バカとテストと召喚獣~新たな始まり~   作:時斗

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文章表現、訂正致しました。(2017.12.2)


第23話 第三試合 工藤愛子VS土屋康太

 

 ……第二試合までが終わり、俺は試合会場の方に向かっている。

 

 

(…………明久……)

 

 

 ……そして、先程の明久の状態を思い出す……。あれは、間違いなく腕の骨が折れていた……。

 

 

(…………アイツが『腕』を抑えだしたのが、試合中……。それ以前に腕を痛めていた様子はなかった……)

 

 

 恐らくは、あの試合において、『怪我』を負ったのだろうが……、召喚獣を動かしていた以外の動作を俺は見ていない。……という事は、その動かしていた時に損傷した、という事になる……。

 

 

(…………だが、俺は今まで召喚獣の操作であんな風になるという事を聞いた事がない……)

 

 

 考えられる事があるとするならば、『観察処分者』の召喚獣の持っているフィードバック……。だが、別に骨折するほどの動きがあったかと言われると疑問を感じる。……尤も、ココ最近の明久の様子を見るに、いくつか気になっている事もあるにはあるが……。そうこう考えている内に、俺は試合会場の方へ到着していた……。

 

 

 

「君が…、土屋君、だよね?」

 

 

 ……相手の選手がそう声をかけてくる。

 

 

「…………お前は」

「ああ、ボクは工藤愛子。よろしくね~♪」

 

 

 ……工藤愛子。確か一年の終わりに転入してきた女生徒……。俺の情報では奴もある教科で『腕輪』を持っている筈だ……。

 

 

「教科は何にしますか?」

「…………保健体育」

「保健体育ですね?わかりました」

 

 

 ……高橋女史が科目設定をしている……。そんな時、工藤が再び俺に話しかけてきた。

 

 

「確かキミ……、『寡黙なる性識者(ムッツリーニ)』って呼ばれているんだよね?」

「…………そんな事実は無い」

 

 

 ……全く、極めて遺憾だ。

 

 

「またまた~♪それで随分と保健体育が得意みたいじゃない?」

「…………」

「でもね、ボクだってかなり得意なんだよ?それもキミとは違って……」

 

 

 ……そこで工藤は艶っぽく笑いかけながら、勿体つけたように答えをおいて……。

 

 

「……実技で、ね♪」

「…………ッ!?」

 

 

 ……いきなり、何を言い出すんだ!?この女は……!?俺は咄嗟に鼻血が出そうになるがなんとか抑え込む。……クッ、今はこんな事をしている場合ではない……!

 

 

「吉井君も勉強が苦手そうだし……、保健体育で良かったら教えてあげようかなって思っていたんだけど……、結構倍率が高そうだからね~。……友達も気になっているみたいだし……」

 

 

 …………明久、か……。

 

 

「ムッツリーニ君も良かったら教えてあげようか?もちろん、実……」

「…………工藤」

 

 

 俺は、工藤がその台詞の先を言おうとする前に封じる。……途中で言葉を遮られた工藤は、少し不機嫌そうに聞いてくる。

 

 

「……何かな?ムッツリーニ君」

「…………工藤、保健体育が得意というならば……、明久を見てどう思う?」

「!?な……何言ってるの!?ボ、ボクはそんな……!」

 

 

 ……何を勘違いしているかは知らんが……、工藤は顔を真っ赤にさせながら動揺していた。

 

 

「…………俺が言ってるのは、……『今』の明久の状態について、だ……」

「ッ!?……吉井君の、状態……?」

「…………保健体育の『実技』が得意な者として……、今の明久の……、特に『左腕』の状態について……、どう見ている?」

「……!」

 

 

 俺は工藤にしか聞こえない声で、この『事実』について聞いてみる。

 

 

「そ、それは……」

「…………アイツは上手く隠しているつもりかもしれないが……、あの筋肉の痙攣、状態から考えても恐らくは骨折している……。それも……、かなりの重傷だ……。お前から見て、あの状態は……、どう思った?」

「……確かに、吉井君の左腕には違和感は持ったよ?それに……、試合の開始前にはそんな様子もなかったのに、彼は試合が終わった後に痛み出したようだったから……。でも、彼自身が言っていた通り、気にして欲しくなさそうだったからね……。あまり深くは考えないようにしてたけど……」

 

 

 ……顔を背けながら答える工藤。だから、俺は工藤に伝えておく事にした。

 

 

「…………今言った通り、明久は怪我をしている。どうしてかはわからないが……、恐らくさっきの試合中に、何かがあったのだろう……。何故そうなったかは分からない……。だが、奴はそうなる程に、この試召戦争にかけていたという訳だ……。だから工藤……、俺が何を言いたいか……、わかるか……?」

「……うん、わかったよ……、ムッツリーニ君。からかって悪かったね……」

 

 

 さっきのおどけた表情が消え、真面目な顔で俺に詫びる工藤。そこへ準備が整ったのか、進行の高橋女史がマイクを掲げる。

 

 

「では準備が整いましたので始めましょう……。第三試合、Aクラス工藤愛子VSFクラス土屋康太。教科は『保健体育』。それでは……開始して下さい!」

試獣召喚(サモン)!」

「…………試獣召喚(サモン)

 

 

 試合開始のアナウンスが流れ、お互いに召喚獣を呼び出す。そして、お互いの点数が表示された。

 

 

 

【保健体育】

Aクラス-工藤 愛子(446点)

VS

Fクラス-土屋 康太(572点)

 

 

 

 ……とりあえず点数上では俺の方が高いようだな……。興奮が高まる会場の中、俺は冷静に現状を見極める。工藤の召喚獣は巨大な斧を構えながら油断なくこちらの隙を窺っているようだった。

 

 

(…………腕輪の力……、『加速』を使えば一瞬で決まりそうだが……、さて、どうするか……)

 

 

 この試合は負ける訳にはいかない……。そんな思いからも、どうすべきか迷っていると、

 

 

「……結構冷静だね?ムッツリーニ君……。正直、すぐ仕掛けてくると思ったよ……」

「…………それはこちらの台詞だ……」

 

 

 ……だが、このまま手を拱いていても始まらない……。工藤の方も様子を見ているようなので、こちらから仕掛ける事にした。

 

 

「…………『加速』」

 

 

 俺は召喚獣の『腕輪』を作動させると、その姿をブレさせながら一瞬で工藤の召喚獣に肉薄する。そして、その手に持った小太刀の二刀流で相手を切り裂こうとした時、確かにその声を聞いた……。

 

 

「……かかったね、ムッツリーニ君……」

 

 

 

 

 

【保健体育】

Aクラス-工藤 愛子(306点)

VS

Fクラス-土屋 康太(88点)

 

 

 

(…………一体何が起こった!?)

 

 

 俺が工藤の召喚獣を切り裂こうとした時に、確かに『何か』が起こった。……その『何か』のせいで、俺は点数を大幅に削ることになったのだ。

 

 

「……決まると思ったのになぁ……。流石に警戒していたのかな?」

 

 

 見てみると工藤の召喚獣の腕輪が光っていた。何らかの能力を使ったのだろう……。油断はしていなかったが……、まさか、こんな事が……!

 

 

「じゃあ、このまま決めさせてもらおうかな?」

 

 

 戸惑っている俺に向かって工藤の声が響き、慌てて召喚獣を構えさせようと思った時、その異常に気付いた。

 

 

「…………なっ!?」

 

 

 ……俺の召喚獣が何かに麻痺した様に動かしにくくなっている……。こ、これは……!

 

 

「…………電気?『静電気』か……!?」

「……なんだ、気が付いたんだ?……そうだよ、ボクの『腕輪』はね……、『静電気』を操る事ができるんだよ……」

 

 

 そう言うと工藤は目に見えるように、『静電気』を発生させる。……よく見てみると、工藤の召喚獣の周りを、まるで電気の壁であるかのように張り巡らされているようだった……。

 

 

(……そうか、これでさっき、俺は……)

 

 

 ――あの瞬間、まるで召喚獣が麻痺したかのように動きが止まった。そして、その隙に工藤の斧が俺の召喚獣を切り裂いていたのだ。……かろうじて身体をずらす事が出来た為に戦死は免れたものの、400点近い点数が一気に削られてしまった……。

 

 

「…………そうか、電気か……。ならば……!」

「……!!なっ!?ムッツリーニくん!?」

「…………こうすればいい……!」

 

 

 工藤は俺のとった方法に驚いていたようだった……。俺は、身体中に帯電した静電気を逃がす為に、自らの手にした武器、小太刀の一本を掌で握りしめ、そしてもう一本をその刀身に触れさせながら地面に突き刺したのだ……。アースの応用で、召喚獣に帯電した麻痺してしまう程の電気を地中へと逃がしていく……。召喚獣の身体だというのに、小太刀を握り締めている手に刃物を握ったかのような違和感を感じるが、そんな錯覚を振り払い、俺は明久の事を思い出す……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――様子が変わった、そんな違和感を俺は覚えた。……アイツとは1年程の付き合いではあるが、最近の明久は様子がおかしい。……尤も、これは俺だけではなく、雄二や秀吉も気付いていた事だったが……。しかし……、

 

 

 

 

『――島田さんの新しい教科書を探す為に、一緒に探してくれたあの日から、……バカな僕に付き合ってくれて……、いろいろと巻き込んでしまっている君達に、その場だけの事を言って誤魔化したくはないんだ!』

 

 

 

 

 ……アイツ自身は何も変わってはいなかった……。『寡黙なる性識者(ムッツリーニ)』と蔑まれている俺と、仲よくしている明久の本質は……!

 

 

 ――俺は前から『美しく心打たれるもの』が好きだった。……他の奴らは皆、『女子』が好きだと誤解しているが、それは正確ではない……。

 尤も、ソレが無い訳ではない……。いや、かなりを占めている気がしないでもないが……、最初はただ『美しく心打たれるもの』を残したかっただけだ……。

 ……その中でも俺は『人間』について、とても深い関心を覚え、その為に俺はその『人間の仕組み』、もしくはそれに関わる事について必死に勉強した。……知らない事はそのままにせず、全て調べ、覚えるようにしたのだ……。同時に、俺はソレを残す為にカメラについても詳しく覚えた。

 

 

 ……だが、そんな俺について、誰にも理解される事はなかった。……まぁ、当然と言えば当然かもしれない……。写真を撮る事に許可を求めても、当然許可などおりず、みんな俺を避け続けるようになった……。そればかりか、俺はいじめや嫌がらせを受けるようになり、ある時、全財産をはたいて購入したカメラを、誰かに故意に壊されるという事が起こった……。

 

 

 ……そんな事もあり、俺はまず身体を鍛えた。もともと運動は得意であった為、器械運動から、様々な自主トレの結果、気が付けば直接的に俺に何かしようという連中はいなくなっていた……。

 次に俺は校内全てにカメラ、盗聴器を仕掛け、網を張った。そして情報を集め、間接的にも俺に何かしようとする奴らも排除する事に成功する……。

 

 

 ……また、カメラやそう言った機材はものすごく金がかかる……。とても持っている金だけではどうにもならない為、そこで俺は悪いとは思ったが、今まで無許可でとってきた写真を不味いと思うものは除き、欲しがる奴らに売って金に換えてきたのだ……。

 

 

 そして、それは中学を卒業し、この『文月学園』に入学しても変わる事はなく、俺は1人で、基本誰とも交わる事なく、今まで通りと同じように行動してきた……。

 

 

 ――……そんな時だ……。俺が明久に出会ったのは……。

 

 

 ……明久は帰国子女で一人孤独となっていた島田の為に、何の見返りを求める事もなく行動を起こした……。最初はバカな奴がいたもんだくらいにしか思っていなかったが、アイツを見ている内に考えが変わっていった……。それから俺は雄二や秀吉も含めて、よく4人で行動をとるようになっていたのだ……。

 

 

(…………そう、アイツは……アイツらは俺を避けなかった……)

 

 

 そして……、特に明久が……、俺達を纏めてくれたんだ……。接点の無さそうな俺達を、明久の何処か不思議な魅力によって……。新しい学年、新しいクラスになっても、どこか距離をおく他の連中と違って、アイツは俺を認めてくれていたのだから……。

 

 

 

 

『僕は秀吉達を親友と思っている!』

 

 

 

 

 ――……それは……、明久が『変わった』としても……、変わっていなかった真実……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして俺は工藤を見据え、意識を目に集中させる。――相手の、工藤の召喚獣の動きに全神経を集中させ、神経、筋肉の動きを見据え、その隙を探る……。

 

 

「まさか……、武器を握りしめるなんて……!」

「…………帯電しているというのならば、電気を逃がしてやればいいだけの事……。それよりも……、今度こそ覚悟はいいか……?」

「……ッ!?」

 

 

 俺は息を呑んで様子を見ている工藤を見据えながら、はっきりと答える。

 

 

「…………工藤、俺はこの試合、絶対に負けない。……負ける訳にはいかない!」

「ムッツ……リーニ君……ッ!」

「…………確かに点数は削られた……。…だが……、次は決めてみせる……!」

 

 

 そう言って、俺は自分の状態を確認する。

 

 

(…………あと『加速』が1回使える……、というところか……)

 

 

 ……そういえば明久は言っていた……。召喚獣は人間とほぼ同じく感覚や神経も存在すると……。俺はその眼で相手の召喚獣の状態を細胞レベルからも読み取ろうと集中する……!

 

 

(………見えた……!)

 

 

 工藤の召喚獣のある1点に狙いを定め、飛び出すタイミングを窺う。

 

 

(…………明久、そんなになるまで貫いたお前の信念に答える為に、俺は絶対勝つ……!)

 

 

 そう思った後、俺は『加速』を使い、召喚獣をに飛び出させていた……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクはムッツリーニ君が武器を握り締めるという行動を取って以来、彼の何とも言えない迫力に動く事が出来なかった……。

 

 

(な……何で動いてくれないの……!?)

 

 

 ……それが恐怖なのかどうかはわからない……。ただボクは彼の雰囲気に呑まれて、召喚獣の能力を解除する事が出来なかった……。解除した瞬間、先程の動きで突進してくる事はわかっていたから……。そして、彼がその隙を狙っているという事も……。気が付いたら、最初あった点数差もみるみるうちに差が無くなってきている……。電気の壁を維持するのに……、そろそろ限界を感じていた……。

 ……彼のあの……、全てを見ぬくかのようなあの目……、そして、それとなく感じる緊張感に、ボクは耐えきれなくなっていた。

 

 

(……もう……ダメ……ッ!)

 

 

 限界を迎え、召喚獣の能力を解除した瞬間、ムッツリーニ君の召喚獣が迫り、ボクはその先の未来を想像し、咄嗟に目を閉じた……。

 

 

 

 

 

(…………あ、あれ……?)

 

 

 いつまでたっても終わりを告げる声がしない……。恐る恐るボクは目を開けると、ムッツリーニ君の召喚獣がボクの召喚獣の首に小太刀を当てた状態で動きを止めていた……。

 

 

「な……なんで……?」

「…………俺が……怖いのか……?」

「ッ!!」

 

 

 そう告げられた時、ボクは体が強張ったのがわかった。彼の方を見ると、わずかに苦笑しているかのような雰囲気を見せている。そして、首に当てられた小太刀をゆっくり離すと、静かにボクの召喚獣から離れていく……。

 

 

「……何でボクに止めを刺さないの……?」

「…………お前も保健体育でそれだけの点数を取ろうと思った事に理由があった筈だ……。それを……一時の恐怖で台無しにして欲しくなかった……というのもある……。だが……、一番の理由は……」

「……それは……何かな……?」

「…………恐怖し、目を瞑っていた時のお前の姿が……、何となく昔の俺を思い起こされてな。……斬る事が、出来なかった……」

「ムッツリーニ君……」

 

 

 そして、ある程度距離を取ったムッツリーニ君は振り返り、また武器を構えさせる……。

 

 

「…………俺も、そしてお前もここにクラスの代表として、ここにいる……。負けられないモノの為に、俺達は戦っている……」

「……うん……、そうだね……」

「…………なら、最後はお互いに後腐れがないようにしたい……。俺もそうだが、お前ももう能力が使えない程、点数は残っていない筈だ……」

 

 

 

【保健体育】

Aクラス-工藤 愛子(40点)

VS

Fクラス-土屋 康太(38点)

 

 

 

 彼の言うとおり、この点数では、もう壁のように静電気を発生させる事は出来ない……。ボクは一つ溜息をつくと、

 

 

「……わかったよ……、ムッツリーニ君……。ボクはもう……逃げないから……」

「…………いい返事だ。……泣いても笑っても、次が最後になる……。後悔が無いよう全てを出し尽くせ……!」

「……うん、ありがとう……。じゃあ……行くよっ!!ムッツリーニ君ッ!!」

 

 

 ボクとムッツリーニ君は、お互いに距離を取りあうと同時に、自らの召喚獣に指示を出す。そしてその指示に従い、召喚獣たちがそれぞれの武器を持ち交錯する!はたしてどうなったのか……、やがて、更新された点数が表示された……。

 

 

 

【保健体育】

Aクラス-工藤 愛子(0点)

VS

Fクラス-土屋 康太(0点)

 

 

 

 ムッツリーニ君がボクの召喚獣を切り裂くと同時に、ボクも彼の召喚獣を斧を一閃させ、胴を切断していた。

 

 

「第三試合、Aクラス工藤愛子VSFクラス土屋康太。両者戦闘不能の為、引き分けと致します!」

 

 

 

 

 

「ムッツリーニ君……」

「…………すまなかったな。怖がらせるつもりはなかった……」

「ううん、大丈夫だよ!……それと、ごめんね……?本当は……君が勝っていたのに……」

「…………気にするな。俺も、お前も全力でやった結果がこれだ……。それに……、俺は後悔していない」

「……うん」

 

 

 ボクは少しドキドキしながらも、ムッツリーニくんに手を差し出す。

 

 

「いい試合だったよ、ムッツリーニくん!でも、今度は負けないからね!」

「…………ああ、それは俺も同じことだ。……次こそは、俺が勝つ……!」

 

 

 ボクはムッツリーニくんとお互いを称えあいながら握手をかわすと、降り注ぐ歓声の中、代表達の下へ戻って行った……。

 

 

 

 

 

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