ピンポーン
「あん?」
八月十二日、キヴォトスにおける文化の日であり、某所で地獄の大型イベント初日が行われている日。
そんなの関係なくシャーレの仕事を終えて一段落している俺の耳元に、ほぼ鳴ることのないチャイムの音が聞こえてきた。
誰か荷物の注文でもしたかと(先生である俺自身はアナログ人間なので、通販はほぼしない)ドアホンを手に取ると。
『こんにちは、先生。お届け物に上がりましたので開けてください、がっでむほっと(クソ暑い)です』
「いや何してるんだトキ」
カメラに映っていたのは、ミレニアムの最高戦力であるC&Cの新入りにして、最近シャーレで寛ぎまくることを覚えたメイド、飛鳥馬トキだった。というか両手にデカい段ボールを持ってるけど何だあれ、分解したアビ・エシェフでも突っ込んでるのか。
『C&Cデリバリーです。銃弾から戦車、秘密の書類や人材まで、必要なものさえいただければ何でも運びます』
「密輸業者だろそれ。人材とか拉致してるんじゃねえだろうな」
『ちなみに他従業員は募集中です、先輩達には極秘なので』
「ネルかアカネに報告しとくわ」
『特典のバニーペロロぬいぐるみを差し上げますので』
それ賄賂のつもりかよ、どっかのトリニティ生くらいしか食いつかないわ。あとC&Cを謡うならせめてメイド服で来い、バリバリ制服だろ。
『極秘任務ですから。素直にメイド服を着るのは不合理ですし、私はメイド服でなくても作業のメイドですので。
とりあえず開けてください。あと冷たいアイスティーと氷菓子をいただければ最高です』
「それやって俺に何の得があるんだよ」
『トキちゃん膝枕ぱわーで先生を篭絡します。今ならお疲れ様のナデナデも付いてきますよ』
「アイスティーに限界までガムシロ注いでやろうか」
それは紅茶色の砂糖水では。もっともだがお前が言うなのツッコミを聞きながら、俺はシャーレの電子ロックを解除する。つうか当番やったんだからカードキー持ってるんだし、普通に入って来いよ。
「ふう。ありがとうございます、先生。両手が塞がっていたので、助かりました。あ、サインお願いします」
「どこにサインすればいいんだよ……というか何が入ってるんだ」
制服の袖で額の汗を拭うトキが床の上に置いた段ボールは、中々の重さを感じられた。
猫でも拾ってきたんかと思って蓋に手を掛けてみると、
「あ、あの……こんにちは、先生」
「マジで誘拐じゃねえか」
段ボールの中に体育座りで横になっていた生徒、ゲーム開発部の部長であり本日の主役である花岡ユズが挨拶してきた。いやはにかみながら嬉しそうに言う状態じゃねえんよ、事件現場に遭遇してるんよ。
「いえ、ユズ本人の同意を得て運んできました。送料は着払いです」
「それでミレニアムから運んで来たって、キヴォトス基準でも中々の重労働だと思うんだが」
「かわいい後輩メイドの頼みですから、頑張りました。先生、褒めてください」
「……着払い込みで、良い茶葉と置いておいたバーゲンダッツな」
「やりましたユズ、先生がデレてくれました」
「や、やりましたね、トキさん……!」
誰がツンデレだ誰が。向こうで何故か喜び合っている二人の声を背に、茶葉の用意を始めた間に、トキへタオルを投げてやる。不思議そうにしてるんじゃない、汗で見えちゃいけない中身が透けてるんだよ、察しろ。
「なるほど。こういうのも悩殺に使えるのですね、メイドとして勉強になりました」
「メイドの何を勉強してるんだよ。
で、何で運送されてきたんだユズ」
ご注文のセットを置いてから、両手で持ったアイスティーをちびちび飲むユズに水を向ける。というか箱から出て来いよ、気に入ったのかその狭さが。
「あ、あの、先生……匿ってください!?」
「……あん?」
何で誕生日の主役が隠れようとしてるんだよ。あと今の状況、匿うというより囲われてるけどな、ジャストフィットで。
『よっし、じゃあゲーム開発部の総力を挙げて、ユズへのサプライズパーティー準備を始めるよ!』
『はい、ステルスクエスト開始です! 期限はユズの誕生日までにバーティ―の準備を完成させ、ユズから隠すことですね!』
『ちょ、お姉ちゃんアリスちゃん声大きいから!? ユズちゃんに聞かれたらダメでしょ!?』
「で、それを部室の扉前で聞いちゃったと」
「は、はい。久しぶりに買い出しへ出た時に……それで、聞いてたのがバレないようにと、近くの段ボールに隠れまして」
「たまたま通りかかった最強メイドの私が、バニックに陥りかけていたユズを丁寧に梱包し、シャーレまで配送してきました」
「いやその理屈はおかしい」
友人のことを気遣うのは買ってやるけど、どうしたら箱のまま持っていく発想になるんだよ。というかお前の名乗り、どっかの天才美少女ハッカーみたいになってるぞ。
「元々アリスからユズの目を逸らす役割を受けていたので」
「それで箱ごとユズを持っていく理屈にはならないだろ」
「ステルスゲームでは気付かれないまま運ばれるというのは、最強の手と言えるので……」
「これリアルだぞ」
実際バレずに到着してるわけだから、あながち間違いではないわけだが。トキはピースピースするな、いやすごいと言えばすごいけど。
「で、匿うのは別にいいんだが。これからどうするんだ」
「え? う、うーん……えっと、どうしましょうか?」
「オイ本日の主役。
……とりあえずゲームでもするか。何ならケーキかプレゼントでも用意するか?」
「い、いえ! 私は、その……先生が一緒に、いてくれるだけで、嬉しいので……」
「…………そうかい」
上目遣いではにかんでいるユズから、違和感ない程度に目を逸らす。お前さん、そういう顔出来るんだな。
「先生、私はレアチーズがいいです」
「お前は少し遠慮しろよ」
何かしんみりした空気が台無しじゃねえか。ユズは小さく笑ってるし、いいけどさ。
「じゃあ三人で出来る奴用意したから。トキはゲーム出来るのか?」
「ネル先輩と対戦してけちょんけちょんにされてからしたので、大丈夫です。先生、電源を入れてもいいでしょうか?」
「何でそんなに意気揚々なんだよ。今日の主役に譲ってやれって。
ユズ、押していいぞ」
「い、いいんですか? それじゃあ……」
何でそんな嬉しそうなんだ、髪思いっきり揺らしてるし。そういや据え置きのゲームを点けるのは特別なものがあるって言ってたけど、この辺はゲーマーの感覚何かね。
「あ、っ! あ、あの、先生、これって」
「ちょっと高かったけど、中古屋で偶然見つけた。
ユズ、欲しかっただろ? ちょうど開発部のみんなで遊べるしな」
「おめでとうって言ってもらえるだけでも、嬉しかったのにこんな……先生、ありがとうございます。早速やりましょう!」
「あいよー。あ、これ本来は別に用意する」
「先生の方がサプライズ成功していますね」
目を輝かせてコントローラーを握るユズの姿を見ながら、ほんの少し口角を上げたトキも、テレビに視線を向ける。まあ、生徒を助けるのが先生の役目だからな。
余談だが、後でゲーム開発部の部室に訪れたところでクラッカーのサプライズを喰らったユズは、
「わ、わー、ビックリした―」
と、明らかな棒読みにモモイとアリス、あとアスナは嬉しそうにハイタッチしていたが、気付いた他の面々は呆れていたり溜息吐いたり、苦笑したりしていた。
おまけ
「ちなみに先生。別のプレゼントは何を用意するつもりだったのですか?」
「『先生のフリーパス』。一回だけ好きなことをお願いできる奴みたいなの。
まあユズなら大丈夫だと思うけど、無茶な命令されたら困るからやめといた」
「……懸命かと。もしそんなものが存在して知られたら、学園を問わず争奪戦が行われるかと」
「そんなこと起こる?」
「ちなみに私も参戦します」
「いや止めろよ」
後日、争奪戦は大袈裟じゃねと他の面々にも聞いてみたら。いやなりますよって全員から返された。どんだけ俺に価値があるんだよ、龍の玉じゃないんだから。
あとがき
ユズは些細なことでも喜んでくれるのが可愛い。というかスタートから好感度高い気がするのは気のせいですかね。
それでは読んでくださり、ありがとうございました。いつも通り誕生日終わりギリギリになってしまい、ごめんねユズorz