少し時間が遡り……、Fクラスの教室にて、
「……ん?姫路じゃないか。どうしたんだ?
いつもより早く学園に来た俺がFクラスに入ると、そこにはAクラス入りを果たした筈の姫路がいた。……まるで、何かを探すような様子の姫路が……。
「あ、お早う御座います。坂本君……」
「ああ、おはよう。……で、どうしたんだ?何か探しているようだったが……」
「……はい、実は……」
「……成程な。ラブレター……ねぇ……」
事情はだいたい把握した。……恐らくBクラスとの試召戦争の時に話に出てきた手紙の事なのだろう……。根本には手紙を返して貰った様だが、その手紙がまた無くなってしまったらしい……。そこで前に在籍していたFクラスに来ていた……という訳のようだ。
「無くなったのはいつからだ?」
「……無くなったと気付いたのは今日です……。ただ、昨日の朝まではあったんですけど……」
「……そうか、だからもしかしたら明久のところに……、と思ったのか……」
俺の言葉に頷く姫路……。そのラブレターには宛名しか書いていなかったようなので、それで誰かが明久のところに届けたんじゃないかと考えたのだろう……。ちなみに……姫路の気持ちは試召戦争の時に確認している。……やれやれ。木下姉といい、姫路といい……。
「……わかった。ここには無いようだしな……。俺も探すのを手伝おう」
「本当ですかっ!有難う御座います!!」
そして俺は姫路とその手紙を探していたんだが……、まさかそれがあんな騒ぎになるとはな……。
――屋上にて……。
僕は一人屋上のフェンス越しに手紙を確認していた……。それは……、秀吉たちが言うようにラブレターであった。宛名にも『吉井明久さまへ』と書いてある……。
「……まさか僕にラブレターとはね……。でも、差出人はない……」
予想が外れて、脅迫文や果たし状ではなかったようだ……。ただ、手紙に差出人が書いてない以上、悪戯かもしれない……。そもそも……、僕にラブレターといった、嬉しいイベントがおこるはずがない。起こったとしても……。そこまで考えて、僕は溜息をつく。
……だけど、一応はこうしてラブレターを貰ってはいるのに……、僕の心には『喜び』という感情はない……。代わりに占めている感情は、『戸惑い』や……、『諦め』……。そして……、その原因もわかっている……。
「……雄二。そこにいるんでしょ……」
僕は先程より気配を感じていた方へ声を掛ける……。そして……、
「……まいったな、気が付いていたのかよ……」
そこからゆっくりと出てくる僕の親友……。僕の横にまでゆっくり歩いてくると……、
「…………それが例の手紙、か?」
「うん……。差出人はないけど、ラブレター……なのかな?」
「……その割には嬉しそうじゃねえな?」
「…………雄二」
わかってるんでしょ……?そんな思いを視線に込めて返す。……仮に差出人がわかり、ラブレターが真実のものだったとしても……、その想いに応える事はできない……。そもそも……、応えられるわけがないのだ……。『今』の僕には……。
「……やっぱり、今回も駄目かもしれない……。そういった『感情』は隠せねえようだな……」
「……?どういう意味……?」
……聞いてはみたけど、雄二にはわかっているのかもしれない……。
「……お前が自分の『秘密』を話した時……。あの時はああ言って、お前の感情を吐き出させようとした……。お前の様子を見ていて、かなり無理していたように見えたからな……。そして、お前は感情をぶちまけた……。だが、お前はわざと感情をぶちまけたんじゃないのか……?」
「雄二……」
「……お前の事だ……。どうせ、『俺達』の為なんだろ……。周りを心配させないように……、俺達が安心するように……」
『――僕が、何度『繰り返して』きたと思ってるんだ!!今までに何度も、何度も……!!1人ではどうにもならなくて……!話して、そしてまた『別れ』を経験して……!!いい加減に乗り越えたいと思ってるさ!!思ってるに……決まってるだろっ!?』
……あの感情は嘘じゃない……。出来るだけ周りに頼らず、出来る限り自分だけで解決しようとしていた事……。今まで僕が、いや『僕達』が味わってきた苦悩や悲痛……。それらを思い出し、どうしょうもない感情が僕を包み込んだ……。それが……口をついて僕から出た感情そのものだった……。でも、雄二の言うとおり……、それは『言わされた』事に近い……。理由も、雄二が言った通りだ……。
「…………やっぱり雄二には、お見通しなのか……」
「……俺にとってお前は一年位の付き合いだが、それなりにお前の事は見てきたからな……。あの時も言ったが、去年までのお前がそこまで変わっちまうくらいの事が起きたんだ……。当然、俺達に言えない部分もあったんだろう……。――ラブレターを貰ったというのに、その反応……。それが、答えなんじゃねえのか……?」
……あの時、彼らに言えなかった事……。それは……、僕の『絶望』……。大分割り切っているとはいえ、僕は心に深い『絶望』を残している……。今回こそ、今回こそは……!そう言ってやってきたのに、未だに僕は『繰り返し』を続けている……。心のどこかで、もう『繰り返す』覚悟をしてしまっている自分がいる事にも気付いていた……。
だから……、誰からラブレターを貰ったとしても……その想いに応える訳にはいかない……。また『繰り返し』てしまうかもしれない僕には……!その時、一番辛い思いをするのは……、僕の『繰り返し』を止める事が出来ず、強制的に別れなければならない『相手』なのだから……!
「……そうさ。だから、出来る事なら……、誰にも知らせずに、僕一人で解決したい問題なんだよ……。それでも、僕一人では決して解決できない問題……。どんなに1人で解決する事を望んでも、『誰か』に頼らないといけない……。その『誰か』に迷惑をかける事になってしまっても……」
「明久……」
「……わかってるんだよ、雄二……。今までもキミに全てを話した時……、君はこう言ってくれた……。『俺は迷惑には思わない』ってね……。それは、皆も同じだった……。だからこそ、辛いんだよ……。そう言ってくれた彼らの思いもむなしく、僕は『繰り返し』てきた……。彼らに、悲しみを与え続けてきた……。他ならぬ、『僕』のせいでね……」
「…………」
……雄二が何か言いたそうにしているが、何を言っていいのか言葉が出てこないようだった……。そんな中、僕は話を続ける……。
「僕が別れを苦しんだ程、他の皆も苦しんでいるんだ……。苦しませてきたんだよ……!それなのに……、僕は他の皆に『繰り返し』の事を伝えてきたんだ……。また、苦しませるかもしれないのにね……」
自嘲的に僕は吐き捨てる……。僕のせいで……皆を苦しめてしまっている……。この事実を考えると、僕は自分の全てを呪いたくなってくる……。だけど……、
「でも、『約束』もしてきてるんだ……。いつの日か、乗り越えるって……。この私たちの苦しみを……、無駄にしないでねって……。だから、僕はこの『腕輪』の呪いを断ち切る為に、出来る事は全てする……!後悔のないように、僕の決めた道を進む……!進まないと……、また、進めなくなっちゃうから……。動けなくなっちゃうから……」
……正直な話、僕一人だけだったら諦めてしまっているんだ……。事実、そうだった時があるように……。今の僕がいるのは、僕を支えてくれた皆がいてくれたからに他ならない……。だから、その皆の思いに応える為に、僕は進むことが出来るんだ……!
そんな時、雄二は僕の髪をクシャクシャにしながら、言った。
「……俺ではお前の経験した苦しみや悲しみは理解してやれねぇ……。ここで、言葉だけの慰めをしても、お前には意味ねえだろうしな……」
……そこで雄二は僕の頭から手を離すと、真面目な様子でこう切り出してきた。
「明久。これは俺の考えなんだが……、お前は自分が今、幸せになる……。そういう事は考えられねえか?」
……正直、意味がわからない。だが、雄二は至極真面目な様子でふざけている様には見えない……。一体どういう意図から今の発言が出てきたのか……?苦笑しながら、僕は雄二に答える。
「……いろんな意味で、とても雄二の言葉とは思えないよね?……何より、つい先日まで僕の幸せは許せないとか言ってる雄二がさ?」
「茶化すんじゃねえよ……。俺だって、時と場合くらいは選ぶさ……。明久、お前は何だかんだでいつも他の奴らの為に動いてきたよな?だったら……、お前にもそういった相手が……、お前の事を考えてくれる……、俺にとっての翔子のような相手をを見つけた方が、お前の為になるんじゃねえか……?そしたらお前は、そいつの為にも一層繰り返さない様に気を付けるだろう?それこそ……、今までにないくらいな……」
「…………」
……まさかそんな事を言われるとは思ってもみなかった……。それも……、雄二の口から異性関係の事で助言を受けるとは……。今までにない提案に戸惑っていると、雄二はそのまま話を続ける……。
「……一応聞いておくが、相手がいない……、とか言い出さないよな……?」
……いや、相手も何も……。
「……僕を好きな人なんていないでしょ?君だって言った筈だよ?僕はブサイクだって……」
「……前に言った事はひとまず置いとけっ!それに仮に不細工だって、それが女の出来ねえ理由にはならないだろっ!?」
……本当に雄二の奴、どうしちゃったんだろ……。
「……雄二、本当に大丈夫?……もしかして霧島さんと付き合えるようになったから、頭がどこかおかしくなって……」
ゴンッ!!
そこに雄二の鉄拳が僕の頭に突き刺さる。
「痛ッた!?何するんだよ、雄二!?怪我人を相手にっ!」
「お前が
そこで、姫路さんの名前がでる……。雄二の方を見ると……、どうもからかっている様子には見えない。それだったら、僕も真面目に答えるとしよう……。そう考えて……、僕は答える。
「…………そうだね。姫路さんの事は……、『好き』だったよ。……初恋の相手……だったからね。僕にとっては、さ……」
……姫路さん。小学校の頃に……ある事で知り合った友達……。出来る事を精一杯に、ひたむきに、全力で一生懸命に頑張る事が出来る女の子……。そんな彼女の姿に、僕は深い衝撃を覚え……、心惹かれた女の子……。でもその後は疎遠になってしまい……、高校でも、クラスが違うせいか、殆ど彼女とは交流が無かった……。それが、2年進級時の振分試験において、『今回』と同じように体調を崩してしまい……、僕と同じFクラスとなったことで、今まで疎遠だったのが嘘みたいに仲良くなった……。
『私は明久君のことが大好きなんですよ?あんなことを言われて……、じっとしていられるわけないじゃないですか!』
『繰り返し』が起こる前、彼女と想いを確認しあった事がある……。彼女は、僕に勿体無いくらい、可愛らしくてお淑やかで、でも意外と負けず嫌いなところがあり……、そして、誰よりも努力している人……。まあ『料理』の腕が壊滅的で命に関わる事と、思い込んだら一直線で話を聞いてくれないところはあるけれど……。でもとても純粋で、魅力的な女の子だ……。あの事故が起こらなければ……、『繰り返し』ていなければ……、と思った事もある……。
『明久君!イヤ……ッ!いやぁ!!いかないで……!いかないで下さいっ!明久君っ!!』
……けれども、僕は今『繰り返し』てしまっている……。その『繰り返し』の最中においても、彼女とも色々な事があった……。僕が近くにいるから……、彼女に色々と影響を与えてしまっている……。『今回』も姫路さんはもしかしたら、僕を好いてくれているかもしれないけれど、同時に泣かせてしまった事が思い出される……。だから……、姫路さんといるのは楽しいけれど、だけど彼女の事を考えるなら……、僕は彼女から離れた方がいいと悟ったんだ……。
「……この『繰り返し』の中で……、僕は実感させられたんだ……。仮に、姫路さんが僕を好きだったとしても……、僕にはその想いに応える資格はおろか……、権利も無いってね……」
「…………そうか」
僕の返答を聞き、溜息をつきながらそう呟く雄二。
「だが、お前が言った通り、それまでこんな事は考えてこなかったんだろ……?今までと同じことをしていたんじゃまた『繰り返す』って言うんなら、新しい事をやればいい。だから、俺はお前に聞いてみたんだが……、とりあえず、姫路の事はそれでいい……。今のお前の気持ちも……それまでの環境がそうしたっていうんなら、否定のしようもねえしな……」
そう言って、雄二が一息つくと、
「だが、考えてもみろ?お前の性格なら……、相手がいた方がメリハリがでる筈だ……。少なくとも今はある程度『繰り返し』の条件も、『腕輪』持ちの高得点者を倒せれば道が開けるかもしれないって事もわかっているんだ……。これまでとは違うだろう?だから考えろ。そんな奴は、いないのか……?」
……雄二の考えている事はわかった……。わかったけれど……、
「……今までそういった事は全然考えてなかったから……、急に言われてもすぐに出てこないよ……。この『腕輪』を外すまでは、なるべく考えない様にしてたからさ……。姉さんにも言われていたし……。でも、そうだね……、皆大事だと思うけど、その中でも特に気にかけている人達ならいるよ……」
「……それは、誰だ……?」
雄二の返答に、頭に浮かんだ人達を告げる……。
「……秀吉と、優子さんさ……」
「秀吉と……、木下優子……?秀吉はともかくとして……、木下姉もか……?」
「……うん。この『繰り返し』の中で、僕が尤も助けてもらったのが多い人達で……、そして尤も『別れ』を体験させてきた人達なのさ……」
「…………明久……」
……そう、最初にこんな状況に陥った僕を……、最初に信じてくれた友達が秀吉だった……。Fクラスで問題がおこる度に僕を助けてくれた……。でも、秀吉だけじゃ手におえない事も出てきて……、それでいて僕のバカさかげんのせいで、他の人物も信じてくれない……。そんな時に秀吉はAクラスの優等生にして自分の姉である『木下優子』を連れてきてくれたんだ……。
彼女も最初は半信半疑で接してきた。それはそうだろう、学校一の問題児にして、『観察処分者』のいう事なんて、まともに受け取る方がおかしい。でも必死に説得してくれた秀吉のおかげで……、彼女も僕に協力してくれた……。
……何をしていいのかもわからない僕に、思いもつかないような事を色々助言してくれたのは彼女のおかげだ……。それなのに……、そんなにも僕を助けてくれたのに……、僕は、いつも悲しませていた……。
あの2人を……、いままで何度泣かせてしまってきたのかわからない……。でも、『約束』だから……。出来るだけ2人には伝えるようにしてきて……、何度も別れを繰り返してきたから……、
「……雄二は僕の幸せをって言うけど……、僕としてはあの2人が幸せになってほしいと思っているよ……。何度も泣かせてしまった、あの2人が幸せに……」
「明久君っ!!」
「明久っ!!」
そんな時、屋上の扉が開き、そこにはちょうど話をしていた2人と、霧島さんがいた……。タイミングがいいのか悪いのか……。
「……そんな訳だから、雄二……」
「……わかった。……あと、そのラブレター。預かってもいいか?……出した奴に心当たりがある……。もうお前も、気付いているかもしれないが……」
「……じゃあ、聞かなかった事にするよ……。これが手紙だから……雄二、責任を持って渡しておいてね……」
「……ああ」
誰と聞く事なく、僕は雄二へ手紙を渡す……。そして、こちらへやってくる3人の方へ向き直り……、
(これでいいんだ……。雄二の言う事もわかるけど……、僕にとっては自分の幸せよりも……、秀吉や優子さんの幸せの方が大事なんだから……)
それが……僕の、嘘偽りない思いだから……。
心配してくれた秀吉達に笑いかけながら、僕はそう心の中で呟いていた……。