主にアドマイヤベガの育成をした影響で。
最初はオリジナルのウマ娘にしようかとも思いましたが、どうせなら史実の競走馬で実装されていない子にしようと思って色々と調べました。
調査をしている途中で『メジロにいい馬がいないかな』と絞って探していたところ…いましたよ。
私の心の琴線にばっちし触れたお馬さんが。
今回は、そんな彼女が主人公です。
メジロ家の所有する大邸宅。
そこの一室にて、車椅子に乗ったとあるウマ娘が一人の老婆と対面していた。
「…考えを変える気は無いのですね」
「はい。もう決めた事です」
「そうですか……」
老婆は帽子を深く被り表情が読み取れないが、どこか寂しそうな顔をしているように見えた。
「これ以上、私のようなウマ娘がここにいたら、マックイーン達の成長の邪魔をする事になってしまう。そんな真似だけは絶対にしたくない」
「そんな事はありません。あなたは……」
老婆が自分を卑下する彼女を擁護しようとするが、それを彼女は首を横に振って止めた。
「その言葉だけでも私には十分過ぎます。ですが、何をどう言い訳をしても、私が『敗北者』である事実は変わらない。私はあの子達のようにはなれなかった。メジロに生まれながら、メジロの名に泥を塗るような事しか出来なかった恥さらしであり面汚し」
疲れたように笑いながら、彼女は自分の事を否定し、肩を落とす。
その目には光は無く、同時にやる気も感じない。
全てを諦め、全てを捨てた。
まるで世捨て人のような表情をしている。
「それに、この足じゃもう走る事は出来ません。残念ですが」
残念と言いながらも、ちっとも残念そうではない。
その右足には痛々しいほどに包帯が巻かれていて、歩く事すらもままならないようだった。
「惨めったらしく足掻いた結果がコレです。本当に恥ずかしい…」
「ですが、その足掻きの末に貴女は去年の『高松宮』で勝つ事が出来た」
「今年の高松宮は惨敗でしたけどね。恥の上塗りをするぐらいなら、あの時…『神戸新聞杯』の後に足を骨折した時に潔く引退しておけばよかった。自分の引き際すらも見極められないなんて…情けなくて自分が嫌になる」
己を不甲斐無さを戒めるかのように、そっと太腿に手を当てて擦る。
勝つ事が出来ない。期待に応えられない。走る事が出来ない。
そんな自分に存在価値なんて無い。
少なくとも、彼女は本気でそう思い込んでいた。
「…どんな具合なのですか?」
「骨折自体はちゃんと治療に専念すれば治ると言われました。ですが……」
「何か問題が?」
「無理をし過ぎた代償…ですかね。日常生活をする分には全く問題は無いそうですが、レースへの復帰は絶望的だそうです。どうも骨折癖が付いてしまっているらしく、下手に走ろうとしてまた骨折でもしたら、その時はもう二度と立って歩く事すらも出来ないだろう…と」
「そう…ですか…」
幾ら名家の栄光のためとはいえ、彼女の人生と天秤に掛ける訳にはいかない。
どちらが重いかなんて、問われるまでもない事だ。
「これからどうする気ですか?」
「まずはメジロの療養所に行って歩けるぐらいには足を治そうかと。そうしない事にはどうにもなりませんから」
「トレセン学園はどうする気ですか?」
「…辞めるつもりでいます。走れない私がいても意味無いですから。それに…」
「それに?」
震える手を握りしめ、自分の心情を吐露するかのように呟いた。
「…あそこにはルドルフやシービーたちがいる…。彼女達の走っている姿を見たら未練が生まれそうな気がするんです。何も残せなかった私だからこそ、最後ぐらいはメジロとして潔く去りたいんです」
「……………」
彼女の決意は非常に硬い。
生半可な言葉では決して覆せない程に。
「自主退学するタイミングは、療養所に移る前にしようと思います。もう既に退学届は書いてありますから、明日にでも理事長に渡しに行こうと思ってます」
「…そこまで決めているのならば、私からは何も言う事はありません」
それは嘘だ。
本当は何が何でも引き留めたい。
ここにいて欲しいと言いたい。
だが、彼女の意志を無視するような事もしたくない。
相反する感情による葛藤で悩んでいる間に、彼女は器用に車椅子を反転させてから部屋を出ようとする。
「…今まで長い間、お世話になりました。それと…メジロの栄光に泥を塗るような真似をして、本当に申し訳ありませんでした」
「モンスニー…」
「私のような者の事は早々に忘れて、これからはマックイーン達のような才覚溢れる若者たちの事を大事にしてあげてください。では…失礼します」
まるで遺言のような言葉を残し、彼女…『メジロモンスニー』は静かに部屋から出て行った。
室内には痛々しい程の静寂だけが残留していた。
「貴女は勘違いをしています…。モンスニー…貴女もまた立派にメジロの名乗るに相応しいウマ娘なのですよ……」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
…
車椅子を動かして屋敷の玄関ホールまでやって来ると、そこには今のメジロを代表する面々が勢揃いしていた。
メジロマックイーン。メジロライアン。メジロドーベル。
メジロパーマー。メジロアルダン。メジロブライト。
いずれもこれからの競走界を支えていくであろう若い才能に溢れたウマ娘達だ。
メジロモンスニーには全員が眩しすぎる存在でもある。
「どうしたの。こんな場所に揃ったりして。珍しい」
「先程の話…本当なのですか?」
「話って?」
「とぼけないでください!」
マックイーンが怒った顔で尋ねてきたが、すぐにとぼけてシラを切った。
だが、それによって逆に彼女を怒らせることになってしまう。
「どうして…どうして学園を去るなんて事を言うのですか…モンスニーさん」
「さぁ…なんでだろうねぇ?」
飄々とした態度で受け流すモンスニーに対し、感情が爆発したマックイーンは普段の彼女からは考えられないような叫び声を出した。
「テイオーも…私も! 同じような苦難を乗り越えました! だから貴女もきっと!」
「マックイーン」
静かだが、力強い一言にマックイーンは黙ってしまう。
まるで何もかもを見抜いているかのような視線に見つめられ、思わず顔を逸らそうとしてしまった。
「私と君達とじゃ似ているようで全く違うよ。知ってるでしょ? 私の戦績」
「それは……」
「仮に足が無事に治って前と同じように走れたとしても…私はもう勝つ事は出来ない。この足が折れた時に、私の心も同じように折れてしまったから。どんなに頑張っても、私はメジロの名を汚すような真似しか出来なかった。そんな私に、皆と同じ場所にいる資格は無いよ」
目を伏せて、無表情のままモンスニーは玄関に向けて車椅子を動かす。
それを彼女達は黙って見ている事しか出来なかった。
「でも…それじゃあシービーさんが……」
「あれは世間が勝手に言ってるだけ。シービー自身は私の事なんて歯牙にもかけてないよ。そもそも、天下の三冠ウマ娘と私とじゃ実力が違い過ぎるでしょ」
ライアンが悲しそうな顔をしながら、モンスニー終生のライバルと称された存在の事を言うが、それでも彼女の意志は揺るがなかった。
扉まで到達すると、右手で器用に開けてから、左手で車椅子を動かして外に出る。
もう完全に使い慣れている印象だ。
「そうだ。空いた私の部屋は皆で好きなように使っていいからね。物置にするなり、なんなりしてさ。それじゃ…また学園で」
最後にそれだけを言い残し、モンスニーは出て行ってしまった。
それを見ながら、ドーベルが静かに呟いた。
「その天下の三冠ウマ娘と僅差の激戦を2度も繰り広げたのは、どこのどいつなのよ…」
まずはプロローグ的な感じで短めに。
次回からは文字数を増やしていく…かもしれません。
実際にモンスローとレースをしたミスターシービーやシンボリルドルフとの絡みを書いていきたいですね。