藤丸立香の聖杯鯖になるTSオリ主   作:生き恥マラミュート

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2人
座にて


 

 

 

 

 全てが終わりました。

 

 悠久に感じられる永い夜は明けたのです。

 

 

 暗闇に割れんばかりの拍手と歓声が響きます。

 

 よく頑張ったと、お疲れ様と、どの口が言うのでしょうか。

 止むことのない喝采は耳障りですが態々口を塞ごうとは思いません。悪意によって奏でられるものではなく、純然たる賞賛なのは十分伝わるからです。

 

 自分でもどうかと想うのですが、他ならぬ私に向けられた善意自体に悪い気はしないのです。

 例え彼らが不倶戴天の宿敵であろうとも、既に幕も降りた今となっては拒む理由にならないでしょう。

 

 私に対する賞賛を裏付けるのはこの身は境界記録帯であり、この空間が英霊の座と呼ばれる場所であるからです。

 生前の功績が讃えられ祀り上げられたのか、

 倒されるべき悪性と見抜かれたのか、

 どちらにせよ招かれる理由としては十分過ぎる。

 

 故に、異形の彼等が眺め咽び泣いている先にあるものは生前の私なのでしょう。己が事象である筈にも関わらず、確証が持てないのは私自身の目には映っていないからです。

 可笑しな話ですよね?座というのは英霊の生前の行いを記録する場所、にも関わらず刻まれた当人だけが閲覧出来ないだなんて。嘗て私が歩んだであろう旅路は酷く朧気で断片的にしか感じられないのです。

 真の英雄であるならば己の武勇が残らないことに、もしくは戦果を得られないことに寂寞の想いなど抱くものなのでしょうか。

 

 答えは知る由もなく、そも自らの軌跡に興味もありません。所詮は英雄の真似事に過ぎなかったのです。

 然しこの心に確かにある虚の正体はおそらく喪失感。きっと生前は強い執着があったのでしょうけど、それすら今となっては全てどうでもいいのですから。何も虚が単体で空洞たることはありません。当然基盤となる穴より大きな何かがくり抜かれて初めて穴たり得ます。基盤を成せる程の感情があることに少しだけ安堵する。

 

 笑えるほどの矛盾だ。多くが抜け落ちてるのにも関わらず、満ち足りていると感じられるのだから。このエーテルで構成された身体、この霊基に刻み込まれた刷り込みのような歪な想い。

 

 故に胸を張れる。きっと少女はやり遂げた。

 

 振り返る旅路が記録すら無いのは寂しくはあるのですが、例え私が識らずとも讃える彼等が識っています。

 そして何より、共に戦い抜いた彼が識っている。

 それだけで十分でしょう。

 彼。彼。彼。僅かな記録の断片に写り続ける我が片割れ。塵の様に微かであろうとも、彼の姿は覚えています。

 

 美しい緋色の髪、罅割れた頬。

 並び立ちながらも見上げていたその横顔を。

 

 本当に、十分過ぎるのです。

 一つ、思い残しを挙げるのならば。どうしようもなく愚かな過去の選択を。私は使命に代わる楔を貴方に変えてしまっていた筈です。目指すべき星を、走り出した理由を喪った私は妬いていました。児戯にも等しい感情自体を貴方に向けてわけではありません。我が身の殺戮対象である彼等と、彼等を崇める人々に抱いたのです。

 

 己の卑しさに反吐が出る。

 

 彼等には命が潰える最期まで縋るモノがある。

 羨ましかった。信じる救いがあることが羨ましかった。

 

 己が信じる神を崇めるというのならば、神を継いだ私は何を信じて歩んでいけばいいのか。抱いた星はとうに見失っているというのに。

 

 だから嘗ての星を探すのは止めたのです。

 地上の貴方を、隣の君を寄る辺とした。

 

 嗚呼、あの星は何処へ行ったのでしょう。

 

 自らの目で観測したわけでは無いのに、私は確かに焦がれていた。使命より遥かな骨子であり、己が起源とも言える形ない情景に。

 

 でも、カーテンコールは終わっています。

 悔やみません、嘆きません。私一人の物語ではないのですから。共に歩んだ彼と、私に捧げた者達皆で描いた物語の結末にどうして涙を流せましょう。

 

 だからやっぱり、もうどうでもいいのです。

 

 

 

 

 

 

 こんな空間にも時折、光が舞い込みます。

 此処が英霊の座である以上、光源は今を生きる者の願いです。死者にとっては余りにも眩しい、鮮やかな灯たち。

 

 根源に至りたい───魔術師ならば誰もが見る夢。

 人類の鏖殺────踠いた末に見出した救いでしょう。

 人々を救済────歪みながらも清廉な理想。

 

 善悪はあれど、どれもが純然たる願いに違いない。元々、この身に善性はなく、継いだ役割がそうであっただけです。きっと誰の手を握ろうとマスターの最期まで共に走り抜けられる。

 再び大地を駆ける。甘美なそれは胡蝶の夢でしょう。

 

 故に、私は─────。

 

 

 

「知るかよ、そんなもん」

 

 

 

 目を逸らします。

 

 だって烏滸がましいでしょう?

 大地も、世界も、星も。営みを築くのも壊すのも、今を生きる人類だけに許された特権です。既に命を落とした者が、自分の夢の為に世界を動かすなんて図々しいにもほどがある。

 では、己の夢を厭わずマスターに全てを捧ぐのならば?それこそ論外です。その手は私が握らずとも、他の英霊が差し伸べればいいでしょう。こんな詐称者よりも相応しい英霊なんてごまんと居るのですから。

 

 護った世界自体に愛着なぞありません。

 復讐も救済も、やりたきゃ勝手にやればいい。

 

 

 

「あ….?」

 

 それなのに、そう思っている筈なのに。

 たった一つの光から目が離せなかった。

不明。周囲の煌めきに比べれば細やかな筈の光に私は惹き込まれている。逸らせないなら閉じればいいのに、それを例え一瞬たりとも視界から逃したくない。理屈じゃない。魂が、いやもっと根本的で核心的な何かがあの光を拒む事を許さないのです。

 

 淡い、何処にでも有り触れている普遍的な輝き。

 あれに他の様な大望は無い。手を取って欲しいと、ただ誰でもいい誰かを喚んでいる。

 

 ふと、突拍子もなく思い出した。

 

 

 

 ()はあの星に焦がれて走り出したのです。

 

 

 

 止まらない、傷痕を刃物で抉るように懐古がとめどなく溢れていく。

 今更になって真実を突き付けられています。なんて滑稽、英雄振って怪物振って割り切っていた筈なのに。懐かしさも、憧れも、何も色褪せていなかったのです。総てを使命の為に蓋をしていただけだった。

 なんだ、結局のところ。舞台に立たされたわけではなく、自分可愛さで自ら登っていたのか。散り際ならばと苦し紛れに演じた筈が、そうはならなかっただけの話です。

 

 今ならば、手を伸ばせば届く。

 

 狼狽える私を、驚愕と悲壮の眼で彼等が睨む。

 捨てられた子が親に縋るように、やめてくれと、行かないでと私にしがみつく。……そうだ、その通りだ。もう夢を見ることにすら疲れているというのに、何の権利があって舞台に戻るというのか。

 いや、権利というのはただの建前でもっと単純な話。再び戦場に立つことを恐れているのです。だって当たり前じゃありませんか?痛いのは辛い、死ぬのは怖い。そして他人がそんな想いを抱く姿を見るのすら辛いなんて。

 

 何より、あの星が数多の英雄と手を取り、行くべき場所へ辿り着くことを魂が識っている。この身が出る幕は元より無いのです。

 

 でも、だけど、叶うならもう一度あの星を目指したい。

 否定する理由は充分、肯定する理由は衝動だけ。灯りに導かれた蛾の如く、ただそうしたいからと、愚かにも手を伸ばそうとしている。なんて割に合わない執着なのでしょうね。

 

 だから幾万もの による糾弾も正しい憤りなのでしょう。何時かの旅路で彼等と交わしたであろう会話。殺し合う運命にありながらも、一方で同胞となれる道も確かにあった。善であれ悪であれ、ただ私達は押し付けられた宿命に、愚直なまで真摯で怠惰だっただけのこと。何も変わらない。この身もまた彼等と同じ であるのですから。

 だから誓ったのです。

 

 忘れないと、抱えていくと、共に堕ちるのだ、と。

 それがどうでしょうか。共に幕を降りた存在にも関わらず、私だけが再び舞台に上がるチャンスを得た。私だけが報われてしまいます。

 きっと旅路で多くの惨劇を見届けたのです。救えた命もありましょう、滅びを逃れた営みもありましょう。ですがそれ以上に多くを取り溢した筈なのです。それが私の憧れによって起こったものならば、何故また光に焦がれましょうか。

 

 早く消えてくれ。

 頼むから二度と視界に入らないでくれ。

 そう願って、意地になりながら眼を閉じるのです。

 

 音が響きます。

 ぼとり、ごろごろと、質量を持った鈍い音。

 それを皮切りとして幾万の遠吠えと肉の弾ける水音による喧騒が始まったのです。

 瞼を開けば、そこに広がる色彩豊かで見飽きた惨状。

 引き裂き、踏み躙り、喰らう野蛮なる 達。

 

 皆が涙を流しながら血を流しています。

 一瞬の困惑があったものの直ぐに理解できたのは、彼等が私の使い魔となったからでしょう。自惚れではなく、私の在り方を巡って争っている。

 

 軈て一つの人型だけが立っていました。

 

 翼はもがれ、美貌が爛れながらも覚束無い足取りで私の元へと彼女は歩み寄ります。血塗られた手で私の頬を撫でる。咎める瞳ではなく慈愛の眼差し、それは嘗ていたであろう母を幻視してしまう程で。ただ純粋に私の幸福を願っているのです。

 

 お前を、私は、穢したんだぞ。

 

 貴女に妬いていました。あの戦場で私情に溺れ、嬲ったのです。なのに何故私を抱き締めるのですか。

 答えはやはり何処迄も単純で、骸と果てた彼等と同じなのでしょう。そうしたいからと、理屈や道理をかなぐり捨てた の衝動。愛したいから愛している。嗚呼、確か私も彼に話したことがありました。あったような、気がするのです。

 

 役割も、使命すらも関係ない。自分の幸福を目指せばいい。やはり私も君達と同じだった。観客が聖者や英雄と神格化しようとも、根本にあったものは君達と同じエゴに他ならなかった。この躊躇いは恐怖を盾にしているだけです。

 大英雄なんて振る舞う役だけで十分だ、生前も今も内側は醜いままでしょう?自意識過剰にも程がある。

 

 そうだ、君達と同じであるのならば。

 躊躇う必要がどこにある。

 

 疲れたのなら眠りましょう。

 快楽が欲しいのなら交わりましょう。

 お腹が空いたら食べましょう。

 

 欲望のまま、衝動のままに生きればいい。

 クソみたいな世の中です。クソみたいな役割です。何処迄も理不尽な運命の中で、せめて私だけは私を肯定できるよう、自分勝手に愉しめばいい。───成程、聖杯に願いを託す英雄もまた なのですね。合点が行く。この清算をもって私は正しく英雄に成ったのだと。

 

 もう迷いはない。

 今にも消えそうな光に手を伸ばす。

 

 君の旅路を識っています。

 私に救えないことも解ります。

 それでも、それでもそれでもそれでも。

 愚直な蛾で良いと思える程、輝きが恋しくて堪らないのです。

 

 今こそ高らかに嘯こう。

 全ての観客が死せりとも、己を鼓舞する口上ならば意味はあるのだから。

 席を立ち、屍を踏み締め咳払いを一つ。

 

「我が名はアテーノ!この世界の異物であり癌そのもの!されど人類史に名を刻んだ大英雄だ!さぁ、世界をもう一度救いに行こう!」

 

 共に世界を救いましょう。

 共に世界を殺しましょう。

 共に壊れてしまいましょう。

 

 復讐はない。贖いもない。

 強いて言うのならば自分の矮小な悦の為、再び剣を握り正義を演じましょう。人理の為だなんて全く思っちゃいないけど、外側だけは少しでもそのように。

 

 駆ける。あの星に向かって走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッピーエンドを目指しましょう。

 

 

 

 

 

 




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