これを狙っていたとはブルアカ運営、恐るべし……(何)
時系列は、鋼鉄大陸遠征後です。
「前日から、先生と一緒にいたいです。
……いっぱい、お時間いただいてもよろしいですか?」
誕生日プレゼント、何か欲しいものあるかと聞いたユウカの答えが、前述のセリフだった。
机に座った上目遣いで、潤んだ瞳。絵になる姿は思わず魅せられてしまいそうだが、
(不安なんだろうなあ……)
その視線から理解出来る、感情の色。どこか縋るように向けられるそれを受けて、思い出すのは鋼鉄大陸から帰ってきた時のこと。
『心配、したんですから……』
こちらに寄り添い、震えながら告げられた一言。俯いた顔から表情を伺うことは出来なかったが、気持ちは嫌でも伝わってきた。
真っ当に、純粋に心配されたなんて、いつ以来だろうか。それ故、あの時は無事に帰ってきて欲しいというユウカの願いに、出来るかも怪しい約束をしてしまったし。
「ああ、いいぞ。俺の時間で良ければ、やれるだけユウカにやるよ」
「ーー言質、取りましたからね先生?」
誕生日のお願いに、二つ返事で頷いた。ちょっとリップサービスを入れたら、逃がさないと言わんばかりに腕を掴まれたけど。そんなことしなくても逃げないし、嘘も吐かないって。
約束を交わした当日、三月十三日の夜。シャーレの仕事自体は夜までに終わらせて、今は休憩室の机をくっつけ、机には一口サイズのつまみと液体の満ちた瓶が並んでいる。
「それじゃあユウカ、今日はお疲れ。ほい、注ぐからコップ貸してな?」
「あ、ありがとうございます。先生もお疲れ様でした。
それじゃあ」
「「乾杯」」
チン、とグラス同士が触れ合う音が部屋に響き、グラスを傾ける。芳醇なぶどうの香りと味が舌と喉を通り、心地の良い充足感で胃の中を満たしてくれた。
「ぷあ。……美味しいですね、これ。わざわざ用意してくれたんですか?」
「んー? まあ、そこそこグレードの高い奴だよ。この前仕事で知り合った醸造店の人が、当たり年のだって言うから分けてもらったもんさ。
惜しむらくは、アルコールが含まれてないところか」
「……お酒だと勘違いしたものを持て余していた、とかじゃありませんよね?」
「そんな在庫処分みたいなことしてないっての。貰ったのは偶然だけど、ユウカと飲むために用意したもんだって」
「そ、そうですか。それなら、その……嬉しい、です」
真っ直ぐな視線は横に逸らされ、アルコールも入っていないのにユウカの頬は朱色が差した。口元緩んでるぞとは言わないでおく、喜んでくれるわけだしな。
ちなみにお互いの恰好だが、ユウカはパジャマパーティーの時に着ていたもの(ヘアバンドは外している)、俺は寝間着代わりの作務衣である。ラフな格好でということだったが、リラックスし過ぎな気はする。
最近困ったことや嬉しい報告、俺の私生活へのお小言など他愛もない話をしていたら、時計の短針はいつの間にか『12』に到達する目前となっていた。
「そろそろ時間か」
「あ、本当ですね。……なんだか、時間があっという間に過ぎていって、少し勿体ない気もします」
「眉間の皺が減ったならいいだろ。話すだけ話してスッキリしたんじゃないか?」
「もう。そんな言い方されると、私が常に難しい顔してるみたいじゃないですか」
「してるというかさせられてるが正しいと思うけどな。
と、そんなこと言っている間に」
時計の長針と短針が重なり、日付が変わった。3月14日、ホワイトデーであり。
「ユウカ、誕生日おめでとう。いつもありがとうな。
それと、まずはこれ。ホワイトデーのお返し、どうぞ」
「あ、ホワイトデーの分も……ありがとうございます先生、嬉しいです。
……もしかしてこれ、高いものですか?」
「んー? 値段なんて気にするなって、ユウカにいいなと思って選んだだけだから」
「それ、バレンタインの自分を思い返して頭抱えたくなりますね……」
嬉しさと困惑をない交ぜにしながらも目尻を下げ、ユウカは渡された包みを嬉しそうに両腕で包み込む。そんな大層なものじゃないし、バレンタインで貰ったのは嬉しいんだから気にすることじゃないんだけどなあ。
「ふふ……私が、初めてホワイトデーのお返しを貰うんですね」
「そりゃ日付変わったばかりだしな。これで先に渡してるやつがいたら脱法だろ」
「フライングって言いましょうよ先生、良くないものに聞こえますよ。
ふあ……」
「何だ、眠いのか? 今日も仕事頑張ってくれたしな、寝ちゃってもいいぞ」
「いえ、まだ、大丈夫、です。
私の計算、では、まだ脳の活動が、停止するのは、1200秒の猶予が……」
大丈夫と言いつつ目は半分閉じているし、首は前後に舟を漕いでいる。というか20分しか持たねえじゃねえか。
「ちょっと毛布持ってくるから、待ってーーユウカ?」
「先生……」
立ち上がり、部屋を出ようとしたら裾を掴まれ、引き止められる。振り返れば、蕩け落ちかけている菫色の瞳が、何故か濡れて溢れかけており。
「……行っちゃ、嫌です。置いていかないで、ください」
幼子が親から離れるのを嫌がるように、あるいは引き裂かれるのを拒む恋人のように。ユウカの声は、どこまでも切実で、縋るようなものだった。
まるで、このまま俺が帰ってこないんじゃないかと、本当に思っているかのように。
「ちょっと出るだけだから、大丈夫だって。どこかに行ったりしないから。
……ユウカ?」
「すう……」
「ええ……マジか……」
出来るだけ優しい声で告げたのに返事が無いと思ったら、完全に目蓋が落ちていた。20分も耐えられなかったじゃねえかよ、恥かいただけになったわ。
「……ったく」
頭を掻いて溜息を吐き、首がよろしくない角度に落ちているユウカをソファに一旦寝かせ。
「よっこいしょ、っと」
背中と膝裏に腕を差し込む、お姫様抱っこの状態で抱え直し、仮眠室へ向かうことにする。裾掴まれたままでユウカの頬が緩んだ気がするけど、寝てるんだよな。
「しっかし、軽いなあ」
体重がーとかカロリーが-とか言ってた癖して、仮眠室までなら楽々抱えられる程度だ。何をそこまで気にするんだと思うが、この辺は性差とか育った環境の違いなんだろうなあ。
「いつもお疲れ様、ユウカ。改めて、誕生日おめでとう。
……それと、心配してくれてありがとうな」
仮眠室のベッドに寝かせ、少し癖のあるユウカの髪を、起こさない程度に優しく撫でてやる。純粋に身を案じられるなど、一体いつ以来の事だったか忘れてしまうことだったので。
(何か、落ち着かんよなあ)
しばらく、背中に無図痒いものが留まってしまい。ユウカの寝顔を横で眺めながら、落ち着かない気分でいる羽目になった。
その後、部屋を出ようとしたら捕まって抱き枕にされたり、キヴォトス人のパワーから逃れられるわけもなく諦めてそのまま寝たり、起きたらすんごくいい笑顔のノアがユウカを挟んで川の字で寝ていたり、状況に気付いたユウカが聞いたこともないようなレベルの悲鳴を上げたり、大分騒がしい誕生日の始まりとなってしまった。
「とりあえず、シャーレ用の抱き枕かなんか買うか」
「………………はい」
「ふふ、先生にくっついてたユウカちゃん、本当に安心して幸せそうでしたよ? あんなに「ノアやめて、本当にお願い……」」
用意した朝食を食べるユウカは、見たこともないほど顔を茹で蛸にして縮こまっていた。ノアは何かツヤツヤしていて笑顔がいつもの5割増し威力だった。
ちなみに手は出してない、誓って。というか寝ている相手にそういうことするのはアウトだろ、常識的に考えて。
あとがき
誕生日に間に合わせるため最後走り書きになってしまいました、許してください何でもはしません。
次回は遅くとも、ノアの誕生日に書き上げると思います。内容は未定です()
それでは読んでくださり、ありがとうございました。改めてユウカ、誕生日おめでとう!