禪院真希にとって楔颯は憧れでもあり、尊敬する人でもあり、…こう言っては失礼かもしれないが畏怖の対象である。特別一級術師として高専に入学した今で、だ。
2年間徹底的に扱かれ楔家の師範代にもある程度の勝負が出来るようになってきたからこそ、あの人の異常性がよく分かる。どれだけ彼女と自分の力量差が離れているのか鮮明に分かってしまう。
フィジカルギフテッド持ちの自分を呪力すら使わずころころと掌の上で転がすようにどれ程遊ぶ様に手加減されながら修行を受けたか。裏をかこうとも動く先に槍の穂先を、足を、拳を置かれ自らがそれに突っ込んで行くような形となる。
先の先。先読みの極。どれ程の死線と修練を積めばここまで行けるのか。
極めつけは対人で出来ることを全て対呪霊でも十全に発揮出来ることだ。最初の最初に手本として最初に示されたのは一級上位特級下位レベルの呪霊に対する一級呪具の槍1本での討伐。
目指すべきはここだと言わんばかりの呪力使用無しでの蹂躙に近いそれは今でも目に焼き付いている。
槍を振る音は無音。無駄を極限まで削ぎ落としたそれは風切り音すら無く呪霊の身体に傷を増やして行く。
呪霊が移動能力の大半を捨て防御力に回し殻に引き篭ったなら、槍を放り投げ続くように跳びその殻に向けて蹴り込む暴挙。それで確りと殻の裏側まで穂先を貫通させて祓ってしまうのだから空いた口が閉じなかったのを覚えている。
ついでに言えばその日行ったのは真希に教えられる範囲の技しか使っておらず本気である双槍を使っていなかったのは後日知った事である。
高専に入り、楔家とは一旦距離が離れるかと思いつつ同級生3人で初めての体育の時間。校庭に向かえば五条先生以外に二人、良く知っている雰囲気の彼女らが居た。
「こっちこっち〜!じゃ、実技の特別講師を紹介しやす!楔家のお2人です!拍手!!」
「私が当主の颯だ。基本的な体術を中心に教える。教えるに足るレベルに達していない場合は達するまで走って体力と胆力をつけろと言うところだったが…悪くは無いな。よろしく頼もう。こっちが師範代の一(はじめ)だ。私が暇ではない時にはこいつが教える事になるだろう。」
「どーも、ご紹介に預かりました師範代の一です。当主サマの説明補足させて頂きます。基本的には颯サマと私で見させて頂きます。狗巻棘君、パンダ君は私が。真希ちゃんは…当主サマと時間まで無限模擬戦になります。頑張ってくださいね?当主サマの時間が取れなかった場合は真希ちゃんの相手はまた別の方を呼びます。」
「という事だ。こんな成りだが今のところ真希よりは強いぞ?此奴が依頼して来たとはいえ若人が強くなる手伝いをするのは嫌いではない。励めよ 」
大きく息を吐き出す。強くなる環境がこれ程整っていることに恵まれていると感じるものの数時間後の自分の姿が容易に想像出来てしまうのがダメなところ。
予想通りと言うか何と言うか。骨折流血こそ無いものの気絶失神は両手のほどに達した。昼に詰め込んだ食べ物は全て吐き出されている。全身打撲痕でボロボロに関わらず師である彼女の身体は綺麗なまま。服の裾が多少切れていたりするが肌に傷が無いのが全てである。
真希は支給された一級呪具である槍を使っているのに対して颯が持つものはただの木の棒。
その様子を横から見ている3人はドン引きし一は遠い目をしていたとだけは言っておきたい。