※注意
現在開催中のイベント、『不忍の心』のネタバレを含んでいます。
『誕生日に欲しいもの、ですか? そうですね……
その、ものじゃなくてもいいなら……今度開催される、ゲヘナと百鬼夜行の交流会を、私と一緒に回っていただけませんか?』
天然上目遣いのお願いを聞いて、百鬼夜行でのお祭りデートをすることになった。フウカにそう言ったら、すごい顔を赤くしてたけどな。
そんでもって、現在。客引きに興味を持ったフウカと一緒にとある店へ入ったのだが。
「いやあ、流石シャーレの先生だ。何着ても似合うとは、色男の面目躍如だねえ!」
「そりゃどーも。店主さん、これ余計人相の悪さを引き立ててねえか?」
「いやいや、ちょっとおっかないイケメン軍人くらいだよ!」
つまり怖いんじゃねえか。まあ面が凶悪な部類なのは自覚してるけどよ。
貸衣装の店主さん(犬)に勧められた俺の服装は、大日本帝国時代の陸軍制服。マントと軍刀も付けた本格的な奴で、鏡で見るとかなり威圧的に写っている。
「先生、お待たせしました……」
「お、フウカ。そっちも終わってーー」
試着室から出てきたフウカの声に振り返りーー言葉を詰まらせてしまった。
そこには藤紫の着物に藍色の袴という、落ち着いた色合いながら華やかな印象を与える格好に変わったフウカが、恥ずかしそうに立っていた。
普段三角巾とツインテールでまとめられた髪は腰までのストレートに下ろされており、桜を模した髪飾りも合わせて普段とは違う、清楚で優美な姿に様変わりしている。
まあ何だ、陳腐な表現だけどーー綺麗だな、本当に。
「あ、あの、先生? どこかおかしかったですか?」
「あ? あー、すまん。見惚れてたわ」
「え? ―ーえ、ええ!?」
あ、やべ。つい本心が出ちまった。
「お、やったなゲヘナのお嬢さん。先生のハートを手に入れたみたいだぞ」
「はははハート!? わ、私はそんな……でも、先生ならその……」
店主さんの煽りに顔を真っ赤にしながらも、指先を突きながらこちらをチラチラと見ているフウカ。オイヤメロ、何か脳への破壊力が高いんだよ。
「今回のテーマは『女学生をエスコートする軍人さん』にしてみたよ。いやあ、お似合いだね二人とも!」
「お、お似合いって……」
「フウカ、この人の話聞いてるとキリないからもう行くぞ」
「ひゃっ!? あ、先生!?」
「じゃあ店主さん、閉店までにはもう一度寄るので」
「おう、毎度あり! 百鬼夜行を愉しんでくれな!
お嬢ちゃんも頑張りなよ!」
「は、はい!」
何を頑張るんだよ、というか誕生日の人間を頑張らせるな。
褒め殺し戦法から逃れるため、フウカの手を引いて貸衣装の店を出る。四方八方から視線を感じるけど、無視だ無視。
「っと、悪いなフウカ。逃げる目的で急に手なんか繋いじまってーーおん?」
店から去って離そうとしたら、フウカが握る手に力を込めた。
「あの、先生……今日はエスコート、してくださるんですよね?」
何かを期待するように、紅玉の瞳をこちらへ向けるフウカ。衣装も変わると雰囲気も変わるものなのか。
さすがにそれを察せないのはどうかと思うので、俺は微笑みながら
「もちろんですよ、お嬢様。さ、どちらに向かいましょうか?」
などと、役に則って恭しく頭を下げる。ちょっと気障すぎたかもしれない、我ながらどうなんだこれ。
「は、はい! あの、よろしくお願いします!」
「なんでそんなガチガチなのよ」
「いや、そんな先生にかしずかれるなんてビックリしちゃって……」
それだと俺が普段偉そうって聞こえるんだが。まあフウカにそんな意図ないはずだ。多分
「あ、でもこの衣装高いんじゃーーわぷっ」
「誕生日の時くらい気にするなっての。俺は眼福なんだから、お釣りが来てるくらいだよ」
「眼福……あ、ありがとうございます。先生も、その……かっこいい、ですよ」
「……そっか。ありがとな」
お互い褒めた後、何とも言えない沈黙が俺達の間を支配する。
何だこの甘酸っぱいというーー
「あれが指定されたターゲットだ! そこのリア充オーラを撒き散らしてるやつ!」
「よし、じゃあ行きますぜアネゴ!」
「ひゃ!?」
「ーーは?」
突如お面を付けた百鬼夜行の女生徒が、訳の分からんことを言ったと思ったらフウカを手際よく拘束し、俺から引き離す。
「わはははは! 『和楽姫』はいただいたぜ色男―!」
「取り戻したければゴールまで来てくだせえな!」
「え、え、なにこれなにこれ!? せ、先生、せんせー!?」
「は? あ? ちょ、フウカ!?」
両手両足を持って不審者がフウカを連れて行く異常事態に、フリーズしていた脳が攫われたことを理解するも、時すでに遅し。路地裏に逃げ込まれてしまった。
「っていうか、『和楽姫』って……」
前回は交流会ということでゲヘナの生徒であるイブキがやっていたが、普段はチセがやってるんじゃ。
「……」
考えても答えが出ないことを察した俺は、スマホに登録した電話番号をタップ。決めつけは良くないが、あいつが糸を引いてるとしか思えん
『はいはい、こちら陰陽部』
「おいどういうことだニヤ」
『ちょ、先生。最後まで言わせてくれません?』
「うるせえ、さっさと答えろ。じゃないとシャーレ名義で陰陽部に抗議文書を送るぞ」
『いや怖!? えーと、もしかしてお怒りですかね?』
「これくらいでキレてねえよ」
キレてるなら陰陽部の部室に突撃してショットガンぶっ放してるわ。火炎瓶と閃光弾(スズミ特製)とロケランを付けてな。
『それキレてる人のセリフですわ……えーと、それで何を説明すれば』
「『和楽姫』の件だよ。フウカを攫った理由は何だ」
『ああ、フウカさん言うんですかあの人。気合入った衣装してましたよねー。
いやあ、実はですね? 交流会の最中、チセちゃんだけじゃなくゲヘナの生徒さんを『和楽姫』に仕立てるのも面白いかなーと』
「微塵も反省してねえなお前」
それで前回大騒ぎになったんだろうが。建物もいくつか吹っ飛んだから、修理費用と修繕の人員に関する仕事が追加されたっつうのに。
『まあまあ、折角の交流会ですし、楽しまなきゃでしょ?
幸い、今回の和楽姫には立派な護衛さんが付いてるみたいですし、期待してますよー先生』
「後で覚悟しとけよ糸目鬼」
『え、それ私のこーー』
何か言ってるが、聞くことは聞いたので通話を切る。今回はトラブルではなく予定調和っぽいので、陰陽部や百花繚乱紛争調停委員会が出てくることもないだろう。
「フウカ、ここでも攫われるのか……」
そういう星の元に生まれてるのかと思ったが、悲しすぎるので考えるのはやめておこう。
「さて、お姫様の救出といきますか」
腰にマウントしてたショットガンを手に持つ。柄じゃないが、誕生日がアクシデントで終わるとか流石にねえわ。
で、前回忍術研究部+イロハと一緒に辿った道を進んでいこうとして。
「先生、ようこそおいでくださいマシタ!」
「残念ですが、ここから先は通しませんよ!」
「…………」
そういやアトラクション付きだったのを忘れてたわ。
これ、普通の生徒はともかく俺には不利すぎねえか。戦えるってだけで、キヴォトス人ほど頑丈でも無ければ強くねえよ。
(仕方ない……この手を使うか)
だが、ゴリ押しするだけがやり方じゃない。
見せてやる、大阪で身に着けた俺のネゴシエイト(交渉)力を。
「おいシズコ」
「なんですか、先生? 幾らお世話になってるとはいえ、簡単に通したりは」
「ここにイベントの案件があるんだが」
「……伺いましょう」
よし、お祭り委員長モードの顔になった。これならいける。
「ゲヘナの期間限定出張店舗……しかも出店費用は向こう持ち!?
こ、これ、本当ですか先生!?」
「万魔殿からの正式な依頼だ、なんなら証拠の書類もあるぞ。
で、お前さえ良ければ百屋堂を紹介するが」
「……分かりました。先生のお墨付きということなら心強いですし、ここを通すだけでいいなら安い代償です。
フィーネ、先生を通してあげて」
「エ? いいんデスカ、委員長?」
「今回だけよ、何やら訳ありみたいだしな。
じゃあ先生、こちらの件お願いしますね」
「物分かりの良い生徒は好きだよ。じゃあ、通るぞ」
一瞬だけ握手を交わし、俺はシズコの横を通り過ぎる。
「残念、あなた達は通しませんよ!」
「あ、ずりいぞ先生! 一体どんな手を使ったんだ!?」
「覚えとけ学生共。これが『大人の力』だ」
「「「「「ドヤ顔で言うことかよ!!?」」」」」
うるせえ、手段を選んでられないんだよ今は。
そんな感じで、アトラクションを正攻法ではないが突破していく。なんか上空から陰陽部部長の煽り実況が聞こえるけど、無視だ無視。
「う、うーん……せ、先生、ここは簡単には通れないよー……」
「ツバキ、これ欲しがってた新作のマクラ」
「おお、これは……いい気持ち、すう……」
「よし、突破」
「いやどこに持ってたんだよその巨大マクラ!?」
別に隠しポケットくらい珍しくないだろ(真顔)
「ようこそいらっしゃいました、先生。前回は困惑させられてしまい仕舞たが、今回は負けませんよ……!」
「いやお前が自爆したんだろあれは。
とりあえず、お姫様が待ってるんだしさっさと通らせてーー」
「は、はう……!?」
「あ?」
「そ、そんな……先生にお姫様と呼ばれるなんて、今回の和楽姫はどれほどの大和撫子力を……!?」
「お前の中の大和撫子判定どうなってるんだよ。
……まあいいや、通らせてもらうぞ」
「あ、ちょっと待ってくだーーえ、はや!? なんでそんなに速いんですか先生!?」
逃げ足には自信あるんだよ、悲しいことにな。
「えー先生!? 何でこんなに突破早いの!? 新アトラクションなのに!」
「予備の会場を手配したのが俺なんだから、内部の仕掛けとか道順は覚えてるに決まってるだろ」
「ぶーぶー! 詐欺だー、チート行為だよー!」
「いや正当な攻略だろ。カードやるから大人しく通せ」
「え、いいの? わあ、これめっちゃレアな奴じゃん!」
チョロい(確信)
「はあ、ようやくゴールか……アラサーに長距離を走らせるんじゃねえよ……」
ゴール地点である演舞の間に到着し、乱れた息を整える。和装じゃなくて軍服で良かった、こっちの方が走りやすいわ。
「ふふふ、良くぞここまで来た」
「スコヴィル値一千万級の辛子弾かトリモチ弾ぶち込まれたくなければとっととフウカを返せコラ」
「え、何この先生怖!? そんなにこの人が誘拐されたの怒ってるんです……?」
「誕生日祝ってる相手が予定外の誘拐受けたんだから、さっさと返して欲しいに決まってるだろ」
「あー……それは、何かすいません」
本気で申し訳なさそうな顔をする誘拐役の生徒に、煮えていた頭が冷えてくる。
「別にいいよ、そっちも仕事だろうし。で、ウチのお姫様はどこよ?」
「あ、はいどうぞ。ここまで来たら、ゲームクリアになりますので」
「どうも」
道を開けてくれた生徒の横を通り過ぎるーー直前、小声で確認を取っておく。
(オイ、フウカを誘拐するよう指示されたか?)
(……あれ、バレてます?)
今の反応で確認取れたので、答えず
「あ、先生! 本当に来てーー」
「遅くなって申し訳ありません、姫君様。不肖苑藤メグル、お迎えに上がりました」
「あの、先生?」
「ご無事で何よりです。お手をどうぞ、帰りは私が護衛を務めますので」
「え、ええ!? えっと、あの……はい、お願いします……」
蚊の鳴くような肯定と共に、俺の差し出した手をおっかなびっくり取るフウカ。これ冷静になると何やってんだって気分になるが、走ってきたから変なテンションになってるな。
「いいなあ、あのゲヘナの人……」
「私もあんな風にお姫様扱いされたい……」
通り過ぎる際、誘拐役が羨ましそうにフウカを見ていたい。やめたげなさい、顔の赤味が増してるでしょうが。
「はあ、誕生日まで災難だったな。フウカ、大丈夫だったか?」
「あ、はい。誘拐役の方々、丁重にもてなしてくださったので。参考になるようなお菓子もいただきましたし」
「こういう時でも料理のことを考えるのは、らしいというかなんというか」
「あはは、癖ですねこれは。先生に美味しく食べていただくためにも、レパートリーは増やしていきたいですから。
……美食研究会みたいに、カーチェイスや銃撃戦が起きたわけじゃないですし」
「あー……」
もっと酷い体験をしたからか、遠い目になるフウカ。ゲヘナの生徒はフウカにもっと優しくしてやれ、マジで。
「大丈夫ですよ。今日みたいに、いつも先生が助けてくれてますから」
「……振り返ると、アトラクションを裏技で乗り切るのはどうかと思うな、俺」
「ふふ。でも、必死に走ってきてくださったの、私は嬉しかったんですよ?」
「そう言われるなら、救われるね」
「はい、そうなんです。
だからーーありがとうございます、先生。いつも、いつでも、私を助けてくれて」
「……改めて言われると、こそばゆいな」
「ふふ、先生の珍しい顔が見れちゃいました。これだけで、今日攫われた甲斐がありましたね」
「攫われたのは良いことじゃないだろ」
「時と場合によりけり、ですよ。
それじゃあ改めてーーお祭りを案内してくださいね、メグルさん」
「はいはい、喜んで案内させていただきますよお姫様」
むずかゆさを隠すために肩を竦め、笑顔で手を繋いだフウカと一緒に、一日中屋台を回った。
この子にとって、いい思い出になるといいんだけどね。
おまけ 後日
「よーし説教タイムパート2だ、カヤ。覚悟は出来てるんだロウな、答えは聞いてねえけど」
「あのー、先生? 流石に二回目はご勘弁というか、私も陰陽部としての仕事が」
「石抱きもセットでご希望か?」
「すいませんそのままでいいです」
キャラ紹介
先生
一応名前があった先生。誘拐について、そんなにキレてはいない。
フウカ
本日の主役兼被害者兼お姫様。ストレートフウカの概念流行れ(流行らない)
あとがき
百鬼夜行のイベントで一瞬だけいたのを思い出し、膨らんだネタ。フウカに平穏あれ。
それでは読んでいただき、ありがとうございました。