『大阪』から来た先生   作:ゆっくりいんⅡ

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 ゲヘナ最強の風紀委員長、空崎ヒナとのお話です。
 なお、弊シャーレではお迎え出来てないのに書いてます()
 エデン条約の話見てからずっと書きたかったからね、仕方ないね。




風紀委員長の甘え方(ヒナ)

 

 

「お疲れー。ヒナいる?」

「お疲れ様です、先生。ヒナ委員長ならいますので、速やかに退出してください」

「前後分の矛盾よ。何、またストレス溜まってんのアコ?」

「いえ、お陰様で然程は。先生を見ると毒を吐くのが癖になっているみたいです」

 

 どんな癖だよ。というか顔に出さないだけで溜め込んでるなこれ。

 ゲヘナの風紀委員室。笑顔の圧が強い行政官殿を横目に、相も変わらず険しい顔で書類と格闘している風紀委員長ーー空崎ヒナ。

 

「……あれ、先生? 今日、何か用事があった?」

「いんや、ちょっと近くで仕事があったから寄っただけよ。

 ヒナがまたワーカーホリックになってないかの確認も兼ねてな」

「ワーカーホリックって……最近は万魔殿からのちょっかいも少ないから、寧ろ落ち着いてるくらいだけど」

 

 俺の存在に気付いたヒナが目元を緩めるが、暗にまた働きすぎてないかというこっちの意図を読み、否定する。

 

「なるほど。で、その分仕事時間は減った?」

「…………」

 

 無言で見つめ返してくるヒナだが、完全に目が泳いでいた。

 まあ、万魔殿の横槍と仕事量に因果関係があるとは言い難いしな。ない方がいいのは確かだが、ヒナ自身が仕事を抱えてちゃ減るわけない。

 

「……アコ、風紀委員長が決裁しなきゃいけない仕事の残りは?」

「今日の分はもう終わっています。あとは私か、他の風紀委員でも十分捌けるかと」

「んじゃあ、ちょっとヒナ借りてくわ」

「ええ、分配は私の方でやっておきますので。

 大変、非常に、激烈に遺憾ですが、委員長をお願いします」

「どんだけ嫌なんだよ、めんどくさい彼女かおめーは。

 あ、これお土産のクッキーな」

「あら、ありがとうございます。お茶請けでいただきますね」

「一人で食うなよ?」

「……も、もちろんですよ」

 

 目を逸らすなし。前に(本人曰く)気付いたら全部一人で食っだからって、自信喪失しすぎだろ。

 

「……先生、アコ? 話が見えないんだーーきゃ!?」

「お前さんの仕事は終わりってことだよ。ほれ、面倒事が増える前に帰るぞー」

「ま、待って急にそんなーーわ、分かった、終わるから離して……!」

「抱っこの方がいいと?」

「だ、だっ……そうじゃなくて!」

「先生、委員長の銃もお願いできますか?」

「ヒナ本人は羽のように軽いけど、銃は無理」

 

 そんなヘビー級なもの投げ渡そうとすんな、後小声で「羨ましい妬ましい……」って呪詛を連呼するのはやめれ、普通に怖いわ。

 

 椅子から持ち上げられ、おんぶされていたヒナが真っ赤になって背中を叩いたところで、下ろしてやった。

 この娘、アホみたいに強いのに力加減はちゃんと出来るんだよな。まあ加減されないと折れるんだけど、骨が。

 

「もう、先生は強引すぎ……じゃあ、アコ。悪いけど、あとはお願い」

「はい、委員長お任せください! お疲れ様です!」

 

 ヒナが目尻を下げて申し訳なさそうに言うと、反対にアコはイキイキした顔で了承した。何考えてるのか速攻で分かるな、読み解きたくはないけど。

 

「んじゃあ行くか。帰り寄りたいところある?」

「特にないけど……」

「よし、それならちょっと付き合ってくれ。新しく出来たケーキ屋が気になってしょうがない」

「まあ、それくらい別にいいけど……本当に甘いものが好きなんだね、先生」

「俺の原料は酒とタバコと糖分で出来てるからな」

「……そこはせめて、最後だけにしない?」

 

 呆れた風だが、横で街道を歩くヒナは確かに笑っていた。ようやく眉間のシワも少しは減ったかね。

 

「そういえば、シャーレの仕事は大丈夫なの?」

「来る前に終わらせてあるから問題なし。ヒナこそ銃持ってきてないけど、大丈夫か?」

「…………あ」

「あ、じゃねえでしょあじゃ」

「せ、先生が急かすから……それに、いざとなったら先生のを貸してくれるでしょ?」

「まあG3は持ってるだけだし、いいけどよ」

 

 風紀委員長どころか、キヴォトスの住人なら滅多にやらないミス。こういう時は自責の念に駆られるのがヒナだけど、珍しくこっちが悪いと言ってきた。

 そしてそういう時の行動は、決まっている。

 人気のない路地裏に入るとヒナは左右を見渡し、

 

「……先生」

「おん? 何よ」

「さっき、私のこと羽のように軽いって言ったわよね?」

「言ったなあ。ちゃんと食べてるのか心配になるくらいには」

「…………じゃあ」

 

 上目遣いで、何かを期待するように両手をこちらへ伸ばしてくるヒナ。

 そこに普段の厳格な風紀委員長はなく、外見相応な少女の姿。二人きりの時だけ見せる、ヒナが甘えたい時に見せるものだ。

 それに、俺は笑顔で応じることにする。ここで意地悪すると、本気で泣き出しかねんしな。

 

「おんぶと抱っこ、どっちがいい?」

「…………だ、だっ……おんぶで……」

 

 そこは最後の理性というか、羞恥心が仕事するのな。

 

 

 

「先生の背中、あったかいね」

「そうか? タバコ臭くないか心配なんだが」

「確かにちょっと匂いがするけど、私は嫌いじゃない、かな。

 ……でも、吸いすぎはダメだよ? 先生が死んだら、嫌だし」

「ちゃんと減らしてるから大丈夫だよ。この前遂に一日一箱消費しなくなったし」

「それ、本当に減ってるの……?」

 

 減ってますとも。一番多い時は二箱超だったし。

 ヒナの体温を背に感じながら、人気のない路地をゆっくりと歩いていく。 

 この辺りは最近まで問題児達の溜まり場となっていたため、風紀委員総出で『制圧』され、遠回りなのもあって人の気配はない。

 まあ、だからこそヒナはここで甘え出したんだろうが。猫みたいに顔を擦り付けてくるのを感じながら、俺は背中の温もりを背負い直した。

 

(最初は甘えたくても甘え方が分からない、みたいな感じだったからなあ)

 

 頼られることはあっても頼ることはなかったからだろう。何かしてもらうのが怖い、でも甘えたい、と目をフラフラさせていた姿が懐かしく感じる。

 

「……先生、その……ありがとう」

「ん? 別に背負うくらい、大した労力じゃないぞ」

「それもあるけど……私の負担が減るように、色々手を尽くして変えてくれたこと」

「あー、そっちか。まあ、ヒナのやることが多すぎたからな」

 

 ヒナは手を尽くしたというが、大したことはしていない。

 風紀委員会の業務や責任を、まとめ役の何人かに振り分けたり。

 将来的に有望そうな人材を育て上げる環境を、整えただけだ。

 正直、外部の人間である俺が組織体制にメスを入れるのはアウトに近いが、そうでもしないとヒナの負担は一向に軽減しなかっただろう。それに、

 

「今後も考えれば、責任や仕事はある程度分散させた方がいいし」

「今後?」

 

 背中越しのヒナが首を傾げているのに視線を送りながら、俺は思っていることを口にする。ゲヘナの将来を。

 

「ヒナ、お前は三年生だ。ゲヘナにずっと残るわけじゃない以上後任は決めておくべきだし、任せられる人材を育てた方がいい。

 とりあえずの目標は、『風紀委員会は委員長なしでは烏合の衆』っていう風聞を、覆すところからだな」

「……それだけだと、結局頼りないってことにならない?」

「頼れる番人にするにはちと時間が足りんからなあ。だったら最低限引き継ぎと体制を整えて、あとは任せた方がいいだろ。

 その後どうなるかはーーまあ、引き継いだやつ次第さ」

「先生、変なところで投げ槍ね」

「未来のことなんて分からんし、どうなるかは俺じゃなくて当人達が決めることだしな。

 もちろん、出来る限りの手伝いはするけど」

「ふふ。じゃあ、私の後輩達をお願いね?」

「はいはい、俺が先生でいる限りお願いされますよっと」

「それなら、安心かしら。先生はいつも、みんなのことを考えてくれてるし。

 ……私だけを見て欲しい、って思うことはあるけど」

「生徒一人だけのことを考えて行動し出したら、そりゃもう先生じゃないだろ」

「……聞いてはいる癖に、察してはくれないのよね。先生らしいといえば、らしいけ――」

 

 

「オイ、そこのアンタ! 止まりな!」

 

 

「あ」

「……」

 

 突如響いた第三者の声に俺は思わず声を上げ、ヒナは背中越しに無言で視線を向ける。

 スケバンスタイルの女子達が各々の武器を手に、俺達の進路を塞いでいた。キヴォトスでは割とよく見る光景である。

 

「へへ、こんなところを通るなんて物好きな奴もいたもんだな。ここいらは最近他の奴らがいなくなったから、あたし達の」

「しかもあなた、シャーレの先生でしょ? 人質に取れば大儲けじゃん!」

 

 ヒナの存在に気付いていないのだろう、各々好き勝手に喋る

 

「エイメン」

「あん? 何だ先生、お祈りなんぞし始めて。変に抵抗しなければ、」

「いや、お前さん達の間の悪さに対してつい、な」

「はあ? どういうい――」

「…………」

 

 セリフを途中で切ったタイミングで、ようやく気付いたようだ。俺の背中から降り、笑えないレベルのプレッシャーを放っているヒナの存在に。

 

「げ、ゲヘナの風紀委員長!? いつの間にいたんだ!?」

「小さいし、先生に隠れてて見えなかったの!?」

「オイバカ! 余計なこと言うなって!?」

 

 仲間の一人が迂闊な発言をしたギャルっぽいのを諫めるが、時すでに遅し、吐いた唾は戻せない。

 

「……先生。武器、貸してもらえる?」

「おう。……やりすぎるなよ?」

 

 護身用に隠していたアサルトライフル、H&K G3を手渡すと、ヒナは手慣れた武器を扱うように片手で構え、

 

「大丈夫。速攻で、終わらせるから」

 

 プレッシャーを増し、一人で突撃していった。うーん、五大盟約の幹部がブチ切れた時並におっかねえ。

 一分後。チンピラ達の絶叫が路地に響き、すぐさま土下座で許しを請うたのは言うまでもない。

 

 

 

おまけ

「先生。あの後ヒナ委員長とどのように過ごしたか、教えていただけませんか?」

「個人のプライベートを簡単に明かすわけないだろ、アコ」

「そんなこと言って、実は委員長に可愛い服を着せたり、可愛いお姿を独占するなんて到底許せな」

「――アコ?」

「……失礼しました、先生。仕事に戻りますので、私はこれで!」

「うーん、文字通り脱兎のごとし逃げ足」

「……もう。本当に、アコは優秀だけど困った子よね」

「蒸し返されたからって拗ねるなって。また一緒に出掛ける機会はあるさ」

「……先生、本当?」

「俺は出来ん約束はせん主義だよ」

「……うん、そうだね。じゃあ、期待してる」

 

 

 

 

 





後書き
 甘えたいのに最後まで甘えられないヒナの苦労人気質。こういうのも可愛いと思ってしまうのは病気な気がします。とりあえず、今までの苦労の分報われて欲しいなと個人的に思いますね。
 さて、イベント用の原稿が終わっての週刊連載再開一回目でしたが、いかがでしたでしょうか?
 来週はヤンデレシリーズの更新を予定していますので、お楽しみに。
 それでは読んでくださり、ありがとうございました。
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