藤丸立香の聖杯鯖になるTSオリ主   作:生き恥マラミュート

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英雄回顧録『やはり自分が花を贈るのは間違っている』 前編

 

 

 

 

静謐の映画館。

 

ここに観客は居ない。

 

なぜなら今から映し出されるのは彼女の物語ではないから。

 

付き従う六匹の魔獣も、彼女自身も、そして人類最後のマスターも足を運ぶことはない。

 

ただ、そんな空間で男は一人席に着く。

 

【英雄アテーノの記録】というサブストーリー

……にすらなり得なかった【ある男の記憶(黒歴史)】。

 

人理修復番外、英雄回顧録。その更に番外のお話。

 

語り部が深呼吸をすると会場にブザーが響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

英雄回顧録『やはり自分が花を贈るのは間違っている』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ご、ご苦労様でした。では暫く拠点で留守番を、用が終わり次第呼びますので。……くれぐれも彼女を起こさないようにお願いします」

 

 自分の言葉に頷いた馬は小さく嘶きを返すと、再び空へと走り出した。群青に晴れ渡った空に半透明の馬体は融けるように消える。

手を振って見送り目的地である街へと歩を進める。

 

 街には活気があり、外にまで民達の笑い声が聞こえてくる。

そんな営みに思わず頬が緩むのを感じる。

 

 ……ほんの少し前まで荒廃していた場所とは思えない。

理由は不明だが、教団に目を付けられ魔獣共の蔓延る巣窟と化していた。

人々は正気を失い魔獣達が闊歩していたこの地を、彼女が修正したことにより安寧は取り戻されたのだ。

 

 街へ入る前に、顔を覆う布を念入りに巻き直し、ゆっくりと深呼吸。

営みは好きだ。ただ、人混みは何故か異常に緊張して上手く喋れなくなるし、とても疲れる。

身体の不具合だろうか?

 

 意を決して足を踏み入れる。

 

 直様、目に飛び込んで来たのは笑う人々の顔。

 老人に年若い夫婦、走る子供達。

 アテーノが救った多くの人々が居た。

 

 

 

 

然し、どれだけの人が居ようと

命を救ったアテーノに感謝する者は存在しない

 

 

 

 

 

 暮らす人々が薄情なのではない。

 彼等に罪は無く、唯()()()()()()()()なのだ。

 

 

 

 

 人混みと喧騒を避けながら街の中を歩いていく。

 

 

「いやぁ平和だ!!これも全て神々の祝福あってこそだろう!」

「おぉ、またこの日を迎えられました!皆、天上の神々に感謝を!」

 

 

 耳に飛び込む声に強く唇を噛む。

 

 ……もし何も知らない者が、街が退廃していたあの状況を経て平和を謳っている彼等を見れば、愚劣と嘲笑うだろう。

 

 仕方がない。

 

 

 街が滅んだ記憶自体が彼等に存在しないのだから。

 

 

 その不条理は彼女の倒した“敵”に起因している。

 

 今から三年前、聖杯により邪神と獣。更にそれらを崇める信奉者が生まれた。

不可視の獣と信奉者による所業は特性上、記憶に残らず歴史にも記されることが無い。

視る事も、聞く事も叶わない幻のような肉体。

例え我が子を自らの手で殺めようと、親しき友が化け物に成り果てようと人は忘却してしまう。

 

 故に獣達は逃れようのない『災厄』だ。

 

 そして災厄を糾す存在である、アテーノという役割もまた同じ機構を備えている。

 

 

 

つまり、

 

 アテーノという存在は人々の記憶に残らない

 

 

 

 命懸けで救い、どれほど人々の目に鮮明に焼き付こうとも一時的に過ぎず、次の朝を迎えれば名と顔は疎か存在そのものが忘れられてしまう。

まるで一夜の夢であったかのように。

 

(……何が神々の祝福だ。馬鹿馬鹿しい)

 

 この平穏は彼等が讃える神によって齎されたのではなく、人であるアテーノが掴み取った結果だというのに。

 

 

 

 

……

 

………

 

 

「失礼、店主。この果実を六つ」

「はい丁度ね!まいど!!」

 

 露店で目的の夕食を購入する。

 

 新鮮な果実を持てるだけ。

というのも、自分が夕食を用意しなければ彼女は肉ばかり食べる。そりゃもう食卓肉だらけ。結果、食生活が偏り栄養バランスが大変なことになってしまうから。

……いや、自分のせいかもしれない。元々、アテーノを継ぐ以前は肉料理以外も嗜んでいたらしい。もしや自分達のせいで両腕が義手になってしまったために細かい作業が難しくなってしまったのでは?そうかもしれない……、そうにちがいない……。ということは己の責任を棚上げにして心の中で責めていたことになる。おお、なんということだイスト。何が神の生まれ変わり。何処まで傲慢に、悪辣になれば気が済むというのだ蛆虫に等しい畜生よ。もはや蛆虫であれ生命体に縋り付こうとしている時点でそれ以下か。なら自分は排泄物。そう、どうしようもない排泄物だ。それが自分、イスト・エクスマキナ……!!

 

「おおい!背の高ぇ兄ちゃん!考え事もいいけどよ。混んでるんだからとりあえず受け取って退けてくんな!!」

 

「す、すいません!……然し本当に何故ここまで人が」

 

「おぉヘラクレスよ!!兄ちゃん一体どっから来たんだ!?今日はめでたい祝祭の日なんだよ!アフロディーテ様へ一年の感謝を込めながら親しい人への愛を形にして贈る。そう、まさに愛の日だ!!」

 

 何故そこでヘラクレスの名が出てくるのかは分からないがおそらくはそういう感嘆詞だろう。

しかし愛だって?愛と女神を讃える?

彼等はトロイア戦争を忘れてしまったのだろうか。

女神達が愛だ何だと、テンション上がりまくってしまった末路がアレだろう。

 

 神と愛なんて最も結び付けてはならない。

 

………まぁ人が語る愛と神々の愛を同列に語っては人々に失礼か。

 

「それで、どうだいこの花も一緒に!いるんだろ兄ちゃんにも愛する人ってやつが!!」

 

 有無を言わさずずいっと一輪の花が差し出される。

 

 ふむ。

 

 愛する人。

 

 愛する人………。

 

「いいいいいいいるわけないじゃないですかか」

「居るんだな。成程しかも反応を見る限り親愛というよりは恋愛だな」

「れれれれれれれんッ!!?」

 

「おもしれぇ客だなぁ。まぁまぁ想像してみろよ!恋するあの子がこの花を持ってお前に優しく微笑むんだ『えっ、私に……?……うん、私も君が好きだよ……♡』そのまま情熱のままに抱き合う二人!やがて五月蝿い鼓動が重なった時、唇と唇がゆっくりと近づいてそのまま……。ンチュ!ンチュだ!!」

「シンプルに気持ち悪いです」

 

 虚空を抱きしめながら口を窄める店主を尻目に速やかに店から立ち去る。悍ましいものを見た気がする。

 

 

……

 

………

 

 医学書と果実の入った袋を腕に抱え、街の外を目指す自分の脳内には先程の一輪花が浮かんでいる。

 

 美しく艶やかな紫の花。

そういえば以前、彼女が名前を教えてくれた。

 

 アイリス。

 

 うん。きっと良く似合うだろう。

ほら、目を閉じればその光景が鮮明に──。

 

 

 

 

 

『えっ、私に?うん……ブフォ!いやいや、いつも揶揄ってるのに本当にされるとは思ってなかっ……たッ……ダハハ!やっぱ駄目だめちゃくちゃ面白いじゃんか!ワハハハハハ!!』

 

 

 

 

 

 ……茶化される、絶対に。

謎の熱が溜まっていた身体が一気に冷却されていく。

 

 そもそも自分は彼女に花を贈っていいのだろうか。

彼女から普通の少女としての人生を取り上げておいて、今更愛の日に花だなんてタチの悪い皮肉じゃないのか?

 

 自惚れるなよイスト、お前にその資格は無いだろ。

 

「でも……、可愛いだろうなぁ」

 

 直接口に出して伝えれば彼女はヘラヘラと笑い適当に流すだろうが、冗談でも何でもなく本当にアテーノは魅力的な人間だと思う。

人集りを見たとて個人の造形に全くの差異を感じない自分でも、彼女は美しいのだと分かる程に。

 

 悶々としながら歩いているといつの間にか街を出ていることに気づく。

 人目が無いことを確認し迎えの馬を喚ぶ。

数秒もすれば嘶きが響き、空に現れた天馬が自分の元へと風のように駆け付ける。

荷物を落とさないよう、袋を赤布でキツく縛り上げ馬体に跨る。しっかりと全身でしがみつき準備完了、馬は再び空を目指し勢いよく駆け上がる。

 

 高く、高く、高く。

勢いよく吹き付ける突風に耐え浮遊感に包まれる。

 

「はぁ、はぁ……!……き、君。こう、もう少しだけ優しく走れないんですか?魔獣に殺されて退去ならまだしも、落馬とかは勘弁したいというか」

「ブルル……?」

 

 

 下を見れば視界全体に広がる青。

 

 神々の息吹が残る広大な地中海と浮かぶ島々。

 

 我々が修正する美しき大地。

 

 

 宙を駆ける天馬、と聞けば幻想的だが乗っているのが自分のせいで一気に台無し、本当に申し訳ない。アテーノならばもっと颯爽に乗りこなすのに。

彼女は「アトラクションみたいで楽しいじゃん」と言っていたが全くもって理解出来ないし、そもそもアトラクションとはなんだ。

 

 恐怖心を誤魔化す為必死にそんな回想を挟む。

 

 怖い。とても。

……でも、それだけというわけでもない。

未だにこの感覚にも慣れないが、この場所から視える景色は存外に悪くないのだ。

今を生きる人々の営みを感じることが出来る。そして何より、我々は真に世界を救っているのだと思えるから。

 

 だってこんなにも美しい。

自分と彼女が歩む道は間違っていない筈だ。

 

 

 

 

 

 ……然し、澄み渡る空とは相反し自分は未だに迷いの中に居る。

 

「やっぱり今からでも買いに……、いや……そういえば懐にそんな余裕もありませんでしたね。はは……」

 

 我々は現在、重大な資金不足に陥っている。

事の発端は遡ること二年前。

邪神と邂逅したあの夜、瀕死だった先代アテーノは与えられた()()()()()を他者に譲渡した(半ば強制的)。

継いだのは偶々居合わせた現地の人間。つまり模造品の肉体である自分や先代アテーノと異なり、

 食事が!

 医術が!

その他諸々必要なのだ!

 

 当然、秘匿の存在である自分達には報酬が与えられない。労働をしようにも不定期で現れる敵のせいでままならない。なので戦闘後死体や街の残骸から回収する。

あまり多過ぎると街の復興に支障をきたすため、あくまで被害に応じた分だけをお駄賃として頂戴している。

と、まぁそんなわけで。

 

「……しかもただの花じゃありませんでしたね。くそっ、何なんですか全く。当てつけですか」

 

 おそらくは何かしらの魔術が施されていた。

あの花は腐る事がない。摘んだ状態のまま保存してあるのだろう。

 ……決して難しくはないが自分には到底真似できない技術だ。

 

「っと……!」

 

 考えている内に自分を背に乗せた馬が空中で急停止する。宙に投げ出されるのを寸前で回避。どうやら目的地へ辿り着いていたらしい。

曖昧な言い方になる理由は下を見下ろせば一目瞭然。

だだっ広い海が波立っているだけだ。

そう。だからおそらくは此処にあるのだろう。

 

 我等の拠点でありイスト・エクスマキナの工房。

彼女、アテーノの行使する隠蔽魔術によって海原の中心で息を潜める極小の孤島だ。

 

 不可視の拠点へ向かい降下する馬に自分は……。

 

「……あのっ!!」

「ブルル……?」

「共に花を……探しに行きましょう……!!君と自分で、彼女が寝ているうちにこっそりと」

 

 この子は随分と彼女に懐いている。

先代や自分と違い、人たる彼女が『兵器』としてでなく『仲間』として二年間接し続けた結果。

断らないのは分かっていた。……やはりペルセウスからくすねて正解でしたね。

 

「ブル……!!」

「!そうですか、協力してくれますか!では早速向かっ?!ちょ!?だから急加速するなってぇええぇええええぇえぇえぇえ!!??」

 

 再び空へと駆け上がる。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

「ここを工房とします!!」

「ヒヒン!」

 

 魔術工房だ。

今此処は自分の工房で、我々は今からこの花畑で、アテーノへの寄贈品を製造する。

 

 背に乗り揺られること一時間。遂に自分達はアイリス、その他諸々の群生地を発見した。

住人も居ない。地に張った霊脈も十分。

完璧だ。これ以上の場所は見つからないだろう。

 

「では早速取り掛かりましょう。助手君」

「ヒヒヒン、ブル」

(特別意訳: 誰が助手だ蹴り倒すぞ、おら)

 

 適当なのを摘み取ってもらい受け取る。

うむ、花の良し悪しなんて改めて全く分からないな。胡座をかいてその場に座る。

 

「神脈励起。システム・ヘファイストス」

 

 目を閉じ集中。感覚を研ぎ澄ます。

右手に握った花を覆うイメージで魔力を送る。

慎重に、

丁寧に、

繊細に。

 

「出来た!!手応え有りです!」

 

 期待を胸に目を開く。

そして自分の手の中には────!

 

 

 

 

「(剣だな)」

 

「剣ですね」

 

 

 

 

 茎の柄に花弁の剣身。

自分は極小サイズのブロードソードを握っていた。

まぁ、そりゃそうだろうな。

 

 試しに近くの大木に振るってみる。

「よっと。………駄目だこれ」

「(こんなもん渡されて喜ぶ女居ねぇよ)」

 

Oh……、予想通りの一刀両断。

幹は縦一閃に裂かれた。

 

 分かってはいた。自分に通常の魔術は使えない。

イスト・エクスマキナが行使可能なのは武具の鍛造魔術に限るのだ。あぁ何とも情けない無能。

 

「ま、まだまだ。次いきましょう」

 

 

……

………

 

「出来ました!」

「(鎧だな)」

 

……

………

 

「今度こそ!」

「(斧だな)」

 

……

………

 

「うおおぉぉぉ!?」

「(槍だな、トライデントモデルの)」

 

……

………

…………

 

「本当なんなんでしょうね、見て下さいよこの築き上げられた山を。これ全部ガラクタなんですよ信じられますかこの数なんと272、即ち自分の失敗した数です生きててごめんなさい。あれですよね失敗は成長の元と人間はよく言っていますが結局いつか成功すること前提なんですよね、272ですよ272。ここまでやって完成するのが花一つです笑えますね笑えませんよだって完成してませんもん。ま、まぁ?よくよく考えれば生花の技術なんて元々不要なんですよ不要にも関わらずここまで努力していることを寧ろ褒めて欲しいっていうか……いやでも現に今必要になってますよね、しかもあの子はアテーノは魔術が不得手にも関わらず毎日努力を怠らずにその結果の一部が拠点を覆うほどの人避けの魔術として成功してるんですよ本当すごいなぁ自分なんかが隣に並び立っていい存在じゃないんですよあの子は。それに対して自分はどうでしょう?これ一応ヘファイストス神の生まれ変わりですよ、神(笑)。これがwwあぁもう嫌だなぁ何もかも嫌になってしまいますよはははこうやって自身の未熟さを捲し立てるような早口で必死に正当化することで保身に走ることしかできない辛い辛過ぎる何でこんなスペックで現界したんだよって自問自答をこの先無限に繰り返すだけの欠陥品です自分はぁひーひっひひ、いひっ、いひひひひひひひひひ」

 

 一体どれだけの時間が経ったのだろうか。

そして自分はどれだけの花を摘み取り、その命を無為に消費してしまったのだろうか。

自分達を囲むように佇む武具の山々の隙間からは既に夕日が差し込んでいる。

嗚呼、完全にやってしまった。

 

「(うるせぇ。向き不向きってやつだろ)」

「ぐえっ」

 

 蹲る自分の背中に容赦無く蹄がめり込む。

痛い、とても痛い。

 

「……すいません取り乱しました」

「(いつも通りじゃないか)」

「……もう、片付けますか。きっと頑張れば元に戻せないこともないでしょう、おそらく、多分」

 

 流石にこの量の武具を放置するのは憚られる。

自分の魔力に充てられたことでこうなったのだから、逆に対象から魔力を吸い取ってしまえばいい。

一本を一輪に。一着を一輪に。

犯してしまった罪を静かに着々と隠蔽していく。

何も無かった、いいね?

 

「なんか虚無ですねこの作業」

「(自業自得だろ)」

「はぁ、自分が花なん……て……?……花」

 

 そういえば何故、花に拘っているのだったか。

 

 君にアイリスの花がよく似合いそうだから。

 

「待て、別に花に固執する必要は無いのでは」

 

 そこまで考え漸く気づく。

 

 

 あれ、彼女なら何つけても様になるぞ、と。

 

 

「閃きました……!ごめんなさい、もう少しだけ時間を下さい。手早く終わらせますので!」

「(はいはい。勝手にしなよ)」

「……ありがとう」

 

 

 彼からの了承も得て再びその場に座り込む。

急く心を落ち着かせる為に深く深呼吸。

大丈夫だ、きっと成功する。

そうやって自分に必死に言い聞かせながら両手に魔力を集中させる。

 

 魔力を纏った手には()()()()()()

 

 

 

 

「神脈励起、システム・ヘファイストス。

            ────鍛造開始……!」






ここで花を贈れるのが藤丸立香
ずっと贈れなかったのがイスト

少し時間が空いての投稿になりました。後編の更新は一週間後を目標にしています。
不定期更新にも関わらず感想や高評価いつも有難うございます。モチベーションに繋がっております。
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