呪術界に現在居る特級術師は五つ。その一角、楔の現当主である女は畏怖にも似た視線を受けつつ廊下を歩く。
腰より下まで伸ばされた赤みがかった髪に深紅の瞳。メリハリのある身体のラインを確りと晒すノーネクタイのパンツスーツは仕事人を彷彿とさせるもの。両の手の皮は分厚くか弱い女性の雰囲気など欠片も無い。女王、それが彼女を表すのに1番良いだろう。
バンッ。案内された部屋の襖を勝手に開けばずかずかと中へ。胡座をかきいつもの様に瓢箪片手に呑み明かしている禪院家当主を見下ろす。
「良く来た、楔家当主楔颯殿。」
「普段通り呼べばいいだろう?改まってどうした。儂が目にかけてやっていた甚爾を追いやった貴様らには興味の欠けらも無いが…正式に依頼された当主同士の会合だ。話だけは聞いてやるから早く要件を伝えるが良い、直毘人。」
「ブッハッハ。あの程度で折れるならば何方にせよ呪術師としても何れ折れていただろうよ。…お前、弟子でも探していたな?俺の子では無いが甚爾に似たような奴が居る。預かってみんか?」
「貴様の子は軟弱な者しか居なかったがな。見込みがあると思えば我が家で預かろう。預かるならば毎月3貰う。いずれ我が家でも両手に入る程度にはしてやろう。さて、呼ぶが良い。そこに居るのだろう?」
「真希、入ってこい。」
襖を開けるのは和服でメガネを掛けた少女。中学…1.2年といったところか。その首筋、脳天、脇腹、鳩尾。急所という急所に針のような鋭くも直線的な殺気が叩き付けられる。常人ならば失禁し無様な姿を晒しているそれを彼女はギリギリのところで受けきって見せた。
「で?こいつの親は誰だ。」
「扇だ、それがどうした。」
「ああ、成程な。ろくに力も無いくせに自分の観察眼が冴えていると思っている愚物か。そいつに指導費は請求する、全額払わせろ。」
置いてけぼりの儘脚をガタガタと震わせながらもへたり込まずたっている真希の姿を一瞥するだけすれば、置いてきぼりのまま話をどんどんと進んで行く。
一時間後には真希の多くもない荷物が軽トラの荷台に積まれて行く。個人所有の小太刀もあったが呪具ですら無くそんなものは楔家で幾らでも用意できる。無論呪具で、である。
「私に子は居らん故、子の扱いは知らぬが貴様が求めるのはそれでは無かろう?我が家では3つの時から体術と槍術を仕込む。貴様には高専に入るまでに及第点までは育てる。これは決定事項だ。強かになる事を望むのならば掴み取れ。環境は用意してやろう。」
楔家に向かう車の中。隣に座る彼女に一方的に話してから獰猛な笑みを浮かべる。こうしてひとつの可能性が芽吹くと思うと将来が楽しみである。
儂を殺してくれる存在。巡り会えたのならばこの身好きな様にして全てをくれてやっても良いのだが。居ないのならば育てるまで。
五条のアレは唆られぬ上に心躍る死闘を共に踊り狂う玉ではない。知識の中で…となり復活する可能性があるとなると…宿儺か。生きているうちに覇を競えれば良いがな、と物騒な事を自分の願いの為に考えている始末。
数年後願いが現実になるとは夢程度にしか思っていなかった颯であった。
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二年、二年である。モンキー・D・ルフィが覇気の修行をした年数と変わらぬ時間を真希は強くなる為だけに費やした。
方向性が定まらず中国武術を齧り様々な動きを取り入れた本来の真希は我流の不完全な体術しか自らのモノに出来ていなかった。そして呪具。楔家でなまくらと言われる程度のものしか所有出来ていなかったからこそ、一級にも満たないモノすら祓えなかったのだ。
先ずは身体。天与呪縛により何もしなくとも超人的なスタミナとセンス、底力を見せるがそれだけ。武を極めた者ならば呪力無しで動きの再現は可能である。逆に云うならば既にその域に到達しているのだ。無駄を削ぎ落とし武を修め相応の呪具を持てば特級すら祓えぬ道理は無い。
故に真希の指導は身体操作、体術、槍術の順に行われた。並行で行うのではない。一つが及第点を貰える度に増やしていくのだ。
楔家の子が幼少期からの鍛錬により無意識に行っている身体操作をこの歳で身体に叩き込むのだ。最初の2.3日は颯自身が朝起きてから寝るまで付きっきりで指導を行った程。
身体操作、理。これを用いて体術を行い、槍を扱うのだ。全てが身体操作の延長となり逆からの習得は不可能。
基礎は奥義も当然故に身体操作を真希が及第点を出されたのは修行を初めて一年経ってからである。然し本来ならば4.5年かけて身体に染み込ませるもの。どれだけ天与呪縛の恩恵が凄まじいか分かるだろう。
ここからは早い。基盤が出来たが故に様に後は流れる様に技術を習得し三ヶ月後には槍を握るようになった。楔家の師範代も気に入る程の成長である。
進度を確認する為に軽く手合わせをすれば入学まで後2,3ヶ月あるというのに事前に決めた及第点に達している。
だからこそ手合わせする程に颯の脳裏には甚爾の顔が浮かぶ。当時まだ次期当主でしか無かった自らの権力で禪院と交渉等無駄足にしかならぬと考えていた。
今ならば違う。真希から色々と聞く限り天与呪縛により呪力の無い甚爾の扱いは耳を疑うものであり、価値観の違いと表面上諦めたが諦めきれたものでは無い。
彼の持ちうる全てをもってすればこの儂を殺しうる。その切り札を意図して追いやり意味も無い死に繋がらせたのだ。失望以外の何物でもないだろう。
至近距離まで詰めてきた真希が一瞬に5メートル程度引き距離をとる。ムダの無い滑らかな動き故にうんうんと頷きながらクルクルと槍を回す。
「すまんな、殺気が漏れていた。良かろう。真希、お前は私が設定した及第点を既に達した。故に試練をやろう。これをくれてやる。四級から順々に一級まで祓って来るが良い。この儂に力を見せろ、良いな?」
投げ渡したのは壁に立て掛けておいた槍。込められた呪力は一級相当。銘は無く古くから楔家に保管されている呪具である。穂先だけでは無く柄すら呪具化しているこれはどれ程の呪霊の血を吸っているのか。
この一ヶ月後単独での一級呪霊討伐により真希は「特別一級術師」として颯に認められその肩書きをもって東京都立呪術高等専門学校に入学する事になる。
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「私が貴様を好かぬのは知っておろうが。それを知っておいて連絡するか。だから嫌われるのだ。」
「え〜?でもちゃんとこうして会ってくれるじゃん。禪院真希、あの子を二年であそこまで育てた手腕を呪術高専で借りたい。」
「そんな暇があると思うか?」
「うーん。ま、颯に求めるのは実技方面だけだし、週3.4回午後来てくれたらいいよ。」
「はぁ…どうせ夜蛾を通さぬ独断だろう。貴様から毎月10貰う。私が暇ではない時は師範代レベルを寄越す。真希の鍛錬になるレベルだ。そこいらの学生ならそれで十分だろう。」
「まぁそれでもいっか。じゃぁ4月からよろしく~。」
真希大好き民なので強化します。正直ちゃんとした身体操作と武術、武器持たせれば1番成長するのは真希さんだと思ってたりします。
今回の1とか10とかは1が100万です。
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