(流石に、もうみんな帰ったかな……)
Cクラスと同盟を結んだあと、観察処分者の仕事がないかと職員室に行ったが、先生方より今日はいいと有難いお言葉を頂いた。そこで、雄二に前もって断りをいれ、現在僕はAクラスの教室前にいる。下校時間はとっくに過ぎているので、もう誰もいないかなと思っていると……、
「アレ?キミ、たしか吉井君だっけ?こんなところでどうしたの?」
背後から声を掛けられ、振り返ると薄い緑色の髪をショートカットにした女の子が立っていた。
「君は……」
「ん?ああ、ボクは工藤愛子だよ♪それで君は、吉井君であってるよね?」
屈託無く聞いてくる彼女に、僕は頷いて答える。
「うん、僕は吉井明久だよ。よろしくね、工藤さん」
「こっちこそよろしくね♪それより吉井君、Aクラス前でどうしたのかな?ボーっとしてたけど?」
「いや……、こんな時間だし、もう誰もいないかと思って……」
「まあ、だいたいは帰ったかと思うけど……、代表たちはまだ残ってるはずだよ?なんたってFクラスがBクラスを破ったみたいだしね。対Fクラスの作戦について極秘で話し合ってるはずだよ♪」
工藤さんの話を聞き、僕は苦笑いを浮かべる。……もうFクラスが宣戦布告してくる事は……、彼女らの中では決定事項なのだろう……。尤も、そんな話をしているなら僕が入るわけにもいかない。僕は、笑いながらそう話す工藤さんを見て、
「そうなんだ、じゃあ僕はまた、今度……」
「まあまあ……、吉井君も入りなよ♪そんなところに突っ立ってても仕方ないし♪」
「いや、ちょっ!?工藤さん!?」
邪魔になると思い、帰ろうとした僕を工藤さんによって、ほぼ強引に引き止められ、そのままAクラスに押し込まれてしまった。
「あら愛子、戻ってきたのね……って、明久君?」
「ああ、明久君か。もうBクラス戦の戦後対談はいいのかい?」
そこにはAクラスの代表である霧島さんと利光君、そして優子さんがそれぞれ何かを話し合っている様子だった。工藤さんに連れられてきた僕を見て、優子さんたちは普段通りに話しかけてくる。僕を見ても対して驚かない様子に苦笑しながら、
「やあ、優子さんに利光君。うん、Bクラスとの対談は終わったよ。じゃあ、僕は邪魔になるだろうから、帰るね……」
そう言って回れ右をして帰ろうとする僕を、
「まあまあ、別に邪魔じゃないよ、ねえ代表?」
「……うん。吉井は友達。邪魔なんてとんでもない」
いや、駄目でしょ。あまり僕が言えた義理でもないかもしれないけど……。
「でも……、今はFクラスの対策の事で話してるって聞いたよ?僕がいるとまずいんじゃない?」
「ん?いやそんな事はないよ。話していたといってもたいしたことじゃないしね」
「それでも……!ねぇ優子さん。僕、帰った方がいいよね!?」
僕は優子さんの方に向き直り、聞いてみる事にする。
「はぁ……、明久君、そんなに慌てなくても大丈夫よ……。愛子が何を言ったか知らないけれど……、本当にたいしたことじゃないから。……愛子もからかうのやめなさい……」
「ゴメンゴメン、吉井君が慌ててるのがおかしくって……。でも、Fクラスの事を話していたのは本当だよ?ボクは最初、Fクラスが勝つとは思ってなかったんだけどさ……。代表たちは最初から勝つって思っていたみたいだしね」
謝りながらそう話す工藤さんを見て、
「そうなんだ……。まあ、優子さんたちが大丈夫ならいいけど……」
おっといけない、忘れるところだった……。そこで僕は優子さんに向き直り、
「優子さん、昨日はゴメン!
……昨日の、FFF団が暴走してAクラスに侵入したと聞いていた僕は、迷惑を掛けてしまったであろう優子さんに謝る。
「昨日の?……ああ、アレね……」
思い当った優子さんの顔が苦渋に染まる。久保君達もそれを思い出したのが、苦虫を噛み潰した顔をしていた。
「久保君も大変だったよね~、彼らを止めようとしたら久保君も追いかけられる事になったし~」
「……ゴメン、工藤さん。思い出させないでくれ……」
そうか……利光君にも迷惑を掛けたのか……。
「僕がもう少し注意すべきだった……。アイツらに見つかればこうなる事はわかっていたのに……」
決してアイツらの嫉妬心を忘れていた訳ではないのに……!僕は自分の軽率さを責めていると……、
「そんなの気にしなくていいわよ……。別に、明久君が悪い事をした訳じゃないじゃない?」
「で、でも……!」
「……それとも、明久君は私と一緒にいるのが嫌だった……?」
「!いや、そんな事はないよ!?……うん、ゴメン……」
「それなら謝らないでよ、明久君……」
少し呆れたように僕を見てくる優子さん。結構、迷惑をかけてしまった筈なのに、そう言ってくれる彼女の心遣いに感謝する……。
「……へぇ~」
「……何よ、愛子。その顔は……?」
「べっつにぃ~、そうなんだ~、優子がねぇ~♪」
「ちょっ、ちょっと愛子!?何言ってるのよ!?」
……何か優子さんと工藤さんが話しているようだけど……、まあそれは置いておこう。僕は折角なので、気になった事を聞いてみる事にした。
「それにしても……、よくFクラスが勝つと思ってたね?今更言う事じゃないけど、流石にFクラスでBクラスに勝つ事は、難しいと思うよ?」
「……そんな事ない。雄二、それに……、吉井もいるから……」
「雄二はわかるけど……、僕も?」
「そうね……、あの時、明久君の召喚獣を見たけれど、とても点数で押し切れる、とは思わなかったわ」
「実際、明久君はDクラス戦でも、そして今回のBクラス戦でもかなり敵を倒していると聞いてるよ。……特にCクラスの教室での戦いでは、一人で何人も倒したというじゃないか」
僕としては意外な反応に驚いていると、そこに利光君達も話に加わってきた。
「……それはちょっと買いかぶりすぎだよ……、そもそも……、BクラスとAクラスの間には確かな『壁』が存在するし、それに召喚獣は点数によってその基礎能力が異なるから……、油断さえしなければ普通は高得点者に勝つことは難しいんだよ」
……まあ『普通』の状態ならだけど……、と心の中で一人ごちる。
「それで、吉井君たちは次はAクラスに宣戦布告するのかなぁ?」
「うん、多分明日には……雄二達と一緒に宣戦布告に来ると思う」
冗談で言ってみたというような感じの工藤さんの言葉を受けて、僕はこう答えた。
「えっ?よ、吉井君、ホントなの?」
「多分だけどね、明日じゃなかったら明後日かな?」
「そ、そうじゃなくて……吉井君、Aクラスに勝てると思ってるの!?」
「さあ……?勝てるかどうかの判断は正直雄二に任せているから……。まあ、真正面からぶつかったら、まず勝てないだろうね」
点数の高い姫路さんは兎も角……、まだまだ経験の浅い雄二や秀吉たちが、高得点者の集うAクラスに勝てるかといったら難しいと云わざるを得ない……。僕だって1人でAクラス全員に勝てるかといわれたら絶対に無理だ。自分が思っていた通りの事を言うと、霧島さんがゆっくりと首を横に振り、
「……雄二は勝算のない戦いはしない」
「という事は……、何かを狙っているというわけか……」
「……明久君。前にも思ったけど……そういう事は言わない方がいいと思うわよ……。私たちに警戒させちゃうだけだから……」
窘めるように言う優子さんの言葉をうけ、
「いや、優子さん……。こう言ったのは、お願いがあるからなんだ」
「お願い?」
「そう……。その試召戦争だけど、出来れば『一騎打ち』という手法をとらせてほしいんだ」
「……一騎打ち?」
私は吉井の提案を聞き返す。
「……そうだよ。FクラスとAクラス、それぞれ何名かずつで勝負してそれで勝敗を決めたいんだ」
「……明久君、申し訳ないがその提案はちょっと受け入れかねるよ、さすがに……ね」
「ボクも、それはちょっとね……。皆も納得しないと思うし……」
久保と愛子も反対している。優子の方を見てみても、やはり難色を示しているようだった。
「……吉井、その提案は……」
「それはやっぱり……、万が一Fクラスに負けると設備交換が発生するからだよね?」
受け入れられない……、そう言おうと思った私に、吉井はこんな事を言ってくる。
「……うん、Aクラスの代表である以上、負ける可能性がある提案を受ける訳にはいかないから……。……私としては、吉井の提案を受けてあげたいけど……」
……一騎打ちだとAクラスが負ける可能性がある。それが、私達Aクラスが出した結論。Fクラスにいる姫路は勿論、保健体育の点数がずば抜けて高いという土屋。優子の弟や、それに雄二も点数差で勝る相手を倒したという情報もある。……それに、なにより目の前にいる人物、彼のその召喚獣の操作技術はいまや知らない人はいないぐらいに広まっている。
「そうだよね……。だから、これだけは先に言っておくよ。仮に僕達Fクラスが勝ったとしても、Aクラスと設備交換を行うつもりはないからね?」
「……えっ?」
予想もしない吉井の言葉に、目が点になる。
「ちょ……ちょっと待ってよ、吉井君!設備交換しないなら……いったい何のために試召戦争を仕掛けるの!?」
「それは学園長に話をするつもりだけど……Aクラスには被害はないと思うよ?一騎打ちって方法ならば、試召戦争というよりもエキシビジョンって意味合いも強いし……、もしFクラスが勝ったら学園長に僕らの要求を聞いてほしいってお願いするだけだからさ……」
「そ、それじゃあ僕達が勝った場合はどうするんだい?」
「……それは試召戦争と同じく設備ダウンと3ヶ月の宣戦布告の禁止でいいんじゃないかな?まあ、他の要求があるっていうなら別だけど……」
何でもないように話す吉井を見て、愛子と久保は信じられないものを見るような顔をしている。……実際、私も同じだから愛子たちの気持ちもわかる。
「……明久君、聞いてもいいかしら?……明久君は、どうしてこの『一騎打ち』を提案したの?」
優子が私が一番聞いてみたい事をかわりに言ってくれる。そして……、吉井はそれに答えてくれた。
「……それは、雄二の為さ」
「……雄二の?」
思わぬ答えに、私が吉井に聞き直すと、
「……優子さんには前にも言ったかもしれないけど、僕はそんなに振分試験の直後に仕掛ける『試召戦争』には乗り気じゃないんだ……。実力差、というか普段の努力の結果が反映されて、それぞれのクラスに振り分けられているという事なのに、それで設備等を入れ替えるっていうのはちょっと抵抗があってね……。設備云々が不満なら努力して成績をあげて上のクラス入りを狙えばいいことだし。……僕が試召戦争をするのは雄二の想い……というか信念に協力しようと思ったからさ」
「……それは……」
「……霧島さんなら知ってるよね?アイツが前に『神童』と呼ばれていた事、それが一転して『悪鬼羅刹』と言われるようになった理由……」
「……うん……」
……それは私のせい。そして、私が雄二に惹かれた理由でもある……。
「……僕も前に雄二に聞いた事があったからね……。聞いておきたいんだけど……霧島さん、雄二の事が好きなんだよね?」
「……うん」
私がそう答えた事で、聞いてた周りが慌てだした。
「そ、そうだったんだ……あの代表が……」
「うん……、意外だね……」
「……まあ、前に幼馴染だとは聞いてはいたけど……」
吉井は私を正面に見て、話を続ける。
「……雄二も、霧島さんの事が好きなんだと思う……。素直じゃないから僕が何を言っても絶対に認めないんだけどね。……今回、雄二がワザと最低クラスであるFクラスに入って最高クラスであるAクラスを倒す……。かつてアイツが持っていた学力ではなく、それとは違う方法でそれをやり遂げて証明したい……、それが、アイツの考えなんだ……」
「……そう、雄二……」
「……だから、僕は雄二に協力する事にしたんだ……。そこにある、アイツの不器用な想いに、応えてあげる為にね……。だから霧島さんには、黙って見届けてあげてほしいんだ……。2人には、幸せになってほしいから……」
ポタッ………
気が付くと、私の頬を伝って涙が流れているのがわかった……。
「……ッ代表!?」
「えっ!?き、霧島さん!?」
……私はいつの間にか泣いていた。他の人が今まで、ここまで私の想いを肯定してくれた人はいなかったから……。かつて『神童』とまで呼ばれた彼ならいざ知らず、日々喧嘩に明け暮れていた雄二が私と釣り合わないという、他の人の評価……。勿論、それに気付いていなかったわけじゃない……。ただ、私にはそれを取り除くことが出来なかった……。
一緒に居たいのに……、でも、周りが……そして他ならぬ雄二が許してくれない……。
…………だけど今日、はじめて私はその想いを肯定してくれる人に出会った……。
「……ご、ごめんなさい……わ、わたし……っ」
「ゴ……ゴメンなさい!ゴメンなさい!!ま、ま……まさか泣かせてしまうなんて思わなかったから!!」
……吉井は私に必死に土下座して謝っていた。……何を謝っているのだろう?私はこんなに嬉しいのに……!
「……明久君、土下座なんてやめなさい。代表も困ってるじゃない……」
「いや、でも!霧島さんを泣かせてしまったし……!!」
「……吉井君、代表は別に悲しくて泣いてるんじゃないと思うよ……?」
「……とりあえず、顔をあげてくれ、明久君。話を続けたい」
久保にそう言われ、ようやく吉井が顔をあげる。
「……吉井、ありがとう」
「い……いや、僕は別にお礼を言われることなんか……」
「いいのよ、明久君。あと……、私たちは正式にその『一騎打ち』の提案を受けるわ」
優子が私のかわりにそう吉井に伝える。
「えっ……?い、いいの……?」
「ああ、Aクラスの一員として僕もそれでかまわない」
「ボクもそれでいいよ♪ね、代表?」
「……うん、吉井の提案、Aクラスの代表として了承する」
私たちの言葉を聞き、再び吉井が慌て出す。
「い……いや、もうちょっと考えた方がいいんじゃ……?確かにAクラスには被害はないと思うって言ったけど……。そ、その、負けちゃうかもしれないんだよ!?」
「……例えそれでFクラスに負けて、何かAクラスに被害があったとしても、私は代表としてそれを受け入れる」
「ええ、アタシもそれでかまわないわ」
「逆に聞きたいんだけど……、どうして吉井君はそんなに焦ってるの?」
愛子の尤もな意見に吉井は頭を掻きながら、
「いや……、僕はこの提案は自分でも無理があるっていうか……、少なくともすぐには決まらないと思っていたからさ……」
「……明久君は自覚がないのか……?君からあんな話を聞いて、僕たちが反対するわけないじゃないか……?」
「そ、そうなのかな……?でも……、ん?もう、こんな時間なんだ……」
ふと、吉井は自分の時計を見ると、少し慌てながら帰り支度をする。
「明日、また雄二たちと来るよ……、受けてくれるのなら……、一騎打ちの人数、日時もその時に決めよう」
「……わかった。待ってる」
私が肯定の意を伝えると、吉井は今度こそ帰り支度をする。
「うん、じゃあみんな、また明日」
「わかったわ、また明日ね、明久君」
「こっちも皆には伝えておくよ」
「吉井君、まったね~♪」
吉井が出て行こうとするところに、私は最後に声をかける。
「……吉井、ありがとう」
「……うん、霧島さんもその想いを大事にしてね。じゃあ……」
そう言って吉井はAクラスを出て行った。その後、私の近くに優子たちがやって来る。
「代表、ごめんないさいね……。代表の想いを、その……」
「うん……、正直代表がFクラスの坂本君を、って思っちゃったよ……」
「……別にいい、私もそれはわかっていた事だから……」
「でも代表……、よかったわね。私たちも応援するわ!」
「もちろん、ボクもね♪」
「……っうん、ありがとう、優子、愛子」
そして……、ありがとう、吉井……。ここにいない彼に、もう一度心の中で感謝を伝える……。
「おう、明久。ずいぶん遅かったな」
「雄二……?ずっと待ってたの?」
俺はAクラスに行った明久を待って教室に残っていた。勿論、明久からAクラスとの試召戦争の件について聞く為だ。
「で、どうなった?」
「うん、僕たちの提案を受けてくれるみたいだよ?」
「ん?設備交換はしないって事を話したのか?」
「まあね……。ただ一騎打ちを何人にするかとか、Aクラスに勝った場合に何を要求するかとかは伝えてないんだけどね……」
「……それでよくあの翔子達が提案を呑んだな……」
設備交換はしない件を伝えていたとしても……、もう少し警戒してもいいと思うんだがな……。もしかすると……、Aクラスの連中もコイツにあてられたか……?
「少し雄二と霧島さんの話になったぐらいで……、別に変わった事は話してなかったんだけどなぁ……」
「ちょっと待て、お前はいったい何を話してきた!?」
今、コイツの口から聞き捨てならない言葉が聞こえてきた気がするが……!?
「えっ?うん、試召戦争で霧島さん達に勝って学力が全てじゃないと証明したいとか……」
「…………まあ、それぐらいならかまわないが……」
「霧島さんが雄二の事が好きで、雄二も不器用な想いから試召戦争をはじめたとか……」
「テメェは何を言ってやがる!?」
このバカ!!一体何をAクラスでしゃべってきやがった!?
「明久、テメェが何を勘違いしているかは知らねえが……、今回の事は翔子は関係ないんだよ!」
「……じゃあ、霧島さんは関係ないと?でも、霧島さんは雄二のことを想っているよ?それに……雄二が試召戦争を仕掛けた理由も理解してるみたいだし……。僕はお似合いの二人だと思うんだけどね……」
「アイツが何を言ったかは知らねえがな……、俺は違うって言ってるんだ!それに、翔子の事だって……!」
コイツ、俺をからかってやがるのか!?まあ、からかっているようには見えねえが……。だが、事情を知らないコイツに翔子の事をとやかく言われる筋合いはねぇ!
「……じゃあ霧島さんの事が好きでないならば、ハッキリ言える?俺はお前が嫌いだ、って。そこまで言われれば、霧島さんは傷つくだろうけど……乗り越えられると思うよ……」
「ッ!翔子の事はいいんだよ!それは俺の問題だ!お前には関係ねえ!!」
そこまで言うと明久は一つ息を吐き、
「ねぇ、雄二……。雄二は僕が幸せになりそうだったら……、どう思うかな……?」
「……いきなり何を言い出すかと思えば……。だが明久、それはすぐに答えられるぞ?お前が幸せになりそうだったら……それは断固として阻止する。俺はお前の幸せはムカつくからな?」
話を変えるようにふと、何気ないように聞いてきたから……、俺は苛立ち半分で明久にそう言った。
「アハハッ、相変わらずだね?雄二……。じゃあ、僕も答えようか?」
「フンッ、言ってみろよ?」
そして……、明久はこう言ったのだ。
「……僕は、君が不幸になりそうだったら、何とかしてそれを阻止しようとするよ……。雄二には……、幸せになってほしいからね……」
「ハッ……、お前ならそう答えると……、は?お前何を言って……」
俺は明久の言った事が一瞬理解できず、聞き直す……、否、聞き直すことができなかった……。今の明久の雰囲気……、特に目だ……。とても、とても深い目……。強い意志を宿してなお、覚悟のある瞳……それでいてどこか諦めを含んでいるような表情……。
――それは今まで見たことがない程の真剣の表情だった。
(いったい何を体験したらこんな目ができるんだ!?)
俺は今の明久に対し、何も言う事が出来なくなってしまった。
「……雄二の言うとおり、他人の僕がこれ以上霧島さんとの事を強く言う事は出来ないけれど……、出来れば向き合ってほしい……。さっきも言ったけど……、雄二と霧島さんなら恥ずかしいと思う事はないよ。……もし笑う奴がいたり、その想いを否定する奴がいたら……、僕はソイツを『本気』で叩き潰す……ッ!」
「あ、明久……?お前……」
そこまで話して、明久はここまでとばかりに俺に背をむけると、
「まあもう今日は帰ろう、雄二?明日も色々忙しくなるだろうしね……。じゃあ、また明日」
「あ、おいっ、明久……」
そう言って帰っていく明久。……俺はただ、アイツの背中が見えなくなるまでその場を動く事ができなかった……。