百合です。魔王ちゃんが勇者ちゃんに好きを伝えます。

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魔王ちゃんと勇者ちゃん

「勇者よ、良く来たな」声の主は勇者を心から歓迎しているようだった。

「魔王...!ここでお前を倒す!」そう言って勇者は剣を抜く、元はただの村娘であった彼女は今は魔王を倒す為にあらゆる困難を乗り越えてきた歴戦の戦士であった。

「あぁ...本当に素敵だ...勇者よ...」魔王は玉座から立ち上がり、暗がりから姿を表す。

「どうだ?私と一緒に生きないか?」美しい銀髪、そしてルビーのような赤い瞳を持った端麗な少女がそこにいた。

「勇者ちゃんをたぶらかさないで!」魔法使いが炎の魔法を放った。しかし、それは魔王に辿り着く前に消滅した。

「私は勇者と話をしている、貴様らのような邪魔者に用はない」魔王は表情を一変させた。魔王が手を振るうと勇者を除く三人のメンバーは吹き飛ばされた。

「みんな!」

「心配するな、勇者。気絶しているだけだ」先程までの敵意の剥き出した声とは違い、優しく語りかけるような声で魔王は話し始める。

「私は知っている、そなたが仲間を大切に思っていることを、私を倒せば世界が平和になると信じていることを」魔王は武器も持たずにゆっくりと勇者の元に歩み寄る。

「今更話し合う余地はない!」勇者は魔王に斬りかかる。

「なぜ...!?」魔王は動かなかった。剣は魔王の体を切り裂き、鮮血が溢れる。

「勇者よ、私は不死身なのだ。最初から勝ち目など無いのさ」そしてその通りだと言わんばかりに傷は塞がっていく。

「勇者よ、そなたは国王に騙されている...お前を死んだ英雄にするために国王はそなたに魔王討伐を依頼したのだ」魔王は勇者との距離をさらに詰めて勇者の手をそっと握る。

「触るなっ!」勇者は手を払いのける。

「やはり、そなたは私を拒絶してくれる...そういうところが好きなのだ。正義や善に身を置き、愛する人々を守る為にどんな困難も乗り越える不屈の精神...そう、私を絶対に好きなってくれないそこが、たまらなく愛おしいのだ、勇者よ、だからこそ欲しい、主が欲しいのだ」魔王は光悦とした表情で勇者を語り、矛盾の言葉を紡ぐ。

「意味のわからないことを...!矛盾だ!」

「人などそのようなものよ、好いていながら相手を遠ざけ、愛しているからこそ愛してほしくない、それは何もおかしいことではないぞ」

「世迷言を...!どんな言葉を並べようが、お前は大量の魔物を引き連れ、人の国を滅ぼそうとする悪だ!」勇者ははっきりとそう言った。

「ふふっ、勇者、一ついい事を教えておいてやろう。魔物なんてものはもう既に居ないのだよ。この世には」

「何を...!」馬鹿げた話だった。勇者は間違いなくここに来るまでの間、幾つもの魔物を倒して来た。そして、幾つもの傷を受け、その度に立ち、ここまで来た。

「今までそなたが倒して来たのは全て私の複製魔法によって生み出された存在だ、この通り」魔王が手を振るうと先程倒した強敵が姿を表した。

「なっ...!」勇者は身構える。

「案ずるな、消しておこう」魔王が指を鳴らし、魔物を消した。

「分かるか?勇者、全てそなたの為だ。そなたに本物の勇者になって欲しかった、あらゆる困難を乗り越えて私の元に来て欲しかった。そして、あの国の連中がそなたを認めて迎え入れて欲しかった」

「じゃあ...私は...ただ誰かに用意された舞台をただ踊っていただけ...?」勇者はそれまで見せなかった純粋な怒りの目を見せた。

「...そうだ」魔王は少し間を開けて、肯定した。

その瞬間勇者は魔王を玉座に叩きつけるように座らせて喉に剣を突き立てる。

「ふざけるな...!!私は私だ...!私は自分の人生を自分で選択して切り開いて行く!私は!お前が好き勝手に出来るおもちゃなんかじゃない!!お前の恋とか愛なんて物はただの支配だ!本当の愛とは比べることすら出来ない汚い感情だ!!!そんなものが愛なはずがない!!お前は関係ない人を巻き込んで自分の思い通りに事を運びたいだけの子供だ!!殺す価値すらない!!」これまでの人生で勇者はこれほどまでに無い声量で憤怒した。悔しさ、怒り、憎しみ、悲しみ。それら全てを叩きつけるように叫ぶ。

「ち、違う私は」魔王の反論を勇者は待たない。

「どんな言葉を並べても同じだ!!お前は私の人生を奪った!!国が裏切る?ならちゃんと正々堂々と向き合ったさ!お前はその機会すら奪ったんだ!」

 

 

勇者の吐く荒い息だけが静かに響く。さっきまでの怒号は嘘のように静かな時間が過ぎる。

魔王はもう何も言えなかった。表情を変えることさえできなかった。何もしたらいいか、全く分からなかった。

「もういい...眠れ」勇者はポケットから小さな魔石を出す。

「石化のマジックアイテムか...」魔王は呟く。

「勇者...」魔王は言いかけた口を閉じた。もう終わりだ。無駄だ。全て。そう心の中で何度も同じ言葉がぐるぐる回る。

「...」勇者は何も言わずに歩いていく。魔王は体の感覚が無くなって行くのを感じながら無心でただ去って行く勇者を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから何年も過ぎた。魔王は凍りつくような意識の中で勇者のことを想い続けていた。何も見えなくても、何も感じなくても魂だけは生きていた。

 

そして、ある時。石化が解けた。

「っ...」すぐには声は出なかった。数年ぶりの視界には廃墟になり、ボロボロの魔王城が映った。内部にも草木が生い茂り、長い時が流れたことを示していた。

「まさか...」魔王は気付く、石化のマジックアイテムは本人の意思でしか解除できない。だが、その方法は一つだけではない。

魔王は一気に飛び出した。長年積もっていた魔力を一気に放つ。飛行魔法で飛び、全力で探知魔法を使う。

「居た...!!」微弱だが、魔王は勇者の魔力を感じ取り、速度を上げて向かう。まだ、まだ間に合う。マジックアイテムのもう一つの解除条件、所有者の死。だが、魔王は諦めていなかった。魔力反応はあるのだ。生きている。

「...あ」辿り着いた場所は王国近くの平原、もとい焼け野原だった。いくつものゴーレムや魔物の死体。そして血を流して倒れている勇者。

「ゆ、勇者...?」魔王は指でそっと勇者の頬に触れる。まだ微かに暖かい、まだ生きている。

「い...いやだ...死ぬなぁ...死なないで...」魔王はただ泣きじゃくるばかりだった。魔王は回復魔法を使えないのだ。覚えている魔法では誰かを傷つけることしか出来ない。魔王はただ勇者の傷口を手で圧迫するしか出来ない。

「勇者ぁ...」いくら強く力を入れても流れる血は止まらない。

「...どうして」魔王の頬にひんやりとした手が当たる。

「ゆうしゃ...?」魔王の泣き顔が晴れる。

「なんで私を...魔王でしょ...」少し大人な低い声で勇者はそう言った。魔王はそれに気づき、勇者の顔を見る。前よりも髪が伸び、より美人になった。しかし、かつての勇者の可憐さも感じられる。魔王は変わった勇者の顔を再確認して再び涙を流し始める。

「だ...っぇ...ずっと!会いたくて...!だからっ...!好きで...!ずっと...!」勇者の手をぎゅっと握り締めながら幼い魔王は吐露する。

「嫌われても...!いいからぁっ...!死なないでよぉ...!死んじゃやだぁ...!」

「ごめん...ごめんね...」勇者は目の前で泣く幼い少女を撫でることしか出来なかった。

「ゆ、ゆうしゃ...私と契約しろ...!」魔王は涙を拭き、無理をしながら声を張り上げた。

「契約...?」

「そうだ!我と婚約して生涯を共にすると誓え!そうすればお主も不死身になれる!」それは魔王の婚約相手には自分の特殊能力を移せるというものだった。今代の魔王の特殊能力は不老不死、この状況を打開する手段として魔王が思いつく唯一のものだった。

「不死身...かぁ...いいや私は」勇者は諦めるようにそう遠慮した。

「な、なんで...」

「疲れちゃったんだよ、私は。勇者もこの人生も。全部。だからもう、終わりにしたいんだ、私」それは、その勇者の表情は魔王が一番嫌いな物だった。

「うるさい!!!!なんでお前もそんな顔するんだ!!!父上も!お前も!そんな簡単に終わりにするな!!」それは正論でもなんでもなかった。魔王にとって大事なのは。ただ、ただ。

「そうやって一人で納得して!!私には何も言わないでみんなそうやって私を一人にして!!」

「独りにしないで...」魔王は勇者に縋り付くようにそう言った。

「...確か、私あの時君にいっぱい酷い事言ったよね、それでも私も助けたいって...君はそう思うの?」

「当たり前だ!お前が私を憎んでも!傷つけても!私はお前が好きだ!一緒にいてほしい!生きて欲しい!例え普通じゃなくても、歪だったとしても!」

「そっか...じゃあいいよ。結婚してあげる、その調子だと私がいないとダメみたいだしね」勇者は微笑んだ。

「あぁ...!では私の魔力を分けるぞ...」魔王は集中し、魔力を勇者に注ぎ続ける。勇者に魔力が行き渡り、傷が癒始める。しばらく供給が続き、勇者の傷が全て塞がる。

「...ごめんね、本当に。私、勇者失格だね」勇者が状態を起こすと、長い髪が夕焼けに美しく彩られた。

「勇者ぁ...」魔王は勇者に力強く抱きつく。

「ごめんね、酷いこと言って...石にして5年も閉じ込めて...」

「いい...気にしてない...」

「これからは一緒にいるから」

「勇者、聞きたいことがある...」魔王は抱きついたまま質問をする。

「なに?」

「その...私のこと...嫌い...か...?」勇者の服を掴む小さな手にぎゅっと力が入る。

「嫌いじゃないよ、好きだし、今は愛してる」

「そっか...えへへ...」魔王は恥ずかしそうに笑みを浮かべた。

 

抱き合う二人を夕陽が優しく照らしていた。

 


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