ウマ娘 ~伝説の好敵手~   作:とんこつラーメン

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説得

 三人のメジロのウマ娘達を中心に白熱していくフリースタイル・レース。

 それを見ていたのは、何も観客達だけではなかった。

 

「うっわー…流石はモンスニーだねー。相変わらずの物凄い追い上げ…あたしもあれには何度も何度も警戒されられたっけー」

 

 他の観客に混じって無邪気に笑っているのは、モンスニーの友人にしてライバルのミスターシービー。

 前に言った通り、彼女も今回のレースを見に来ていた。

 

「ホント…あんなにも楽しそうなモンスニーの顔…久し振りに見たよ…。なんだか妬けちゃうなー…なんちて」

 

 一人でツッコんでいるシービーだったが、その目は決して笑っていない。

 本当に羨ましいと思っているのだ。

 

「やっぱ…メジロの絆は強いんだねぇ…」

 

 彼女の一番の親友は今でも自分であると自信を持って言えるが、ラモーヌやドーベルは同じ『メジロ家』の一員。

 血の絆にはそう簡単には勝てなかった。

 

「ま…だからと言って諦めるようなアタシじゃないけどね」

 

 モンスニーと過ごしてきた時間はメジロ家のウマ娘達には敵わないかもしれないが、それ以外の事なら決して負けてない。

 今からでも十分に挽回できると本気で信じている。

 

「あたしの『追い込み』は、何もレースだけで発揮されるんじゃないって…モンスニーにも教えてあげるんだからね」

 

 今日この日、シービーの中で別の炎が産声を上げた。

 それが何なのかは彼女しか知らない。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 シービーとはまた別の場所では、とあるウマ娘が興奮と不安が入り混じった様子でレースを観戦していた。

 

「ドーベル…凄い! 凄いよ! ラモーヌさんやモンスニーさん相手に、あんな走りが出来るだなんて!」

 

 今回、少しだけ精神が不安定になっていたメジロライアン。

 モンスニーの言葉によって若干の安定を見せてはいたが、それでもやっぱり気になって、今回のフリースタイル・レースを見に来ていた。

 

「あ…ブライトもちゃんとプライヤーを配って…頑張ってるんだなぁ…。見た感じ、凄く順調そうだし…これなら心配いらない…かな…?」

 

 まるで自分自身に言い聞かせるかのような言葉。

 そうでもしないと納得できそうになかったから。

 

「…………」

 

 安心したような微笑から一変し、途端に不安げな顔に戻る。

 

(嬉しいのに…嬉しい筈なのに…どうして…こんな気持ちに…? やっぱり…頼って貰えなかった…から…?)

 

 モンスニーにも言われた通り、今回の自分は彼女達を見守ることに徹すると決めた。

 決めた筈なのに、それでもどこかで『寂しい』と思うのは、ライアンもまた『お姉ちゃん気質』だからなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 次の日。

 パーマーとブライトは再びメジロ家の重鎮たちにプレゼンを行っていた。

 

「…と、このように…SNSを中心に様々な形で告知をした結果、現時点で既に新規ファンの申し込みが250%以上に到達しました!」

 

 パーマーの結果報告に、この場にいる全ての重鎮たちが一斉に驚きの声を挙げる。

 

「それは非常に素晴らしいですね。こちらとしても、新しいファンが増えるのは願っても無い事。ですが…そうなると増々、前回我々が指摘した懸念が大きくなってしまいますね」

 

 そうだった。

 古参のファンと新規のファン。

 この二つをどうやって仲違いさせずに融和させるのか。

 それが最大の懸念にして問題となっていた。

 

「新規のファンの参加に伴って、昔から応援してくださっている方々を落胆させてしまっては意味が無い。この点…御再考いただけましたか?」

「勿論です。と言うことで…まずはこちらをご覧ください」

 

 そう言ってパーマーはブライトに目配せをすると、彼女が徐に鞄の中からタブレットを取り出して皆に見せた。

 

「今から見て頂くのは、新規ファンの獲得をする為につい先日行われたフリースタイル・レースに参加した時の映像です」

「メジロ家からは、ラモーヌさんとドーベル…それからモンスニーお姉さまが参加いたしました~」

 

 それを聞いた途端、一人の役員が怪訝な顔を見せた。

 

「フリースタイル・レースだって…? よりにもよってアマチュアのレースに出場するなんて、メジロ家の品格が損なわれるではないか!」

「そ…そんな…」

 

 まさかの言葉にパーマーとブライトが顔を曇らせる。

 万事休すか…そう思われた時、突如として部屋の扉が開いた。

 

「あら…この『私』と『お姉さま』の『愛』を疑うと仰るのかしら…?」

「だねー。その言葉は流石に聞き逃せないなー」

 

 入って来たのは三人のウマ娘。

 メジロラモーヌとメジロドーベル、そしてメジロモンスニー。

 先程言ったフリースタイル・レースに参加した面々だ。

 

「ラ…ラモーヌにモンスニー…!」

 

 まさかの相手の登場に、役員の顔が急に引き攣る。

 ドーベルはともかく、ラモーヌとモンスニーの発言力はメジロ家内でも決して侮れないから。

 特にモンスニーは次期当主と言う事もあって、彼女の言葉は殆どが当主の言葉に等しい力を秘めていた。

 

「私とお姉さまはレースを熱く抱擁し、激しく愛を語り合った。よもや…それが『お遊び』だったとでも?」

「プロもアマチュアも関係ない。レースはレース。そこにある情熱はどっちも本物だよ。それぐらい、メジロ家の人なら普通に分かってて当然だと思ってたけど…お姉ちゃん悲しいなー」

「う…ぐ…!」

 

 二人のウマ娘に気圧されて苦しそうな声を挙げる。

 そこへ更に叩きかけるように言葉を増していく。

 

「そもそも…いかなる場所、いかなるレースであっても真摯にレースと向き合う…それこそがメジロ家のウマ娘ではなかったかしら? ねぇ…モンスニーお姉さま?」

「ラモーヌの言う通り。それと…フリースタイル・レースに対する差別的発言…これは今度の幹部会で取り上げるべき議題の一つになりそうだねぇ~…?」

 

 他のウマ娘達とは明らかに違う圧迫感。

 堅物な役員も、これには流石に冷や汗を掻いた。

 

「い…いや…しかし! 価値観の違う者たち同士が理解し合うなど、それこそ夢物語だろうが!」

「…だって言ってるけど…ドーベルはどう思う?」

 

 ここでモンスニーがずっと黙っていたドーベルにパスを繋ぐ。

 それを受け取った彼女は、勇気を振り絞って言葉を紡ぐ。

 

「わ…分かり合えます! だって…本当にそうだったから…!」

「えぇ…その通り。実際にその目でご覧に頂ければ、きっとお分かりになりますわ。ブライト…映像をお願い」

「はーい。分かりましたわ~」

 

 ラモーヌに言われ、ブライトがタブレットのスイッチを入れる。

 すると、ディスプレイには先日のレースの光景が映し出された。

 

「こ…これは…!」

「本当に…ラモーヌとドーベル…モンスニーがレースをしている…!」

 

 メジロを代表する三人のウマ娘達がレース場を疾走する。

 特に、今はまだ調整中であるモンスニーが、アマチュアとは言え再びレースで走る姿を見て、重鎮や役員たちの何名かは思わず涙腺が緩む。

 

「ドーベル…粘って! 粘るのよ! ラモーヌに喰らい付いて! そこ! 今よ!」

「な…なんという追い込みだ…! 目の前にいるウマ娘達を全員揃って一気にゴボウ抜きしたじゃないか! 流石はモンスニー…あの恐るべき末脚は未だに健在か!」

「流石はメジロ家の至宝たるメジロラモーヌ…実に悠然とした走りだ。彼女と勝負が出来ているのは、我がメジロ家のウマ娘達だけじゃあないか」

 

 最初こそは色々と言っていた者達だが、すぐにレースの映像を見て素に戻り興奮した表情でタブレットの映像に釘付けになる。

 

「も…もうすぐゴールだ! 誰だ…誰が勝つッ!?」

「あのラモーヌと互角以上に渡り合っているっ!? まだモンスニーは本調子ではない筈だっ!?」

「それに比肩する走りを見せているドーベルも見事だわ。本当に誰が勝つか分からなくなってきたわね…」

 

 映像の中では段々とゴールが迫ってくる。

 そして…。

 

『ゴ―――――――――ルッ!!!! 非常に僅かな差ではありましたが、一着はメジロラモーヌ! 二着はメジロモンスニー! 三着はメジロドーベルとなりました! まさかのメジロ家の完全上位独占! これは流石と言わざる負えないかー!?』

 

 映像越しの歓声を聞きながら、重鎮と役員たちは満足した顔で背凭れに体を預ける。

 

「あ…あらやだ…おほほ…。レースを見た瞬間思わず…。でも、ラモーヌもモンスニーもドーベルも良い走りだったわ。特にモンスニー」

「ふぇ? 私?」

「えぇ。あの走りを見た感じ、来年の天皇賞(春)は期待してもよさそうね」

「勿論です。これから、まだまだ速くなりますから」

 

 これがモンスニーの全てではない。

 本当の勝負はまだ先なのだから。

 

「オ…オホン…! レースとなると、つい熱くなってしまいますな…」

 

 先程まで声を荒げていた役員も、いつの間にかレースに夢中になっていて、それが終わった事でようやく我に返った。

 

「ふふ…やっぱり、そうですよね! フリースタイル・レースの観客の人達も、今の皆さんみたいに凄く興奮して大盛り上がりでした!」

「そ…そうだったのか…」

「はい。同じようにレースに魅せられ、同じように興奮も出来る。ならば、同じように一緒に盛り上がることだって、決して不可能じゃないって思うんです」

「過去の歴史を重んじる事。新しい歴史を紡いでいく事。この二つは決して相反する思想ではないと思います。ちゃんと混じりあうことは出来るのですわ」

 

 ブライトの言葉を聞き、重鎮と役員たちは互いに顔を見合わせる。

 それを見て、彼女は更に言葉を紡いだ。

 

「新旧のファンの皆様の交流は、必ずやメジロ家に新たな風をもたらしてくれることでしょう。少なくとも、私とパーマーさまは、そう確信しております」

「もし、万が一にでも当日に微妙な雰囲気になったとしても、その時は私達で大いに盛り上げて、楽しませてみせますから!」

 

 これが駄目押しとなったのか、重鎮は役員たちの顔を見渡しながら意見を伺う。

 

「成る程…いざと言う時はウマ娘側でもフォローが可能。皆さんは何かご意見が有りますでしょうか?」

「…いや。懸念すべき部分は全て払拭された。問題は無いだろう」

「「それじゃあ…」」

 

 遂に最も問題だった部分が解決した。

 それは即ち…。

 

「では、これにて企画承認と致します。これから、よろしく頼みましたよ」

「「はい! お任せください!」」

 

 こうして、最初にして最大の難関が無事にクリアーされたのだった。

 

 

 

 

 

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