っているので、そんな事は最初から全く言う気は無い。
「しかし…幾ら名家のウマ娘とは言え、現役の学生にイベントのマネージャーをやらせるって…メジロ家もかなり大胆な事をするよな」
「私も同じことを思ったけど、お婆様曰く『何事も経験』らしいよ」
「うわぁ…名家ってのは大変だ」
「まぁね」
名家ならではの文化にドン引きしながら、大久保は今後の細かいスケジュールを改めて組んでいくのであった。