『喫茶店を経営する場合、制服はどんなものが良いですか?』
姫路瑞樹の答え
『家庭用の可愛いエプロン』
教師のコメント
いかにも学園祭らしいですね。コストもかからないですし、良い考えです。
吉井明久の答え
『メイド服、チャイナドレス』
教師のコメント
若干、君の趣味もはいっているのではないかとも思いますが、なかなか良いのではないでしょうか。
土屋康太の答え
『スカートは膝上15センチ、胸元はエプロンドレスのように若干の強調をしながらも品を保つ。色は白を基調とした薄い青が望ましい。トレイは輝く銀で照り返しが得られるくらいのものを用意し裏にはロゴを入れる。靴は5センチ程度のヒールを――』
教師のコメント
裏面にまでびっしりと書き込まなくても。
須川亮の答え
『ブラジャー』
教師のコメント
ブレザーの間違いだと信じています。……最近、君の回答は以前の吉井君を見ているような錯覚を覚えます。
(……不味かったかな、清水さんを相手に……あんな事を言ったのは……)
先程の会話の流れで、清水さんと言い争った事が思い起こされる……。
『僕みたいなバカにだって、言っていい嘘と悪い嘘くらいわかるつもりだ!!人を傷つける嘘なんて、僕が一番嫌いなものなんだ!!そんな嘘を……、僕がつけるわけないだろっ!!』
……実際に、嘘は言っていない……。今回、というより『繰り返し』てからは……基本的に僕が島田さんを出来るだけ避けているという事はあるけれど……。
(だけど……そしたら清水さんにどういう言い方をすればよかったんだろう……)
彼女が島田さんを崇拝している事は……よく知っている。清水さんに関しては……今まで解り合えた事がないので、彼女が何を思い、何故あんなにも僕が憎いのかは、正直わからない……。
「……失礼。君が吉井明久君……、であってますか?」
「……?は、はい、そうですが……」
そんな時、誰かから話しかけられ、顔を上げると、見覚えのある2人が僕の前に立っていた。
「あ、貴方達は……!」
「ああ……、自己紹介がまだでしたね……。私は第三学年の高城と申します。そして、こちらが……」
「同じく3年の小暮と申しますわ。以後お見知りおきを……、吉井明久君」
華麗な、と形容できそうな礼をする高城先輩と……、スカートの端を摘んでちょこんと礼をする小暮先輩……。『繰り返し』を体験している今でも、この2人の名前は忘れることは無い。だけど、恐らく第三学年の主席である筈の高城先輩が、何故今僕に話しかけてきた……!?
「……どうして、僕の名前を……?」
「あら?現在この学園において、貴方の名前を知らない人などおりませんよ?貴方の数々のエピソードが、わたくしたち3年の間でも知れ渡っておりますから……」
そうか……。まぁ、あんまり良いウワサではないだろう……。大方『観察処分者』の事とか、『学園の問題児』といったところだろうか……。しかしそれだけに……、
「……そうですか。でも、わからないですね?高城先輩は確か主席ではなかったでしたっけ?小暮先輩も色々と有名な方ですし、どうしてそんな先輩方がわざわざ僕なんかに話しかけてくるんですか……?」
「……君は随分と自己評価が低いようですね……。私と小暮嬢は、君に興味を持って声を掛けたというのに……」
「……興味?」
これはまた意外な言葉だ……。この2人とは、『繰り返し』の中においても、何度か戦った事がある……。高城先輩も小暮先輩も高得点者で……、『腕輪』の取得者でもあり、特に高城先輩は召喚獣の扱いにも長けている……。正直な話、本気を出した高城先輩と戦って、まだ勝てる自信はない……。それ程の、相手だった。
「ええ、君については色々なウワサがあります。ですが……、この間の第二学年で行なわれたエキシビジョンを見て、特に興味が沸いた……というところでしょうか?」
この前のエキシビジョンというと……、佐藤さんと戦った時の事か……。でも、あの試合にどんな……、
「……君は召喚獣の扱いに非常に長けているのですね……。正直、操作云々に関しては私の右に出るものはいないと自負していましたが……」
「そんなことは……」
「あの最低クラスの、しかも『観察処分者』である貴方に、あってはならない敗北を刻んでしまう可能性がある、と思わされたものです」
「待って下さい高城君、その言い方では褒めているのか貶しているのかわかりませんわ」
……言動が綻び始めた高城先輩の物言いに、待ったを掛ける小暮先輩。……この人たちのやり取りも相変わらずだ。
「…………で、結局何しにきたんです?」
「ああ、失礼致しました。ようするに、一度君に直接会ってみたかったんですよ、吉井君」
「直接、会って……?」
そんな事をしなくても……、それも主席であると言われている人が……。
「……どうやら君は、想像以上のようですね……。今回の清涼祭での召喚大会に出られればいいのですが、生憎と所用がありまして……。君と戦う機会があれば、是非お付き合いを願いたいところです」
「高城君、そんな言い方をすると、デートに誘うような誤解を受けます」
「…………」
「お願いです高城君。吐きそうな表情をするのなら別の方向を向いて下さい」
全く、この人たちは……。だけど……、高城先輩とこういう話をすると……身震いしたくなるのは何故だろう……。特に、その口元を見ると、高城先輩だけでなく、僕も何故か吐き気を催してくる……!
「……まあ、いいです。また、何処か出会いましょう。吉井君」
「色々とご迷惑をお掛けしましたね、吉井君。どうかご気分を悪くされないよう……」
「は、はぁ……」
小暮先輩が艶っぽい声でそう言うと、高城先輩を連れて去っていく……。唐突に現れ、そして察そうと去っていく、まるで嵐のような2人であったが、同時に僕は思う……。この『繰り返し』を解消するには、恐らく避けては通れないであろう高城先輩たちを、一体どうやって倒すのか……。
(……まぁ、今そんな事を考えていても仕方がないか……)
今更ながら、僕は無意識に手を握り締めていた事に気付く……。ゆっくり手を開くと、しっとり汗で濡れていた事がわかった。なるべくは考えないようにしようとするも、一度頭に過ぎった事をなかったものとするのは難しいものがある。僕は、そのまま悶々としながら、自然とある場所に足が向いていくのだった……。
「明久君…………、この間は出来るだけ早く教えて貰いたかったよ……」
「ああ……、ゴメン、利光君」
2人に出会った戦慄からか、気が付くと僕はAクラスの教室の前まで歩いてきてしまっていた。折角来たんだしという事で、教室内に入ったのだが、僕を見つけて言われたのが、その言葉であった。
「それで……、姫路さんは……?」
「……ああ、彼女ならば……」
そして利光君に促された方向を見てみると……、
「ゴメンナサイゴメンナサイ……、モウ、リョウリニカガクヤクヒンハツカイマセン……」
何故か正座しながら、カタコトで繰り返す姫路さんがそこにいた。
「あれは……」
「高橋先生がね……、姫路さんに個人授業で料理のいろはを教えたらしいんだけど……、戻ってきたらあの様子だったんだ」
……あの高橋先生の個人授業か……、それはさぞかしキツかったのだろう……。でも……、あの様子を見ると、もう姫路さんは化学薬品を料理には使わないかもしれない……。
「……流石に濃硫酸を料理に混ぜたと聞いた時は、本気で耳を疑ったけどね」
「…………まあ、そうだろうね……」
実際に、何度も死にかけた……、というよりは何度かそれが原因で『繰り返し』た事のある
「あれ?明久君……?」
教室の奥の方からかけられた声に振り向くと、メイド服を身に纏った優子さんがいた。
「ああ、優子さん……。メイド服似合ってるね」
「こ……これは!も、もう!来るなら来るって言ってくれれば……!」
僕に見られたのがそんなに恥ずかしかったのだろうか……、赤くなりながらそんな事を言ってくる優子さんに、
「ああ、ゴメン……。なんとなく、足が向いただけだったから……」
「あれ~?優子、恥ずかしがってるの~?」
そんな彼女の様子を見ていた工藤さんが、そう言って優子さんをからかい混じりに絡んでくる。
「う……煩いわねっ!」
「で?吉井君、感想は?」
そういえば、Aクラスはメイド喫茶をするんだっけ……?工藤さんに言われ、改めて優子さんを見てみる。恥ずかしがっている優子さんのメイド服姿……。おまけに僕の感想が気になるのか、上目遣いになってこちらを見ている……。これは……、
「うん、最高だね」
「ち、ちょっ……!!」
僕の感想を聞き、ますます真っ赤になる優子さん。……あれ?何か変な事言ったかな……?
「おお~♪よかったね~、優子~♪」
「も……もう着替えてくるっ!!」
そう言って優子さんはまた教室の奥に戻って行ってしまった。
「あー、行っちゃった……」
「あれ?僕、不味いこと言っちゃったかな……?」
「ん?ああ、そんな事ないよ。流石は吉井君、てカンジだね♪」
うーん、だったら何で向こうに行っちゃったんだろう……。
「……ああ、吉井。来てたんだ……」
特徴のある聞きなれた声が掛けられる。やはり顔なじみである、霧島さんが優子さんと同じくメイド服姿で立っていた。
「霧島さん……、ゴメンね、急に来たりして……。迷惑だったかな?」
「……ううん、そんな事ない。皆、喜ぶ」
ああ、良かった……。一応、歓迎されているみたいだ……。そう思い、ホッと一息つく。
「あ、そういえば……、霧島さん、雄二と何か約束した?」
「……うん。今度新しく出来る『如月ハイランド』に行こうって……」
先日、学園長が話していた例の……。さて、どうしたものか……。正直に言った方がいいのかな……?
「……雄二、恥ずかしがってあまりデートも出来ないから……」
「…………そうなんだ」
まぁ、あの雄二だしなぁ……。今回は、比較的素直になっていると思ってたけど、異性が絡むと滅法弱いから……。だけど、ちょっと可哀想だな……、霧島さんが……。
「……だから、決めたの。今回の召喚大会の優勝商品が、『如月ハイランドプレオープンプレミアムペアチケット』だから……。それを手に入れるって……!」
「で、アタシと代表……、それに愛子で出ることになったのよ」
「あ……、優子さん……」
そこにメイド服から着替え終わった優子さんが戻ってくる。
「似合っていたのに、な……」
「あれ~?残念そうだね~、吉井君?」
う……。そんなに顔に出ていたかな……?そして工藤さんが続ける。
「大丈夫だよ~♪当日、ウチに来てくれればいくらでも見れるからさ~♪ま、召喚大会に出てる時は無理かもしれないけどね」
あ、そうか……。でも……、
「うーん、どうだろう……。実は僕、召喚大会のサポートだけじゃなくて、Dクラスの方も頼まれているからなぁ……」
「Dクラス?」
そこで僕は、経緯を説明する為に、今までの事を掻い摘んで話すと、
「……というわけで、大会以外にそちらも手伝わなくちゃいけなくてね……」
「成程ね~。じゃあ、ある意味、私たちのライバルって事だよね~?」
そう言う工藤さん。ライバルか……、それはどうだろう?
「といっても僕は臨時だし、売り上げ云々はあまり関係ないからなぁ……。まぁ、どれくらいそっちに入るかは勇人次第なんだけどね……」
「そういえば……、明久君はどうして高橋君を手伝う事になったの?さっきの話だと、元々はCクラスに用があったようだけど」
「それは……、って忘れるところだった。Aクラスにも話さないといけなかったのに……」
「……?何のこと……?」
「うん……、これは学園長に聞いたんだけど……、どうやら『黒金の腕輪』という物を持っている生徒がいるみたいなんだ……」
「黒金の腕輪?」
……そうか、工藤さんには最初から話さないといけないのか……。今ここにいるメンバーで、唯一僕の事情を知らない工藤さんに、召喚者に身に付ける事が出来る腕輪という物があると説明していった。
「うちのクラスに……ねぇ」
明久君の話を聞き、考え込む私。
「……確かに今のところ、そんな腕輪を手に入れたっていう人は聞いていないね……」
利光君も腕を組みながら、そう答えていた。……確かにこれは、放置できないかも。
「んー、でも大丈夫じゃないかな?ただ単に、使う気がなくて取っといているだけかもしれないし……」
「愛子、これはそんな簡単な話じゃないわ。召喚獣を管理している学園長先生も把握していない腕輪……。という事はどんなものかわからないって事でしょ?」
そう、これはそんな単純な話じゃない……。明久君の事情も踏まえても、看過できない話……。
「……吉井の話だと、それは先生が居なくても召喚フィールドを張れる……。つまり、自由に召喚獣を呼び出せるという事……。どんなものか学園長も把握していないという事だから、もしかしたら吉井のように、物理干渉がある召喚獣かもしれないという事」
「あ……」
代表の言葉で、ようやく事態が飲み込めた様子の愛子。
「普通、そんな物を手に入れたら、先生、もしくは代表、周りの誰かには報告するだろう……。使う気があってもなくても、ね……。それが無い……という事は、その時点でもう普通じゃない……」
そうなのよね……。それに、召喚獣は、人よりもはるかに強い力を持つ……。明久君が観察処分者の仕事として、校庭にあるサッカーゴールを動かしているのを見た事があるけれど……、そんな召喚獣の力が私たちに向いたらって思うと怖くなってくる。
「……わかった。Aクラスはそれとなく見ておくよ、明久君」
「……私も見ておく」
代表と利光君がそう相槌をうつ。
「うん……、アタシも注意しておくわ……。それで、もし見つけたら明久君に言えばいいの?」
「……いや、高橋先生か西村先生に報告してほしい……。高橋先生も、この件は知っている筈だから」
成程ね……。この件に関しては、やはり『明久君の事情』の延長上にあるのだろう……。ここにいる人は、愛子以外は皆、例の話を知っているのだから……。
「じゃ、僕は行くよ……。メイド喫茶、頑張ってね!」
「あ……ちょっと……」
明久君が出て行こうとして……、私は思わず引き止めてしまう。
「ん……?何、優子さん?」
「う、うん……その……」
ど……どうしよう……、早く、言わないと……!私が躊躇している間に、
「優子はね~……吉井君と一緒にまわりたいんだよ♪」
「あ……愛子っ!!」
私の代わりに言ってしまった愛子に慌ててしまう。もう……、自分で言いたかったのに……!
「僕と?……別にいいよ、そんな事でいいなら」
「ホ……ホント!?」
「うん……、まぁ、大会とDクラスの手伝いの合間って事になると思うけど、それでも大丈夫?」
「え、ええ!」
「よかった……。それなら、時間が空いたらAクラスに行くよ……、じゃあまた!」
そう言って出て行く明久君。それを見届けていると、
「よかったね~、優子♪……瑞希ちゃんが放心している事も含めて……、ね♪」
「~~愛子ッ!!」
恥ずかしさから、逃げる愛子を追いかける私。………………でも、確かに姫路さんには悪いけど……、それは私にとっては、よかったのかもしれない……。チラリと姫路さんを見ると、やはり彼女は高橋先生の指導のせいか、未だ放心状態だった。……彼女から聞いた話じゃ、明久君を小学生の時からずっと見てきて……。中学生になって、一度疎遠になってしまったが、また高校生になり、再び一緒になって……。そしてそれは彼女の方だけでなく、明久君自身も姫路さんに関しては思い入れもある様子だ……。
(…………負けないわよ、姫路さん……)
何に、とはあえて言わないけれど……。今回ばかりは私を応援してくれる愛子に感謝しよう、そう思う私であった……。
とある時の明久の体験(5) 『~
「……こんな筈じゃ、なかったのにな……」
何時ぞやの時と同じ、既に辺りも暗くなってしまった文月学園の屋上にて、僕は静かにその時を待っていた……。既に限界が近い事を表す腕輪の輝きを見て、もう間もなくその時が訪れそうな気がする……。
(……こんな事、わかりたくないけど……ね)
今回は……、正直、『捨てる』予定だった。何回も『繰り返し』を体験する中、僕は自分の力不足を痛感し、この悪夢を乗り越えるには一定の力が必要な事がわかったからだ。よって、最近はひたすら勉強と、召喚獣の知識を知る事を中心に行動してきていた。
「だから……、僕は雄二たちとも距離をとっていたというのに……」
毎回毎回『別れ』の時に辛い思いをするのは耐えられない……。特に、僕の心が……。だから今回も、誰とも仲良くならず、知識を身に付け、そして…………人知れず消えていく……。それが、僕が決めた事だったのに……。
「………………出来れば、今回は間に合わないで……」
勇人……、真琴さん……、高橋先生……。特にお世話になった3人には、それぞれにメールにて詳細を記載し、謝罪の意を残しておいた。また、西村先生や黒崎君たちにも、お世話になりましたと一言メールを送信している。もう、『この世界』では使う事もないであろう携帯の電源は既に切っており、このまま『繰り返す』覚悟は出来ていた。
一応、目的は達していた。今回はいくら勉強してもなかなか理解できない化学や物理は大幅に上げる事が出来た。これはひとえに彼らのお陰だ。……数学は、まぁ相変わらずであるけれど、少なくとも今までよりは成長できたと思われる。そう、そちらの目的は順調だったのだ。ただ…………、勇人たちと仲が良くなりすぎたのが問題だっただけで……。
1人思い出に耽っていると、何やら入り口付近が騒がしくなる。……やっぱり、見つけられちゃうのは、運命なのかな……。僕は溜息をついて、来るであろう来訪者に備える事にした。
「明久ッ!!」
その声と共に3人の人影が見える……。僕の予想したとおり、勇人と真琴さん、それに高橋先生だった。高橋先生らしからぬ慌てた様子で走り回ったのか肩で大きく息をついており、真琴さんにしてみても普段の冷静な様子とは打って変わって、涙目になりながら、少し取り乱しているように感じられた。そして勇人は……。
「…………やぁ、間に合ってしまったんだね……」
僕の声に、そして屋上に佇んでいた僕の様子を見て、3人が息を呑むのがわかる。恐らくメールで流した内容が、真実であると感じられたんだろう。
「ッ明久……!!」
そう言って勇人がこちらにやって来て……、
バコッ!!
「……っ!」
勇人に思いっきり殴られて、その場に尻餅をつく。僕は、あえてその拳を避けなかった。
「テメェ!勝手な事を……ッ!!」
「……勇人ッ!」
「…………暴力は、君のポリシーに反するんじゃなかったっけ、勇人?」
僕は殴られた頬を押さえながら、彼にそう聞いてみる。真琴さんに抑えられながら、勇人は、
「全然関係ない他人に、謂れの無い暴力を振るわれるのは……な!これは……、違うだろ、明久……ッ!!」
「…………そう、だね……」
「……親友が……ッ、明らかに間違ってる事をしてたら……、如何してでも違うって言ってやるのが……、優しさってもんだろ……っ!!」
肩で大きく息を吐きながら、勇人はそう僕に訴えかけていた。
「…………ゴメン、僕が……、関わったばっかりに……」
「違うだろ……明久……。謝る事がちげえよ……、俺が……俺達が怒ってるのは……!!」
勇人は僕の胸倉を掴むと、
「何で……ッ、何でこうなる前に言わなかった!?そんなに、そんなに俺達が信用できなかったのかっ!?」
「違うッ!!」
その言葉を聞き、僕は正面から勇人を見据え、
「僕は、勇人たちを信じている!!信じているからこそ……、言えなかったんだ……。今回、僕が繰り返すことは、『確定』していたから……」
そう、雄二達と関わらない時点で……、僕の信念に沿っていない時点で、『繰り返し』が発生する条件を満たしているからだ。『繰り返す』事がわかっているのに、どうしてそれを仲良くなってしまった勇人たちに言えようか。
「だから……、もし僕が悪かった事があるならば……、それは君達と……、勇人達と交流を深めすぎてしまった事さ……」
「……私たちと仲良くなった事が……、悪かったなんて悲しいことを……言わないで下さい、明久君……」
搾り出すように、涙ながらに真琴さんがそう呟く。
「……真琴の言う通り、まるで出会った事自体が悪かったなんて、言うんじゃねぇよ、明久……」
そう言って、僕から手を離す勇人。力なく項垂れたその様子は、普段の彼からは想像も出来ないくらい弱弱しいものだった。
「…………ゴメン」
「今度は……、何に対しての『ゴメン』、だ……?」
「最後の最後に……、黙って繰り返そうとして……、本当にゴメン……」
「…………本当に、俺達に黙っていこうとしやがって……」
そうだね……、仲が良かったら良かった程に、別れが辛くなるけれど……、それは、僕だけじゃない……。勇人たちだって同じ事だ……。僕はそれを、忘れてしまっていた……。
「……吉井君、それでは、本当に……?」
「……ええ。高橋先生、西村先生には……、上手く伝えておいて下さい……。明日からの僕はどうなるのか……、完全にこの世界から消えて『吉井明久』が居なかった事になってしまうのか、それとも僕の人格だけが変わってしまう事になるかはわかりませんが……」
……もう、僕に確認する事はできないので。そのように、高橋先生に謝っておく。……そろそろ時間だろう。
「ああ……、洋子姉さん、何の科目でもいいんで、召喚許可を」
「……?勇人……?」
勇人の言葉に、高橋先生が承認し、召喚フィールドが発生する。こんな時に、いったい何を……。
「明久。早く召喚獣を出せ」
「え?で、でも……、どうして」
「いいから!もう、時間がないんだろう!?」
召喚獣を出すように促す勇人に従い、僕は試獣召喚を行なう。
「確かお前の召喚獣は観察処分者仕様で、物理干渉があるんだったな……」
そう言って勇人が僕の召喚獣の前に座り込み……、見覚えのあるモノを取り出す。
「そ、それは……、勇人!?」
取り出したソレは、以前に見せて貰った事のある、勇人の言う未来合金、『無抵抗アルミニウム』合金!?そんな貴重な物をいったい……。
どうするつもりかと聞こうとする前に、彼はソレを僕の召喚獣の持つ木刀の先端に、その合金を押し込み始めた。
「ちょ、ちょっと何してるのさ!?そんな貴重な物を……!勇人が偶然に生み出した、この世にただひとつの合金なんだろ!?」
「……お前によると、繰り返しているのは意識と経験に加え、召喚獣も一緒に繰り返しているんだろう?」
「そ……それはそうだけど……!質問に答えてないよ!」
「約束したよな?この『無抵抗アルミニウム』を完成させるまで、俺を手伝うって……」
確かに、約束した……。それを果たせそうには、ないけれど……。
「……お前は繰り返した先でも、また俺達に関わる時は手伝ってくれ……。それを持っていけるのかどうかは、わからないが……」
「で、でも……!これは、偶然に作り出せたって……!それなのに僕に渡したら……!」
「また、作り出せばいい」
あっさりと、そう答える勇人。
「また、作り出せばいいだけだ……。こっちはこっちで……、上手くやるさ。まぁ、お前は居なくなるかもしれないが、真琴や洋子姉さんと一緒に完成させてみせる……。だからお前は……、その『繰り返し』とやらを乗り越えて、またそちらの俺を手伝ってくれ……」
お前が約束を覚えてくれるのなら……、そう付け加えて、勇人と真琴さんは、ジッとこちらを見つめてくる。
「…………わかった。今度、僕がこの『繰り返し』の現象を乗り越えると決めた時……、今度は君達に協力を仰ぐ……。そしてそこで……、約束を果たしてみせる!…………何時の事になるかはわからないけれどね」
まだまだ僕は勉強不足だから、と込み上げてくる涙を我慢し肩を竦める僕に、
「…………もし繰り返した先でも、言ってくれれば私は何時でも勉強を見てあげると思います。君には見所もありますし……、君にも私がどういう人間かはわかったでしょう?このような形で指導が中断してしまうのは不本意ではありますが……」
「ははは……、そうですね、勉強がしたくてしたくてたまらない時は……、またお願いするかもしれません……」
高橋先生……。今回と今までとで、かなり印象の変わった先生だけど……、僕は今回の事を忘れない……。
「……お元気で……、というのもおかしいのでしょうけれど……」
少し俯いたままそう言ってくる真琴さん……。
「……真琴さんにも、本当にお世話になったね……。君が居なかったら、僕は今回のような体験は出来なかった……。本当に、楽しかったよ……」
「……それは、私もです……」
彼女の事をこんなに泣かせてしまうなんて……、僕は少し罪悪感に苛まされながらも、
「僕が言うのもなんだけど……、勇人をよろしくね……。君が笑顔で勇人の傍に居てくれたら……、彼は絶対に大丈夫だから……」
「……はい」
「…………おいおい明久。本人のいる前で普通、そんな事を言うか?」
真琴さんには笑顔でいて欲しくて、そうお願いする僕に、苦笑しながら勇人が加わってくる。
「……勇人。君に会えて、本当によかった」
「……まぁ、俺も出会った頃にはまさかこんな関係になるとは思わなかったぜ?お前とは色々あったが……」
そして、あの勇人がその目に涙を浮かべながら、手を差し出してくる。それを見て、我慢していた涙が溢れ出しながらも僕はその手を握り、
「……俺も楽しかった。また『繰り返した』先で困った事があったら、俺を頼れ……。今のお前にだったら、俺も協力する筈だ」
「……うん。その時は、また君に……、君たちを頼るよ……。この『繰り返し』を、終わらせる為に……!」
僕たちが握手を交わし、そう約束すると、身に付けた腕輪から激しい光が溢れてくる。……もう、時間のようだ……。
「……有難う、勇人、真琴さん、高橋先生……。Cクラスの皆にも、伝えておいて……」
僕は、ゆっくりと手を離し、距離をとる……。
「ええ……。彼らと、先生方には、私からも上手く伝えておきます……」
「……貴方の事は……、忘れませんッ!」
「今まで、ありがとよ……。約束、忘れるなよ、明久!」
そして……、僕を激しい光が包み……!
「うん……、忘れないよ……!皆、どうか元気で……っ!!」
次の瞬間、僕は『繰り返し』た……。彼らとの思い出と、そして、彼から預かったある『モノ』と一緒に……――――――
「……どうしましたか?かかって来て下さい……、吉井君……」
「何だ?ビビッているのか、明久?」
目の前に佇む2人に対し、僕は召喚獣に木刀を構えさせる……。
「……どうする、明久?戦力的には圧倒的に不利だが……」
「そうだね……、相手はあの2人だから……」
【物理】
Cクラス-高橋 勇人(235点)
Cクラス-神崎 真琴(505点)
VS
Fクラス-吉井 明久(109点)
Fクラス-坂本 雄二(148点)
改めて点数差を見てみても、それはわかる。だけど、戦うしかない……!
「とりあえず、彼女は『腕輪』を使う事が出来る……。どんな能力かはわからないけれど……」
僕は雄二にそう言うと、間合いを詰めていく。
「だが……、大丈夫なのか?」
「『腕輪』の能力を使わせて、点数を消費させないと、どのみち僕の攻撃は届かないから……。神崎さんには僕が行く……、だから、フォローしてくるであろう勇人はそっちで抑えて!」
「やれやれ……、ま、仕方ねえか……。こっちは任せておけっ!」
僕達の会話を聞いていた勇人はそれを聞き、
「そうだ……。ちゃんと本気で来てくれないと、意味がねぇからな……」
「……本気で行きます。覚悟はいいですね……?」
「うん……、行くよ!!」
ふと、僕はあの時の事を思い出す……。以前、2人と別れた、あの時の事を……。
『……うん。その時は、また君に……、君たちを頼るよ……。この『繰り返し』を、終わらせる為に……!』
(こうして、僕はまた、君達と向かい合っている……。そして君達に助けてもらっているよ……)
4回戦の開始前にしてきた勇人の提案……。あれも恐らく僕の事を考えての事だろう……。神崎さんにも僕の事情を伝え、それで今の状況となっている筈だ……。だったら、逃げる訳にはいかない……!
そして、僕は召喚獣の木刀を神崎さんの召喚獣に向ける……。僕の召喚獣の先端には、以前に勇人から貰った未来合金が埋め込まれている。その合金がキラりと光ったのが僕にはわかった。
(あの時、君から貰った未来合金『無抵抗アルミニウム』は、今も僕の召喚獣と共にあるよ……。今回は、今回こそは、この『繰り返し』を終わらせてみせるから……!)
僕は心の中でそうひとりごちると覚悟を決め、神崎さんの召喚獣に向けて走り出させた!
とある時の明久の体験(5) 『~