――エキシビジョンマッチ翌日、Aクラス教室。
私と代表、愛子、美穂、利光君、そして昨日の再振分試験で見事Aクラス入りを果たした姫路さんは、朝一で別室にて回復試験を受け直し、教室に戻ってくる。
「ただいま……って、どうしたの?みんな……?」
「……ああ、木下さん達、おかえり。回復試験は無事終わった?」
「う、うん……。ところでどうしたの?なんか皆、疲れているような気がするけど……?」
「それが……」
……クラスメイトに事情を聞くとこういう事らしい……。一昨日、Bクラスの生徒が、試召戦争時の約束であった、壊したFクラスの修繕に来たところ、床も腐っている程ひどい状況だった為、急遽Fクラスの教室に補修が行われる運びとなった。そして、本日もFクラスに業者が入っていた為に他で授業を受けるように、という事になって……。それで、私達がいない間にほぼFクラスの全員が、我先にと競うようにAクラスへとやって来た、という訳だ……。
『俺がAクラスで授業を受けるんだ!!』
『何を!?俺が受けるんだ!!』
『いや、俺が……!!』
『……そもそも、まだAクラスで授業を受けるって決まっている訳じゃ……』
……最終的には教室前で暴れだしたところを職員室からやってきた高橋先生に見咎められ、逃げていったらしい……。まあ、懲りずにBクラスやCクラスの教室へ入っていった者もいるようだが……。
「……ホント、懲りないわよね……」
「アレがFクラスの行動っていう事に慣れてきたような気もするけどね~」
「……工藤さん、笑っている場合ではないよ……」
そろそろ坂本君達も回復試験を受けて、戻っている頃だろう。彼らが上手く纏めてくれるのを期待することにする。
「……姫路もAクラスに来て良かったと思う」
「そうだね~。瑞希ちゃんもあの中にいたらFクラスに染まっちゃってるような気がするよ」
「そ、そんな……!私……」
「……まあ、いいじゃないか。姫路さんも、もうAクラスなんだ。そんな仮定の話をしても、しょうがないだろう」
「利光君の言う通りね。まあ、彼らの事は坂本君達に任せましょう」
現在Aクラスは自習となっている為、Fクラスの人達が来ても授業はできない。……そもそも授業であったとしても、勉強している内容も違うし、あまり意味がないとは思うんだけど……。
それに昨日のエキシビジョンが影響したのか、2学年と言わず、他の学年でも試召戦争が始まる気配があるようだ……。1年生は試召戦争を仕掛ける事ができないが、召喚獣の操作練習の許可を求める声があがっているらしい……。
まあ、そんな事を言っていても仕方がない。自分達も自習の課題に取り組もうとした時……、
「すまない……。Fクラス代表の坂本だが……。入ってもいいか?」
ちょうど、Fクラスの代表である坂本君と、秀吉もやってきた。
「坂本君?それに秀吉も……。どうかしたの?」
とりあえずその対応に向かうと、
「木下優子か。いや、先程はウチのクラスが迷惑を掛けたみたいだったからな……。その詫びに来た」
「……ああ、さっき来たっていう……?」
私が疲れたような声に反応し、秀吉が補足してくる。
「……今、ムッツリーニが先生方と一緒に他の連中を纏めて空き教室に誘導しておるところじゃ」
「……普通はまず、その発想になると思うんだけど……。何故それが、『各クラス』で授業を受けるという考えになるのかしら……?」
「それはアイツらだからな……」
……坂本君も苦労しているわね……。はっきり言って、あの彼らを纏めて試召戦争を仕掛けていったっていう坂本君の采配は凄いと思う。
「……雄二」
「ん?ああ、翔子か……」
そこに代表も加わってきた。
「悪かったな、翔子。アイツらの事はこっちで対処する。……今後、Fクラスの連中が私用でAクラスに立ち入らないよう話をつけようかとは考えているが……」
「……それだと雄二や吉井達も来れない事になる」
「そうね……。じゃあAクラスで認めた人以外、立ち入れないという風にすればいいんじゃないかしら?」
確かにここまで騒ぎをおこす以上、立ち入りを制限した方がいいかもしれない。……尤も、そうまでしても彼らは立ち入ってくるかもしれないけど……。
「そうだな。じゃあ後で、文面にして調印でも結ぶか……。もし破られたら、ソイツは問答無用で補習室で鉄人の補習フルコースということでな……」
……ちょうどその事を盛り込んでくる辺り、坂本君も考えているわね……。
「……わかった。それで、雄二もそこで自習するの?」
「ああ、そのつもりだ。アイツらを監視しなければならないからな……」
そんな時、土屋君もAクラスにやってくる。
「おっ、康太。どうだ?」
「…………問題ない。鉄人と大島先生に協力してもらった。……たちかわり先生が行くようにするらしいから、おそらく今日はあの教室からは出られない……」
「あっ、ムッツリーニ君も来たんだ~♪」
愛子も話に加わりだす。それに利光君や姫路さんも集まりだした。
「…………工藤愛子か」
「折角、皆来たんだからここで自習していけばいいんじゃないの?」
「……うん、雄二達も一緒に自習しよう?」
愛子の提案に、代表も賛同する。アタシも別に反対するつもりはない。……つもりはないんだけど……。
「……いや、だが、他の奴らが……」
「…………それなら問題ない。……アイツと同じところに行ったと偽情報を流しておけば気付かれない」
……土屋君の説明にまた一つ疑問が浮かぶ。そろそろ聞いてみようか、とそう思ったところに……、
「あ、あの、皆さん……。吉井君は……?」
そんなところに、姫路さんがおずおずと言った感じで聞いてくる。うん、さっきから私も気になっていたんだけど……、
「……あー、明久か……」
「う……む。あれを聞いた時は、ワシも流石に耳を疑ったのじゃ……」
「…………想定の範囲外だった」
3人は何とも答えづらいような表情で、言葉を濁している……。一体、どうしたっていうのかしら……。
「どうしたのよ、秀吉……?それより明久君を一人にしておいて大丈夫なの……?」
「……姉上、その心配はないと思うのじゃ。……ある意味で、一番安全なところじゃからの……」
「??」
秀吉の返答を聞き、ますますわからなくなる。……いったい、明久君は何処にいるというのかしら……。
「現在、アイツがいる場所はな…………」
「「「「「……はい?」」」」」
……坂本君の返答は、私達の予想を遥かに上回ったものであった……。
「…………」
僕の恩師といっても過言ではない目の前の教師は、複雑そうな表情で僕の方を見ている……。
「……どうしたんですか?西村先生?」
僕は自習の手を止めて、西村先生の方を窺う。
「……いや、俺も長く教師をやっているが……、ここで自ら勉強したいと言ってくる奴がいるとは思わなくてな……」
……そう、ここは生活指導室、――通称『補習室』と呼ばれている所である……。特に扉は普通の教室のモノとは異なり、鍵付きの鉄扉で覆われており、中からは鍵が無ければ開ける事は出来ない……。主に試召戦争か何かで戦死したりすると連れてこられるのがこの部屋であり、『この世の地獄』とも呼ばれている。……周りを見ると、この状況に精神が耐えられなくなった他のFクラスの連中が、死んだような目をして勉強している姿があった……。コイツらはまた懲りもせずに他のクラスへと押し掛けていき……、捕まった者の成れの果て、という訳だ……。僕も、かつては地獄だと、そう思っていた筈だったんだけど……。
「……いつの間にかここで勉強する事が、普通になっていたんですよね……。集中出来るというか……」
「…………そうか」
西村先生もそれ以上は深く突っ込んでこなかった。……ただ、僕のやっているものが気になったらしい。
「……まあ、それはいいんだが……、ところで、今やっているのはなんだ?」
「これですか?数学のドリルですけど……」
「……明らかに高校用のものではないようだが……?」
「そりゃそうですよ。……だって、これは『中学生』用のドリルなんですから」
……僕の返答に沈黙が流れる……。
「……何故、『中学生』用のドリルなんだ……?」
「言っておきますけど……、西村先生。ようやく『中学生』の内容になったんです」
「すると何か!?今までは『小学生』用のものをやっていたというのか!?」
「ええ。『お前は小学校からやり直せ』と言われて……。ようやく方程式がわかってきたところですね」
「………お前、よく高校に、この学園に入学できたな……」
「そうですね……。正直、鉛筆転がして入ったようなものでしたからね。それに……、僕の『バカさ』は一年の時の僕を見ていたらわかったと思いますけど……?」
三角形の面積も答えられなかったと伝えたら、西村先生もそれ以上は深く突っ込んでこなかった。
「……でも、先生方には色々教えて頂きましたから……。最初はまぐれでしか400点をとれなかった日本史も、今ではコンスタンスに400点は超えるようになりましたしね……」
「ほう、それはすごいな……。未だに『中学校レベル』の数学とはえらい違いだ。……この学校で400点をとる事は、Aクラスの生徒でも難しいというのに……」
「……暗記ものとかが得意なんですかね……?特に歴史はゲームや、漫画で見直したら忘れなくなってきましたし……」
「ふむ……、だったら一度全科目のテストをもう一度受け直してみればいいんじゃないか?確か、今のお前の点数は殆どの科目が1点の筈だろう……?」
「……そうですね。朝、いくつかの科目は簡単に回復試験を受けてきたんですが……。まぁ、今は『数学』をやろうと思っているので、教えてください」
そうして、西村先生に数字を教えてもらおうとしていた矢先、
「明久は、おるかの!?」
コンコンと、外で扉をノックする音と共に、秀吉の声が聞こえてくる……。
「木下か……。いったいどうした……?」
西村先生が鉄の扉を開けると、勢いよく秀吉が入ってくる。
「…………秀吉?」
「……木下、騒々しいぞ」
「す、すまんのじゃ、西村教諭……。おおっ、明久、大丈夫かの?」
「う、うん、僕はね……。それよりどうしたの、秀吉……?そんなに慌てて……」
僕は少しばかり動揺しているような秀吉を宥め、
「そうじゃ、そんな事を言っている場合ではないの……。実は……、EクラスがFクラスに試召戦争を仕掛けてきたのじゃ!!」
思いもかけぬ秀吉の言葉が補習室に響き渡る……。Eクラスが……?それもFクラスに……??
「ど、どうして!?一体何があったの!?」
「それが、ワシには何とも……。取り敢えず雄二がお主や同盟を結んでいる他のクラスへ伝えてほしいという事で、ここにきたんじゃ……!」
息も絶え絶えに、そう言ってくる秀吉。であるならば……、
「すぐに戻らないと……!西村先生、いいですか!?」
「まあ、お前は進んでここに来たんだしな……。別に構わんぞ」
「有難う御座います!秀吉、行こう!
「り、了解じゃ!」
こうして僕は、臨時のFクラスとなっている教室へと戻るのだった……。
とある時の明久の体験(3)
――気が付いたら、知らない天井だった。
(『繰り返し』て……いないのか……)
そろそろ『繰り返す』と思っていたのに、とごちると僕は寝かされているベッドから起き上がる。……腕には点滴をされており、周りを確認してみると、どうやら文月学園の保健室にいるようだった。
「気が付いたか、吉井」
そして僕の目の前には、会いたくもなかった筋肉教師がいた……。
……僕は河川敷の橋の下で何をするともせず、ただ『繰り返す』のを待っていた筈だった……。そろそろ意識がぼやけはじめ、繰り返すかと思っていた矢先に、ある人物を見たような気がしたが……。気が付いてみたら、今のような状態である。
「……全く食事もとっていなかったようだな……、吉井。もう少し発見が遅かったら、お前……」
「…………そんな事はどうでもいい……」
強引に話を終わらせ、理由を聞く事にする。……余計な事をしてくれた、『理由』を……!
「……どうして、助けた?」
「……どうしても何もないだろう?俺が偶然にお前を見つけなかったら、手遅れになっていたのかもしれなかったんだぞ……?」
……あの『繰り返し』た時以来、振分試験の封筒を渡そうとする鉄人を無視して、僕はすぐさまそこに向かった……。ここ最近は、ずっとそれを『繰り返して』いる気がする……。もう、自分から何かをしようという気にもならない……。全ての事に……もう、関わりたくなかった……。
今回もそうなる予定だった……。だからそれを邪魔した目の前の人物に確認しようというのだ。
――僕を、助けた『理由』を……。
「……いいじゃないか……。屑が……、『
「………………吉井」
何故、という顔で僕を見てくる。『何故』?……そんなのは僕が聞きたい……!何故、僕はここにいるのか?何故、僕はこんな目にあっているのか?……ナゼ、……ボクハ、イキテイルノカ……?
何故?何故?なぜ?なぜ?ナゼ?ナゼ?…………………………
「………………どうして、助けたんだよ」
僕は、目の前にいる人物に問いかける。身体が弱っていてあまり大きい声は出せない……。それでも、溢れ出しそうな感情を抑えながら聞いてみた。……もし、納得できそうな答えが聞けなければ……、そこで終わらせる覚悟で……。
向こうも僕の雰囲気から何かを感じたのか、重い空気が保健室内に流れる……。やがてその重い空気の中、鉄人が口を開いた……。
「……お前が『観察処分者』になった時の事を、覚えているか?」
「………………なんで、そんな話を……」
「……勝手に押収品を強奪し、あまつさえ他人の私物を盗み売却したんだ。そんな事をしておいて、お前は何故、停学にならなかったと思っている?」
あまりに突拍子もない事を話し出す鉄人に、疑問に思うものの話を続けられていく……。
「…………店員が覚えていたぞ、その時の様子をな」
――そう言われて、うっすらと、あの時の事が頭をよぎる……。
『あれ?君、最近このゲーム買ったばかりじゃなかったかい?』
『ええ、そうなんですが……、ちょっとお金が必要になったんですよ~』
『ん?また新しいゲームかな?』
『いえ……、ちょっと女の子にぬいぐるみを買ってあげる事になって……』
『へぇ……、君の親戚の子かい?』
『?昨日会ったばかりですよ?』
『…………え?」
『ちょっとその子が自分のお姉ちゃんの為にプレゼントしようとしてたんですけど、お金が足りなかったみたいで……。それで僕がなんとかすると……』
『…………』
『あれ?どうかしましたか?』
『……そうなんだね。……ちなみにそのぬいぐるみを買うには、あといくら位必要なんだい?』
『うーん、一万五千円位ですね……』
『そうか……。ちょっとゲーム関係はあまり高く買い取れないが、この本はそれなりに高価なものだから……。うん、あわせてそれくらいで買い取るようにするよ』
『本当ですか!ありがとうございます!』
『ハハッ、いいよ!その子によろしくね』
……随分と懐かしい気がする……。でも……、それが一体何だというのか……?
「……それを聞いて俺も驚いたぞ。さらにそのぬいぐるみを購入した店にも話を聞いて確認もした……。だからこそ、この件についてどう処理するかを悩んだもんだ……」
そこでいったん言葉をきり、また続ける……。
「……お前のやった事は犯罪行為だ……。だがその理由自体は、人間としては正しい事だと俺は思う……。自分の為ではなく、他人の為に何かをする事が出来る……、それも見も知らずの他人に対して、だ……。そんな事は誰にでも出来る事ではない……。どうもお前は、何が正しく、何が間違っているか……、それがよく分かっていないようだったからな。……今後お前を気を付けて視ていき教えていく必要がある……。そう思ったからこそ、俺はお前を『観察処分者』にするよう提案したのだ……」
『観察処分者』という言葉に僕は反応してしまう。そんな僕の様子を窺いながら鉄人は話を続けた……。
「新学年でお前と会った時、お前はすぐに帰ってしまった……。その場は立場上追えなかったが、その後お前の家に行っても留守どころか誰もいる気配がない……。そしてあれから学校にも来ない……。それで探し回ってようやく見つけたと思ったら、お前はあんな状態だ……。流石に焦ったぞ……」
「…………心配した、とでもいいたいんですか……?『以前』は話しすら、まともに聞かなかったというのに……?」
……一度『繰り返し』た時は何かの事故に巻き込まれたと思った。ただ『過去?』に戻ってしまったのだろうと……。それにたかだか1年ちょっと前に戻ったからと言って、僕も何か困る事もない。他の皆もまたバカを言っているとしか思っていなかったし、僕自身もほどんど気にしていなかった……。
……だけど、その『事故』はまだ終わった訳ではなかった……。ある時、また過去に戻ってしまい、同じ状況を繰り返す事になった……。そこで始めて僕は知った……。僕はとんでもない『事故』に、現在進行形で巻き込まれている事に……。
今度は冗談抜きで僕のおかれた状況を説明しようとした。……だけど、説明の仕方が悪かったのか、それとも普段の行いの結果なのか……。僕の話をまともに聞いてくれた人は……、ほとんどいなかった……。
そして、時間が来たら『繰り返す』……。どんな状況でも……、その時が来たら……。
理由も何もわからずに……、どんなに拒んでも……。
………………全てを終わらせようとしても……、それでも阻まれた……。
「………アンタに……、アンタに何がわかるっていうんだ!?僕の事を……、何も知らないアンタに……!!」
僕は、これ以上溢れてくる感情を抑える事が出来なかった……。久しぶりに聞いた、『僕』を心配してくれる言葉……。それも、思ってもいなかった人物から聞かされて、感情が次々と溢れ出してくる。
「僕は……!『観察処分者』さっ!!学園の屑……!いや、学園だけじゃない……!家族からも見捨てられているようなものさ!!……僕は、生まれてこない方がよかったのさっ!!」
そしたら、こんな思いをする事もなかったのかもしれない……。そう考えるだけでも、自らの境遇を呪いたくなってくる。……自分では、どうする事もできない……。他人も、信じてくれない……。完全に詰んでいる状況……。気が狂った。暴れまわった。……でも何も変わらない……。変えられない……。
自分の感情を吐き出しながら、ぶつけながら訴えると、鉄人は僕の頭を優しく撫でた……。
「……生まれてこない方がいい人間なんていない……。ましてや……、お前は俺の生徒だ……。去年1年、お前を見てきて『吉井はバカなんじゃないか』と思っていた……。そして事実そうなのだろう……。先程も言ったが……、お前は誰にも出来ないような事を、する事が出来る。行動力もそうだが、お前は一度決めたら絶対にやり通す根性を持っている……。バカみたいに真っ直ぐにな……。尤も、そのバカなところは俺たちが視て、矯正していかなければならないだろうが……」
そして一息つき、話を続ける……。
「……そのお前が、こんな状態になるんだ。……心配するに決まっているだろう……。教師としてだけでなく……、お前を『観察処分者』に押した一人の人間としても……な」
「……て……鉄じ……西村……せんせ……」
「……確かにわからんさ……。お前がこんな状態になる程の事があるのだろう……。どんな思いをしてきたらそんな状態になるのか……。俺には見当もつかん……」
そう話す鉄人に、僕はもう感情を抑えておく事が出来なくなった。殺していた感情が、再び首をもたげてくる。
「……吉井、話してみろ。その話を聞いて、出来る限り俺が力になってやる」
「…………ッ、ふぐぅ、ううぅぅっ!」
その日、僕は西村先生に泣きつきながら、自分の身に起こった事を涙ながらに訴えたのだ……。
そして……、まだ『腕輪』を外す事は出来てはいないものの、この日この時から、僕の『腕輪』を外す為の『目的』ができ、その『行動』をとっていく事が出来るようになる……。
とある時の明久の体験(3) 終