バカとテストと召喚獣~新たな始まり~   作:時斗

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第45話、投稿致します。
……なんか本文より、後書きと方が長くなっているのは気にしないで頂ければと……。

あと、現在1話より新しい形式にて編集し直しておりますので、文法が異なっている所はご容赦願います。


第45話 清涼祭の出し物 (番外5-2)

 

 

 

「そんな事になっておったのか……」

「うん……、だから秀吉も手伝ってくれない……?この、あばれないで、よっ!!」

 

 

 所用で姉上を訪ねてAクラスに行っている間に、まさかそんな状況になっとるとはのぅ……。流石はFクラスじゃな……。自分もFクラスであるという事実は一先ず置いておき、ワシはそんな感想を抱く。目の前の明久は、逃げたFクラスの1人である、横溝を取り押さえていた。

 

 

「クソッ……!は、離せっ!!」

「もうっ!!おとなしくしなよっ!!もうすぐ西村先生が来るんだからさ!」

「い、イヤだ――!!」

 

 

 ……往生際が悪いのぉ……。そう思った矢先、西村教諭がやってきた。

 

 

「ここにもバカがいたか……。全く、俺の手を煩わせるな……」

「は、離せ――!!」

「すみません、先生……。あ、ちょうど聞きたかった事が……」

 

 

 明久は暴れる横溝を西村教諭に引渡しながら、尋ねる。

 

 

「……2-Cの高橋勇人君を見かけませんでしたか……?」

 

 

 高橋じゃと……?アヤツに何か用があったりするのじゃろうか……?そう尋ねる明久に西村教諭も怪訝そうな顔をする。

 

 

「見ておらんが……、この時間はどのクラスも自習をしている筈だが?」

「いえ……、高橋先生が彼を呼んでいるんですけど……、どうも逃げているみたいで……」

 

 

 逃げる……?何故そんな事を……?どうやら西村教諭もワシと同じ事を思ったようで、

 

 

「……アイツが逃げる意味がわからん。このバカどもじゃあるまいし……」

「…………高橋女史との『個人授業』が嫌だったみたいです」

 

 

 その明久の言葉を聞き、西村教諭のコメカミがピクリと動くのをワシは見逃さなかった。

 

 

「……成程な。まぁ……、見かけたら高橋先生には伝えておく」

「お願いします……。でないと、僕も巻き込まれるので……」

 

 

 そう言い残し、西村教諭は横溝を抱えて補習室へと連れて行く。……今の話を聞くに、高橋女史との個人授業とやらはそんなに恐ろしいものなのじゃろうか……。Aクラスにいる姉上からは、そんな話は聞かんが……。

 

 

「明久……、高橋女史の授業とやらは……」

「授業……、というより個人授業だね……。気になるなら一度受けてみればいいと思うよ、秀吉……。成績だけは、今より間違いなく上がると思うし……」

「それは凄いのぅ……」

 

 

 あの時のオリエンテーリング以来、姉上から教わったりと、少しは勉学にも力を入れるようにはしておるのじゃが、中々成績は伸びぬ。……まぁ、ちょっとの勉学で点数が上がるなら、ワシはFクラスにはおらんのじゃろうが……。

 

 

「……言わせてもらうなら、お勧めはしないよ。…………地獄を見るからね」

「…………それ程、厳しいのじゃな……」

「…………」

 

 

 その時の事を思い出しているのか、黙り込む明久を見て、高橋女史の認識を改める事にする。……あまり深くは関わらぬ方が、よさそうじゃな。

 

 

「じゃあ悪いけど……、秀吉も手伝ってくれる……?まだまだ捕まえないといけない連中が山ほどいるからさ……」

「了解じゃ」

 

 

 そう言って、ワシは明久と共に、Fクラスの連中を探すのじゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつで最後か……?」

「ああ……、残りは明久達が捕まえたようだしな……。悪かったな、高橋」

 

 

 あの逃げたFクラスの連中(バカども)を探している途中に出会った高橋に協力して貰いながら、恐らく最後であろう福村を捕まえる事に成功する。なんとか逃れようと必死で暴れているが、この野郎、逃がすわけねぇじゃねえか……!

 

 

「……そう思うんだったら、もう少しコイツらを纏めてくれ、坂本。こっちはいい迷惑だ」

「……善処する」

 

 

 ……そういう事は鉄人に言ってくれ、と心の中では思ったが手伝って貰った手前、そう答える。まぁ、これで俺が補習室行きになるのは免れるだろう……。

 

 

「だが、なんでお前がDクラスにいたんだ?」

「…………まぁ、なんとなく、だ……」

 

 

 言葉を濁す高橋。思い返すと、先程明久の奴がなんか言っていたな……。

 

 

「……そういえば明久がお前を探してたぞ?」

「…………アイツは何か言っていたか?」

「何でも高橋女史に頼まれたとか……」

「お前はここで俺に会っていない。だから俺の事は見ていない……、いいな?」

 

 

 な、なんだ、この有無を言わせぬ感じは……。ま、頼まれたのは明久だし、俺には関係ないか。

 

 

「お、おう」

「……ここもヤバくなってきたな……。そろそろ場所を変えて……」

「…………そうはいかない」

 

 

 そんな時、音も無く背後にムッツリーニが現れる。

 

 

「なっ!?つ、土屋!?」

 

 

 ……先程も思ったが、コイツ、本当に忍者だな……。ムッツリーニに拘束される高橋を見て、俺はそんな感想を抱く。

 

 

「な、なにをする、土屋!!」

「…………お前を連れてくるよう依頼を受けている」

「なっ……、明久か……!?」

「…………明久もだが……」

「だったら、ここは……ッ!」

「…………高橋教諭からもだ」

 

 

 ムッツリーニの回答を聞き、高橋が固まった。あ、コイツ、詰んだな……。

 

 

「ムッツリーニ――!!」

 

 

 そこへ明久達もやってくる。

 

 

「は、離せ……!明久!お前、俺を売るのか!?」

「何言ってるのさ……、僕は高橋先生から頼まれただけだよ?」

「お前、知ってるんだろう!?あの人は……ッ!!」

「……往生際が悪いですよ……勇人」

 

 

 そこに透き通るような女生徒の声が聞こえ、その瞬間、高橋の動きがピタッと止まる。

 

 

「ま……真琴……ッ!!」

「……さぁ、行きますよ。私も先生から貴方を監視するよう呼ばれてますので」

「ま、待てッ!考え直せッ!!や……やめろ――!!」

 

 

 こうして、ムッツリーニ達に連行される高橋を見て、何故か俺は人事とは思えないような感情を覚え、静かにヤツの冥福を祈った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かったよ、ムッツリーニ」

 

 

 無事に勇人を高橋女史へと引渡し、僕は功労者である友人に礼を言う。

 

 

「…………いい。その代わり約束を忘れるな」

「別にいいけど……、あんな事でいいならお安い御用だよ」

「ん……?明久、お主、ムッツリーニと何か約束をしたのか?」

「うん、ちょっとね……」

 

 

 そう答える僕に、肩を竦める秀吉。若干呆れた様子に見えるような気もするけど……。

 

 

「…………秀吉にもお願いがある」

「嫌じゃ」

 

 

 即答。それにショックを受けたような顔をするムッツリーニ。

 

 

「……どうせワシの写真を撮らせてくれとか、そう言う事じゃろう。なんでワシの写真が必要になるんじゃ!!ワシは男じゃぞ!?」

「え?それを言うなら僕も男だけど、写真を撮って貰う事になったよ?」

「お主とワシではその用途は違う筈じゃ、そうじゃろう?」

「…………黙秘する」

 

 

 ……そういえばずっと前に……、まだこんな『繰り返し』を味わうようになる前、秀吉の写真を持ってたりしてたっけ……。随分と、懐かしい記憶だけど……。

 

 

「とにかく、イヤじゃ!わかったの!?」

「…………仕方ない。木下姉からお願いして貰う」

「待て!?何故、姉上が出てくるんじゃ!?」

 

 

 秀吉には珍しく、慌てたような声を出す。やっぱり実のお姉さん……、といっても双子ではあるけれど、である優子さんには頭が上がらないみたいだ。

 

 

「そういえば……、ムッツリーニ?他のクラスがどの出し物になるかって、もう決まったのかな?」

 

 

 優子さんの名前が出て、気付いたように僕はムッツリーニに聞いてみる。彼なら恐らく、知っているような気がしたからだ。そしてそれは、正しかった。

 

 

「…………ああ。一番、Bクラスが難航していたようだが、先程決まった」

 

 

 懐からリストのような物を取り出し、それを僕らに見せてくれる。どれどれ……?

 

 

 

【清涼祭 第2学年 出し物】

 

 Aクラス:メイド喫茶『ご主人様とお呼び!』

 Bクラス:ネモト確認。ネモト叩き!!一回百円

 Cクラス:演劇『現代版 ロミオとジュリエット』

 Dクラス:休憩処『縁日喫茶~ラ・ぺディス臨時出張店~』

 Eクラス:スポーツ会館『懸賞イベント!君は彼が倒せるかッ!!』

 Fクラス:召喚大会・召喚獣指南 運営、サポート

 

 

 

 これはまた、随分と豪勢だな……。若干おかしな項目もあるけれど、Aクラスは喫茶店か……。何時ぞやの記憶では……、Fクラスも喫茶店か何かをやったような覚えも……。

 

 

「あ、そうじゃ。さっきワシにもちょっと出て欲しいと小山から連絡があったのじゃ」

「へぇ……、他のクラスの出し物に参加するのもありなんだ?」

「…………特にやってはいけないという決まりは無い。高橋もDクラスの出し物を手伝うよう言われていた」

 

 

 なるほど……、だから勇人はDクラスに居た訳か……。

 

 

「……さっきから気になっていたが、……このBクラスの出し物って、何だ……?」

 

 

 あ、ツッコムんだ、雄二。僕も、少し気になったけど……。

 ――ネモト確認。ネモト叩き!!――

 

 

「…………多分そのままの意味。アイツが1人、最後まで反対していたが、全会一致で決定した。どうやらアトラクションのようなものをやるらしい」

 

 

 そして、ソレは目玉に押す、という事らしい。Bクラスの彼の立場が鑑みられるが……、まぁ自業自得、仕方ないだろう。

 

 

「おっと……、忘れてた……」

 

 

 ふと思い出し、僕は携帯を取り出すと、あるところへメールを送る。

 

 

「ん?どこへ送ったんだ、明久?」

「ちょっとね……、一応、言っておかなきゃと思って」

「は?」

 

 

 怪訝な顔をする雄二達を尻目に、手遅れになっていない事を祈りつつ、僕は携帯を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャ――!!飯島君が倒れたわ!!」

「み、瑞希ちゃん!?一体、何をしたのカナ!?」

 

 

 喫茶店に出す料理を思考する中、味見役の飯島君が倒れ、保健室に運ばれていくのを尻目に、僕は工藤さんと共にその元凶を調べる為に調理場を訪れると、そこには姫路さんがいた。

 

 

「ああ、久保君に愛子ちゃん。いいところに来てくれました!」

 

 

 彼女はエプロンを身に付け笑顔で僕達の方を振り向く。いかにも料理してますといった風で片手にお玉を持ち、彼女の可愛らしさに一層拍車がかかった感想を受ける。…………彼女の、もう一方の手に持った、あるモノを見なければ……。

 

 

「み、瑞希ちゃん……、その、左手に持ったモノって、なにカナ……?」

 

 

 戦慄からか、普段の工藤さんとは思えない程、緊張した面持ちで口を開く。……彼女の気持ちはよくわかる。僕も、信じられない気持ちで一杯だ。

 

 

「ん、これですか?隠し味です♪」

「…………隠し味って……、ちなみにその中身は……?」

 

 

 おそるおそる、僕は彼女へと聞いてみる。できれば、僕の予想が外れていてくれと思いながら……。

 

 

「濃硫酸です」

「「な、何だってッ!?」」

 

 

 僕と工藤さんの声が見事にハモる。ど、どうして料理に化学薬品が出てくるんだ!?

 

 

「瑞希ちゃん、何だってそんなモノを……っ!」

「え?でも、隠し味を入れないと……」

 

 

 混乱した様子で詰め寄る工藤さんに、きょとんとした様子の姫路さん。とりあえず、僕は他のクラスメイトに、大至急、味見をした飯島君が食したモノを吐かせる事を指示したところに、一通のメールが入る。こんな大変な時に一体誰が、と思いながら見てみると明久くんからで、一言こう書いてあった。

 

 

『利光君へ   姫路さんを厨房に入れるべからず。   吉井』

 

 

 ……………………明久君、もう少し、早く言って欲しかったよ……。多分このメールはパソコンデータ破損後に外付けハードディスクを用意するくらい手遅れに違いない。

 

 

「久保君!?天なんて仰いでないで……!?瑞希ちゃんも、お願いだから、それ以上そんな危険なモノを入れないでっ!!」

 

 

 悲鳴にも似た工藤さんの声に、少し現実を逃避していた僕の心を奮い立たせ、担任である高橋先生に連絡するように伝えると、彼女を止めるべく行動をおこす。

 後に騒ぎを聞きつけた高橋先生がやってきて、先生による料理のいろはを、徹底的に姫路さんへ教え込まされる事となるのだった……。

 

 

 




とある時の明久の体験(5) 『~観察処分者(バカ)と勉強と科学の申し子~2』



「……おい、吉井。何処に行くつもりだ」


 彼、高橋勇人と出会って数日経ち、いつもの通り補習室へ向かおうとする僕を引き止める声を聞き、そちらに顔を向ける。


「ああ、高橋君。いや、これから補習室に……」
「お前……、『観察処分者』の責務はどうした?」


 観察処分者の責務……?


「……何?それ……」
「……お前、わかっていってるのか?」


 わかって?言っている事の意味が全くわからない。


「…………『観察処分者』は教諭の仕事を手伝う義務もある。確かに学生の本分は勉強ではあるが、お前は罰則という意味も込めてソレに任命された筈だ……」


 ……そうだったっけ?もう、かなり昔の事だし、自分も余裕が無かったからすっかり忘れていたけれど。僕の様子に高橋君はハァ……と呆れたように溜息を付くと、


「……さっさと行くぞ」
「ええ!?でも、僕これから勉強……っ」
「……今回は俺も手伝ってやるから、さっさと来い」
「そ、そんなー!?」


 彼に引きづられるようにして、僕は職員室に連れて行かれた。










「ふぅー、疲れた~……」


 次々と出てくる雑用に追われ、全て終わったのは夕方になっての頃だった。


「情けない……。これしきで根をあげんじゃねぇよ……」


 僕とほぼ同じだけの業務をこなしたというのに、ケロッとしている高橋君。彼は僕と違って召喚獣を呼び出して手伝っているという訳ではないけれど……、


「高橋君って凄いね……。あれだけこき使われても平気そうじゃない」
「俺は、普段からやっているからな……。むしろ今日は2人いた分、何時もより楽だった」


 そう答える彼に疑問を覚える僕。……いつも?


「……この学園には、身内というか……、親戚がいるからな。普段から世話になってるし、学園では出来るだけ手伝うようにしている」
「そうなんだ……」


 そういえば、初めて会った時、彼は高橋女史を呼びに来たんだっけ……。ということは……、


「高橋君の親戚って……、高橋女史の事?」
「……そうだ」


 そうなんだ……、あの高橋女史のねぇ……。そう言うとあの、地獄の特訓?を思い出し、僕は身震いする。


「……あの時は、助かったよ……。あんなの、身体がいくつあっても持たない……」
「……普段は普通なんだがな……。熱中すると、手がつけられなくなる所がある……。俺も昔、味わったからよくわかる……」


 僕に同調するようにそう答える高橋君。そうか、彼もそう思っていたのか。


「よし、じゃあ行くぞ」
「……え?今度は何処へ……」
「最初に言っただろうが……今日は、『俺』も手伝ってやると……」










「……お帰りなさい、今日は早かったんですね」


 荷物を取りに高橋君の所属するCクラスへやって来ると、彼を待っていたのだろうか、亜麻色の髪を肩にかかるくらいまでのばした一人の可憐な女生徒が教室に残っていた。


「ああ、今日は1人じゃなかったんでな……」


 そんな調子で対応をする高橋君を見て、随分距離感が近いなぁという印象を受ける。そんな時、彼女は怪訝そうな様子で僕を見ていた事に気が付く。


「あ、ゴメン、僕は……」
「……コイツは多分大丈夫だ。他のFクラスの連中とは違うと思う」


 僕がそう言うのを遮るかのように、彼はそう答える。


「……貴方が言うなら、そうなのでしょうね」


 彼女は一つ息をつき、少し微笑みを浮かべながら、


「……はじめまして、私は神崎真琴と申します。そこの……、勇人とは幼馴染といいますか……」
「……俺の恩人のようなものさ。洋子姉さ……先生共々、いつも世話になっている」


 最初の警戒するような表情が嘘のようにそう自己紹介してくる神崎さん。そして高橋君の補足を聞き、なんとなく2人の関係性がわかった気がする。


(なんか……雄二と霧島さんみたいな感じだな……)


 と言っても、あの2人のように拗れてそうな印象は受けない。あくまで自然体で、若干高橋君が少し引いているような感じだろうか。


「あ……、はじめまして、僕は2-Fの吉井明久です」


 自分の自己紹介がまだだったと思い直し、慌ててそう言うと、


「……」


 神埼さんはジッと僕の方を伺っている。先程よりは険もとれた様子ではあるけれど……。あれ?僕の顔に何か付いているのかな……?


「言っただろ。コイツは大丈夫だって……」
「……そのようですね」


 ん……?どういう事?僕がそう思っていると、


「悪く思うな、吉井。Fクラスの連中は男女が一緒にいるだけで襲い掛かってくるような奴らだからな。それを警戒していただけだ」
「……このクラスでも、彼らによって被害にあった人も多かったもので……」


 貴方もそうなのかと思っていました、彼女はそう言うと、頭を下げてくる。……恐らくはFクラスのFFF団(あの集団)の事を言っているのだろう。確かにアイツらは男女が接触しているとわかると、例え学年が違ったり、同じFFF団の連中であっても粛清する危険な集団である。


(……僕も何回アイツらにしてやられた事か……)


 自分の体験の中でも、FFF団の手によって繰り返させられた事を思い出し、身震いする。


「……貴方は、彼らとは違うようですね」
「じゃなけりゃ、ここには連れてこねえよ。だけど、すまないな、これからコイツの勉強に付き合うって言っちまったんだ。悪いが先に帰って……」
「……だったら私も付き合います。どうせ学園でやるつもりだったのでしょう?」


 そう言うと彼女は自分の荷物を纏め始める。


「え……、そ、そんな悪いよ……!これから始めるとなると、何時になるかわからないし……!」


 今の時点でもう5時近い。勉強し始めたら恐らく夜になってしまうし――


「……なら助かる。……先生から聞いたが、コイツ、想像を超えるバカのようだからな……」
「バカって酷いな!?僕は……」
「……漸く数学の学力が中学生レベルになったんだろ?その時点でバカじゃなかったら一体何だ?」
「……ごめんなさい」


 クッ……、否定できない……!


「……わかりました。ですが私も物理くらいしか教えられる自信がありませんが……」
「それは大丈夫だ。……むしろ物理に関しては、お前、Aクラス並だろ……?コイツじゃ理解できねえよ……」
「し、失礼な……っ!!」


 そんなに言うなら見せてあげるよ……!僕の実力を……!!










「………………ごめんなさい、もう勘弁して下さい」


 図書室に移動し、勉強する事2時間あまり。流石に集中力に限界を迎えつつあった僕は、そう宣言する。


「……大きな口を叩いてその程度で根をあげるのか。……まぁ、お前にしては頑張ったほうだが」


 彼らに見てもらっていたのは、主に物理と化学。だけど、その教え方は的確で、下手したら先生より上手いんじゃないかと思う程だった。僕がどんな所で引っかかっているかを的確にアドバイスができ……、基本的には高橋女史と同様に自分で問題を解かせるスタンスで行なわれたものであった。……尤も、高橋女史ほどではなかったけれど。


「しかし、お前……、よくこの学園に入学できたな……。ここまでわかってねぇとは思わなかったぞ……」
「…………面目ない」


 ……くぅ、ぐうの音もでないとはこの事か。僕が彼に反論できないでいると、


「……そう言うものではありませんよ、勇人。貴方だって、苦手科目については、あまり吉井君の事は言えないでしょう?」
「グ……ッ!それを、ここで言うか……!」


 思わぬところからの反論に、言葉が詰まる高橋君。


「え?そうなの?ちなみに苦手科目って何なの、神崎さん?」
「おい、コイツには言う……」
「……色々とありますが、特に酷いのは世界史でしたか?確か一桁って先生が言ってましたよね?」
「おいぃッ!?」


 へぇ、これはいい事を聞いた。


「そうなんだ。今日のお礼に今度は僕が教えてあげようか、高橋君?」
「グゥ……、吉井のくせに……ッ!!」


 悔しそうな顔をする高橋君。彼がこんな顔をするのを初めてみたかも。そう思うともうちょっとからかいたくなってきた。


「僕もちょっとは学力が上がってきた筈だからね……、今ではEクラス位にはなれるかもしれないし……」
「中学レベルの知能しか無い奴が何言ってやがる」
「いやいや、もしかしたら僕が勝っている科目もあるかもしれないじゃん」
「俺は、ある程度に抑えてんだよ……!もし、あったとしても、世界史くらいだ!」
「またまた強がりを……!」


 確かに教えてもらった化学や物理では、叶わないだろうけど、他の教科なら勝てるかもしれない。教えてもらった感じ、高橋君は化学に関しては飛びぬけたような、そう、あの保健体育にめっぽう強いムッツリーニのような印象を受けたから、他の教科はそれなりのような気がする。そうでなければ、Cクラスでなくもっと上のクラスにいると思うし……!


「彼の言っている事も間違いではないのですよ、吉井君」


 そんな時、自分達以外の声が聞こえる。こんな時間に一体誰が……、という思いで振り向くと、そこにはAクラスの担任にして、学年主任である高橋女史がたっていた。


「もう、こんな時刻です。そろそろ切り上げたらどうですか」


 ……確かに、もう8時近い時間になっている。むしろ、よくこんな時間まで残らせてくれたなとも思う。だけど僕は先程の言葉で、少し気になった事があった。


「高橋先生……、間違いじゃないって……?」
「……そこにいる神崎さんは元より、高橋君も本気を出せば、Aクラスに届くのではないかという実力を持っているのです。特に、化学に関しては、真面目にテストを受ければ500点には届くんじゃないかと思います」


 ご、500点~!?そ、それって、本当にムッツリーニの保健体育並みじゃないか!?それならなんで……、


「ただ、彼はAクラスに行くと勉学が優先させられて、バイトや私の手伝いが出来ないという事で、あえて今のクラスにいるのです。……私は、そんな事気にしないでAクラスに来てくれればと思っているのですが……。そして、神崎さんもあえて、勇人君のクラスにいる為に、テストの時は調整しているという訳です」


 高橋先生の話を聞き、少し恥ずかしそうに俯く神崎さん。……そうなんだ、Aクラスに行けるのに、あえて行かない……。そういう事を考える人もいるんだ……。それも、高橋先生の為に……。


「……俺は訳あって、幼い頃から洋子姉さんや真琴……、神崎家にはお世話になっているからな……。少しでも自分の事は自分でやらなきゃならないし、少しでも恩を返したいんだよ……」


 高橋君はとても真剣だった。それと同時に……、彼が最初、僕に憤っていた理由がわかった気がした。


「……だから、観察処分者の仕事を放棄している僕が許せなかったんだね……」
「……お前達Fクラスは、努力も無く、当然の権利とばかりに試召戦争を起こした……。それはこの学園の権利だから、それをやるなとは言わないが……、お前らのそれは普通じゃない……。放送施設を勝手に使用したり室外機を壊してみたりと、関係ないクラスまで巻き込んでいた。そればかりか、男女が一緒にいるというだけでカッターや凶器を持って追い掛け回したりもする……。こんな連中を俺達と同じく文月の生徒だなんて、認められる訳ねえだろ!!」


 彼の胸の内にある怒りの感情に当てられ、僕は下を向くしかない。これに関しては、反論は出来ないだろう。例え、今回の僕が、それらの試召戦争等に関わっていなかったとしても……、今までの僕はそれに関わり……、それを悪いと思った事はなかったからだ……。


「そういうものではありませんよ、勇人君。吉井君は2学年になりFクラスにはなりましたが、試召戦争を始め、それら一切には全く関わっていないのですから……。まぁ、1年時の頃の事は擁護できませんけれど」
「……そうでなかったら、吉井の勉強なんて見ていませんよ」


 その高橋君の言葉を受け、僕はハッと顔を上げる。


「……コイツは一応、善悪の観念がある……。それを確かめる為に『観察処分者』の仕事をやるよう言ってみたんだが、それに対しては真摯に向き合っていた……。最初はその言葉通り、『学園の恥』だと思っていたんだが、単純に考えなしに行動するだけのバカだという事もわかった……」


 ……これって、褒められている、んだよね……?だけど、彼の言葉を聞き、わかった事もある……。僕は今まで自分の事で一杯だったけれど……、だからといって自分のすべき事を放棄するという事は、許されない事と知った……。僕がすべき事をしないという事は……、誰かがそれによって困るという事。自分が利を得る為に、誰かが大変な目にあうなんて事、僕が一番許せなかった事だというのに……!


「……高橋君、約束するよ。僕はこれから、決して自分の職務を疎かにはしない……。『約束』するよ……」


 そう、今回だけでなく……、『これから』も……!


「ふん……、じゃあ、俺も仕事が早く終わった分だけ、お前の勉強をみてやる事にしてやるよ」
「……勇人。そんな事言ってもいいんですか……?多分、吉井君の方が出来る科目もあると思いますけど……」
「…………余計な事を言うな、真琴……」


 微笑を浮かべながら、彼にそう苦言を呈す彼女に、高橋君は苦虫を噛み殺したような表情で答える。


「じゃあ明日からは、手伝うよ……。補習室が開くまで待たなきゃいけないから、すぐには行けないかもしれないけど……」
「今日も思ったんだが……、お前、何で補習室にいたんだ……?普通、あんなところには行かないだろ……」
「ああ、それは何時も僕は、Fクラスに来た後、直ぐに補習室に行くからだよ。Fクラスは自習の時も多いし、面倒事に巻き込まれる事もあるから補習室の方が勉強できるのさ」
「…………お前、よくあんなところで勉強しに行くなんて発想になるな……」


 戦慄したようにこちらを見る高橋君。……僕にしてみれば、高橋女史との個人授業よりはマシだよ……。


「……吉井君?今、何かよからぬ事を考えませんでした?」
「気のせいです」


 あぶないあぶない……、高橋先生の鋭い指摘に、内心驚きを隠せない僕に、


「……なら、Cクラスに来られれば如何ですか?勉強する気があるなら、別に問題ないように思いますが……」
「……それは流石に無理ですね……。クラス分けによるそれぞれの設備差は学園長が決められた事です。それが覆るとは思えません」
「だったら、秘密にしとけばいい。普通の高校の教室と比べて、Cクラスは広いんだ。さりげなく席が一つ増えた所で気付かれないだろ?……まぁ、クラスの連中や担任の布施先生には伝える必要はあるが……」
「ちょ、ちょっと!いいよ、そんな事……!たった今、そういう事はやらないと言ったばかりじゃないか……!」


 そんな事を言い出す高橋君達に、僕は慌てて拒否する旨を伝える。


「それは、こちらの意思を無視して、の話だろ?別に俺達がいいって言ってるんだ。ねぇ、先生?」
「……全くこの子は……。まぁ、最近の吉井君の態度は職員室でも、いい意味で噂にはなってます。大丈夫かとは思いますが……、それは学園長の耳に入るまでにして下さい……」
「こういう事だ。明日俺から小山を初め、他の連中には伝えておくから、Fクラスに寄らずそのままCクラスに来い」


 なんか話が進んで、そういう事になってしまったみたいだ……。


「いや……だからさ……」
「吉井……、お前は言ったな?俺に勝てる教科があるって……。俺とお前の差がどれだけ開いているかって事を教えてやるよ……」
「な……言ったな!?僕だって、得意科目なら凄い点数が出せるって所を見せてやる!!」
「おー、言ってろ。後で吠え面をかくなよ?」
「そっちこそ!」


 僕が高橋君が熱くなっている中、


「……単純ですね」
「本当に。さて、じゃあ先生方に伝えておく事としますか……」


 高橋女史との間でそんなやり取りが聞こえたような気がするが、今の僕には耳に入らなかった。
 こうして、初めて僕はCクラスの面々と交流を持つ事になったんだ……。






とある時の明久の体験(5) 『~観察処分者(バカ)と勉強と科学の申し子~2』 終
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