「……私達Aクラスは、正式にFクラスからの『一騎打ち』の提案を受け入れる……!」
現在Aクラスの教室にて、高橋先生立ち合いの下に、AクラスとFクラスの試召戦争の宣戦布告を行っている。ちょうど、Aクラス代表である霧島さんが「一騎打ち」形式での試召戦争で行う事を受け入れて貰えたところである。
「……Fクラス代表として、我々の提案を受けてくれた事に感謝する」
この時点でAクラスにいるのは、雄二と僕と秀吉、ムッツリーニ、そして姫路さんだ。……ちなみに島田さんは今日、僕が登校するなり昨日の恨みと称して襲いかかってきたので、福原先生に事情を話して召喚獣勝負をおこし、補習室に行ってもらっている。
「それで、一騎打ちの人数と勝敗時の要求は何かしら?」
そこにAクラスの交渉役となっている優子さんが尋ねてくる。
「ああ、一騎打ちの人数はそれぞれ5人……。だから3勝したクラスが勝利するという事になるな……。そして条件だが……もしもFクラスが勝った場合は、我々FクラスのメンバーがAクラス入りできる為のチャンスを貰いたい」
「…………それって?」
「ああ、振分試験をもう一度受け直させてもらうって事になるな」
……今日の朝、Fクラスのメンバーには『もしFクラスが勝てるなら、それはAクラスより優れているという事になる、だから一人ずつにAクラスに入れるチャンスを貰えるようにする』と話した。……冷静に考えれば、チャンス=振分試験=Fクラス、となるのだが、『Aクラスとそのまま設備を入れ替えるより、女子の多いAクラスに入れる方がいいだろう?』と言った瞬間、皆二つ返事で了承した。
…………僕が言えた義理ではないけど、本当に馬鹿なクラスだと思う……。
「……明久君の言ってた『迷惑を掛けない』って意味がようやくわかったわ……」
「あ、あはは……」
「……でも、それはもう学園長に確証はとれているの?」
「一応伝えてもらっているんだけど……、高橋先生、どうなりましたか?」
先程、西村先生に聞いたところだと、おそらく大丈夫との事だったが、この場に高橋先生もいるので聞いてみる。
「再振分試験の件ですね、大丈夫かと思いますよ。学園長も『再振分試験を行っても問題ないだろう、入れる訳ないんだから』とおっしゃってらっしゃいましたから……」
……その言い分は相変わらずだが、まあ大丈夫だろう。設備の入れ替えの代わりに再振分試験という事であればそれだけの権利は行使できる筈だ。後は、もし試験を受けてAクラスに入れれば、FクラスとAクラスの人数が変動するという事があるぐらいだ。
……まして今のFクラスでAクラスに入れるのは、姫路さんくらいだろうし……。
「それで、Aクラスが勝った場合だが……、その時は通常通り、Fクラスの設備ダウンと3ヶ月間の宣戦布告の禁止でいいだろうか?」
「……それなんだけど、もしFクラスが負けたら、代わりにひとつしてもらいたい事があるの。それでFクラスの設備ダウンと3ヶ月間の宣戦布告の禁止は免除するわ」
「…………してもらいたい事?」
「まあ、たいしたことじゃないと思うわよ?少なくとも設備ダウン等よりは絶対いいと思うわ」
「……それでいいのか?」
「……まあ、こっちはほとんどリスクがないのに、そっちだけリスクを背負わせる、ていうのもなんだしね……」
ふうっと息を吐きながら答える優子さんに僕はその心遣いに感謝する。
「……わかった。それでは『一騎打ち』は明日の午前9時より開始する。場所はこのAクラス。参戦するメンバーは予め選んできてくれ」
それにより宣戦布告が終了する。
「……雄二、絶対に負けないから!」
「……それは俺もだ、翔子……」
「姉上、ワシも負けんぞいっ!」
「秀吉……そうね、楽しみにしてるわ」
尤もある程度、メンバーは決まっている。今話していた通り、Fクラスからは雄二、秀吉、ムッツリーニ、僕は出る事が決まっている。後は順当にいって姫路さんといったところだろう。また、Aクラスは霧島さんに優子さんは決まっているようだ。まあ後は、学年次席である利光君が出てくるに違いない。
「じゃあ明日ね、優子さん」
「明久君、悪いけど本気でいかせてもらうわよ?」
「もちろん、そうしてくれないと困るよ?」
「フフッ、じゃあ明日ね」
こうして僕達はAクラスを後にした。
「ん、明久。もういくのか?」
お昼前、Fクラスにて復習していた雄二が僕に声を掛ける。
「うん、西村先生にもお昼頃にって言われたし。ちょっと早いかもしれないけど行ってくるよ」
「まあ、許可は下りるはずだけどな?設備の入れ替えの代わりに再振分試験って言うんならむしろ向こうにしてみれば大歓迎だろうよ」
……実際の所、そうだろうね。ただ、僕にとっては学園長に会う事に意味がある。
「そうだけどね、あと個人的にお願いしたい事とかもあるんだよ。例えば全科目の回復試験を受け直させてもらう事とか……」
「全科目って……今からか!?明日はお前もでるんだぞ!?」
「それについては大丈夫。まあ今日中には終わると思うから……」
「……まあ、お前がそう言うなら、それ以上は言わないけどな……」
すんなり引いてくれる雄二に、僕は感謝の念を覚える。……それと同時に、雄二は随分僕の意見を尊重してくれるなと思っていた。もしかしたら、雄二も僕の事で色々と思うところがあるのかもしれない……。それならば……、
「…………もし雄二に聞いてくれる気があるなら……」
「ん?」
「生半可な話じゃないんだ……だから、僕の事を聞いてくれる気があるならば、Aクラス戦が終わった後、聞いてほしい……」
「……お前……」
「ただこの話は雄二の他には、秀吉とムッツリーニだけだ。他のFクラスの人には絶対に言わないで……」
僕は真剣な表情で雄二に頼む。
「……だったら学園長室だ」
「……えっ?」
「今日、それについても話すんだろ?だから明日、Aクラス戦が終わったら学園長室に行く。……それでいいか?」
「……うん」
「まあ、秀吉とムッツリーニもくるだろ。……アイツらも心配していたからな」
雄二の何気ない気遣いに僕は有難く思い、
「……ありがとう。じゃあ行って……」
「あ、吉井君、何処か出掛けるんですか?」
学園長室に向かおうとしたところで、姫路さんが僕に話しかけてきた。
「ああ、姫路さん。ちょっと学園長に呼ばれていてね」
「そうですか……実は私、お弁当を作ってきたんですけど、多く作りすぎちゃって……、それなら1つだけでも食べていきませんか?」
「ん、そうか悪いな……。明久、せっかくなんだ。お前も少しもらって行けばどうだ?」
雄二は僕の表情に気付かず、姫路さんの料理をすすめてきた。彼女がお弁当を開けると中には唐揚げやエビフライ、玉子焼きといったメニューでとても『おいしそう』だった。僕は無表情に玉子焼きをとり、それを口に運ぼうとして……、彼女の料理から香るおなじみの匂いに、箸を止める。
「……姫路さん、一つ聞きたいんだけど、この『玉子焼き?』から通常しないはずの香りがするんだけど……いったい何が入ってるの?」
危険信号が僕の中で警鐘を鳴らしているところに、そう姫路さんに問いかけると、
「玉子焼きですか?……えーと、確か……、塩酸と……」
「…………は?」
明らかに普通、料理で使わない単語が出てきて、雄二が戸惑っているようだ。
「そ、そうなんだ……で、姫路さん、味見はしたの?」
「いえ、味見をしてたら太っちゃいますから」
「い……いや、ちょっと待て、姫路……!え、塩酸ってなんだ!?」
「だから、隠し味ですよ?」
信じられないものをみる目で姫路さんを見ている雄二はさておき、
「そう、じゃあ姫路さん、ちょっとこの『玉子焼き?』の味を見てみてくれる?」
「お、おい、明久!?」
「(いくらなんでも冗談に決まってるでしょう?何処の世界に料理に薬品入れる人がいると思ってるの?)」
「(そ、そうか、そりゃあそうだよな!まさか姫路が冗談を言うとは……)」
僕は小声で雄二にそう説明し、姫路さんに『玉子焼き?』をすすめる。……一度、姫路さんには身をもって体験してもらおう……。その『お弁当?』がいかに危険なものなのかをわかってもらう為に……!
「で、でも太っちゃうので……」
「大丈夫だよ姫路さん、この『玉子焼き?』では太らないから」
「え?何で……」
「まあいいから!だまされたと思って食べてみなよ!」
「そ、そうですか……?それでは……」
パクッ………………バタッ!!
シ――――――ン……。
……姫路さんは、自分の作った『玉子焼き?』を食べた瞬間、倒れ……、動かなくなった……。
「お、おい、……明久……?」
「…………」
「コ……コレ……、まずくないか……?」
「…………」
「…………」
「……とりあえず、吐き出させよう……」
「……俺はAEDを持ってくる」
……そして僕達の救命活動により、なんとか姫路さんの蘇生に成功した。これで、少しは自分の料理の恐ろしさを知ってもらえれば……、そう願う僕であった……。
「…………明久」
学園長の所に向かう途中で、ムッツリーニが僕に話しかけてきた。
「……ムッツリーニ……」
「…………これをもっていけ」
そして、ムッツリーニがそのまま手にしていた小型の機械を僕に渡してくる。恐らくこの間話した物だろう。
「これが例の……?」
「…………そうだ。……あと俺が責任を持って、学園長室での会話は聞かれないようにする」
「……ありがとう」
「…………お安い御用だ。………ただ、約束は忘れるな?」
「うん、わかってるよ。……またあとでね?」
そして、僕はムッツリーニに礼を言い、学園長室に向かう……。
――学園長室――
コンコン、というノックの音が響き、暫くすると中から応答があった。
「……入りな」
それを聞いて、僕はドアを開く。
「失礼します、学園長」
僕が入ると、そこには学園長である藤堂カヲルと既に到着していた西村先生がいて、こちらを見ているようだった。
「アンタが吉井かい?確か2年を代表する馬鹿と聞いているが……」
いきなり罵倒から入る学園長に相変わらずだなと苦笑いを浮かべる……。さて、その前に……、僕は先程ムッツリーニより預かった機械のスイッチを入れる。すぐに機械は反応し、何やら反応があった。
「どうしたんだい?なんか話があるんじゃなかったのかい?」
何も話さない僕に訝しむように見てくる学園長。おっと、一応返事しておかないとマズイかな?
「な、なんでココに妖怪がいるんだ!?」
「……いきなり妖怪とは何さね!?」
あれ?おかしいな?返事を間違えたかな?僕は、学園長に返事をしながら、機会の反応している場所を特定していく。……ふむ、やっぱりあそこか……。
「……冗談ですよ、ババア長」
「全然冗談に聞こえないよ!!それにそんな罵倒をアタシャ今まで一度も聞いた事がないさね!?」
僕は学園長を挨拶?しながら、ゆっくりと目的の場所まで近付く。
「……西村先生。アンタ、アタシを罵倒させる為にこのクソジャリを連れてきたのかい?」
「……いえ、おい吉井、いい加減に……!?」
注意しようとする西村先生に僕は自分の口に人差し指を当て、静かにするよう促すと……、
「おっとぉ、足が滑ったぁ――!!」
バキッ!!ガシャン!!
僕はそこにあった観葉植物に思いっきり突っ込む。そして、そこにあった盗聴器を事故に見せかけてぶっ壊した。
「……盗聴器、だと?」
「……すみません、まさか学園長室が盗聴されているとは思わなかったので……一芝居を打ちました。……失礼しました、学園長」
「…………それが、アンタの本当の『顔』って訳かい?思ったよりも喰えない奴だね……」
フンと鼻をならし、こちらを観察している学園長に、僕は改めて挨拶をする。
「とりあえず……、今は誰が盗聴していたかは置いておくとしましょう……。今日は学園長に聞いて頂きたい事があって参りました」
「……だいたいの事は西村先生と高橋先生から聞いてるよ。設備交換の代わりに再振分試験を認めてほしいとは随分変わった要求だとは思うが……、まあいい、承認してやるよ」
「…………ありがとうございます」
「どうせ、Fクラスで試験をしてもせいぜい風邪をひいて途中退席したっていう生徒がAクラスにいけるって事ぐらいだろうにねぇ……」
何を馬鹿な、と言いたそうな顔をして言う学園長に、
「それはいいんですよ。僕らとしては、Aクラスに勝つ事ができれば、それでいいんです」
「……そもそも、FクラスがAクラスに試召戦争を仕掛けて勝てると思っているのかい?今までの歴史を紐解いても、そんな事は一度もないんだよ」
「なら、僕達がその第一号になってみせますよ」
「……でかい口をたたくねぇ……」
憎まれ口を叩きながらも、学園長はAクラス対Fクラスの試召戦争の書類に「承認」の印を押してくれた。
「ただ、今回の戦争はエキシビジョンという意味合いも含めているからね……プロモーションビデオも撮って大々的にやる事にするよ。だからアンタらには、せいぜい頑張って貰いたいものだね……。そして、それを見学したい生徒はできるようにもする……。それでもいいさね?」
「……それはまた……。まあ、僕はかまいませんけど、他の皆には……」
「これは既に『決定事項』さね。西村先生、手配をお願いするよ」
「また貴女は……。はぁ……、わかりました……」
西村先生が少し疲れた表情で了承する。……西村先生にこんな顔させるのは後にも先にも、おそらく学園長だけだろうな……。
「あ、あとすみません、明日の一騎打ちの前に全科目の回復試験を受けたいんですけど……」
「何?今からか?」
「……そういうのはもっと早く受けとくもんだよ……。それとも何か?本当の実力でもみせるとでも言うつもりかい?」
「まさか……、そうですね、10分もあれば終わると思いますので……」
「何だと?全教科を10分?」
「……まあ、いいさね。受けさせておやりよ、西村先生」
「……わかりました、じゃあ吉井、後で補習室に来るように」
仕事が増えたとばかりに溜息をはく西村先生に内心でお詫びする。さて……と、
「それでもう話は終わりかい?こうみえてアタシも忙しいんだ……。話が終わったんなら出ていきな、吉井」
「…………とんでもない。話はこれからが本番ですよ。ただその前に……、『コレ』を見てください……」
……むしろ、本当に話したい内容はこちらのほうだ。僕は右腕の制服をまくり、そこに着けてある、血を思わせるような赤い光を放っている真紅の腕輪を学園長に見せる。
「一体なんだい……?ん……!?そ……それは……まさか……!?」
「……学園長?吉井の着けている『腕輪』がどうかしたんですか……?」
僕のこの『腕輪』を見た瞬間、顔色が変わる学園長。訝しむ西村先生を置いておき、僕の腕輪をまじまじと見ると、
「これは……まさか……『白金の腕輪』……なのかい?」
「……ええ、学園長の仰っている腕輪であっていると思います。……尤も、今は元々の能力は使えませんが……」
「学園長……?」
その辺の事情がわからない西村先生は怪訝な顔をしている。それはそうだ……、現時点において『腕輪』なんて無いのだから……。知っているのは……、
「…………これは、今現在、私が開発している腕輪のことさね……。今、『腕輪』は高得点を出した召喚者の召喚獣にしか付与されないだろう?……だからアタシは『召喚者』が身に着ける事で、召喚獣が能力を発動できる腕輪を開発しているのさ……」
「成程……、じゃあ吉井が着けているモノが、その腕輪という事ですか……」
納得がいったとばかりに西村先生がこう答える。だけど……、それはありえない……。
「……言った筈だよ。アタシは『今』開発中だと……。だから今現在、召喚者に身に着ける腕輪が『存在する』はずがないんだよ……」
「…………はっ?し、しかし現に吉井はこうして腕輪を身に着けているじゃありませんか?」
「だからおかしいんだよ……何故吉井がこれを持っているのかが……」
そして、ハッと気付いたように戦慄の眼差しを僕に向けながら、
「…………吉井、アンタは……まさか……」
学園長の震えた声に、僕はこう答える……。
「……はい、正確ではありませんが……、僕は数ヶ月先から『戻って』きました……。そして……、『何度も』この文月学園の2年生として、『繰り返して』いるんです……」