安部菜々17歳   作:hatibe

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問七、彼らが全員で集う確率を求めよ。ただし、彼らはその事に気づいていないものとする

1/身から出た錆

 

 閑静な住宅街に古ぼけたアパートがある。

 そのアパートのとある一室から、PiPiPiPiPiと電子音が聞こえている。

 放置したところでこのアラームは鳴り止まない。

 ピピピピピピピピピッ!

 けたたましく鳴り響く目覚まし時計の息の根を止めた。

「辛い……」

 あっちゃこっちゃに飛び跳ねている髪の毛、よれた真っ赤なジャージ、死んだような目。寝起きの辛さをその身体一つで物語っている少女・安部菜々はうす目をこすりながらもぞもぞと布団から這い出した。

 そして一言、

「年々寝起きが辛くなる……」

 実のところ、寝起きが辛くなっているのは年をとっているからではない。就寝直前までネットをやっている事と、不規則な睡眠をとっていることが原因だ。だが、その事を自覚してしまうと、生活リズムを根本から改善しなければならないというそれはそれは面倒な作業に取り組まなければならなくなるため、菜々は事実から目を背けて年のせいだと評している。

 ちょっと運動をしただけで直ぐにバテるのは運動不足ではなく年のせいだし、目の下のクマも睡眠不足ではなく年のせい。最近顔がむくんできたのも食べすぎ飲みすぎではなく年のせい。メイクのノリが悪いのも年のせい。桶屋が儲かるのも年のせい。何もかも年のせい。

 そう、全ては年をとった事が原因なのであり、自分は悪くないのだ。そう考えると気が楽になった。

 だが、もしもだ。もしもの話だ。

 もしも、自らの行いによって窮地に立たされている事があるとすれば、それは、

「清水からチケットを入手しろって、なにそのムリゲー」

 菜々はため息を一つついた後、その辺に転がっていた小顔ローラーで顔をコロコロしつつ、昨日の出来事を思い返した。

 北条加蓮との楽しいお喋りの内容を。

 

 

「は? 隣に越してきた隣人が普段IRCで話している友人で、しかも相手はその事に気づいていなくて? そしてオフ会に顔を出すのはアレなんだけど、やっぱり気になって後をつけたらプロデューサーにスカウトされて? でもって実は地下アイドルやっていたっていう経歴があって? はぁ。…………あのさ、冗談は年齢だけにしてよね」

「ナナハ17サイデス」

 言葉は使い方によっては、鋭利な刃物のような鋭さを持つ。それが、親しき友人からの言葉であれば、尚更鋭さを増すものだ。

 であるからして、北条加蓮の言葉責めによって、菜々が壊れたポンコツアンドロイドのようにカタコトになるのも無理ないことなのかもしれない。

 

 思わぬ出来事から北条加蓮に身バレしてしまった菜々は、今日までの出来事を赤裸々に語った。正確には、吐かされた。

 人生山あり谷ありとはよく言ったものだが、何もシンデレラになれると決まったその日に身バレをしなくてもよかろうに。

 シンデレラになる瞬間を目撃された上に身の上話まで吐かされたことで、気恥ずかしさやら嬉しさやら苦しさやら血反吐やら色々なものが混じり混じって、菜々は頰を赤く染め上げた。

 

「というか、『ナイトにクラブでブイブイ言わしてる』ってそういう意味だったんだ」

「あ、やめて。そこ掘らないで」

「まーウサミンがさ、どーゆー理由でオフ会参加を拒否ったのかは分かったからいいんだけどさー」

「あの、リアルでその名を呼ぶのもやめてもらって……」

「え、じゃあなんて呼べばいいの? ウサミン星からやってきた声優アイドルAB-77さん?」

「ぎゃーす! いや、普通に菜々でお願いします……」

「はいはい。菜々ね、菜々。アタシはまあ、加蓮でいいから」

 

 「ギャー」とか、「キャー」とか言って反応する菜々の様子がおかしくて、いつもの調子でついつい弄ってしまった加蓮だったが、ウサミンの本名を改めて聞いた瞬間、込み上げてくる物があった。

 友人が同期になった。

 知り合いが一人もいない芸能界に、友人が入ってきた。

 煎じ詰めれば、今日の出来事はそういう話だ。

 嬉しいに決まっている。

 だからと言って弄る事はやめない。北条加蓮とはそういう少女なのだ。

 

 

「あ、そうだ。菜々って明後日は暇?」

 思い出したかのように問いかける加蓮に、菜々は手帳を確認しながら、

「明後日ですか? 明後日は……バイトがフルで入ってますけど、少しなら時間作れますよ?」

「あー、フルで入ってるんなら厳しいかもね。残念、シンデレラの舞踏会のBOX席のチケットが余って――」

「行きます」

 瞬間、加蓮の両手をぐわしと菜々は握った。感謝の意の表れだった。

「ば、バイトは?」

「辞めます」

「そこはせめて休むにしておいた方が良くない……?」

「なら休みます」

 友好関係を今一度確かめるための盛大な握手の如く、加蓮の両手をぶんぶんと上下に振りながら、「ありがとうありがとう」と呟く菜々の圧に加蓮は若干引いた。珍しく、引いた。自分より年上の人間が、アイドルライブにお熱な姿は見ていてこうも辛く苦しいものなのか、と加蓮は思った。

 

「……というか、何でチケットが余って?」

「えーっと、演者特典的な?」

「演者特典……? えっ! てことは出るんですか! 舞台に!」

「と言ってもただのバックダンサーなんだけど」

「ばっ、バックダンサー!? だ、誰の」

「二宮飛鳥」

「あ、あ、あ、飛鳥ちゃんの!? あの飛鳥ちゃんの!?」

「ちょ、ちょっと菜々。声が大きい」

 慌てすぎだと窘められたが、菜々としては情報過多でそれどころではなかった。

 目の前にいる少女が、チャットでだべっていた少女が、あの二宮飛鳥のバックダンサーなのだから。何しろあの、前口上・二宮飛鳥のバックダンサーなのだから。慌てるなと言われても困る。

 

 二宮飛鳥。346プロダクションの主力アイドルの一人であり、最近では国民的アイドルと呼ばれ持て囃されている。どれだけアイドル事情に疎い人間であろうと、名前だけは聞いた事が誰もが知っている程度には、有名なアイドルだ。

 飛鳥の14歳とは思えぬ立ち振る舞いとその言動は、多くの人々を虜にしてきた。かくいう菜々も二宮飛鳥のファンであり、飛鳥が発した数々の前口上をノートに書き留めている。ネットに存在する二宮飛鳥前口上まとめwikiに情報提供をいくらかしている程度には、菜々は飛鳥のコアなファンである。ちなみに前口上の第一声が、『やあ皆……ボクだよ』から始まるのはファンの間では常識だ。

「いやそれがね、飛鳥がさ」

「飛鳥!? そんな仲なんです!?」

「だって本人がそう呼べって言うんだもん。『加蓮、ボクのセカイにようこそ。歓迎するよ』ってさ」

「うわーうわー! 飛鳥ちゃんって本物なんだ!」

 割と失礼な事を口走っているが、菜々本人にその自覚は無い。

 

「で、本当に行く?」

「勿論です」

「おっけー。じゃあちょっと清水に連絡するね」

「……えっ?」

「なにその『え?』って」

「いや、何で彼に連絡を?」

「チケット、清水に全部あげちゃったの」

 言いつつ、加蓮は少しばかり後悔をしていた。

 成り行きとはいえ、もう少し大切に配るべきだったと今になって後悔し始めた加蓮。なにせ、チケットはあの二宮飛鳥に貰ったものだったのだから。

 貰った時の事の飛鳥の言葉を思い出す。

『へぇ、友人を招待したいのかい? ふむ……にしても時期が悪いんじゃないか? プロデューサーだってこの時期は忙しい。席を用意しろと頼むのは、少し酷な話だろう。……友人、か。ふふっ、懐かしい響きだ。かくいうボクも以下略』

 というややこしいやり取りの後、二宮飛鳥が融通してくれた4枚のチケット。

 もちろん加蓮にも事前に招待用のチケットは渡されていた。いたのだが、その枚数は2枚であり、これは当然ながら両親用だ。

 

 友人を招びたい加蓮のために、二宮飛鳥が融通してくれた4枚のチケットは、その場のノリと勢いに任せて適当に渡してしまった。まああそこで冷静になるのは少し難しい話だろうが、それでも猛省ものだ。

 飛鳥にも呼ぶべき友はいたはずなのに、こんな使い方をしてしまっては面目が立たない。だが、やってしまったことはしょうがない。

 そんな事を考えながら、加蓮は問う、

「じゃあどうすんのよ、連絡しないとチケット貰えないよ?」

「ちょ、ちょっとだけ待っていてください。なんとかするんで! なんとかならなかったら、その時はお願いします!」

「はぁー……」

「た、ため息はやめてくださいよぅ!」

 

 

 というのが昨日の話だ。

 加蓮の出してきた無理難題――加蓮が出したわけではない――は、ワイルドカードさえ使えばたやすくクリアできる。

 そう、自分がウサミンであると清水に白状する事だ。

 んなもんできるか。

 菜々は即座に否定した。

 

 さあ、考えろ、考えるんだ菜々。

 ウサミンという正体を明かす事なく、清水からチケットを受け取る方法について。

 菜々は小顔ローラーを放り投げると、明晰な頭脳を働かせ始めたのだった。

 

 

 

2/永遠分の1

 

 なんとなくチャットをしたくなったので、IRCにINしようかと思っていると、インターホンが鳴った。

 ピンポーンという軽やかなチャイムにつられ、僕は玄関の扉を開ける。するとそこには、

「…………」

 誰もいなかった。

 インターホンの故障だろうか。あるいは、誰かのいたずらか。

 そんな事を思いながら辺りを見渡していると、ドアの裏に立体物が隠れていることに気づいた。大きな大きな段ボールがドアの裏にポツンと置かれていた。

 どうやら、宅配便のようだ。しかし、どうしてか配達人の姿が見当たらない。メール便なら配達人がいないのも分かるのだけど……。

 

 その宅配物は、引っ越し用のダンボールを2箱縦に連ねたような、馬鹿みたいに大きなサイズだった。

 何かの間違いではないのかと箱に貼り付けてある伝票を見たが、そこにはしっかりと僕の住所と名前が書き込まれている。が、差出人の名は……無い。それどころか宅配業者の名前すらない。ついでにナマモノ注意の張り紙まである。なんというホラー。

 

 廊下にこのまま放置しておくわけにもいかないが中身がヤバイ物だったら怖いので、取り敢えずここで開けてみようと決心し、爆発物処理班のように恐る恐る箱を開けてみると、

「……テディベア?」

 洗濯機に匹敵する大きさの、超大型サイズのテディベアが中に鎮座していた。いくらするんだこれ。テディベアの相場なんて知らないので見当がつかないが、見た目の質感的に高いものだろうというのは想像出来た。

 しかしだ。

 いらない。激しくいらない。果てしなくいらない。

 というか何だこれ。何でテディベアなんだ。

 どっかの誰かさんからの悪ふざけなのだろうか。

 一人暮らしの大学生の男の部屋に大きなテディベアがあったら、シュールを通り越してホラーだろうに。いや、一周回って面白いのだけど。

 

 しかし、これどうすればいいんだろう。

 廊下に放置すると、この巨大なテディベアは通行の邪魔となり、大家さんに怒られてしまう。かといって部屋に置くのもちょっと……。

 ガード不能の贈り物だった。そういえば、土砂10kgを宅配で送るサービスとかあったよな、とふと思い出した。贈り物のカテゴリーとしては、土砂10kgと巨大テディベアは同じ場所に位置すると思う。

 …………仕方がない。

 

「重っ」

 見た目に反してとてつもなく重いテディベアの処遇に困った僕は、渋々と部屋に放り込んだのだった。にしても重いな、なんだこれ。

 

 

「どうしたものか」

 ギックリ腰になるのではないかとヒヤヒヤしながら運び込んだテディベアの処遇では無い。テディベアはひとまずベッドの横に投げておいた。とりあえずあれの処遇はひとまず保留だ。

 そんなことではなく、チケットの処遇だ。

 

 ギルマスの話を整理すると、どうやら貰ったチケットの希少価値は、相当高いものらしい。ファン垂涎ものだそうな。そんなチケット、残り一枚。

 時間は厳しい。何しろコンサートは明日。そんでもって、拘束時間も長い。

 ほいと渡されて行けるような暇人なんて、そうはいないだろう。かといって、全てを投げ打ってでもアイドルコンサートに足を向けるような知人なんて、僕にはいないし。

 好きにしろと北条加蓮は言ったので、まあ余らしていてもいいのだろうが。

 などと考えていると、鎮座するテディベアと目があった。圧がすごい。ぬいぐるみがあるだけで、一人暮らしの部屋の雰囲気がこうも変わるのかと驚いた。でも、圧が強すぎだ。

 ……やっぱり、こいつの処理から始めた方がいい気がする。精神衛生上の意味で。

 

 

 

3/お人好し

 

「どうかされましたか?」

「ああ、ちょっと調べ物を。ゴミ収集の日がいつかなーって」

 もはや、驚きはなかった。

 ゴミとして出せる日がいつなのかを調べるために外のゴミ捨て場に赴くと、いつものように安部さんとエンカウントした。これで何度目だろうか。

「えっと、何ゴミですか?」

「大型ゴミです」

「大型ゴミは確か日曜か月曜だった気が……。確か、事前に役所に連絡しないといけないんですけど。ああ、それと費用も」

「ああ、そういえば大型ゴミって処分にお金がいるんだった。だいたいどのくらいですかね」

「うーん、物にもよると思いますけど、少なくとも1000円くらいはするんじゃ」

 僕の部屋に鎮座するテディベアが、しばらくあの部屋に居候する事が確定した瞬間だった。

 捨てるのにお金がかかるのなら、捨てないほうがマシだ。あって困るものでもないし。圧がすごいけど。

 にしてもこのままだと、僕の部屋はある種の闇鍋状態になるのではないだろうか。自家薬籠に何でもかんでも放り込むナンビクワラ族になった気分だ。

 

 どうもありがとうございます、と礼をして部屋に戻ろうとすると、安部さんから待ったがかかった。

「清水さんって大学生なんですよね?」

「ええ、まあ」

「大学ってどんな所なんですか?」

「大学ですか」

 大学ってどういう所なのか? と聞かれて僕は答えに窮した。

 なんでまた、僕にそんな質問をするのだろうか。

 ああ、そういえば安部さんは受験生だっけか。どこを受けるかは知らないが、確かに大学がどのような場所かを知っていれば、モチベーションは上がるだろう。

 思い返せば、僕は大学の下見という物をしないまま入学した。入学当初は、想像していた物とのギャップに驚いたものだ。

 にしても説明しろと言われると困る。高校とは違ってクラスという概念がなくて……とか言ってもピンとくる話ではないだろうし。

 正直なところ、実物を見るのが一番手っ取り早い気はする。この時期だったらサークルで暇を潰している彼らの姿も見れるだろうし。

 ああ、そういえばこの時期って確か、

「オープンキャンパスをやっていたと思いますけど。もし良かったら――」

「行きたいです」

「…………あっはい」

 もし良かったら、覗いてみてはどうですか? と言おうとしたら、まさかの”行きたい”ですと食い気味に安部さんが言ってきた。

 行きたいって、もしかしてあれだろうか。行くから案内しろっていう意味を込めているのだろうか。……おそらく、そういう意味なのだろう。安部さんの顔にそう書いてある。ああ、たぶんそういう意味だ。

 まあ、世間一般の春休みを謳歌している大学生の例に違わず、僕も時間を持て余しているのでこの手のイベントは歓迎っちゃ歓迎なのだが。

 なんともここ最近は、ライブに誘われたりとなんだかアウトドアの機会が増えた気がする。

 

「えーっと……いつ行きます?」

「明日とか、ダメですかね?」

「あ、明日ですか」

 高校生のフットワークの軽さに眩暈がしながらも、

「すみません、明日は用事がありまして」

「あ、そうなんですか」

「ええ、ちょっとライブを観に行くんで」

「ライブですか! なんのライブですか!?」

「え、ええ。あーえっと……アイドルの」

 答えたくないなーと思いながら嘘偽りなく答えると、安部さんは何故だか目をキラキラと輝かせた。

 

 安部さんにライブの事を話しながら、僕は一つの結論を導き出した。

 この少女は、恐らくだが……とてつもなくお人好しな少女なのかもしれない。

 そう考えるとつじつまが合う。

 ジャージ姿で人前に出ちゃったり、自己紹介がちょっとポンコツだったり、調味料が切れているからと隣人を訪問したり、ゴミ捨てでバッタリ遭遇しただけなのに会話をしようとするし、頼まれてもいないのに自主的にアパートのゴミ掃除までしちゃう。

 今時そんな人の良い人物がいるわけないだろって思ってしまうが、実物が目の前にいるのだから仕方が無い。

 現に、

「えっと……チケットが一枚余ってますけど、もし良か――」

「行きます!」

「あっはい」

 社交辞令を真に受けて、この子はコンサートライブについていくと言いだしたのだから。

 正直、この子の将来が不安だ。

 

 

 

4/ライブ会場

 

 人々がひしめき合う姿は見ていて嘆かわしさを感じるものだが、一万人を超える人々が整列している姿はそれはそれで空恐ろしいものがある。ましてやそれが一つの目的の為、それもアイドルのライブを観るためであればなおさらだ。

 

 とまあそんな訳で、僕らは加蓮に招待されてアイドルのライブに来たわけである。 

 メンツは、安部さんと鷺沢さんと橘さん、そして僕という奇妙な四人衆だ。

 

 鷺沢さんと橘さんに、安部さんが参加する件を説明するのには苦労した。予想するまでもなく、橘さんのお陰で、「塾生徒に自身をお兄さんと呼ばせる危ないバイト教師」というレッテルを再び貼られた件についてはもう語りたくもない。いい加減これどうにかしないと。

 

 注意をしておこうと橘さんに話しかけると、安部さんが口を開いた。

「始まりますね……」

 

 

5/ライブ

 

戦慄ノ夜//白坂小梅

 

「きょ、今日は……みんな、シンデレラの舞踏会に来てくれて……あ、ありがとう」「ウオオオォォォォ!」

「じゃ、じゃあ恒例のやつから……。い、1階席のみんなー、こんにちはー」「ウオオオォォォォ!」

「2階席のみんなー、こんにちはー」「ウオオオォォォォ!」

「3階席のみんなー、こんにちはー」「ウオオオォォォォ!」

 その歓声は、ある種の狂気を孕んでいた。

 地鳴りがするかのような反応。金髪の半眼メカクレ少女が舞台に出てきて、コール・アンド・レスポンスと言えばいいのだろうか、それらしき事をすると観客たちが雄叫びをあげていた。アイドルライブの熱量半端じゃない。

「ウオオオォォォォ!」

 みると、横にいる安部さんも同じような反応をしていた。

 まじかよ。

 そんな歓声の中、白坂小梅は舞台で大きく手を振った後、満面の笑みで、

「4階のみんなー、こんにちはー」

 途端、シーンとした。

 数秒前のことが嘘であるかのように、ライブ会場の熱量が一気にどこかへ行ってしまった。

 キーンという耳鳴りがするほどの静けさに、ただただ驚く。

 そして気づく、

「……4階ってないよね」

「……小梅ちゃんは幽霊が見えるんですよ」

「幽霊て」

 安部さんの説明を聞き、そんな強烈な個性付けを最近のアイドルはしているのかと震撼していると、

「あっ……」

 と、ステージ上からこちらを指差す白坂小梅の姿があった。

 指差されたのは僕の付近である。

 というか、僕の様な気がする。いやそんなまさか、自意識過剰すぎるだろう。

 周りから人がざざっと離れた。

「…………」

「…………」

「…………」

「ゆ、幽霊なんて非科学的なもの、ありえません」

 言いつつ、橘さんも僕から半歩退いた。鷺沢さんに至っては顔を背けている。肩も震えている気もする。

 

 これが、ライブの始まりだった。

 

 

一瞬千撃//佐久間まゆ

 

「どこかで見た気がするんだよなあ」

 金髪メカクレ少女がステージの裏に掃けた後に出てきたのは、それはそれはピンクな乙女だった。艶やかな微笑みは見るものを魅了することだろう。

 しかし、どこかで見たことがある気がした。

「それはそうでしょうとも! 何て言ったって、まゆちゃんはバラエティからドラマまで引っ張りだこですからね!」

「あ、そうなんだ」

 安部さんのアイドル知識というのは、どうやら相当なものらしい。アイドルの事で分からないことがあったら今度から聞くことにしよう。鷺沢さんの本の知識に匹敵する深さを持っている気がする。

 先ほどと打って変わって、彼女のパートはつつがなく終わった。

 

 

PROUST EFFECT//一ノ瀬志希

 

一ノ瀬志希の プルースト・エフェクトが 発動した!

観客Aは 一ノ瀬志希に メロメロだ!

観客Bは 一ノ瀬志希に メロメロだ!

観客Cは 一ノ瀬志希に メロメロだ!

…………

…………

観客Qは 一ノ瀬志希に メロメロだ!

観客Rは 一ノ瀬志希に メロメロだ!

観客Sには 効果が 無いようだ

観客Tは 一ノ瀬志希に メロメロだ!

 

 

御霊の依代//依田芳乃

 

 間延びする声の少女・依田芳乃がステージに登場する。

「みなみなにー導きがありますようにー微力ながらー」

 依田芳乃はそう言うと、ステージの中心で静かに座り込み、黙祷を始めた。

 なんだこれ。

 

「芳乃ちゃんは失せ物探しが出来るんですよ!」

「失せ物探し?」

 オウム返しのように安部さんに尋ねると、横から鷺沢さんがずずいと出てきて、

「確か、託宣ができると聞きますね」

 と言った。

「という事はあれって憑依芸能の一種ですか?」

 気になったのでそう聞いてみると、

「いえ……託宣はあくまで儀礼で、芸能には入らないかと」

「なるほど」

 幽霊が見えるアイドルがいたり、自身に神様を降臨させるアイドルがいたりと、昨今のアイドル業界の豊かさは凄まじいことになっているらしい。

 

「たくせん……? って何ですか、文香さん」

「託宣とは、神様からお告げを聞くことですね。ですから、失せ物探しとは……」

 橘さんと鷺沢さんの問答を聞きながら、僕は依田芳乃の黙祷する姿を眺めていた。

 ……アイドルのライブってこういうものなのか。

 

 

カワイイ//輿水幸子

 

「ふふーん!」

「かわいいね」

「かわいいですよねー!」

「かわいいですね」

「なるほど、これがカワイイ……」

 

 

白昼夢の幻惑//喜多日菜子

 

「こんなに大勢の前で歌えるなんて……」

 ステージに登場するや否や、喜多日菜子はそれっきり黙りこくった。

「……機材トラブル?」

「いえ、あれはただのトリップです」

「トリップ!?」

「日菜子ちゃんはよく妄想世界にトリップするんですよ。生放送とかでよくトリップしてますけど知りません?」

「恒常的にしちゃマズイでしょ……」

 当分彼女は帰ってこなかった。

 

「文香さん、恒常的って何ですか?」

「それはですね……」

 

 

直死の魔眼//森久保乃々

 

「ハッ、皆さん何してるんですか! 早くサングラスをかけないと」

「どういう……」

 辺りを見渡すと、観客たちは皆、サングラスをかけていた。

「マトリックスでも始まるの……?」

「何してるんですか清水さん! かけないと死んじゃうんですって! ほら早く!」

 言われるがままに渡されたサングラスをかける。橘さんと鷺沢さんも安部さんに渡され、おずおずとサングラスをかけた。

 

「で、死ぬって一体……?」

「目があったら死ぬんですよ、乃々ちゃんが」

「……はい?」

 

「はぁと、はぁと、らぶりーはぁと」

 ぴょこんと飛び出した少女は、なんともメルヘンチックな少女だった。

 背中に羽を生やし、青いドレスを着込んだその少女は、ステージの上でちょこちょこと跳ね躍る。なんとも幻想的なものだ。

 なんというか、見ていて癒される。

 ……これで、観客たちのサングラス姿さえなければ、ファンタジーの世界に入り込めるというのに。

 もう一度周囲を見渡す。

 ……うん、異様だ。グラサン姿の観客しかいない。

 ………………。

 好奇心にかられ、ひっそりとサングラスを外してみると、

「らぶりーはぁとで萌え萌え……きゅう」

 目が合ってしまった。森久保乃々はきゅうと言いながら、ステージ上でパタリと倒れこんだ。

 ……やっべぇ。

 僕は静かにサングラスをかけ直した。

 

「文香さん、マトリックスって何ですか?」

「それはですね……」

 

 

ファイヤーウォール//日野茜

 

「ーー! 全周防御! 繰り返す、総員全周防御! 嵐が来るぞォ!」

「……はい?」

 森久保乃々が倒れ、会場が静かになってから、どこかの観客が急に大声で叫んだ。

 何が一体始まるんだろうか。そう思いながら、この手のプロっぽい安部さんの方を見る。

 見ると、安部さんはその場にしゃがみ込み、目を閉じ耳を両手で塞ぎ口を開いていた。

 なんだっけこれ。映画とかで見た事のあるポーズなんだけど。

 確か、爆発物とかが――

 

「■■■■■■■■■■■■■■!」

 爆発音、遅れて衝撃波。

 生命の危機を感じた脳が、即座にトランス状態に陥る。サイリウムの一つ一つが文字のように見えた。錯視だ。

 知識:人類が文字を使い始めた起源は諸説あるが、トランス状態でしか読めない文字というのが確――

 つまり?

 知識:一人の人間が友人関係を構築できるのは150人が限界だと言われており、これをダンバー数と――

 となると?

 知識:死ぬ

 薄れゆく意識の中、川の向こう岸で手を振る女の人の姿が見えた。

 

「……ハッ!」

 気づけば、日野茜のライブは終わっていた。前後の記憶が定かで無いが、おそらく目を奪われるような凄いライブが行われていたのだろう。

 日野茜は気絶した森久保乃々を小脇に抱えながら、るんるん気分でスキップをしながら舞台袖に掃けて行く所だった。

 

「あそこまでで1セットなんです、天丼ですね」

「そうなんだ」

「文香さん、天丼って何ですか?」

「それはですね……」

 

 

MindCrusher//神崎蘭子

 

「我は漆黒の寄る辺にして真の魔王。此度の戦、存分に楽しもうぞ!」

 観客を盛り上げるべく、朗々とセリフを語った後に、その少女はくるりと傘を回して天井に向けた。

 そして曲が始まる。

 

 ……うん、普通だ。

 どの辺が理由でMindCrusher (ブラクラ)と呼ばれるのかわからなかった。

 などと思っていると、ウオオオォォォォという声が聞こえてきた。

 最初はデスメタル的な何かかと思ったが、どうやら声の主は観客席の方にいるらしい。それも一人ではない。

 

「……周りの人たちが呻いているんだけど、何これ」

「えーっと、蘭子ちゃんは特定層に対し絶大な精神的ダメージを誇る子なんですよ」

「……ブラクラみたいに?」

「ブラクラみたいに」

「文香さん、ブラクラって何ですか?」

「それはですね……」

 

 

前口上の王様//二宮飛鳥

 

 とうとう来たか。

 前のめりになってステージを眺めていると、安部さんが興奮しながら、

「とうとう加れンウェッホン!」

「だ、大丈夫?」

「だ、大丈夫です。……飛鳥ちゃんの出番ですね!」

「あ、ああ。そうだね」

 知り合いがあそこで踊るんですなんて口が裂けても言えない僕は、曖昧な返事をした。

 鷺沢さんや橘さんはともかく、アイドル通の安部さんに知られたらよくない気がしたからだ。

 すると、僕の熱力が低い事を感じた安部さんは、

「前口上の二宮飛鳥ちゃんですよ!?」

 と言った。

「ま、前口上の?」

「聞いていたらわかりますって」

 ほら、始まりますよ。そう言って安部さんは指差した。

 その先には、クレーンの上に堂々と立っている少女の姿があった。随分と高い場所にいた。

 少女はスポットライトを一身に浴びながら、語り始める。

 

「やぁみんな……僕だよ。今日は揃いも揃ってアイドルのライブを観に来たのかい。ああ、なるほど。確かに今日は偶像を見るには良い日だね。だけどね、今日はボクにとっても大事な日なんだ。そう、とっても大事な、ね」

「冷たい時代だ。だからこそ、ボクたちは手を取り合わないといけない。孤独を掻き消すためには、ノイズ混じりであろうとも、叫ばないといけない。どう足掻いたってボクらは独りだ。けど、共に歩く事はできる。だから今ここで宣言しよう。今日ここから、始めようじゃないか。リアルな聖域というものを。本当のセカイを見るために! だから! 散らばったピースをかき集め、ボクを見つけてくれ。全てを始めるために、ね」

「聞いてくれ……二宮飛鳥で、共鳴世界の存在論」

 

 

 

6/共鳴世界の存在論

 

 加蓮はどこにいるのだろう。

 栗毛で長髪のバックダンサーというのは、そういるものでは無い。

 探していると、すぐに見つかった。

 ……門出を祝う親の気持ちというのは、こういうものなのかもしれない。

 加蓮の踊る姿は凛々しく、初めての舞台とは思えないほど様になっていた。友人としては誇らしく、そして少しだけ寂しい。違う世界に行ったんだな、という実感があった。

 

 歌も終わりに近づいた頃、僕の袖を誰かが引っ張った。

「お兄さん……歌の力って、すごい。そう思いませんか?」

「ああ、確かに凄いね」

 橘さんだ。彼女の見ているものは、どうやら僕と同じらしい。視線の先にはおそらく、加蓮がいるはずだ。

 この子も僕と同じ気持ちなのだろうか。

 ぼんやりとそう考えていると、

「ですから、私アイドルを目指そうと思います」

「……そっか、応援してるよ。ってはい?」

「応援ありがとうございます。ではどうしたらいいでしょうか」

「ちょっと待って待って待って」

 

 感傷に浸っていた僕の心はどっかへ行った。

 急展開すぎ。なにそれ。

 さあここで頭を働かせてみよう。彼女が何を言っているかだ。

 わかんない。この子、突然何を言い出しているんだろう。

 

「当初予定していたタチバナプランには含まれていませんでしたが、このような現実を見せられると軌道修正をせざるをえません」

「初耳なんですけどそのプラン」

 頭が痛くなってきた。

 どうやら橘さんはマジらしい。目にそう書いてある。マジって。というかこれ、たぶんライブの熱にやられてる。

 深呼吸をひとつして、僕は橘さんの意図を探る。そして、彼女の言いたい事を汲み取った。

「なるほど、つまり手伝えと」

「……手伝ってくれるんですか?」

「……」

 先ほどまでのノリノリさはどこへやら、急にしおらしくなった橘さんにどう答えるべきか、考えあぐねる。

 手伝うと言っても、僕にできることなんて限られている。

 一応、アイドルになったばかりの北条加蓮という友人がいるが、そういうコネというものをこの子は求めていないだろうし、僕だって使いたくも無いし使えるとも思えない。

 だから、返事は自然とこうなる、

「できる範囲なら……手伝うよ」

 消極的な協力の表明は、その実、無関心を意味するものだ。

 おそらく僕の意図は伝わったはずだ。賢い子だ、それくらいはわかるのだろう。

 だから僕の返事を聞いて、橘さんは社交辞令的に静かに、「ありがとうございます」と応えた。

 そして、

「ではまず、両親の説得からお願いします」

「………………」

 前言撤回。この子はどのような返事が返ってこようと、構わず僕をこき使う気でいるようだ。

 

 

 

7/ライブは終わり、少女は一人、帰路につく

 

「段ボールに詰めてほしい?」

「はい。友人に本を贈りたくて」

「友人っていうと、例の……」

「はい」

 ライブから帰ってきて早々に、そう頼み込んできた文香の様子を見て、古書店を経営する文香の叔父は頬を緩めた。

 友人という言葉が文香から出るとは。叔父はその言葉を聞いて、鷺沢文香の成長を感じた。

 文香は人付き合いが得意な方では無い。

 幼い頃から暇さえあれば本を読んでおり、他者と交流をしている姿は親ですら見たことが無かった。

 

 大学に行けばさすがに友人ができるだろうと文香の両親はタカをくくっていたのだが、三つ子の魂百までとはこのことか、文香は友を得なかった。

 文学少女の興味は文学と、社会学や心理学といった周辺領域の中にあり、そしてそれら以外のものに一切の興味を示さない文香が友人を得なかったのは必然だったのかもしれない。

 友人関係を築くためには、共通話題というものが重要となる。該博な知識を持っていても、共有できなければ意味がない。共通するものを持たない文香に、友人を得る事は難しかった。

 

 そんな文香に転機が訪れたのは、叔父の経営する古書店でのアルバイトを始めた時だった(伝書鳩のように大学と家を往復する文香の様子を心配して、文香の両親が叔父にこっそり頼んだのだが、本人はその事を知らない)。

 古書店は膨大な本を書店と倉庫に保管しており、当然ながらパソコンでの管理が必須である。いかにデジタルの対極にある古書店とはいえ、デジタルの恩恵をわざわざ退ける理由などありはしない。

 暇な時には本が読めてお賃金が出るという本好きにとってはたまらない条件のために働き始めた文香だったが、このパソコンでの在庫管理には頭を悩ませた。

 もともと、パソコンといった電子機器に文香はそう強く無い。今では慣れたものだが、大学入学当初は涙を流しながらレポート作成に取り組んでいたものだ。

 

 で、文香は慣れないパソコンと悪戦苦闘しているときだった。

 目に留まったのは、とある人物のホームページ。

 パソコンを触っている時に、誤ってRSSリーダーに突っ込んでしまったホームページだ。

 RSSの削除方法を知らなかった文香は、時々来る通知に困っていた。

 なにせ、書いてある内容に興味を持てなかったから。

 その人はくっだらない事とさらにくっだらない事と殊更にくっだらない事を日記に書いていた。

 正直、興味がなかった。

 最初は、RSSの通知を無視していた文香だったが、あまりにも通知の頻度が高かったため無視出来なくなり、そしていつしか、その人の日記をよく読むようになっていた。

 読んで分かったのは、その人が大学生である事。おそらく男性である事。そして、推理小説とSFが好きな事だった。

 カミュの異邦人やサルトルの嘔吐に代表される仏文学や中国古典、ドイツ文学などといった凝り固まったものばかり読んでいた文香は、SFや推理小説といった読む人を楽しませるために書かれた作品、いわゆる娯楽小説の知識はあまり知識がなかった。

 もとから、その分野に興味がなかったわけではないし、娯楽小説といえど古典的なものであれば多少は読んでいたのだが、優先順位の低さと相まって、その手の本には疎かった。

 で、なんとはなしにその人の読む本を読んでみたのだが、これがまた面白くて驚いた。

 

 以来、その人の読む本を追いかけるようになった。

 

 しばらくして文香は、その人が推理小説愛好家の集まるチャット場に出入りしている事を知った。

 いてもたってもいられなくなった文香は、その門を叩いた。

 

 

 文香がネットで友人を得た事に難色を示していた叔父だったが(文学部にいるのだから、わざわざネットで同好の友を探さなくても近場で探せばよかろうに)、ネットで交流するうちに、少しずつ社交的になってきた文香を見て叔父は次第に文句を言わなくなった。

 食にも服にも全く興味を示さなかった文香が、少しずつではあるが興味を示し始めたのだ。歓迎する事はあれど、否定する必要は無いだろう。

 

「なるほど、話は大体わかったよ。それで、何冊ほど送るんだい?」

「ええと……百冊ほど」

「…………なんだって?」

「百冊です」

「……一度、本人に聞いてからにしなさい」

 共通の話題を持つ事は良いのだが、程度問題があるなあと叔父は頭を悩ませた。

 

 

 文香は自分の部屋にいそいそと戻ると、パソコンを開いた。

 そして、いつものチャットへアクセスする。

 

「……え?」

 パソコン画面に表示されているのは、

 

<500 Imaginarynet Server Error>

 

 リンクが切断されている。サーバーからの受信ができない。応答なし。

 どうやら慣れぬライブ鑑賞で相当疲れているようだ。

 事実、疲れはあった。ライブが終わった後、清水ら三人に断りを入れて、文香はすぐに帰路についたのだから。ライブ後のお茶会を断る程度には、疲れていた。

 

 開く場所を間違えたかと、再度リンクを踏む。

 

<500 Imaginarynet Server Error>

<500 Imaginarynet Server Error>

<500 Imaginarynet Server Error>

<500 Imaginarynet Server Error>

<500 Imaginarynet Server Error>

 

 リンクを何度踏めども、系から帰ってくる答えは同じだった。

 

 その時文香がふと思い出したのは、直近に見たギルマスのログだった。

 

ギルマス:ボクらは皆、次のステージに進まないといけない

    :パンとサーカスの時間はもう終わりさ

    :それが例え、痛みを伴うものだとしても、ね

 

 そんなまさか。

 否定するも、不安は募る。

 ひとまず寝よう。そして、もしも明日になっても繋がらないのであれば、その時は……。

 文香は独り、静かに床に就いた。

 胸のざわめきを忘れるために。

 

 

 

7/身バレ

 

「清水さん……清水さん!」

「鷺沢さん……?」

 ドンドンドン! と扉を叩かれ叩き起こされた僕は、思わぬ来客に度肝を抜かれた。

 なんでこの人がここに……? ああ、そういえば、本を郵送って約束を。

 しかし、鷺沢さんの様子はいつもと違う。慌てている。鷺沢さんらしからぬ雰囲気だ。

 何かあった。そう予感させるものだった。

「出来ないんです……」

「鷺沢さん?」

 途切れ途切れに、言葉を発す。全貌がつかめない。

 咀嚼するのに時間が掛かる。

「接続出来ないんです……」

「な、なにがですか?」

「接続できないんです! いちごパスタの会に!」

 

 僕は咽せた、思いっきり。

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