目が覚めると、そこは自宅の寝室だった。
おかしい。ついさっきまで学園のトレーナー室に籠って徹夜で仕事していたはずだが……。もしかしてここは夢の中なのだろうか…?ならいっそ二度寝でもしようかなと考えていると、
「おや、トレーナーさん……?おはようございます」
声がした方向に振り向くと、そこには自分が担当しているウマ娘、マンハッタンカフェがいた。
「なるほど…ここがアナタのご自宅なんですね」
彼女と出会って以来、時折このような不思議な出来事が起こる。特に、夢の中で彼女と会うのはこれが初めてではなかった。
「もしかして、先日お渡ししたオリジナルブレンドを飲んでいたのではありませんか?私も自室で同じものを飲んでいたので……」
味覚による同一の共鳴。
にわかには信じがたいが、同じ感覚を共有した2人が同じ夢を見ることがあるらしい。もちろん、そう簡単に起こるものではないが……
「これがトレーナーさんの寝室……なかなか興味深いですね……」
夢とはいえ自分の寝室に年頃の少女がいることに少しどぎまぎしていると、部屋にノックの音が鳴り響く。
「お、お前さ■■■さ、狸寝入りしてんだら?さっさと起きろよ起きろよぉ~」
……母さんの声だ。部屋のドアを開けようとベッドから立ち上がると、マンハッタンカフェに腕を掴まれ、ベッドの上に引き戻された。
「開けたらダメです。おそらくアレは“よくないもの”かと……」
「ファッ!?朝っぱらから■■■とかやっぱ■■■なんすねぇ~」
ノックの音が激しくなり、部屋の壁や天井がぎしぎしと軋みだす。なるほど、あれは母さんの声だが、明らかに何か様子がおかしい。
「■■■入りのコーヒーが飲みたいんだら?さっさと開けてくれよなぁ~」
「……大丈夫です。目をつぶって、私の手を握っていてください」
強張って冷えた身体にマンハッタンカフェの体温が移ってくる。安堵からか、全身の力が抜けていき、急激な眠気に襲われる。
「■■■も■■■■してやるからなぁ~」
「────────」
意識がなくなる前にマンハッタンカフェと“何か”の声が聞こえたが、もはや眠さが勝り、何を言っているのか、はっきりとは分からなかった──。
再び目を覚ますと、そこは朝日が差すトレーナー室だった。今度は間違いなく現実だろうと安堵していると、ノックの音が鳴り響き、一瞬ぎょっとする。
「トレーナーさん、入ってもいいでしょうか?先ほどの夢のことですが……」
ノックの主はマンハッタンカフェだった。急いでドアを開き、部屋の中に招き入れる。
「あの子については、もう大丈夫だと思います。ただ構って欲しかっただけですし、私からもよく言っておきましたから……」
夢の中で眠りに落ちる前、やはりマンハッタンカフェが何かをしてくれていたのだろう。感謝の言葉を伝えると、マンハッタンカフェは少し恥ずかしそうに俯いた。
「いえ、私にできることをしただけですから……」
ねぎらいの意味も込めて、彼女がくれたオリジナルブレンドを淹れることにした。また同じ夢を見ては大変だが、お互いに寝起きなので流石に大丈夫だろう。
「はい……ありがとうございます……」
夢の中の出来事が嘘のように穏やかな朝だ。朝日を浴びながらコーヒーを飲むマンハッタンカフェの影が、少し嬉しそうに踊った気がした。
たまげたなぁ