「改めてナギサ、誕生日おめでとう。これ、前に欲しがってた茶器一式。良かったら使ってくれ」
「まあ……ありがとうございます、先生。百鬼夜行のものは詳しくないですが、相当お高いのでは……?」
「誕プレなんだから気にするな。大阪時代の伝手で十三――百鬼夜行に近い、昭和の日本みたいな場所から取り寄せたものだけど、ナギサはシンプルなデザインの方が好きだろうし」
「ふふ……先生は私のことを、何でも知っているんですね」
「いや何でも知ってたらこえーだろ。心読んでるんじゃねえんだから」
「先生なら、私のすべてを教えても構わないと思っていますよ? 嬉しいことに今日一日お時間をいただきますし、より知っていただけるかと」
「沼に突っ込もうとするのやめてくれませんかねえ」
七月四日、湿気に熱さがハイミックスしていい加減切れそうな本日は、目の前で笑いながら桐箱に入った茶器を膝に乗せている、桐藤ナギサの誕生日である。
それにしても、ナギサも冗談とか言うようになったな。ガチで大人をかき乱すような発言するんじゃないよ、誰の影響だこれ(←人をからかうのが趣味)
「あのー、ナギちゃん? 先生には暗にプレゼントの要望を伝えてるのに、幼馴染の私はノーヒントって」
「そうですね……いつぞやの犯人当てゲームの意趣返し、ということでどうでしょうか?」
「その節は大変申し訳ありませんでした」
横に座っていた聖園ミカが、orzの体勢で上半身を曲げ、全力で頭を下げる。椅子に座ってなかったらDOGEZAしてた勢いだな、これ。
まあエデン条約周りの話をネタに出来るあたり、幼馴染間での蟠りは解決したと見ていいだろう。二人が何の縛りもなく仲良くしてるのを見ると、色々やった甲斐があるってもんだ。
「はい、先生には返しても返しきれない恩をいただきました」
「ありがとね、先生。私が出来ることなら何でもやってあげるから、気軽に頼んでね☆」
「あら、ミカさんには負けていられませんね。私も出来ることなら政治力と財力と権力を十分に」
「お前らの方が心読んでない?」
俺何も口に出してないんだけど。というかニコニコしながら軽くクッソ重い決心を宣言しないでくれ、特にナギサ。
ちなみに今いるのはトリニティのいつものテラス、ではなくシャーレのカフェである。他に誰もいないし盗聴も(多分)されてないだろうから、二人の決心が聞かれてることはない。それはそれで重いけどな、変な噂立つよりはいいけど。
「まあそれは置いといて。じゃあミカが誕プレ渡す番だぞ」
「え、私? いやー、今回何もヒント聞いてないから、あんまり自信ないかなー」
「それでは私からプレゼントを差し上げましょうか?」
「ナギちゃん、マカロン構えるのはプレゼントじゃなくて攻撃じゃないかな?」
「大丈夫です、口が裂けるまでは入れませんので」
「いや怖いよ!? 何がナギちゃんの殺意をそこまで高めたの!?」
「生徒の暴動案件が重なりまくった時かな」
あれは純粋に酷かったと思う。俺もいたし、速攻で対処したから事なきを得たが、あんなのが日常茶飯事だったら優雅な振る舞いが崩れるのもやむ無しだと思う。
「えー、じゃあ……あんまり期待しないでよー?」
「肝心なところで尻込みするところは直りませんね、ミカさん。
大丈夫ですよ、ミカさんのプレゼントなら喜んでいただきます。悪戯グッズの類か、明らかに受けを狙ったようなプレゼントじゃなければ」
「ウンモチロン、ナギチャンハヤサシイナー」
「…………」
「ちょ、嘘嘘、冗談だから指の間にマカロン挟まないで!?」
「一個一個飛ばしてくるのかな、消える魔球方式で」
「そんなことしませんし出来ませんよ、先生。
―ー指ごとマカロンを口の中に突っ込みます」
「もっと悪いじゃん!? それお嬢様がやっていいことじゃないよ!?」
そもそもお嬢様じゃなくてもやるべきじゃないだろ。
「冗談ですよ」とナギサは紅茶のカップを傾け、澄ました顔に戻る。冗談の割に鬼気迫るものを感じたような。
「じゃあ、改めて……はいこれ、ナギちゃん誕生日おめでとう☆」
「ありがとうございます、これは……香水、ですか? それも」
「うん、サミュエラの『ザ・ビヨンド』だよ。コハルちゃんと一緒に選んだ奴だから、ナギちゃんが使ってくれると嬉しいな☆」
「そうですか、コハルさんが……彼女にもお礼を言わないといけませんね。
ありがとうございます、ミカさん。大切に使わせていただきますね」
感慨深そうに香水を両手で掲げながら、静かに微笑むナギサ。謝罪こそしたけど、罪悪感がすごいだろう補習授業部の子がプレゼント選びを手伝ってくれたのだから、無理もないだろう。
「うんうん、喜んでもらえたなら良かった。それじゃあ次はセイ」
「ミカ、もう一個あるだろ?」
「ーーあー、あーあー。先生、何で言っちゃうかなあ……」
「手伝ったんだし、言う権利はあるだろ」
「まあ、そうだけどさあ」
「?」
俺達のやり取りに、プレゼントを脇に置いたナギサが不思議そうに首を傾げている。今日はティーパーティーホストとして振舞ってる訳じゃないから、いつもより年頃っぽい雰囲気が出てるな。
幼馴染からの視線を浴びて、ミカがあーうーとか唸りながら躊躇していたが、
「……実は、ナギちゃん。もう一個、プレゼントという程じゃないけど、用意しというか、作ったんだ」
「ーーミカさんの、手作りですか?」
「う、うん。初めてだけど先生にも手伝ってもらったから、味は大丈夫、だと思うよ」
椅子から立ち上がり、冷蔵庫の中に入れていた箱を取り出し、テーブルに置いてから封を解く。
中に入っているのは、砂糖がまぶされたカスタードシュークリーム。
「えっと、良かったら後ででもいいから、食べて欲し「いただきますね」あ、ちょ、ナギちゃん!?」
目を丸くしていたナギサが一個手に取り、ミカも先ほどの幼馴染と同じ表情で見守る中、ナギサは「ふむ」と口に手を当て、
「美味しいですね、甘味が紅茶に良く合います。
ミカさん、ありがとうございます。私のために作ってくださって」
「ーーえへへ。そっか、良かったあ。じゃあもっと食べて食べて、ほら先生も! ナギちゃん美味しいって言ってくれたから♪」
「聞こえたって。じゃあ俺も一ついただこうかね」
「ふふ、作り手が一番喜んでいるのは、少し不思議ですね」
美味しいと言ってくれたことで分かりやすく嬉しそうなミカに、ナギサはおかしそうに、それでいて優しい笑みを向ける。何度か納得するまで作り直したからな、俺も作り方と味見役を務めた甲斐があったわ。
「それとこっち、セイアちゃんからの誕生日プレゼントだよ~」
「あら、これは……シマエナガのクリスタル、でしょうか?」
「中々変わったもん用意したな。そういえば、当のセイアは?」
「この暑さでへばっちゃって、しばらく動けないんだって。「ミカ、後は頼んだ……」って深刻そうにプレゼント渡されたけど、ミネ団長曰く「ただの夏バテです」だって」
「脆弱すぎないかあいつ。そんなんで八月乗り越えられるのか?」
どっかの自称天才美少女ハッカーなんざ、部員と寒い暑いで議論しながらハッキング(悪戯)に精を出しているというのに。下手するとキヴォトス一虚弱なんじゃないか、セイアの奴。
その後、トリニティで補習授業部の面々も含めた誕生日パーティーで。
「ナギサ様、お誕生日おめでとうございます! こちら、ささやかですが私からのプレゼントをどうぞ!」
「あ、ありがとうございますヒフミさん。えっと、この子は?」
「こちらはピンクのアルパカ、ピンキーパカさんです!」
「いやヒフミ、何でモモフレンズ?」
「はい、先生のアドバイス通りペロロ様だけに囚われず、ナギサ様に似合う子を厳選しました! ありがとうございます!」
「違うそうじゃない」
そもそもモモフレンズから離れろって言ったつもりだったんだが、伝わり切っていなかったらしい。ピンクのアルパカを胸に抱いたナギサは、最初不思議そうな顔をしてたが目元を緩め、
「……可愛いですね。ヒフミさん、この子のことを教えてくださいませんか?」
「! はい、もちろんですナギサ様!」
「マジか。ヒフミ、程々にしろよー」
「おお、幼馴染がモモフレンズに染められていく……というかナギちゃん、本気で気に入ったっぽいね。ああいうのに興味あるイメージ、あんまり無かったんだけど」
「何となくミカっぽいからじゃね? 色もピンクだし」
「えー? それだとナギちゃん、私のこと大好きすぎるじゃーん☆」
ニヤニヤしてるけど、顔赤いぞ。言ってて恥ずかしいんじゃねえか、お互い好きなのは分かってるんだし慣れろよ幼馴染たち。
その後、ヒフミに海へ行かないと誘われたナギサは顎を当てて考え込み、
「そうですね……後輩にホストを引き継げば時間も出来るでしょうし、良ければご一緒させていただけますか? 泳ぐのはあまり得意ではありませんが」
「! はい、もちろ「その代わり、戦車はきちんと申請してくださいね?」あ、はい……その節はすいませんでした……」」
「やっぱネタにされてるのか、あれ」
「ナギちゃん報告書類を二度見してたからねー。その後羨ましそうにしてたけど」
「ミ、ミカさんっ。そういうことは言わなくていいですから」
「えー? でもナギちゃん、プールとか日焼けするのが嫌だって言ってたのにヒフミちゃんに誘われたらすぐ「せい!」もごぉ!?」
ミカの暴露はロールケーキ(梨味らしい)によって遮られた。相変わらず見えないんだけど、何でそういう時だけ早業なんだ。
用語解説
十三
大阪にあるエリアの一つ。本文の通り、昭和時代のような雰囲気を纏った外観が特徴。
場合によっては大根を武器にしたおばちゃんに殴り殺されることもあるので、注意が必要(ガチです)
あとがき
ナギサとミカ、エデン条約後は昔のように立場関係なく、幼馴染として一緒に過ごして欲しいと純に願います。
それでは読んでくださり、ありがとうございました。感想や評価をいただけると、ロールケーキを自分で口に突っ込みながら喜びます。