時間足りれば二本目書くかも?
「王手」
パチン、と将棋の駒特有の軽快な音がする。キヴォトスではデジタル対戦が主流だけど、こうやって駒の音を聞くのが好きなんだよな。
「むむ……」
対面の相手、早瀬ユウカは顎に指を当て、二つに結われたテールを揺らしながら唸っている。活路がないかと思考しているのだろうが、残念ながら延命にしかならないんだよな。
「……ダメですね、逆転の目がありません。参りました」
「……ふう。お疲れ、ありがとうございました」
眉を下げるユウカに対し、俺、シャーレの先生は緊張を解いて息を吐く。労働の後に頭を使うのは中々大変だが、
「あら……ユウカちゃんでもダメでしたか」
「ギリギリだったけどな、前より強くなってるのは確かだわ。
しかしユウカってあれだ、計算高いキャラにありがちな、予測が崩れたら動揺するってことがないよな」
C&Cの指揮取ってる時は特にそう思った。あそこで崩れるかなと思ったらすぐさま対処してきたから、中々形勢がひっくり返せなかったんだよな。的には回したくないと思ったわ、マジで。
「私のことなんだと思ってるんですか……セミナーの会計やってたら、予想外のことなんて常に起こりますから、それを元に計算を組み直すのはいつものことですから」
「わあ、ユウカちゃんめっちゃ頼りになる」
「はい、セミナー自慢の可愛くて頼りになるユウカちゃんですから」
「はいはい、ノアも可愛いわよ。
……いや先生はちゃん呼びやめてくださいよ!?」
「「だってかわいいし」」
「~~~~っ、もう! 知りません!」
あら、怒っちゃった。赤い顔でそっぽを向いたユウカにノアは微笑み、俺は肩を竦める。ホント、いい反応するよねこの子は。
「ほらユウカちゃん、先生に渡すものがあるじゃないですか。私も手伝ってあげますから、機嫌直してください」
「ノアも負けてるんだから同じでしょ……えっと、先生。今日は何の日か、ご存知ですか?」
「世間的にはバレンタインだな」
「…………先生、そんな素直に答えてくれるんですね」
「お前俺のことそんな面倒な奴だと思ってるの?」
「私の記録でも、先生は答えを逸らす傾向が多いですよ?」
ノア、お前もか。俺だってストレートに答えることはあるよ、三割くらい。というか、
「ここまで積まれておいて、バレンタイン以外で答えるのは無理があるだろ」
「あー、まあ……それは、そうですね」
三人全員で視線を向けると、部屋の一角をバレンタインの贈り物が占有していた。というかサイズが明らかにチョコを超えるものがあるんだけど、これダメになる前に食えるかな。
「さすが先生、大人気ですね」
「先生冥利に尽きるってことにしておくよ。お返しがしんどいけど」
「普段のお礼という方もいらっしゃると思いますし、気持ちがこもっていれば大丈夫だと思いますよ。
じゃあ、ユウカちゃん」
「ちょ、押さないでってノアっ。
……せ、先生、その。私達のも、受け取っていただけますか?」
「ユウカちゃんと私で一緒に作った、手作りですよ♪」
シンプルな長方形の箱に、青と白それぞれのラッピングで包まれた、バレンタインの贈り物。片方は恥ずかしそうに、片方は微笑みながら差し出されたそれに、俺は手を伸ばしながら。
「喜んで。いつもありがとうな、ユウカ、ノア」
そう、微笑みながら受け取った。