ウマ娘 ~伝説の好敵手~   作:とんこつラーメン

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姉妹

 無事にプレゼンを終え、廊下にてホッと一息つくドーベルにブライト、パーマーの三人。

 そこへ、つい先程も助け舟を出してくれた二人が近づいてきた。

 

「あ…ラモーヌさん! モンスニーさん!」

「「ん?」」

 

 三人を代表してドーベルが礼を言いに歩いてくる。

 その表情に緊張の色は見えていなかった。

 

「先程は本当にありがとうございました! アタシ達の事を後押ししてくれて…」

「さっきのは…『お礼』よ」

「お礼…?」

「えぇ。とても素敵なレースに誘ってくれた『お礼』」

「素敵なレース…」

 

 あの気位の高いラモーヌが『素敵』という言葉を使うとは。

 思わずドーベルの一瞬だけキョトンとなってしまう。

 

「モンスニーお姉さまと素晴らしいレースが出来た。これだけで私としては感無量…と言いたいけど、まだまだお姉さまは調整中の身…。あれが『本領』とは言い難いわ」

「たはは…ラモーヌの目は誤魔化せないね~」

「えっ!?」

 

 あれ程の実力をまざまざと見せつけておきながら、まだ本気ではない。

 モンスニーが調整中な事はドーベルも知っていたが、そんなのを抜きにしても今回のモンスニーは本当に凄かった。

 あの迫力と速度は、そう簡単に出せるものじゃない。

 

「ところでドーベル」

「は…はい。なんでしょうか?」

「アナタは…モンスニーお姉さまと一緒に走って、何を感じたのかしら?」

「ア…アタシは…」

 

 何を感じたのか。

 正面からそう尋ねられると言葉に詰まる。

 下手に誤魔化しても意味が無いと思ったドーベルは、素直な気持ちを言う事にした。

 

「兎に角…凄いと思いました。最後尾からの凄まじい追い上げ…文字通り、たった一瞬でアタシ達の所までやって来た末脚は、見ているだけでも鳥肌が立ちました。同時にこうも持ったんです。『これが、あの『時代』を走ってきたウマ娘なんだ』って」

 

 まだトレセン学園に入学する前、ドーベルは他のウマ娘達と一緒にモンスニーのレースを見に行ったことがあった。

 そのレースとは、あの『皐月賞』。

 ミスターシービーが三冠の第一歩を踏み出すことになるレース。

 誰もがシービーの圧勝を信じて疑わなかった場面にて、あろうことかギリギリのギリギリまで追い詰めたウマ娘がいた。

 それがメジロモンスニー。

 完全なる番狂わせ。

 あの『伝説』に唯一、敗北の二文字をちらつかせた存在。

 しかも、二度に渡って。

 惜しかった。あと少し。

 普通ならば、誰もがそう呟くだろう。

 だが、相手はあのミスターシービーなのだ。

 幾多のレースを圧勝し、誰もが三冠を取ることを疑わない最強クラスのウマ娘。

 そんなウマ娘が、初っ端から追い詰められるスタートをするなんて誰が想像するだろう。

 それをしたのが、自分達にとって『長女』とも言うべきモンスニーだった。

 例え、二連続の二着であったとしても、他のメジロのウマ娘達にとっては憧れと同時に誇りでもあった。

 ドーベルもそれは例外ではなく、いつかはモンスニーのように…と思った事がある。

 

「そう…それでいいの」

「え?」

「肌で感じ、走りで感じなさい。私達の前を行くウマ娘の偉大さを。その強さを。それがいずれ、アナタをもっと強くする」

「ラモーヌさん…」

 

 もしかしたら、自分は試されていたのかもしれない。

 彼女の実妹であるアルダンと同じように。

 

「にゃはは…本当にラモーヌは私を持ち上げるのが好きだねー」

「えぇ…大好きですわ。とっても」

 

 それは、どういう意味での『大好き』なんだろう。

 同人誌作家の顔も持つドーベル的には非常に気になった。

 

(どうしよう…一瞬だけ『これネタとして使えるかも』とか思っちゃった…)

 

 モンスニー×ラモーヌ。

 アルダンには申し訳ないけど、一度だけでいいから描いてみたいと思ってしまったドーベル先生なのだった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 帰り道、前を歩くドーベルとブライト、パーマーたちの背中を見ながら、ライアンは安心したような表情を浮かべていた。

 

(さっきの会議でのブライト…凄く堂々としてたなぁ…。ドーベルも積極的に話してたし…)

 

 可愛い妹とも言うべき彼女達の成長した姿。

 それを見れる事は本当に嬉しいことの筈だった。

 筈だったのだが…。

 

(どう…してだろう…。また…心の奥底に何かが引っかかっているかのような…そんな感じがする…)

 

 嬉しいのに、同時に悲しい。

 そんな相反する二つの感情に挟まれ、ライアンの顔は曇ってしまう。

 

「なんで…私は…心から喜ぶことが出来ないんだろう…」

 

 不意に口に出してしまった言葉。

 偶然にもそれを、近くを通りかかったラモーヌとモンスニーの二人に聞かれてしまう。

 

「「…………」」

 

 前に一度、モンスニーの口から慰めはしたが、どうやらそれだけでは効果が薄かったようだ。

 だからこそ、ライアンは今もこうして悩んでいる。

 

「ライアン」

「え? あっ!? ラモーヌさんにモンスニーさんッ!? い…いや…今のは違くて…その…」

「気にする必要はないわ。そういうものなのだから…『雛鳥の旅立ち』とは。ねぇ…お姉さま?」

「…そうだね。今のライアンの気持ちは、私も痛いほどよく分かるよ」

「モンスニーさん…」

 

 そうだった。

 今のモンスニーは、家にいるメジロ家のウマ娘達の中では最年長。

 それは即ち、自分以上に多くのウマ娘達の成長を見守ってきたと言うことにもなる。

 無論、その中にはライアンだって含まれている。

 

「今までずっと愛らしく見上げていた筈の瞳は、いつの間には自分ではなく空を見据え、羽ばたきの意志を称える」

「子供の成長は早いとは良く言うけど…本当にその通りだよね。気が付いた時にはもう、一人で色んな事が出来るようになってる」

(雛鳥の旅立ち…一人で色んな事が出来るようになって…)

 

 そこまで言われて、なんとなくだが分かったような気がした。

 『姉』として、今の自分が本当に成すべき事を。

 

「…と、私たちからはここまで。後は『あの人』に任せましょうか?」

「そうだね。偶然か、それとも必然か。ここで出会ったのは何かの縁だと思うしね」

「え? ええ?」

 

 二人が何を言っているのか分からず混乱するライアン。

 そんな彼女を余所に、ラモーヌとモンスニーは揃って後ろを振り向き、微笑みながら『彼』に後を任せる。

 

「それじゃあ…」

「後はお任せしますね」

「「冴島トレーナー」」

「おう」

「えぇっ!?」

 

 二人の背後に現れた巨大な人影。

 それはライアンが良く知っている人物。

 彼女の専属トレーナーである冴島大河その人だった。

 

「「じゃあ、私達はこれで」」

「ちょ…ちょっとぉっ!?」

 

 ニコニコ笑顔で手を振りながら去って行く二人を見ながら、思わず目が点になるライアン。

 状況が急転直下過ぎて頭が追いつかない。

 

「なんや、いきなりラモーヌとモンスニーの嬢ちゃん達に連行されたんやが…まさかライアンがおったとはな。こないな所で何をしとるんや?」

「えっとですね…」

 

 取り敢えず、ライアンは今の状況と事情を詳しく話す事に。

 すると、冴島はすぐに理解したようでウンウンと頷いてくれた。

 

「成る程な…メジロ家のクリスマスイベントか。そないなもんがあったんやな」

「はい。毎年、伝統としてメジロ家のウマ娘達の誰かが代表してマネージャーをする事になるんです」

「で、今年はパーマーとブライトの二人が選ばれたっちゅーことか。ライアンもやった事があるんか?」

「はい。私の時はマックイーンと一緒にやりました」

「ほぉ~…あのお嬢さんとか」

 

 冴島の中でも、マックイーンは『お嬢様』なイメージがあったのか、意外な組み合わせと思った。

 

「ところで、トレーナーさんはこんな所で何を? 何処かにお出かけしてたんですか?」

「ん? 俺か? 俺はまぁ…なんや。墓参りや」

「お墓参り…?」

「そや。今の自分の報告ついでにな。妹と…兄弟にな」

「妹さんと…兄弟?」

「あぁ。と言っても、どっちとも実際に血が繋がってる訳やないけどな。妹の方は父親の連れ子で、兄弟の方は…家族のように仲がいい親友って所やな」

 

 厳密には全く違うのだが、女子高生であるライアンにその辺の事を詳しく説明しても分からないだろうと判断し、適当に誤魔化しておいた。

 

「そうなんですね…なら、いつか私もお墓参りに行かないといけないですね。トレーナーさんの担当ウマ娘として」

「…そやな。今度行く機会が有ったら、一緒に行こか」

「はい!」

 

 最初見た時は、なんだか浮かない表情をしているように見えたが、今の会話で少し元気を取り戻したと判断した冴島は、ここで思い切って尋ねてみる事に。

 

「それで、ライアンは何を悩んどるんや?」

「え?」

「まさか、それで隠しとるつもりなんか? お前は出会った時から感情が顔に出やすかったからな。ライアンが何か悩みを抱えとることなんて一発で分かったで」

「あはは…やっぱりトレーナーさんは凄いなぁ…」

「人生経験だけは豊富やからな」

 

 人生経験と言っているが、冴島の場合はその殆どが荒事ばかりなので、あんまり参考にはならないかもしれない。

 それを抜きにしても、彼が人格者であることには違いないが。

 

「もしかして、さっき話しとったクリスマスイベントが関係しとるんか?」

「はい…実はそうなんです…」

「そうか…」

 

 トレーナーの仕事は何も、担当ウマ娘達のトレーニングメニューを考えるだけではない。

 時には一緒に悩み、時には一緒に遊ぶ。

 彼女達のメンタルケアも立派なトレーナーとしての義務なのだ。

 冴島の場合は、仮にトレーナーでなくても普通に悩みを聞いてしまうが。

 生来の人の良さもあるが、昔は教師を目指していたと言う事もあって、基本的に目の前で困っている人を放ってはおけない質なのだ。

 実際に、冴島の懐の深さと人柄の良さで何人もの悩める人々を救ってきている。

 やよいには、その部分を非常に高く評価されてトレセン学園にトレーナーとしてスカウトされた経緯があったりする。

 

「少し冷えてきたな。丁度そこに喫茶店があるし、あそこで暖でも取るか。ライアン、行くで。偶にはトレーナーらしく、茶ぁぐらい奢ったる」

「偶にはって…トレーナーさんはいつも奢ってくれるじゃないですか。私がどれだけ『割り勘で良い』って言っても」

「ん? そやったか? まぁええわ。それよりも、早よ行くで」

「はい! 今日もゴチになります!」

 

 そうして、二人仲良く近くにあった喫茶店へと入って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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