(……すごい……です……)
現在、土屋君までの試合が終わり、状況はAクラスに対し、『1勝2引き分け』となっている。点数で上回っているAクラス相手に皆大健闘を果たしていた……。
「…………すまない、勝てなかった……」
「気にするな。あれだけの試合をしてきたんだ……。後は、ゆっくり休んでいてくれ」
坂本君が戻ってきた土屋君に労いの言葉をかけると、私の方を見る。
「姫路、相手は学年次席の久保だ。準備はいいか?」
「……はい、大丈夫です!」
「何だ?緊張しているのか?……大丈夫だ。お前は体調不良でFクラスになってしまった……。だが、お前はFクラスに来ても必死に努力してきたじゃないか。……Dクラス戦での回復試験を受けている時のお前を知る奴は、特にわかっている……」
そして、私の肩に手を当てると、
「もう少し肩の力を抜いていけ……。あまり気負いすぎるなよ?」
「坂本君……、ありがとうございます……」
坂本君の励ましを受けて試合会場に向かう途中、私は一度吉井君を見る……。吉井君はさっき笑って大丈夫だと言っていた。……でも、私にはとても大丈夫には見えなかった……。
……でも、今は目の前の相手に集中しなければならない……。もう対戦相手である久保君は試合会場に到着しているようだった……。
「……姫路さん。最初、君がFクラスだと聞いた時は驚いたよ……」
「久保君……。でも見ての通り……、私は、Fクラスです……」
「……そうだったね。ところで教科なんだが……、『総合科目』で戦ってはもらえないだろうか……?」
Aクラスからの総合科目での勝負提案に周りがざわめきだつ……。
「私は構いません」
「すまないね……。君とは一度、思いっきり戦ってみたいと思っていたんだ……。高橋先生、『総合科目』でお願いします」
「わかりました。『総合科目』ですね」
久保君からの言葉を受け、高橋先生が科目の設定をする。そして……、
「お待たせしました。現在の状況はFクラス1勝2引き分け、Aクラス1敗2引き分けとなっている為、Fクラスにはリーチがかかっています。では、両者とも悔いのないよう戦って下さい。……では、いよいよ第四試合、Aクラス久保利光VSFクラス姫路瑞希の試合を開始します。教科は『総合科目』。――はじめて下さい!」
「「
その言葉に、同時に召喚獣が呼び出され、遅れて点数が表示された。
【総合科目】
Aクラス-久保 利光(3997点)
VS
Fクラス-姫路 瑞希(4409点)
『2年の学年主席を……、超えるだと!?』
『今年のFクラスは一体どうなっているんだ!?』
『これで……決まるのか……?』
その点数に会場中が興奮の坩堝とかす中で……、久保君が私に話しかけてきた。
「……まさか、これ程とはね……。さすがは姫路さんだ。でも……、先の試合の通り、これは召喚獣の勝負……。点数差では決して決まらないよ」
「……わかってます。吉井君達が、あれほどの試合をしてきたんですから……。じゃあ久保君、行きますよっ!!」
「……来い!姫路さん!!」
その言葉を受け、私は自分の召喚獣を突進させた!
【総合科目】
Aクラス-久保 利光(3465点)
VS
Fクラス-姫路 瑞希(4017点)
試合は現在、私の方が優勢に立ち回っていた。……私は吉井君達のようにそこまで召喚獣の扱いに長けている訳ではないので、久保君の武器、2本の大鎌の動きには常に警戒して立ち回るようにしていた。
(私は……負けられない……!)
……私は先程の吉井君を思い出す……。左腕を抑えていた彼の姿に、私は痛く胸を締め付けられる思いがした……。
――小学生の時より、私は吉井君の事を知っている……。知っているとはいっても、常に一緒にいた訳ではなかったし……、同じ文月学園の生徒になるものの、2年生になるまでは殆ど話もした事はなかった……。でも、私は小学校の時の……、あの死なせてしまった子ウサギの出来事もあって……。彼の姿を見かける度に、私はそっと見続けてきた……。
吉井君は『カリスマ』のようなものを持っていると思う。自然と彼のまわりに人が集まっていき……、そして、良くも悪くも彼に影響されていく。私も、その一人だった。私が自分にできる事は全力でやれるようになったのは……、恐らく彼の影響なのだろう……。
「くっ……、さすが姫路さんだね……っ!」
「……たとえAクラスだろうと何だろうと、私は勝たないといけないんです……!このまま、決めさせてもらいます!!」
「ッ……キツイね……」
そして久保君との戦闘を続けながら、再び吉井君の方を盗み見ると、西村先生に手当を受けている吉井君の姿を捉えた。
(……また……無茶をしているんですね……)
――私の見てきた限り、吉井君はすぐに無茶をする……。自分が決めた事は最後まで諦めずにやり遂げていく……。最近では、小さな女の子が困っているのを見かけ、助けてあげていた事を思い出す……。
(そして……私の時も……)
彼から貰った雪ウサギの髪留めに触れると、再び試合に集中する。
【総合科目】
Aクラス-久保 利光(1458点)
VS
Fクラス-姫路 瑞希(2198点)
お互いかなり点数を消費しているものの、まだこちらには余裕がある。ここで一気に決めようと召喚獣を操作しようとした時、久保君が話しかけてきた。
「……姫路さん、君をここまで強くしているものは……、いったい何なんだい?」
「……私は、このクラスの皆が好きなんです。……人の為に、一生懸命になれる……、皆のいる、このFクラスがっ!」
「…………Fクラスが、好き?」
「はいっ!だから、頑張れるんですっ!!」
そう言って渾身の一撃を見舞おうとした瞬間、
ガキンッ!!
私の大剣は久保君の大鎌によってはじかれてしまう。
「えっ……!?」
少し呆然として久保君を見ると……、私はそのまま固まってしまう。
「……Fクラスが好き……か。なら僕は……、絶対に負ける訳にはいかないね……。それに……、負けるはずがない……。そんな風に思っている姫路さんになら、ね……!」
「!?な……何を、言って……!?」
「……わからないというなら、わからせてあげるよ……!君が言った『Fクラスが好き』という言葉の意味というものを……!」
先程と明らかに雰囲気の変わった久保君が、その言葉とともに私の召喚獣に襲いかかってきた!
さっきまでの劣勢が嘘であるかのように状況が一変していた。僕に攻撃する余裕が無くなったのか、姫路さんは防戦一方となっていく……。
「な……なんで!どうしてこんな……っ!」
「……まだわからないのかい?姫路さん……!」
戸惑っている彼女の召喚獣を切り払う。そこで少し距離をとり、お互いの召喚獣を見据える。
【総合科目】
Aクラス-久保 利光(1215点)
VS
Fクラス-姫路 瑞希(1422点)
点数の差も大分詰まってきているようだ。僕は油断なく召喚獣を構えさせながら、まだ動揺を隠せていない姫路さんに告げる……。
「……君が、Fクラスの為に、戦っているからだよ……」
「な……、何でですか!?何で、Fクラスの為に戦う事が……、悪いみたいに言うんですか!!」
「……勘違いしないでくれ、姫路さん。僕はFクラスを否定している訳じゃない……。Fクラスにいる、一部の人達を、否定しているんだ!」
「えっ……!?」
『な……何を言ってるんだ、アイツは!!』
『俺達に喧嘩を売ってんのか!?あの異端者がっ!!』
『あの人間の屑め!!後で我ら全員によるジャーマンスープレックスリレーをお見舞いしてくれる……っ!!』
僕の言葉を聞いて、Fクラスの人達が僕に罵声を浴びせかける。僕はそれを無視し、
「……勿論、尊敬できる人達もいる……。先に戦った明久君をはじめ、秀吉君や土屋君。Fクラス代表である坂本君。そして……君だよ、姫路さん……」
「……久保、君……?」
「……今言った人達は、皆何かを思い、そして必死になって努力してきた人達だ……。試合で戦ってきた3人は言うまでもないし、坂本君の事も、ウチの代表から少なからず話は聞いている……。そして……姫路さんも……」
そう……、彼女もまた、尊敬できる人物の一人だ……。
「わ……私は……、別に……」
「……一年の時から、試験で君とは何度か順位が入れ替わっていただろう?僕は君をライバルのように見てきたからね……、よく知っている……。君は、今まで必死に努力をしてきた……。そしてその努力は、Fクラスにいる今でも続いているんだね……。先程の点数を見ればわかる……」
静かに僕の話を聞いている姫路さん……。僕はさらに、話を続ける……。
「……僕が許せないのは、自ら努力もしない人間が……、努力をしたり、正しい事をしている人間を認めずに、否定したり、陥れたり、理不尽に暴力を加えたりする事だ……!」
「!……そ……それは……」
「……つい先日の事だ……。先生の伝達ミスで大量の資料を運ぶ事となった優子さんを見て、明久君がそれを手伝った……。ただそれだけの事なのに、優子さんと一緒にいたという理由から彼らは暴走し、Aクラスにまで乗り込んできたよ……」
「…………」
「僕が説明すると、今度は何故か訳の分からない理由で因縁をつけられて、追い掛け回された事になってね……。他のクラスメイトも、怖がっていた……」
「わ……わたし、は……」
「……話が長くなったね。すまない……。お互いの点数も少なくなってきた事だし……、ここらへんで決着をつけよう……」
そう言って僕は、召喚獣に大鎌を構えさせる。姫路さんも大剣を構え直すも、先程の言葉に動揺を隠せないようだった。
(……姫路さん……)
僕は姫路さんの召喚獣に向かって大鎌を振り下ろす。姫路さんは大剣でそれを防ぐものの、もう一本の大鎌を止める事が出来ずに、その胴体を切断された。
【総合科目】
Aクラス-久保 利光(1215点)
VS
Fクラス-姫路 瑞希(0点)
「勝負あり!第四試合、Aクラス久保利光VSFクラス姫路瑞希。勝者、Aクラス、久保利光!!」
決着が着き、歓声が鳴り響く中で、僕は膝ごと崩れ落ちている姫路さんに近付き、手を差し出す。
「…………く、久保君……」
「……君を動揺させてしまったようで、悪かったね……」
僕はそう言って姫路さんを立たせる。
「いえ……、これも勝負ですから……」
「姫路さん……」
これだけは彼女に伝えておきたいと思い、僕は言葉に出した。
「僕は君の事を尊敬している。必死に努力している君の姿も、僕は見てきた。……だからこそ……、君はFクラスにふさわしくない……」
「……っ!で、でもっ!わたしは……!」
「『努力』は今まで通りFクラスでも、君はできるだろう……。でも……、Fクラスの環境は……君を間違いなくダメにする……。先日、Fクラスの人間が暴走した日……、君も少しつられて暴走したと聞いているからね……」
「……久保、君……」
「……君は、Aクラスに来るべきだ……。僕は、そう思う……」
僕はこう言って、姫路さんに背を向け、Aクラスのメンバーの下へ戻る。
「お疲れ様、利光君」
「お疲れ様です」
「すごかったね~、あの姫路さんに勝っちゃうなんて~」
「……久保のおかげで繋がった……。ありがとう……」
「いえ、それより霧島さん。次こそ最終戦です。頑張って下さい」
「……うん、絶対勝つ……!」
その言葉を残すと、霧島さんは試合会場の方へ向かう。それを見送り、僕はFクラスの控えの席を見る。席に戻り、姫路さんは秀吉君達からねぎらいを受け、応援席のFクラスの皆から気にしないように言われているようだったが、彼女は放心しているように見える……。
僕はふと明久君のいる救護テントの方に視線を向ける。すると彼も姫路さんの方を窺っているようだった。
(……君も、姫路さんはAクラスの方がいいと考えているのだろうか……)
ふと、昨日坂本君が言っていた、Fクラスが勝利した際の要求を思い出す……。
『もしもFクラスが勝った場合は、我々FクラスのメンバーがAクラス入りできる為のチャンスを貰いたい』
……あの提案をしてきた以上、恐らくはそういう事なのだろう……。
(まあ、これで最終戦に全てが持ち越された。……次でどうなるかは決まる……)
――そして、いよいよ最後の試合が始まろうとしていた……。