『大阪』から来た先生   作:ゆっくりいんⅡ

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 トキの誕生日SSです。なんかタイトルが全てを物語ってる気がする()


私はウサギなので、構って祝い倒してください(飛鳥馬トキ)

「ん……」

 

 電車の心地良い揺れで重くなった意識が、浅く這い上がってくる。どうやら寝ていたようーーいや待て。

 

「ーーんあ?」

 

 寝る前に乗車した覚えなど全くなく、記憶の齟齬を理解して完全に覚醒する。

 どっかに誘拐されたか、移送中か。最悪の事態を想定し、懐のウィンチェスターを確認していたら、

 

「おはようございます先生。寝顔は可愛らしいのですね、ギャップにキュンときました。キュンと」

「……トキ」

 

 横にいたC&Cの新人メイド、今はミレニアムの制服姿である飛鳥馬トキの声を聞いてとりあえずは警戒を解く。サファイアブルーの瞳に剣呑な色はなく、危機的状況ではないと判断できたのは僥倖だ

 

「? 何やら警戒されているようでしたが、どうしました?」

「いや悪い、寝惚けてたみたいだ。電車に乗る前の記憶が無かったからよ」

「無理もありません。乗車前からお休みになっていましたから」

「マジか。移動で疲れるほど疲労を溜め込んだつもりはなかったんだが」

「いえ、シャーレの仕事中に差し入れた飲み物に睡眠誘発剤を混ぜておきました」

「お前何してんの?」

 

 このメイド、堂々と一服盛ったことを宣言しやがった。道理で記憶に齟齬があるわけだよ、強制的に途切れさせられてる訳なんだし。

 

「ここまでは私がお姫様抱っこで運びました」

「違うそうじゃない」

 

 運び方を聞いてるんじゃねえよ。まず盛った然る理由を述べた後の謝罪を求めるだろ常考。

 というか俺、生徒にお姫様抱っこされてる姿を目撃されてるの? 社会的に終わってるじゃん、明日からどうやって生きていけばいいんだよ。大阪帰るか(白目)

 

「『シャーレの仕事が過酷すぎたので先生を起こさないであげてください、死ぬほど疲れています』と聞かれた皆様に納得してくださいました。そして同情されたのか、色々いただきました」

「それで納得されたのか……」

「お菓子は大変美味しかったです」

「食ってんじゃねえよ」

 

 俺宛に渡されたものを一人で食うんじゃねえよ、割引券だけ渡されてもどうすればいいんだ。

 というか、散歩ついでにご近所様付き合いした人脈が地味に生きてるのな。こいつ真面目なのか天然なのか分からないせいで、割と可愛がられてるし。

 

「すいません、待たされるの寂しくて、つい」

「ついで拉致されてるのは大問題だからな? 準備するからちょっと待ってくれって言った気がするんだが」

「はい、待ちました。およそ十秒ほど。それ以上は我慢出来なくなったので、ら、一緒に来てもらうことにしましたが」

「どこの宇宙の帝王だお前は」

 

 堪え性なさすぎだろ、待てが出来ないメイドとか致命傷じゃねえか。

 あと今拉致って言いかけたよな、やっぱさらってるんじゃねえか。今頃シャーレ大混乱じゃないだろうな。

 

「ご安心ください。慈愛の怪盗っぽい予告状を置いてきたので」

「お前何してんの?」

 

 ブイじゃねえのよ、大問題だしアキラに余計な罪状付くじゃねえか(←七囚人なので今更)

 

「あー……まあ、ここまで来たら仕方ねえか」

「さすが先生、何だかんだで許してくれるのですね」

「諦めただけだよ。大阪で人攫いに遭うのもするのも珍しくないし」

「……先生の故郷は治安が悪いのですね」

「今お前は故郷と同じことやってるんだからな?」

 

 流石にカイザーみたいな敵じゃなくて、味方であるはずの生徒にされるのは寝耳に水だけどな。

 いや物の例えだよ、中身入ってるペットボトル出すな心読むな頭掴もうとするな。好奇心で何でもやろうとするんじゃねえよ。

 

「で、トキ。この電車はどこに向かってるんだ?」

「百鬼夜行です。何でも夏の一番大きい祭りが行われるとのことで、先生に色々食べさせてもらおうかと」

「俺の財布前提かよ。それはそれとして、今ここでお仕置きのデコピンは敢行するからな」

 

 中指にパワーを溜めながら右手を動かすと、隣に座ったトキは何故か腰に手を当ててドヤ顔になり、

 

「いつでもどうぞ。最強のメイドである私が、虚弱貧弱人たらしの先生による攻撃くらいで怯みはーーおぶぅっっ」

 

 ぱあん、と小さい爆発音のような音が指とトキの額がぶつかることで響き、ダメージを受けた当人は変な悲鳴を上げながらのけ反った。何か一瞬ヘイロー消えかかったけど、キヴォトス人ならダメージはないはずなんだが。

 

「で、虚弱貧弱が何だって? 弱っちいならもう一発いけるが」

「すいませんもう勘弁してください」

「降伏はええなオイ」

「シンプルにめっちゃ痛かったです」

 

 だろうな、ミカですら涙目になるくらいだし。「ダメージないけどめっちゃ痛い、泣きそう」とは本人からお墨付きを受けてるし。

 

「むう。このままではやられっぱなしなので、パワードギアでお返しするしか」

「シンプルに死ぬわ」

 

 頭トマトみたいに弾けるぞ、生き残る難易度トーメントってかやかましいわ(激寒ギャグ)

 幾分かすっきりしたので、不貞腐れた目を向けるトキを横目に座席へもたれ掛かったら、アナウンスが目的地間近であることを伝えてきた。

 

「で、誕生日の主役。何でわざわざ」

「先生と一緒に、夏祭りへ行きたいと思ったので」

「普通に誘えばいいじゃねえか」

「そうなると他の方々も付いてくる可能性が高いじゃないですか。

 ……今日、誕生日の私は、先生と二人で行きたいと思ったので」

「……トキ」

 

 中途半端な時間のせいか、車両には他に誰もおらず。メイド服の時とは異なり、青いメッシュが入った髪をストレートに下ろした時は、揺れる瞳を真っすぐに向けてきて。

 

「いやそれならモモトーク送ればいいだろ」

「……そこは私のパーフェクトぷりてぃーメイドスタイルに免じて、いい雰囲気でお祭りに行くのが最も賢い選択だと思うのですが」

「お前今メイド姿じゃないんだが?」

「ーーなんと」

 

 迂闊でしたじゃねえんだわ、というか語彙がゲーム開発部寄りになってねえか。

 

 

 

 そうして辿り着いた祭りの会場。凄い人ごみの中へ突入する――前に、トキへ引っ張られてレンタル着物屋に連れ込まれた。

 

「お客様、お似合いですよ。お連れ様ももうすぐ着付けが終わりますので、楽しみにお待ちください」

「どーも。まあ急ぎじゃないし、ゆっくり待つことにしますわ」

 

 紺色の着物を灰色の帯で締め、垂らした白髪をポニーテイルに括った俺は、店の入口でまぶしいものを見る視線を向けるロボ頭の店員から顔を背け、タバコに火を点ける。そんなカップルに向ける類の微笑ましいものはやめてくれ、ただの生徒と先生だよ。

 まあ無理矢理連れてこられたし、これくらいの役得があってもいいか。そう思いながら、そろそろ吸い口が亡くなる直前の所で。

 

 

「先生、お待たせしました」

「おう、トキ。そんなに待ってないから大じょーーへえ」

 

 トキの声が聞こえたところで、吸殻を携帯灰皿に押し付けて振り返り。目に入った彼女の姿に、意図せず声を漏らしてしまう。

 縹(はなだ)色をベースに黒い襟を白の帯で締め、落ち着いた色合いの着物姿のトキ。結い上げられた髪は黒いリボンにサイドテールで纏められている。

 普段の自信満々なメイド姿は鳴りを潜め、柔らかで少し恥ずかし気な、こちらを窺うような視線。いつもとは異なる女性の一面に男が弱いのは、俺も例外じゃないことを理解させられてしまった

 

「どう、でしょうか」

「ーーああ、そうだな。似合ってるぞ、綺麗だ」

 

 一瞬見惚れてたのを誤魔化すためとはいえ、語彙力貧弱すぎて泣けてきたが、トキは珍しく目を見開き、

 

「そう、ですか。それなら、頑張って着付けてもらった甲斐がありました」

 

 表情に乏しく整った容貌に、控えめながら夜空の花火にも負けぬ、綺麗な笑みを浮かべていた。

 ……ん? 花火?

 

「なあ、もう花火始まってないか?」

「おや? 先生、少々お待ちを……

 すいません、余裕を持って到着したつもりでしたが、先生を運ぶ時間を計算していませんでした」

「やっぱ普通に着た方が良かったじゃねえか」

「ですからーーあっ」

 

 額に手を当てて溜息を吐く俺に眉を寄せ、トキは近付こうとしたところで。慣れない草履のためかつまずき。

 

「おっと、大丈夫か? 履き慣れてないんだから、気を付けろよ」

「……は、はい。ありがとうございます、先生」

 

 正面にいた俺が受け止めてやると、珍しく白い頬に朱を差したトキが、腕の中で固まっていた。

 

(こうしてると、細いよなあ)

 

 着物越しに伝わる、折れてしまいそうな痩躯。あのパワードスーツを乗り回すパワーがあるとはとても思えないほど、繊細に感じる。

 

「ほら、もう大丈夫だろ。暑いから離れろって」

「……先生は、メイドも乙女心があることを学ぶべきだと思います」

「そりゃ悪かったな。じゃあ、ほら」

 

 恥ずかしがったりむくれたり、本日は百面相なトキの文句に苦笑し、俺は手を差し出す。

 

「……?」

「転んだら大変だろ。だから、手を繋いでおこうってだけだよ」

「ーーなる、ほど」

 

 トキは理解しましたと頷きながらも、ぎこちない動きで手を握ってくる。他人をお姫様抱っこする胆力はあるのに、変な所で尻込みするな。

 

「……先生の手、大きいですね」

「そりゃ、大人の男だからな。

 じゃあ、行こうぜ。今日は誕生日なんだし、好きなもの」

「はい、分かりました。それなら、すげない態度は許してあげます」

「そりゃ感謝の極みで」

 

 大袈裟に頭を下げてやると、空にもう一度大輪の花火が咲き、トキの姿を鮮やかに照らす。

 

「行くか」

「はい」

 

 声を掛けると、歩幅を合わせてゆっくりと進み始める。引っ張られる形のトキは、つないだ手をしっかりと握り直してきた。

 

 

 

「まぶぅりもいいもふぉですね、ふぇんふぇい」

「食うか喋るかどっちかにしなさい」

 

 屋台周りをし始めたら、頬一杯に食い物を詰める姿を見せてくれて妙な雰囲気も消し飛んだが。

 射的で自分の銃を構えるのやめなさい、その辺のチンピラと行動が一緒だぞ。

 

 

 

 




あとがき
 トキってこんなにフリーダムだったかという疑問は、多分寂しさを拗らせまくったり、他の人との交流が増えるごとにこうなっていくと思います(憶測)
 それではいつも通りギリギリですが、読んでくださりありがとうございました。
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