「大分、雄二達の召喚獣の操作性を上げる事が出来たな……」
模擬試召戦争によって、雄二と秀吉の召喚獣操作は格段に上昇した。特に、秀吉の操作性は目を見張るものがあった。
(秀吉の『演技』のレベルは本当に凄いよね……、本当に、自分が『召喚獣』になりきっている感じだったし……)
召喚獣の操作は奥が深い。慣れていない人はソレを遠隔操作で操るという感覚、言ってしまえばラジコンの操作と同じように考えているのだろう。だが、実際には召喚獣は人と同じように疲れもするし、神経や感覚がある。もちろん急所も人と変わらない位置にある。その為心臓を貫かれたり、首を刎ねられたりしたらどんなに点数があっても一撃で戦死してしまう……。だから召喚獣がどういう状態なのか、どういう動きができるのか、それを理解していなければ召喚獣を上手く操ることはできない。
(僕は観察処分者で……、召喚獣と感覚を共有しているからどういう状態なのかは手に取るようにわかるけど、他の人たちはわからないだろうな……)
それを「疲労」のレベルまで理解し操ってみせた秀吉の演技力は本当に驚嘆に値した。……今の秀吉ならば、一対一であれば多少の点数差があっても戦う事ができるだろう。ただ、召喚獣の「力」や「素早さ」などは召喚者の「点数」に比例するということもあるので、操作性だけで勝てるという事ではない。特に400点を超えていた場合に限っては、例え急所を攻撃したとしても、なんていうか……特別な障壁みたいなものがあり、とても一撃では倒す事はできない。
「……とりあえず職員室に行かないと……、模擬試召戦争のせいで仕事も出来ていなかったし……」
一足先に戻った長谷川先生や西村先生にもお礼を言っておかないといけないし……。まあ、なにはともあれ、僕は一度職員室に向かっていた……。
「ああ、よく来てくれましたね、吉井君。ちょうど、君に頼みたい事があったんですよ……」
「吉井、長谷川先生の後でいいから、校庭のゴールの片づけを手伝ってくれ」
「その次は、こちらもお願いしますよ」
職員室に到着するなり先生方より声を掛けられる。……成程ね、相当仕事が溜まっていそうだ……。
「わかりました。じゃあ、最初に長谷川先生の方から……」
先程の模擬試召戦争に付き合って貰ったお礼もそこそこに、そう言って作業に掛かろうとしたその時……、
「高橋君、君はもういいですよ。バイトもあるのでしょう?」
「いえ、かまいませんよ。気にしないでください」
(……ん?彼は……)
僕は声がした方を見ると、Cクラスの担任である布施先生と、もう1人の生徒が話しているのが見えた。……もしかして、彼は……。
「私がかまうんですよ。大丈夫です。残りはこちらでやりますから……」
「……それだと先生の仕事が進まないでしょう?バイトの事なら気にしないでいいですから」
「……ちょっといいですか?」
僕は布施先生達の会話を聞き、おそるおそる話しかける。
「ああ、吉井君。ちょうどよかった。ちょっとこの……」
「……何の用だ?『観察処分者』……」
布施先生が僕に仕事を頼もうとしてきた時に、一緒にいた男子生徒が、僕に敵意を覗かせた様子で遮る。その視線を、僕は真っ向から向き直り、答えた。
「……観察処分者の仕事、っていったらわかるかな?ちょうど仕事があるように見えたからね……」
「……観察処分者の仕事だと?それを今まで放棄しておいて、何を言っているのだか……」
「それについては否定しないよ……、ただ僕も私用があったんでね。それが終わったからこうして職員室に来たんだ。……まあ、遅れちゃってこうして仕事が溜まってしまった事については申し訳なく思ってるけど……」
「……」
僕がそう答えると、少し彼が訝しむ様な、値踏みするかの様な目に変わったのを感じる。
「…………私用ってのは、Fクラスでの模擬試召戦争の事だろ?私闘騒ぎのような事を起こしておいてそれが用事って言えるのか?」
「……言えないね。だから、それについては申し訳なく思ってる。西村先生はもとより長谷川先生にも無理を言って頼んじゃったし……、本当に悪いと思ってるよ。先生たちにも迷惑をかけちゃったしね……」
「……」
いくら他の人に迷惑を掛けてしまう事が自分の本意ではなかったとしても、雄二を手伝うと決めたのもまた、僕の意思だ。だからそれについては……言い訳はしない。
「ただ、先生たちに頼まれた仕事は全部ちゃんとやってみせるよ。それで先生たちに許してもらいたいんですが……」
「許すも何も……。私たちとしてはちゃんと仕事をやってくれれば言う事はありませんよ……。高橋君、吉井君もこう言っているんですし、もう大丈夫ですよ」
こうして布施先生の許可も貰い、僕は初めに依頼を進めようとした長谷川先生に向き直り……、
「……長谷川先生、すみません。そちらの仕事は布施先生の用事が片付いた後でいいですか?……先程も模擬試召戦争に付き合って貰ったのに申し訳ありませんが……」
「ああ、かまいませんよ。よろしくお願いしますね、吉井君」
「はい、少しお待たせするかもしれませんが……、出来るだけ早く終わらせますので…」
長谷川先生にも許可を頂き、最初に布施先生の用事を片付ける事とする。
「僕が来ていない間、代わりに仕事をして貰っていて有難う。……それと、ごめんね……」
僕は彼に、そう謝罪する。僕の代わりに先生の手伝いをして貰っていた事は勿論、Fクラスの件で迷惑を掛けてしまった事も含めて……。それを見た彼は、やがて溜息をつき……、
「……はぁ、もういい。先生、僕もここまでやった以上最後まで手伝います。……3人でやった方が早く終わるでしょうから……」
「有難う……。えっと、君は……」
「……高橋だ」
……うん、知っているよ……。心の中でそう呟き、僕は彼にお礼を言う。またこうやって、彼に会えた事に感謝しながら……。
「うん、ありがとう、高橋君。それでは先生、召喚許可を下さい」
「わかりました、承認します」
僕は召喚獣も呼び出し、主に力仕事は任せて貰って、細かい仕事は僕と高橋君と布施先生で取り掛かるのだった……。
「これで全部ですね。有難う御座いました。高橋君、吉井君」
「いえ、思ったよりも早く終わってよかったですよ」
「そうですね、……さて、次は長谷川先生の用事を消化しないと……。長谷川先生、遅くなって本当にすみませんでした。……高橋君もありがとう」
最初の険悪な様子だったけど、一緒に仕事をしているうちにだんだん態度を軟化させていった高橋君に僕はあらためてお礼を言う。
「もういい。……俺もお前の事を少し、誤解していたみたいだな……」
「……それは、誤解じゃないから……、何せ僕は観察処分者になる程の事をしてきたからね……」
そう、観察処分者になるきっかけ……。それは……、
「ああ、たしか西村先生のロッカーから押収品を盗み出したばかりか、私物まで売り払ったんだろ?」
「……その通り。返す言葉もないよ……」
いくら僕に理由があったとしても、それは他人の物を盗み出していい理由にはならない。わかっている……、これは僕の……、罪だ……。
「……言い訳しないんだな。正直言うと、俺はお前を噂で呼ばれているように『学園の恥』だと思っていたんだ。……やりたい放題、学園で暴れまわっては、仕事はサボる。言い訳ばかりで努力もしない……」
「……君の言うとおり、僕は……」
そこまで言った時、彼は僕の言葉を遮る。
「……だが、所詮、噂は噂か……」
…………え?その言葉に僕は高橋君を仰ぎ見ると、
「……お前はちゃんと自分の行動を客観的に見る事ができているし、責任もあるようだ……。それにお前、ちゃんと観察処分者の仕事をこなしているだろう?お前の召喚獣の動きを見ていて思ったが、仕事に合わせて手際よく動かせている。……なによりお前、ちゃんと自分の非を認められてるじゃないか。そんな事、言い訳ばかりの奴に出来る事じゃない……」
「…………高橋君」
そして、彼は続ける……。
「最初は努力もしていないFクラスが振分試験早々に試召戦争を起こしたって聞いたんで、ふざけんなって思ったもんだったが……、Fクラスにもまともな奴はいたんだな……」
……正直、こういう風に言ってくれるのは嬉しい。……僕がまともかどうかは置いておいても……、1年の時の僕が本当に好き放題やっていたのは事実であるからだ……。
「……僕がまとも……?高橋君、まともな奴が『観察処分者』になる事はないよ……?」
「気が変わった……。今日はお前の『仕事』を手伝ってやる」
「え?……で、でも高橋君、君バイトとか言ってなかった??」
彼はその複雑な環境から、色々なバイトを掛け持っていた筈だ……。
「気にするな。どうせこれから行っても遅刻だしな。バイト先の店長には言っておく……。あと、これから俺の事は勇人でいい……」
「……そう、わかったよ『勇人』。僕もこれからは明久でいいよ」
「じゃあさっさと終わらせるぞ、明久!」
「……了解!」
こうして僕は再び彼と出会い……、勇人と一緒に先生方の仕事を終わらせていった。
何時の間にか外も暗くなり、気が付いたら夜7時をまわっていた……。
…………まさか、明久の言った通り、Bクラスの代表が『根本恭二』だとは思わなかった……。今日一日、俺は明久、そして雄二に言われた通り、Bクラスの事を調べていた。すると、明久が言った通り、根本恭二がBクラスの代表である事がわかり……、さらにその交友関係を調べていると、Cクラスの代表であった小山友香と付き合っている事もわかったのだ。
(…………明久はこの事がわかっていたのか……?そう考えると根本とその交友関係を調べさせた事にも説明がつくが……)
また、明久に頼まれた400点を超える『腕輪持ち』の調査の件に関しても、どうもCクラスに何人かその対象者がいるようだ……。学校内に仕掛けたカメラや盗聴器や他クラスの知り合いに頼んで色々調べた結果、現在2年のAからFクラス……当然俺を含めてだが、併せて11人まではわかっている。3年や、まだまだ召喚獣を持っていない1年まではまだ調べてはいないが……、この分だと単純に30人は超えそうな勢いだった……。なんでこんな事を明久が知りたがっているかはわからないが……、まあ、こちらの件はまだ全てはわかっていないので引き続き調べる予定ではある。
(…………ん?あれは……、明久か……?)
向こうから歩いてくる人影をよく見てみると、どうも明久のようだ……。こんな時間まで何を……とも思ったが、どうも観察処分者の仕事をやっていたようである。……今までも観察処分者の仕事はやってはいたが、2年になってからのアイツは進んでその仕事を行うようになっていた。2学年となり、Fクラスに上がって明久と会った時には、雰囲気がまるで違いすぎて、別人かとも思ったものだったが……、性格は俺の知っている明久のままであった……。
(…………尤も、アイツの事だから、特にあんな風になった理由なんていうのもないんだろうが……)
良くも悪くもアイツの行動はよくわからない。1年間アイツと一緒だったが、人がやらないような事をやってしまったり、出来ない事を出来てしまったりと、昨年は俺も色々と明久に振り回されていた……。
(…………まあいい。折角だからわかった事でも報告してしまうか……)
そう思い、俺は気配を消して明久に近づくと……、
「……何かわかったの?ムッツリーニ……」
「…………何でわかった?」
……足音だけでなく気配も消して近づいたのに、何故かあっさりと看破されてしまう。
「んー?なんとなく、かな?……まあ気配がなく近づいてくるのはムッツリーニくらいだからね……」
「…………何故、気配を消しているのに気付くんだ、お前は……。まあいい、少しわかった事がある」
俺はBクラスの代表が根本である事と、ついでにCクラス代表である小山が根本と付き合っている事を伝える。
「……そう」
「…………驚かないんだな。やはり、予想通りか……?」
「……予想通りっていうか、確信がほしかったというか……」
その言葉を聞き、やはり明久にはわかっていたんだろうという事を感じ取る。……とりあえず、伝える事は全て伝えた。
「…………もう一つの方はまだ調査中だ。こちらもすべて調べ終わったら伝えよう」
「……ゴメンね。こんな遅くまで調べてもらって……」
「…………それはいい。まあ今度何かで返してもらう。……それより明久、お前も今日はずいぶん遅くまでかかったな」
「……これでも早く終わった方なんだ。勇人に手伝ってもらったしね」
「…………勇人?」
「ああ、うん。高橋勇人って人でね。今日、知り合って仕事を手伝ってもらったんだ」
聞き覚えのある名前を聞き、俺はリストを見てみると、
「…………それはCクラスの『高橋勇人』か?」
「ん……?そういえば、まだクラスを聞いていなかったかも……」
「…………もしそうなら、ソイツはおそらく『腕輪』を持っているぞ」
「……そう。しかも……、Cクラスに?」
「…………ああ、まだしっかり確認はとれていないが、「化学」で400点を超えているらしい」
未確定ながらも今までの成績と集めた情報から、おそらく400点を超えているだろう。俺の保健体育と同じく、一芸に秀でた者……。それがCクラスには3人もいる……。
「ねえ、ムッツリーニ?今わかっているだけでいいんだけど、『腕輪持ち』がいるかな?」
「…………まだ2年しか調べていないが、分かっているだけで11人。その内、Fが俺を含めて2人、Eが1人、Cが3人、Aが5人だ」
「……一日でそんなに……。すごいね、ムッツリーニは……」
感心するような明久を尻目に、俺は報告を続ける。
「…………まだ2年に何人かいる可能性もある。ただ今のBクラスには『腕輪持ち』はいない。それは確実だ……。あと、1年と3年を含めて、調べ終わるのは最低でもあと3日はかかる」
そこまで言うと、明久が何か考えはじめ、
「ありがとう、とりあえずこの件は急いでいないから大丈夫だよ。……そうだね、今度僕の家にある本でムッツリーニが好きなモノを何でも持って行っていいよ?」
「…………!?……いいのか?」
「色々無理を言ってるしね……、ただ一つ貸してもらいたい物があるんだけど……」
明久がそう言うと、その貸してもらいたいモノを告げる。
「…………確かに持っているが、そんなモノをどうする気だ……?」
「ちょっと使うところがあってね……。おそらく明日か、明後日には使う事になると思う。だから……」
「…………わかった、用意しておく」
「ありがとう、じゃあもう帰ろうよムッツリーニ。明日は多分Bクラス戦になる筈だから……。Bクラス戦ではムッツリーニが切り札になると思うからしっかりと休んでおいたほうがいいよ」
……そんな明久の言葉を聞き……、俺は疑問に思う事を聞き直す。
「…………確かに雄二はBクラスに仕掛けるつもりだと言っていたが……。少し様子を見るという事ではなかったか?」
「Bクラス代表が根本君だとわかった以上、雄二はすぐに仕掛けると思うよ……。今日、途中までとはいえ回復試験は受けていたし、僕が模擬試召戦争でほとんど補習室送りにしたから、点数も補習によって補給されているはずだしね。……それにBとCの代表が付き合っている以上、同盟は結んでいるだろうから、時間を掛ければ掛けるほど、Fクラスは不利になっていく……。だから、明日の朝一には試召戦争を仕掛けると思うよ」
……成程、確かに明久の言う事は筋が通っている。これが、『明久』の言った事というのでなければ素直に同意できるのだが……。まだ、その違和感は拭えない。
「…………わかった。今日はもう帰る事とする」
「うん、帰ろう。……今日は僕も色々と疲れたしね……」
そうしてその日は明久とともに帰宅の岐路に付く。……そして翌日、俺が雄二にBクラス代表の件を報告したところ、明久の言うとおりにすぐにBクラスと試召戦争をする運びとなり、須川がその宣戦布告に赴く事となった……。