全ての準備が終わり、遂に待ちに待った日が訪れた。
「「「「「『メジロ・クリスマス・ナイト』へようこそ~!」」」」」
「よーこそー!」
やって来た客たちに、メジロ家のウマ娘達とツインターボが挨拶する。
一緒にいたラモーヌは終始ニコニコしているだけだったが。
「お…おぉ~…! 本当にメジロのウマ娘が揃ってる…けど、どうしてツインターボも一緒?」
「おま…知らねぇのかよ…? この子の遠い親戚のお婆さんがメジロ出身のウマ娘だったんだよ」
「マジでッ!? ってことは、ツインターボの中にもメジロの血があるってことなのか…」
「そう言うことになるな」
案の定と言うか、ターボがいる事に驚く者達もいたが、彼女がメジロの関係者であることは既に周知の事実であるので、すぐに事情を知っている者からの説明が入り、皆が納得してくれている。
「皆さん、今日はお越しいただいてありがとうございます! 向こうにあるログハウスの受付にて、パンフレットをお受け取りください!」
「グリーティングが始まるまでは、会場内にある各種アトラクションなどを御自由にお楽しみくださいまし」
今回の主役にしてマネージャーでもあるパーマーとブライトが軽い会場案内を行う。
緊張している様子はなく、とてもスムーズに案内が出来ていた。
「ログハウスの受付って…あそこかな?」
嘗て、フリーレースにて知り合った指輪だらけのウマ娘が視線を巡らせると、そこにはこの喧騒にも拘らず一際騒がしい場所があった。
「おーう!! 今日は良く来やがったな! オメーら!! 遊んで遊んで遊びまくって! このまま来年の正月まで熱が冷めないぐらいに堪能していきやがれ!!」
「「「「まさかの受付がゴールドシップっ!?」」」」
そう…会場の出入り口とも言うべき受付には、何故かゴルシが担当していた。
しかも彼女、今回は自ら立候補してからの配置だった。
因みに、今回のゴルシは、ちゃんとドレスコードを守ってサンタの衣装を着ていたりする。
元々がスタイル抜群の美少女なので、それだけで凄く絵になった。
「おうおう船子! まだパンフレットはあるよなっ!?」
「当たり前だのかーちゃんのクッキーはイチゴ味ってな! 全然余裕あるから心配はいらねーゼ!!」
「「「「ゴルシそっくりな女の子も一緒にいるんですけどッ!?」」」」
またもや時空を超えて船子がしれっと参戦している。
一応、今の彼女は学年別トーナメントで忙しい筈なのだが。
勿論、彼女もゴルシと同様にサンタ衣装をちゃんと着用している。
「うっわー…この光景マジでパネェ…。メジロ家のウマ娘勢揃いって感じ?」
「いいえ。残念ながら全員ではありませんわ。此度はメジロマックイーン様とメジロアルダン様が別のイベントに出席する関係で御不在となっていて、その代理としてメジロ家の御親戚であらせられるツインターボ様とゴールドシップ様がいらっしゃるのです」
まさかの『様』付けで自分の名前を呼ばれたことで、ターボの顔が少しだけ赤くなる。
「…ねぇドーベル。今、ターボ…『ツインターボ様』って呼ばれちゃった」
「そうだね。ターボも立派な『メジロ家のウマ娘』だもんね」
「うん!」
寒空の下でも元気いっぱいなターボに、場の空気がほんわかになった。
やっぱり可愛いは正義だった。
「どもー。こんちわー」
「うわぁ~! 二人とも、とっても可愛いね~!」
「えぇ。とても素晴らしい衣装です」
「あ! ネイチャにマチタンにイクノ!」
先程の客が去っていた後にやって来たのは、ターボと同じチームに所属しているナイスネイチャとマチカネタンホイザとイクノディクタスの三人。
実は今回、ターボが参加していると言う事で特別に来賓として彼女達を招待したのだ。
「今日はお招きいただき、本当にありがとうございます」
「いやいや…そんなに畏まらなくていいって! 今日の三人はお客さんなんだからさ。それに、今日のクリスマス・ナイトはターボが手伝ってくれなかったら最初から躓いてた可能性もあったから。そのお礼を考えれば、これぐらいは安い物だよ」
「へぇ~…ターボってば、そんなに活躍してたんだ。凄いじゃん」
「えへへ…」
パーマーからの説明を受け、まるでお姉さんのように微笑みながらターボの頭を撫でるネイチャ。
同じチームメイトとして誇らしいのだろう。
「皆も、あそこにいるゴルシからパンフレットを受け取ってね」
「うっわ…ゴルシさんも一緒って話…本当だったんだぁ~…」
「ゴールドシップさんはマックイーンさんの御親戚ですからね。きっと、マックイーンさんの代わりに手伝ってくれているのでしょう」
「成る程ね~。あの二人、仲良いもんね~」
モンスニーからの案内を受け、チームカノープスの三人はゴルシの元へと行くことに。
「おぉ! オメーらも来てたのかッ!? おっし! 同じトレセン学園生のよしみで、特別にゴルシちゃん特製のスルメをクリスマスプレゼントだ!」
「「どうしてクリスマスにスルメッ!?」」
「これは良いですね。良い顎の運動になりそうです」
「「イクノが普通に受け入れてるっ!?」」
早くもツッコミが追いつかなくなっているネイチャたち。
少なくとも、彼女達が暇をする事はなさそうだ。
「にしても、イクノちゃんが来てたって聞いたら、マックイーンは残念がるでしょうねぇ~」
「そっか…マックイーンとイクノちゃんって同室だから…」
「それ以上に、マックイーンって何気にイクノちゃんのこと大好きだしね」
「えっ!? そうだったんですかッ!?」
モンスニーから、まさかの関係を聞かされて驚きまくるライアン。
普段から恋愛に憧れている彼女からしたら完全に寝耳に水な情報だった。
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ある程度、お客が入り終えた後、パーマーから会場に向けての案内がされた。
「それでは、これより『メジロ・グリーティング』を開始します! ウマ娘達との一時を、どうぞごゆっくりとお楽しみください!」
今回のメインイベントが始まり、新規のファンであるロックな青年が大きく叫んだ。
「よっしゃー! FOOOOOOOOOOO!!!」
「こ…今年は随分と賑やかなファンもいるようですね…」
明らかにテンションが違う相手に戸惑いを隠せない古参のファン。
だが、それこそが今回の最大の目的でもあった。
「メジロ・グリーティングって何?」
「要するに、メジロ家のウマ娘達と一緒にお話とかをして楽しむ、一種のフリータイムみたいなもんだよ」
「ふーん…成る程ねー」
新しいファンには流石に分からなかったのか、偶然にも隣にいた中堅のファンが密かに教えてくれた。
こう言った交流を通じて、新規と古参が仲良くなってくれれば…というのが今回の主目的だ。
「あのー…質問があるんですけどー」
「なんですか?」
「そのグリーティングって、特別参加してるゴールドシップやツインターボとも話が出来るんですかー?」
「出来ますよー。あの子達も立派な『メジロ家のウマ娘』ですから」
「「「「おぉ~!」」」」
本人達は知らない事だが、その明るい性格や容姿などで実は思っている以上にファンが多い。
実際、今回やって来たファンの中にはターボやゴルシ目当ての者達も割と多い。
「何処に誰がいるかは、お手元にあるパンフレットを見てご確認ください」
「皆様の御来訪を楽しみに待っておりますわ~」
ブライトの言葉を皮切りに、メジロ・グリーティングが始まったのだった。
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場面は変わって受付のログハウス。
メジロ・グリーティングの開始と同時に受付をゴルシから交代したドーベルが案内係をやっていた。
(ふぅ…流石に受付なら男性相手でもどうにかなりそう。グリーティングに出られないのは情けないけど…)
少しずつ慣れてはきているものの、やはりまだ男に対しての苦手意識が拭えないドーベル。
それを看破していたのか、ゴルシからドーベルに交代を言ってきたのだ。
(今回はゴルシに感謝しないとな…。破天荒に見えて、意外と気遣いが出来るから憎めないんだよね…あの子)
かくいうドーベルも、マックイーンと同じようにゴルシの事を何気に認めているウマ娘の一人だったりする。
だから、今回のゴルシの提案によって、彼女への好感度は更に上がっていたりする。
「お? さっきから黙って…どした? 腹でも減ったか? 船子ちゃん特製のチョコバナナでも食うか?」
「だ…大丈夫。心配してくれて、ありがと…」
ドーベルの顔が少し暗く感じた船子から心配され、苦笑いを浮かべる。
ゴルシそっくりの少女が目の前にいれば当然の反応かも知れないが。
(この船子って子…本当に何者なんだろ…? っていうか、ゴルシとはどんな関係なの?)
それに関してはツッコむだけ無駄なので止めることを推奨する。
考えたら負けな事も世の中には多々あるのだ。
「受付ってのはここで合ってるかな?」
「あ…はい。ここで合ってま……え?」
受付にやって来た人物を見て、思わず固まってしまうドーベル。
それもその筈。
相手は彼女が良く知っている人物だったから。
「ば…馬場…トレーナー…? ど…どうしてここに…?」
「モンスニーさんから招待されてね。担当ウマ娘の晴れ姿を見てやってほしいってさ」
坊主頭で細身の筋肉質な体付きの男。
彼の名は『馬場茂樹』と言って、あの冴島と兄弟分の盃を交わした弟分にして、彼を追う形でトレーナー試験を受けて見事に資格を得て、その後にトレセン学園を訪れてから紆余曲折を経てドーベルのトレーナーとなった人物。
男性が苦手なドーベルが気を許している、数少ない異性の一人。
それと同時に、ちょっぴり気になっている相手でもあったりする。
「俺だけじゃなくて、冴島の兄貴も一緒に来てるんだ。ライアンさんの所に行くって言ってたよ」
「そ…そうなんだ…」
冴島もまたドーベルが心を許している異性の一人で、最初こそはその強面と体の大きさに怯えていたが、ライアンを通じてすぐにその人柄の良さを知って、更には自分のトレーナーの兄貴分と言う事もあって、今じゃ普通に会話が出来るほどになっている。
「おぉ? ドーベルちゃんよぉ…もしかして、このにーちゃんってオメーの『コレ』か?」
「ち…違うから。この人は私の担当トレーナー。私の様子を見に来てくれたんだよ」
「ふぅ~ん…?」
ニヤニヤしながら小指を立てる船子に、顔を真っ赤にしながら否定するドーベル。
だが、船子には分かっていた。
ドーベルが馬場に対して特別な想いを抱いている事を。
「そんじゃ、船子ちゃんは奥でパンフレットの残りでもチェックしてこようかね~」
「ちょ…ちょっと船子ッ!?」
「そんじゃ、後はお若い二人でごゆっくり~」
後ろを向きながら手を振って去って行く船子。
残されたのはドーベルと馬場の二人だけ。
「えっと…あの子は? ゴールドシップに良く似てたけど…」
「金野船子って言う…ゴルシがどこからか連れてきた手伝いの子。ここでずっと受付の手伝いをしてくれてたんだ」
「そうだったんだ」
「ねぇ…トレーナー。今から、何処かに行く予定って…ある?」
「予定? いや…まだ決めてないけど…」
「だったらさ…もう少しだけ…ここにいてくれない? そっちが良かったら…だけど…」
「君さえよかったら、俺は幾らでもいるよ」
「そ…そっか…」
なにやら受付のログハウス全体が急に甘酸っぱい空気に包まれた。
それと同時に、近くにいたファンの皆が生暖かい目で二人の事を見つめていた。