『大阪』から来た先生   作:ゆっくりいんⅡ

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 バレンタインデーということで。三人同時にもらうとか修羅場にしか感じられないけど、アリスの無邪気さに助けられた気がします。

※『先生、ちょっとお時間いただきます!』の内容を含んでいます。



先生、特別クエストのお時間です!!(早瀬ユウカ、生塩ノア、天童アリス、???)

 

 

 

『先生、バレンタイン限定特別クエストの準備が出来ました!

 アリスはパーティーで向かいますので、シャーレで待っていてください!』

「って言われて待つのはいいんだが……朝八時って早くねえか」

 まあその前に渡しに来た奴もいるけど。引き出しに閉まった、箱だけとなったチョコを思い出しながら、朝食後の余韻に浸って背もたれに体重を傾ける。

 ちなみに朝食後のデザートとしていただき、感想はすぐに送ったら携帯越しでも分かるほど動揺しながら喜んでいた。

 さて、本日はバレンタインデー、朝八時前。学生としては甘かったり苦かったりする特別なイベントの日だが、大人の俺からすれば平日という気分の方が強いという、何とも微妙な日。

(まあ、『大阪』にいた時と今じゃ大違いだが)

 シャーレでの日々や生徒との交流を思い出し、俺は苦笑する。まさかお返しの値段じゃなく、何をあげるか喜んでくれるかで悩むような日が来るとは予想も出来なかっただろう。

「……よっし、今日やる書類はこれでオッケーと。あとはアリスを待つだけか」

 いつもより早めに業務の準備を終え、アリスの到着を待つことにする。パーティーと言っていたから誰かと来るのだろうが、一人はユウカとして、他にいるのだろうか。

「先生、おはようございます! 昨日はお楽しみでしたね!」

「ぶっ」

 アリスからのあんまりなファーストアタックに、飲んでいた緑茶を吹き出しそうになった。満面の笑顔で何言ってるんだ、この子は。

「ちょ、あ、アリスちゃん何言ってるの!?」

「モモイが先生への朝の挨拶は、これだと面白くなると言っていました! ユウカは意味が分かるのですか?」

「……アリスちゃん、今後その挨拶はダメだからね? 先生も他の人も、変な誤解をされちゃうから。

 ん、んんっ。えっと、先生、おはようございます」

「おはようございます、先生。今日もいい天気ですね」

「ああ、おはよう。この状況で平然としてるお前は間違いなく凄いよ、ノア」

 咳払いしながら顔を赤らめるユウカと、いつもの笑顔で挨拶してくるノアという対極的なセミナーの二人。もう笑顔が鉄面皮に見えてきたわ。

 しかし、ノアが一緒なのは意外だった。ユウカと一緒にチョコ作りでもしてたのだろうか。

 まあそれより、とりあえず。ユウカに視線を送ると頷き、二人揃って携帯を取り出し、メッセージを送る。

『モモイ、後で覚えておけ』

『ユウカからも同じようなメッセージ来て怖いんだけど、先生!?』

 自業自得だろ。返信を見て溜息を吐き、携帯をマナーモードにしてポケットへしまう。モモイへのお仕置きは後で協議するとして、本題に入ろう。

「あーそれで、バレンタインイベントだっけ?」

「はい、そうです! 先生限定のお使いクエストを受注しましたので、ユウカとノア先輩と一緒に来ました!」

「……アリスちゃん、何でノアのことは先輩なのに、私は呼び捨てなの?」

「? ユウカはユウカですが、何かおかしいですか?」

「いや、おかしいというか、私もノアと同じで先輩……」

「アリスちゃんは、ユウカちゃんのことが大好きだからじゃないですか?」

「はい、アリスはユウカのことが大好きです!」

「あ、アリスちゃん……そんなハッキリと……」

「あら、じゃあ私もユウカちゃん大好きですから、お揃いですね」

「「ねー」」

「の、ノアまで……からかわないでよ、もう」

「モテモテだな、ユウカ。羨ましい限りだわ」

「先生も乗らないでください!」

 前方にからかう俺、後方に笑いながら顔を見合わせているノアとアリスに挟まれたユウカは、赤い顔で目を吊り上げながらもう! と手を上下に振る。

 そういう反応するから、可愛いって言われると思うけどな。面白いから言わないけど。

「もう、私のことより先生ですよ! 今日は折角ですから、その」

「バレンタインデーということで、先生へチョコを渡しに来ました」

「……ノア、何で先に言うのよ」

「言うのが大変かと思って。ユウカちゃん、先生へ渡すのにセリフのれんしゅ」

「わー、わーわー!? よ、余計な事言わないでいいから!!」

 いつもの笑顔で爆弾を投下しようとするノアを、大声で遮るユウカ。他の奴なら銃撃つか切れながら遮るだろうに、仲いいなお前ら。

「ノア先輩、ユウカ。イベントアイテムの期限は短いですから、早めに渡さないとダメですよ!」

「そ、そうね、アリスちゃん。

 …………ノア、ちょっと先に行ってもらっていい?」

「はい、いいですよ。

 アリスちゃん、ユウカちゃんはチョコを渡すの、最後がいいそうです」

「なるほど、トリを務めるということは、先生の好感度を一番獲得できる自信がユウカにはあるのですね! アリスも負けていられません!」

「ちょ、そんなつもりで言ったわけじゃ!? ノ~ア~!?」

「ふふ、恥ずかしがってるユウカちゃんもかわいい。

 では、先生。私からはこちらをどうぞ。いつもありがとうございます」

「おう、こっちこそありがとうな。開けていいのか?」

 もちろん、と頷くノアに許可をもらい、丁寧にラッピングされた箱を開けていく。包装の段階から気を遣って解くのなんて、いつ以来だろうか。

 縦長の箱から出てきたのは、『Happy Valentine』と綺麗な文字が表面に書かれた、六角形のホワイトチョコだった。

「この文字、前にもらったチョコインクのやつか?」

「はい、正解です。さすがは先生♪ 書くのは大変でしたが、気付いてもらえたならやった甲斐がありました。

 あ、別の文字の方が良かったですか?」

「それこそ別の問題になるだろ……まあ、ありがたくいただくわ」

 ノアは誤解が生じてもはっきり否定しない気がして怖い。とりあえず箱をもう一度閉じることにした。あと二人もいるしな。

「では、次はアリスの番ですね! どうぞ先生、アリスからの特別ギフトです!」

「ああ、アリスもありがーーでかくね?」

 アリスから渡された、水色のリボンでラッピングされた箱は両手で抱えられるくらいのサイズがあった。ホールケーキでも入ってるのだろうか。

「じゃあ、ご開帳っとーーうおっ」

「ふふん、先生驚きましたか? アリス特製、『クラキー』のビターチョコです! これで経験値バフは倍率ドン、です!」

「ああうん、これは普通に驚いたわ。……ビターなのって、ひょっとして」

「クラキ―に近い色だからです!」

 ですよねー。ドヤ顔のアリスが作ったのは、以前やっていたゲームに出てきた蝙蝠と鳥を足したようなモンスターのものだ。

 前回のスネイルよりは可愛らしい姿だが、何故かリアルの蝙蝠寄りで迫力がやばい。あ、ノアが珍しく距離を取ってる。まあ怖いよな、女子にとっては。

「うん、これ食べきったら凄いレベルアップしそうだな」

「はい、その通りです! 先生はまだレベルが一桁なので、これを食べてマスコットのジョブレベルも上げましょう!」

「そろそろ転職できない?

 んで、トリはユウカなんだけど。今の気持ちは?」

「……後手に回った自分の愚かさと無駄に高まった期待値を、呪いたい気分です」

「期待値の見積もり、間違ってないか」

「心情的なものは計算が曖昧になりますから……

 じゃあ、その、先生。こちらをどうぞ……いつも、ありがとうございます」

「……おう。俺も、ありがとな」

 両手で恐る恐る、普段のユウカとは違う自身のなさそうな姿に俺もおっかなびっくり受け取り、水色のリボンに巻かれた正方形の箱を開けると。

「星型のチョコ……これ、晄輪大祭の時に付けてた星のステッカーがモデルか」

「……大変でしたけど、先生と出会ってから一番思い出深いのはこれだったので」

「……改めてそう言われると、なんか照れるな。

 あ、ナッツ入りかこれ」

「は、はい。以前、先生はナッツ入りのチョコが好きだと聞いたので。間違ってませんよね……?」

「うん、合ってるよ。ありがとなユウカ、手作りだし、味わって食べさせてもらうわ」

「……っ。そんな、普通に食べてくれていいですから……」

 恥ずかしそうに顔を俯かせるユウカを見ていると、何だか微妙な気分になって俺も頬を掻いて誤魔化すことしか出来ない。

「むむむ。やはりユウカが一番先生の好感度を稼ぐのがうまいですね……」

「うーん、そうですね。ユウカちゃんの言動は、しっかり見て記録してから参考にしないと……」

「ちょ、二人とも何言ってるの!? べつに、そんなつもりじゃないから!」

 またも後ろ二人にまぜっかえされ、抗議するユウカの様子に俺は後ろから笑っていた。

 

 

 この後、三人にはいつも頑張ったり、お世話になってるご褒美ということで、用意しておいたクッキーを渡しておいた。

 「ホワイトデーのお返しとは別だから」も告げたのだが、アリスが純粋に喜んでたのとは別に、

「「そういうとこですよ(ね)、先生」」

 と、二人には何故か言われた。何でさ。

 

 

おまけ

「……先生」

「おん? どうしたアリス、忘れもーーいや、Keyか」

「……すぐ分かるのですね、恐ろしい方です。あと、私はKeyでなく、ケイです」

「その言い間違えから付いた名前でいいのか」

「王女がそう決めましたので、私は従うだけです」

「そうかい、じゃあこれ以上は言わんよ。

 それで、何か用か? キヴォトスの破壊をもくろんでる顔でもないし」

「ご安心を。王女が望まない限り、私が再び動くことはありません。

 私からは、一つ忠告を。今日王女が差し上げたものに対するお返しは、ゲーム等のいつもと同じものではなく、きちんと考えてください」

「……んあ? え、それ言うためだけにか?」

「そうですが、何か?」

「……ユウカもそうだが、お前もアリスに過保護だねえ。

 まあ、心配すんな。ちゃんと考えて、ゲーム以外でアリスが喜ぶようなものを用意するよ」

「……その言葉、たがえぬと誓えますか?」

「絶対とは言えんが……嘘ならお前が俺を襲っても」

「……そうですか。そこまで言っていただけるなら、私からこれ以上言うことはありません。

 この先どうなるかは分かりませんが。どうか、王女を悲しませるような選択は、取らないでください。それでは」

「善処はするさ。

 あ、ちょっと待ったケイ。ほい、これ」

「……? これは、先程王女や他の方にも配っていたもの、ですか? 何故、私に?」

「結果的とはいえ、アリスのヘイローが破壊されなかったのは、お前のお陰でもあるからな。

 それに、アリスの中にいるんだから、お前も生徒みたいなものだろ」

「……これを私に、どうしろと?」

「どうするかは、任せるよ。アリスにあげるか、自分でこっそり食べるか。好きにすればいいさ」

「……そうですか。では、こちらは持って帰らせていただきますので」

「おう、気を付けてなー」

 

 

後日

「先生! アリスは以前先生にいただいた回復アイテムを、二個も食べてしまいました……

 一個しかもらっていないはずなのに、これはどういうことなのでしょうか? 増殖バグ?」

「お前さんの影が、知らない時に食べたんじゃないか?」

 

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